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17話 ルームメイト

 女子寮。

 それは男性が踏み入れることが出来ない聖域。

 …………と信じていた時期が僕にもありました。


 どうも皆さんこんにちは、なし崩し的に第三女子寮で暮らし始めた和泉です。

 二次試験終了後、寮に連れてこられそのまま入寮。あれよあれよという間にリッカと相部屋となり今は汚れと疲れをとるために入浴中です。

 

 何故ばれないのか自分でも不思議でなりませんね~

 今日だけでも十数人の人と関わったはずなのに誰一人として僕を男だと認識する人は居ませんでした。まぁこんな見た目だし? 見た目で気付かないのはもうしょうがないけど、言葉遣いとかなんかあるじゃない……

 考えれば考える程暗い気持ちになっていくので、違うことを考えていこう。


 ルームメイトとなったリッカだけど、今は部屋で寝落ちしている。よほど今日の試験で疲れたのだろう。お風呂に入りたがっていたけど、消灯時間までに起きれるかどうか…… 


 お風呂と言えば寮にしては豪勢な作りで、広い浴室に複数の洗い場、浴槽に至っては十数人が同時に浸かれる大きさがある。

 午後は戦闘と鍛冶の練習で常に汗だく状態になるため女子としてはお風呂は必要不可欠なのだろう。

 僕は女子ではないけど堪能させてもらおうことにする。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「お風呂はいいね~」


「全くです」


 ……誰もいないはずなのに僕の独り言に反応する奴がいるだと……


「和泉様? どうしたんです、急に黙って」


 この世界で僕を様付けで呼ぶのは一人しか居ない!

 勢い良く振り向くとそこには普通にお湯に浸かる我が担当者の姿が……


「なんだ、痴女か」


「痴女って酷くないですか!?」


「だまらっしゃい! 異性の入浴中に真っ裸で入ってくる女なんて痴女でしょう!」


「異性?」


「ほぅ……同性だと言いたいのかな? いい度胸だね……」


「だって桜華さんも『和泉って言う新しい性別』って言っていたじゃないですか!」


「例え僕が“和泉”という性別だったとしても神崎さんは女性なので異性ですよね?」


「えっ! え~と……そうなります……ね」


「さて、覚悟はいいですか?」


「わー待って、待ってください! 何で!? どうして!」


「うるさい! 二十代の性欲なめんな! 

 今までも相当我慢しているって言うのに……こんな簡単に普通に裸で近付いてきて! これはもうやっちゃっていいんですか!」


「あ、え~と……和泉様も大変なんですね。

 私なんかで良ければどうぞ……」


 神崎さんは無い色気を振り絞り僕を受け入れようとする。

 腰から下はお湯の中で良く見えないが程よく括れた腰、片手に収まる程度の大きさで形のいいバスト……

 はっいけない、つい見てしまった。消え去れマーラの誘惑よ!

 僕は掬い上げたお湯で水球を作り神崎さん目掛けて投げつけた。結構な勢いで。


「ハブッ」


「危ない、危ない。マーラは消え去った」


「鼻が痛いです~」


「妻子持ちをからかった罰です」


「私は本気ですよ?」


「なお悪いわ」


「誰か居るんですか?」


「「!?」」


 不意討ち気味に別の声が浴場に響き渡る。

 しまった……神崎さんと騒いでいたせいで扉が開く音が聞こえなかった……

 と言うかさっきの声って……


「あ、イズミさん!」


「リッカ!?」


 てっきり部屋で寝落ちしたと思っていたのに!


「お、起きたんだね」


「流石に汗臭いままで寝るのは乙女としてどうかと思うのですよ」


 朝にシャワー浴びれば問題無いんじゃなかろうか……あ、それじゃ汗臭いままで寝てしまうのか。

 僕の疑問を余所にリッカはそのまま鼻歌を歌いながら頭を洗い始める。

 よし! 出るには今しかない!


「あ、イズミさん。質問があるんですけど」


 しかしリッカに回り込まれた! 和泉は逃げられない!


「いっ今じゃないとダメ……かなぁ」


「イズミさんと折角ルームメイトにもなれたので、このまま裸の付き合いとかやってみたかったんですけど……」


 ごめんリッカ、僕との裸の付き合いだと違う意味になっちゃうんだ!

 でもこの国でよくしてくれる友人の頼みだしなぁ。

 あ、今現在進行形で裏切っているのか。こいつぁ盲点だったね~

 何をやっているんだ僕は……


「あの……イズミさん?」


 返事がないことを不審に思ったのかリッカがこちらを振り返る。


「なんでもないよ! それで質問って何?」


 しょうがない。ある程度付き合って、のぼせそうだと言って脱出すればいいだろう!

 いや、それしかない。頑張れ! 僕!


◆◇◆◇◆◇◆◇


 どれだけ時間が経ったのだろう。リッカは僕の戦い方などそれはもう積極的に質問してきた。

 下半身を露出させない為にかなり長い時間お湯に浸かっている為そろそろ本気でのぼせそうだ。

 ボーとしてきた頭でリッカの事を眺めてしまう。

 一四〇に届くか届かないか位の身長に肉付きのよい体。身長の割にある胸は触ったら気持ちよさそうだ。腰からおしりにかけては少し細い感じがして、子供を産むのは少し大変そうかな……

 ……何を考えているんだ僕は! ダメだ本格的にのぼせてきた。思考が変な方向に向かってしまう。


「あの、イズミさん大丈夫ですか?」


「え? 何が?」


「顔赤いですよ。そう言えばあたしが来る前から入っていたんですよね……」


 顔を覗き込む為に距離を詰めてくるリッカ。

 マズイ! それ以上近付いちゃダメだ!


「大丈夫! 大丈夫だけどそろそろ上がろうっかな~」


 僕は浴槽から立ち上がる途中で動きを止める。

 なぜなら僕の相棒がしっかりと戦闘状態に移行してしまっていた。

 相棒!? まだだ、まだお前の出番じゃない!


「イズミさん? 本当に大丈夫ですか?」


 ヤバイ! ヤバイ! リッカ本当にそれ以上はダメだ!

 どうする……! いっそ相棒を切り落とすか?

 いや、ダメだお湯が血で汚れてしまう!


 そもそも陰部を切断したらそれどころじゃないのだが、焦りとのぼせた頭じゃまともな考えが出来ない。


「大丈夫です……きゃ!」


 リッカが近付こうとして足を滑らした。

 反射的にリッカを抱き止めてしまう。当然リッカは僕の腕の中に収まる。


「あ、ありがとうございます」


「いや、怪我は無い?」


 なにやってんだい僕は! 今すぐ離れなきゃ……


「あたしってダメですね、ついつい慌てちゃって……あれ? お腹に何か硬いものが……」


 相棒ーー! 気持ちはわかるが今は自重してーー!


「何かしら……えっ……これって……」


 リッカの手が僕の相棒に触れた瞬間小さな火の玉を浴槽に向かって発射する。


「きゃっ!」


 破裂音と共に水蒸気が大量に発生する。

 急に視界を遮られたリッカを転ばないように座らせてから入り口に向かって駆け出す。


「ごめん」


「えっイズミさん!?」


 リッカの驚いた声が聞こえるが無視して脱衣場を目指す。

 急いで水滴を拭いさっと寝間着を着込み自室へと急ぐ。こう言うときに和服って便利だ。

 あ、髪が……いいや後で乾かそう。

 まさか今日入寮してその日に退寮する事になるなんてね……

 自室にたどり着くと一応鍵を締め、ベッドに腰掛け一息つく。

 ……よし、リッカが戻る前に出る準備をしよう。

 さっき入ったばかりだからそんなに時間もかからないだろうし。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「それにしても、出ていくこと無いんじゃないですか?」


「神崎さんは自分の裸を見た異性と同じ部屋で暮らせるの?」


「あ~そう言われれば……ちょっと嫌ですね」


「痴女の神崎さんが嫌なんだから、一般人のリッカはそれ以上に嫌がるでしょ」


「さらっと人を痴女扱いするの辞めて下さいよ~」


 神崎さんと話しながら荷物をまとめていく。まとめていくと言っても私物に手を添え『収納』と唱えるだけなので、大分楽なんだけどね。

 さて、あらかた荷物も片付いたし……行こうかな。アードルフさんになんて言えばいいだろう。


「もう少し考え直した方がいいんじゃないですか?」


「僕が何を考え直すのさ。まぁちゃんと謝らないで出ていくのはアレだと思うけどさ」


「あ」


「“あ”ってなんですか“あ”って……」


『和泉様……』


「何? そろそろ移動しようと思っているから手短にね」


「それじゃ……男の人だと何で黙っていたんですか?」


「黙っていた訳じゃないよ。何回か言おうとしたけど聞いてもらえないだもの……ドワーフの人達は話しを聞かないのかな?」


「そんなことないと思いますけど……それじゃイズミさんがこの寮に入寮したのは事故だったんですね」


「あの時に言い出さなかった僕にも非はあると思うけどね……」


「そうですか……大体わかりました。イズミさん」


「わかってもらえて嬉しいよ。リッカ」


 ん? リッカ? ……リッカ!?

 声の方向へ振り向くとそこにはリッカの姿が……

 急いで出てきたのだろう、髪は濡れていて服も所々はだけていて色々とヤバイ格好だ。


「何で……鍵締めておいたのに……」


「一応あたしの部屋でもありますから……」


 そうだった! 相部屋だったの忘れてた!!


『和泉様も意外とそそっかしいですね』


(うるさいよ、リッカが来たなら言いなさいよ)


 入り口の前にリッカが陣取って居るため部屋から逃げ出す事が出来ない……

 しょうがない、ここは覚悟を決めよう……


◆◇◆◇◆◇◆◇


 リッカはベッドに腰掛け、僕は床に正座している。とりあえずリッカが色々と聞いてきたので全て正直に答えた。異世界の事は言っても通じないと思ったので遠い国だと言っておいた。


「イズミさんは……」


「はい!」


「そんなに緊張しないで下さい。イズミさんは勇者なんですか?」


「いや……どうなんでしょう?」


「でも、人間のお姫様に指名されたのでしょう?」


「受けた覚えはないですけどね」


 苦笑いするととりあえずリッカも笑ってくれた。お、これはいける……かな?


「イズミさんの事情はわかりました。ブラックスミスにならないと困るんですよね?」


「いや、別に困るって程じゃ……」


「困るんですよね?」


「はい……困ります」


 ヤバイよ……リッカの目笑ってないよ……さっきの笑顔は幻だったのかな……


「ですよね? なので、提案です。

 あたしはこのまま相部屋を続けてもいいですよ」


「え?」


 マジで? 僕にとっては願ったり叶ったりなんだけど。


「でも! 条件があります!」


 やっぱり……世の中そんなに甘くないよね……


「イズミさんには責任をとってもらいます!」


 リッカは顔を真っ赤にして何を言っているんだい?


「え~と……責任とは……?」


「あ、あたしを……お嫁さんに貰ってくだしゃい!」

『はぁ!?』


 ……オヨメサン? およめさんって……お嫁さんか!?

 あと、何で神崎さんが過剰反応してるのさ……


「それは……」

『何を言っているのですか! この小娘は!』


「夫婦なら裸を見られても問題無いですよね? それに相部屋も同棲だと思えば……」

『小娘如きに和泉様のお嫁さんなんて百万光年早いですよ!』


「待って、待って。少し落ち着こう」

(そして神崎さんは黙って。それに光年は距離の単位だからね)


「イズミさんは女の子の裸を見ておいてそのまま逃げる人なんですか?」

『小娘の裸如き物の数じゃないですよ!』


「そんなことは……ないけど……」


「じゃいいじゃないですか! あたしの裸を見た責任とってくれますよね?」

『冗談じゃない! 和泉様ダメですからね』


「あのね、とりあえず落ち着こうか」

(神崎さんは黙れ)


「でもっ!」

『何で私だけ命令系!?』


「はぁ……あのねリッカ。黙っていたけど僕には既にお嫁さんが六人も居るんだよ」


「六人!?」

『六人!?』


 いや、リッカが驚くのはわかるけど神崎さん知っていましたよね?

 大体何でさっきからそんなに突っ掛ってくるんですか?


「だからね。そのなんて言うか……」


「……わかりました。では婚約者って事にしましょう!」


 何でここで諦めてくれないの? 普通六人も嫁が居たらドン引きするでしょう?

 僕何かしたかなぁ? いや、裸を見ちゃったんだけど……


「それで、奥様方に認められれば七番目でもいいので貰ってくださいね?」


「ねぇ何でそこまで僕との結婚に拘るの? 正直、僕は騙して裸を覗いた変態だよ?」


「そうですね……あたしも正直に言うとわからないんです。

 でも……朝から助けてくれましたし。筆記試験も全問正解でしたし、実技だって……

 あたし、多分試験が終わる頃には完全に落ちちゃっていたんですよ。

 それに、お風呂に入るまではイズミさんが男の人だったらなぁって思っていたんですよ?」


「それは……何と言うか……」


「そしたらあんなことが起こって……驚いた事は驚きましたけど。裸を見られても嫌じゃなかったし……

 むしろ嬉しかったです! イズミさんが男の人とわかって!」


「そっそうなの?」


 この子は本当に大丈夫なのだろうか? いや、好意を寄せられるのは別に問題ないんだけどね?

 でもこれは明らかに……あれか、『恋は盲目』って事を体で示してくれてるってこと?


「リッカの気持ちは分かったよ。でもねやっぱりす……」


「和泉様! こんな小娘の言葉に耳を傾けてはダメです! 七番目の奥さんは私なですよ!」


 今まで黙ってい聞いていたのだが、ついに神崎さんが口を挟みだした。と言うか。


「いっ……いきなり人が!」


「何普通に出てきているです? 担当者はめったに人に姿を現さないんじゃないですか?」


 よほど慌てていたのだろう。神崎さんはリッカの前に姿を晒してしまっていた。

 リッカはリッカで急に第三者が現れて目を白黒させているし。

 何? この状況。僕にどうしろって?


 その時片付け忘れた水晶が光りだす。


『まったく! 何故イズミは毎回黙って居なくなってしまうのじゃ!』


「あ、ノンナ」


『……何じゃこの状況は。イズミは何故床に座っておるのじゃ?』


 またややっこしくなりそうな要因が増えた。

 本当に……誰か何とかしてくれ!!

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