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1話 ようこそ、ルーズガス神聖帝国へ

 目を刺すような刺激的な光が収まり僕たちは周りを見回した。


 例によって例の如く引っ越したばかりのマンションの一室ではない。

 白を基調とした部屋の中はがらんとしており、祭壇らしきものとロウソク台しかなかった。そして床には手紙に書かれていた魔法陣の巨大版が描かれている。

 これが元凶か……

 魔法陣に触れようとした瞬間急に胸倉を掴まれ激しく揺さぶられる。


「お・ま・え・は! 何で毎回毎回こうやって厄介事を持ち込むんだ!」


「オレはこれからデートの予定だったんだぞ!」


「え~僕のせいじゃないよ~や~め~て~よ~」


 あ、ヤバイ。気持ち悪くなってきた。マズイよ~口から出ちゃうよ~

 何がとは詳しく言えない。まぁ揺さぶられて口から出るものと言えば……想像にお任せしよう。


「…………! ……。…………!」


 あまりに大声で騒ぎ過ぎたのだろう。さっきは気が付かなかったが、祭壇の近くにこれぞ魔術師! と言わんばかりの格好をした男が声をかけてきた。

 何を言っているかさっぱりわからなかったけど。


「何だって?」


「オレに聞かないでよ。ひなぞーは?」


「何故お前らが解らなかった言葉を俺がわかると思うんだ」


 三人で話しているのが気に入らなかったのだろうか。また魔術師が何か言っているがさっぱりだ。


「どうする?」


「いや、どうするも何も……」


 祭壇に居た魔術師が近くによりもう一度言葉をかけてきた。


「大丈夫ですか? 私の言葉が解りますか?」


「あれ? 言っている意味がわかる……」


 突然言葉がわかるようになり目を白黒させている僕たちに近付き、魔術師はかぶっていたフードを取った。フードの下に隠されていたイケメン具合に息を呑む。

 肩の辺りで切り揃えられた髪は綺麗なブラウンで、ジャ〇ーズ系を彷彿とさせるイケメンだった。そんなイケメンが柔らかく微笑む。

 ん~結構破壊力あるな、この微笑み。普通の女ならコロって逝っちゃうんじゃないか?

 この前振ったイケメンと似ているような……いや、こっちの方がイケメンか。死ねばいいのに……


「良かった。ちゃんと通じているようですね」


「はい。えっと……」


「これは失礼いたしました。私ここルーズガス神聖帝国の宰相を務めさせて頂いておりますバジル・エーヴァリーと申します。気軽にバジルとお呼びください」


「これはどうもご丁寧に。僕は宇江原和泉です」


「新山陽向だ」


「武田涼と言います」


「ウエハラ……ニイヤマ……タケダ? もしかしてあなた方はアキツ国の出身の方ですか?」


「アキツ国?」


「アキツって昔の日本の言い方だろ」


「そうなの? じゃ遠からず近からずって感じかな」


「やはりそうなのですね。どことなくそんな雰囲気があったものですので」


「そうなんですか。それはそうとですねバジルさん。ここは何処なんです?」


「それは……」


「その説明は私から致します」


 バジルと名乗った青年に色々と聞こうかと思ったら部屋の入口から一人の女性が部屋に入ってきた。

 その女性は長いブロンドの髪を垂らし、全身から“これぞ清楚!”と言わんばかりの雰囲気を醸し出している。しかし……


「姫様! まだこの者達の素性がわかりませぬ。入ってきてはダメです!」


「いいのですよバジル。こちらはお願いをする立場。ならば私が話しをするのは当然ではありませんか」


「それはそうですが……姫様に何かあれば!」


「大丈夫ですよ。私に任せて頂けませんか?」


「……姫様がそこまで言われるのであれば。ただし私も同席させていただきますよ」


「ええ、お願いしますね。

 それでは改めて、異世界から喚れし者達よ。私に名前を教えて頂けませんか?」


「え~と……」


 僕は思わず言葉に詰まってしまう。姫様と呼ばれたこの女性は笑顔を絶やさすに待ってくれている。


「あのですね。名前を言う前に一ついいですか?」


「なんでしょう?」


「どうして子供がそんな喋り方するんです?」


「子どっ!」


 そうこの姫様と呼ばれた女性。見た目は完全に中学生レベルなのだ。

 女性と言うよりは女の子と言った方がしっくりとくる容姿であの喋り方。もう違和感バリバリで気になってしょうがない。折角清楚な雰囲気が出ているのに……実に惜しい!


「あ~いずんちゅ。多分だが、俺達に気を使ったんじゃないのか?」


「あ~なるほど! それじゃ邪魔しちゃったかな? でもどう見ても違和感がね」


「違和感!!」


「あ~ごめんね? それで、僕たちの名前だっけ?」


「もう良いのじゃ! 先ほどこの部屋に入る時にバジルとの会話が漏れていたのじゃ!」


「マジか……」


「何じゃ! 妾の言葉がそんなに変か!」


「いや、何と言うかテンプレ乙」


「てんぷれ?」


「いや、気にしないでくれ。それで? お姫様の名前は?」


「妾の名か? 妾はノンナ。ノンナ・ラグズ・ルーズガスじゃ。しかとその胸に刻み込むがよい!」


「姫様はこのルーズガス神聖帝国の第一王女であらせられます」


 バジルさんがノンナ姫の言葉をうまく補ってくれている。


「ここはルーズガス神聖帝国の首都ラグズランドじゃ。

 それでの。そなたらを喚だのは他でもない。ちと頼みたい事があるのじゃ」


「お断りします」


「嫌です」


「無理です」


「まだ何も言っておらぬぞ!」


 そんなの聞かなくてもわかる。どうせこの国を救ってくれとでも言うのだろう。

 甘いわ! 何故に僕らがわざわざ異世界から来て命がけのパシリをせにゃならんのだ。


「すみません。僕たちこの後用事があるので、これで」


「待て! 待って欲しいのじゃ! せめて話しだけでも聞いて欲しいのじゃ」


「ごめんなさい姫様。嫌です」


「何故じゃーーー!」


「何故って……なぁ?」


「命かけてパシリなんてしたくないからですよ」


 おや、陽向も同じ意見。気が合うね。


「ぱしり? 何の話しじゃ?」


「異世界まで来て命がけでお姫様のお使いをしたくないって事です」


「お使いって……妾の願いをお使い呼ばわりかえ!」


「だって、どうせ魔王を倒せとかそう言うのでしょ?」


「何じゃ? 知っておったのか。

 それでは話しが早い。今妾の国は魔物から攻撃を受けていての」


「あ、いいです事情とか話さなくても。受ける気はないので!」


「何でじゃ!!!」


「あの、姫様やはりこの者達に依頼するのはおやめになった方が……」


「いいや、神託では確かにこの者らが世界を救うと出ているのじゃ。

 なんとしても首を縦に振らしてみせるのじゃ!」


 いや、なんと言われても無理なんだけどね。早く帰って嫁達とイチャイチャしたいし。


「そうか! 報酬の事じゃな。早く言ってくれればよかったのじゃ。

 よし! 妾の願いを聞いてくれれば妾がそなたらのどちらかと結婚してやるぞ!」


「姫様!?」


「結構です。僕は既婚者です」


「オレも」


「俺はそもそも結婚する気がない」


「女子の方にも断られた!!

 何故じゃ! 姫じゃぞ? このルーズガスの姫が結婚してやると申しているに何故喜ばぬ!」


「だって……ねぇ?」


「姫様って聞こえはいいけど」


「権力だなんだとシガラミが増えて余計に生きにくい」


「くっ妾と結婚しいたいと申す男なぞ、それこそ掃いて捨てる程おると言うに……そうか! 金か!」


「いえ、今の所お金には困っていないのでそれも結構です」


 前回の報酬ですでに八桁の預金があるのだ。お金は無いと困るけど有り過ぎても困るもだからね。昔の人は言いました。過ぎたるは及ばざるが如しと。


「すみません皆様。申し訳ないのですがお話しだけでも聞いてくださいませんか?」


 よほど僕たちの態度がアレだったのかバジルさんの方からお願いしてきた。

 まぁそうね、話しくらいは聞いてあげてもいいかな?


「今妾の国とその同盟国が魔物からの襲撃を受けているのじゃ」


 沈黙を肯定と受け取ったのかノンナ姫がしゃべりだした。


 ルーズガス神聖帝国は周りの八ヵ国と連合を組んでおり、相互扶助の関係だとか。

 事の起こりは数年前、魔物の活発化に始まる。今までも魔物による被害は出ていたのだが、その度に冒険者や軍が出向いて鎮圧していた。まぁ大概がオークやゴブリンなどの集団だったのもあるのだが。

 それがある時を堺にこの集団に他国の、遠方からの魔物が混ざるようになったのだ。

 見たことのない魔物に戸惑い、対応が遅れ連合国は常に後手にまわってしまっていた。


 そしてついに連合国の一国が魔物の手に落ちたと連絡が入った。

 またその国を落とした魔物の中には魔族の姿も確認されており、魔王が復活したのではないかと噂されるようになったと。

 この国を襲うようになった魔物の中にも魔族が確認され、このままではこの国も落とされると国の重鎮達が集まり対抗策を練り始めた時。ここにいるノンナ姫が神からの神託を得て、今回の召喚を決行したのだという。


「それで、喚れたのがお主たちじゃ」


「なんて傍迷惑な」


「いきなり召喚に頼っちゃダメでしょ」


「いや、最初はこの国から勇者が生まれると神託があったのじゃ。

 じゃがいくら待ってもその気配がなくての」


「それ、神託が間違っているとかありませんよね?」


「何てことを言うのじゃ! この罰当たりめ!」


「“罰当たり”って久しぶりに聞いたな」


「もう! それでどうじゃ? 話しを聞いて今の状況がわかったじゃろ」


「そうですね、大変ですね。ではこれで」


「何でじゃ!! 今まさに目の前で困っておる者が居たら助けるのが勇者じゃろ!」


「姫様。何か勘違いしていませんか?

 僕たちはこの世界に喚ばれただけで、勇者じゃありません」


「むうぅ……」


「姫様。その神託でお聞きになった異世界人の特徴はどういったものだったのです?」


「それがの、途中で途絶えてしまって詳しくはわからんのじゃ。

 三人組で、一人は雪原の様な髪をした女子・・と……」


「女子がメンバーなら僕たちは違いますよ。それじゃ……」


「姫様これはあれですよ。髪の色が変わってしまって嘆きの余り首を縦に振らないのかもしれません」


 ちょっとバジルさん? 何とち狂った事を抜かし始めるのかな?

 それに僕の話し聞いてないし!


「おお! きっとそうじゃ! なら今すぐその髪を元の色に戻してやるのじゃ」


「仰せのままに」


 いや、承っちゃダメでしょ! え? 何この人たち。アホなの?


「それでは……いきますよ!」


 バジルさんは右手に持った杖を僕に向けなにやらごちゃごちゃ言い始めた。

 多分呪文の詠唱なのだろう。てか何で僕ばっかしこういう目に会うかなぁ。


「はぁぁぁ~」


 あ~ヤバイよ、なんか力まで込め始めちゃったよ……


「いきますよ~覚悟はいいですか? イズミさん!」


「いやいや覚悟とかおかしいですよね!? てか僕名指し!?」


「これが……私の得意な……」


「ひゃーごめんなさい!」


「紅茶です!」


 バジルさんは何もない空間からティーセットを出現させ、何事もなかったようにお茶の準備を進めていく。

 身構えていた僕たち三人とノンナ姫は新喜劇並みに盛大にずっこけてしまった。

 姫様も意外とノリが良いですね。


「バジル! 何じゃ今のは!」


「何じゃと申されても……髪の色を変える魔法なんて知りませんよ」


「何故あんなに格好をつけたのじゃ!」


「一度やってみたかったんですよね~」


 大丈夫なのかな? バジルさんってこの国の宰相でしょ?


「まぁまぁ姫様、先ほどからずっとお話しているので喉も渇いているでしょう?」


「まぁ……そうじゃが……何故か納得しないのじゃ」


「そう言うことでイズミさん達もいかがです?

 私紅茶の淹れ方は自信有るのですよ」


 そう言ってバジルさんはティーカップを手渡してくれる。

 イケメンが淹れる紅茶……本当なら床に叩き付けてやりたいところだが姫様も飲んでいるようだし。

 一杯だけ飲んであげなくもないんだからね!

 一口飲んでみると、確かに自分で自信が有ると言うだけのことはある。

 匂いもとっても豊かで多分ハーブティのようなものだと思う。味も良くほのかに甘味も感じる。

 うん。悔しいけど美味しい。


「どうやら気に入ってもらえたようですね」


「ええ、凄く美味しいです。これハーブティですか?」


「ええ、そうですよ」


「味もほんのり甘くていいですね」


「これ、砂糖とか使ってないんですよ。

 数種類のハーブと魔法薬を調合しただけで」


 ん? 魔法薬?


「美味しい飲み物も飲めて、気分も落ち着いて。

 髪の色も戻って・・・・・・・言うこと無しですね!」


 満面の笑みを浮かべるバジルさん。

 髪の色が戻るって……

 僕は恐る恐る右手を髪に近づけ一房掴み目の前に持ってくる。

 目に映るは濡れ羽色の髪ではなくあの銀糸を彷彿とさせる銀色の房だった。

 そんなバカな……


「いや~魔法薬は得意なんですよ~私」


「この……なんてk」


「何してくれるんですか! このクソガキャー!」


 僕の抗議の声を遮って黒い塊がバジルさんを殴り飛ばした。


「バジル!?」


「あの黒髪は元に戻る為の力を強引に使って完成させた私の力作ですよ!

 それを貴方みたいな若僧ごときが作った魔法薬で変色するとか……

 これはアレでよね? 私に対しての宣戦布告ですよね? よろしい! ならば戦争だ!」


 マウントポジションを取りバジルさんを恫喝する上下スーツの男。

 どっかで見たことあるよなぁ。と言うかさっき何気なく爆弾発言したよね。

 マウントポジションをとられたバジルさんは白目をむいて気絶中。それを見たノンナ姫は涙目で腰を抜かしている。なんと言う地獄絵図。

 はぁ……しょうがない、止めるか。

 僕はスーツ姿の男に声をかける。


「いい加減降りてください。気絶してますよ。

 大神さん!」


 そう、バジルさんに馬乗りしていたのは何を隠そう前に僕たちを異世界に飛ばした張本人。

 担当者の大神さんであった。


 やっぱり今回も関わっていたんですね。

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