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16話 二次試験

「二次試験は外でやるぞ、先ほど名前を呼ばれた五名は準備をして十分後に西門に集合しろ」


 アードルフはそう言い残して会場を後にした。

 僕も準備をする為に席を立つとリッカが側にやってきた。


「ご一緒してもいいですか?」


「喜んで、てか西門に案内してほしいな」


 ノーラは他の合格者二名を連れて先に移動したようだ。

 やっぱりあの二人はノーラの付き人なのかな?

 それにしてもライバルか……また面倒な事になったかなぁ。


「それにしても満点なんてすごいです!」


「ありがとう。でも結構厳しい試験なんだね」


「そうですね。計算よりも文章題でみんな躓くようですよ」


「文章題?」


「ええ、計算は記号を覚えて何とか出来ても文字が読めない人が多いですから。

 試験前に名前と年齢を書きましたよね? あれも自分の名前と数字が書けるかどうかの試験になっているんですよ」


 知らなかった。教育と言うか識字率がそこまで低いなんて……

 そう思うと日本の教育ってのはやはり凄い……のか?


 リッカと雑談しながら西門まで歩く。どうやらこの西区は住宅街になっているようだ。

 試験に使われた建物も以前はお店として使っていたようだが、今は訓練場と座学の為に使用ているとか。アードルフはどれだけ建物をもっているのだろう?


◆◇◆◇◆◇◆◇


 西門には既に全員が揃っていた。

 皆さん優秀ですな~


「時間前に全員集まるなんてな、今回の受験生は行儀がいいな」


 アードルフは嬉しそうに頷いている。と言うか時間に間に合うように行動するのは当たり前なんじゃ?


「さて、それでは少し早いが二次試験を開始しようか。

 この西門を出た広野にはマシンゴーレムが出るのは知っているな。試験はそのマシンゴーレムを討伐し、鉄材を獲ってくることだ」


 どうやら二次試験は戦闘試験のようだ。

 アードルフが言うには一流のブラックスミスは自分で素材も集めなければ勤まらないとのこと。まぁ常に他の冒険者が鉄材を売ってくれるとは限らないものね。


「ここにいる者同士でパーティを組んでもいいぞ。日没までにマシンゴーレムを一人十体討伐し鉄材を五体分持ってくれば合格だ」


 ふむ、パーティか……ノーラは多分あの二人と組むだろうな。

 となると、リッカと組むかソロでやるか……か。

 考え込んでいる僕の服を引っ張る人が、まぁこの状況で引っ張るのは一人きりだけどね。


「どうしたのリッカ?」


「あの……あたしとパーティを……」


「イズミさん!」


 リッカに被せぎみでノーラが話しかけてきた。途中で遮られる形になったリッカは少し涙目になっている。


「よかったら私のパーティに入れてさしあげてもよくってよ?」


「あ~なるほど……けどいいの? 僕はライバルなんじゃ?」


「ライバルだからこそですわ。

 それにそこのリッカさんは戦闘には向いていませんもの。パーティを組んでもいいことはありませんわ」


 ノーラの発言にリッカは下を向いてしまう。

 確かに、戦闘向きな性格じゃなさそうだね。


「さぁイズミさんこちらへ」


「ごめんね、リッカの方が早く誘ってくれたんだ。だから僕はリッカと組むよ」


 僕の言葉を聞いたリッカが顔を上げ驚いた様子でこちらを見ている。


「貴様! お嬢様の誘いを断るのか!」


 それに黙っていなかったのがノーラの付き人その一である。人間の男性で身長は僕より少し大きめでイケメンの分類に入ると思う。まぁ男の顔何てどうでもいいんだけどね。

 そんなイケメン君が今にも噛み付かんばかりにこちらを睨み大声を上げている。

 よせやい、兵が見てるだろ。兵じゃなくて門番だけどね。


「いいのですよ、エーリク。それではお互いに全力を尽くしましょうね」


「お嬢様に付かなかったこと後悔するぞ!」


 エーリクと呼ばれた男はノーラと一緒にもう一人の仲間の所へと戻っていく。

 ドワーフの女の子二人に男の人が一人……端から見ると兄妹のようだ。

 はっ! 彼奴もしかしてロリk……


「あの、いいんですか? あたしは一人でも大丈夫ですよ?」


 ある真理に到達しようとしたところでリッカに声をかけられ、現実へ引き戻される。

 そうさ、ただ彼奴の周りに小さい女の子が居るだけじゃないか……危ない危ない。騙される所だった。


「あの……イズミさん?」


「ああ、ごめん。向こうはもう三人も居るんだもの僕が行かなくてもいいでしょ。

 それに最初に誘ってくれたのはリッカだし」


「それは……そうですけど……」


「じゃ何の問題も無いよ」


「ありがとうございます! あたし一生懸命頑張ります!」


「うん、こっちこそよろしくね。

 で、パーティってどうやって組むの?」


「え? 知らないんですか?」


 僕の一言にリッカの動きが止まった。

 ヤバイ……一般常識だったのかな?


「今まで独りでやって来たんだ。友達とは別々のJobを目指すことにしたし」


「あ~なるほど、納得しました。では早速パーティを組みましょう」


 僕はリッカにパーティの組み方を教わりながら無事パーティを組む事ができた。

 パーティの組み方は簡単でリーダーになる人が自らのギルドカードにパーティを設定する。

 パーティに入りたい人はリーダーのカードに自分のカードを重ねればそのパーティに加入できるという仕組みだ。


「Sui〇aみたいだね」


「西瓜がどうしたんです?」


「いや、こっちの話し」


 ギルドカードを見ると他の文字より薄い字で。


 Pt:リッカ・カートラ


 と書かれていた。

 この文字が薄いのは臨時パーティだからで、冒険者ギルドで正式に登録すると通常の文字と同じ濃さで表示されるとのこと。


「臨時パーティは一回のクエスト等で解散してしまいますが、ギルドで登録したパーティは脱退するか、パーティが消滅するまで所属することになります」


「へぇ~」


「これも冒険者ギルドの初心者講習で言ってましたよ?」


「嘘、聞いてなかった……まぁ当分パーティを組む予定もないし……

 そろそろ行こうか」


「はい! 行きましょう!」


 ちょっと無理矢理な感じだったけど、僕たちは意気揚々と西門を飛び出した。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「ねぇ……リッカ?」


 ガシャン! ガシャン!


「はい? なんですか?」


 ガシャン! ガシャン!


「質問していい?」


 ガシャン! ガシャン!


「はい。いいですよ? 何ですか?」


 ガシャン! ガシャガシャン!


「何で……何でフルアーマーなのさ!

 てか何時着たの!? 門出るまで普通だったよね!?」


 西門でパーティを組んだ時は確かにレザーアーマーだったのに。いざ西門を出て歩き出したら何故か隣からロボットの足音が……


「これですか? これは外で活動をするなら装備しろって父が……。

 ほら、あたしドジじゃないですか? それで父が心配して持たせてくれたんです」


 お父さんは筋金入りの親バカですね。心配だからってフルアーマーを一式って……


「その格好で狩れるの?」


「マシンゴーレムは動きも鈍いから大丈夫です」


 非常にもっさりとした動作でリッカが答えてくれた。うん、今のリッカには鈍いって言われたくないと思うな。

 後いつ着替えたのか問いただしても笑顔でスルーされた。その笑顔が逆に怖いんだけど……

 そして隣にロボットを引き連れて歩くこと数十分後、ようやくマシンゴーレムに遭遇した。


「ゴーレムって事はやっぱりemethのeを削ればいいのかな?」


「それはソーサラーが召喚したゴーレムの倒し方ですね。

 このマシンゴーレムは胸の動力炉を破壊するか、頭を潰せばOKです」


「なるほどね、それでメイス装備なんだ」


 フルアーマーリッカが手にしているのは両手持ちに改良してあるメイスだった。

 槌よりは頭が小さく、メイスよりは柄が長い。そんな武器をリッカは装備している。

 これメイスってよんでもいいのだろうか?


「イズミさんはあたしの後ろに!」


「うん……僕の方がデカイから後ろに行く理由がないですよね?」


「さぁ行きますよ~」


 リッカは勢いよく動き出すがスピードは徒歩位だ。リッカの気合いを感じたのかマシンゴーレムもこちらに向かって歩いてくる。


「やーーー!」


「………………!!」


 互いにゆっくりと進み間合いに入ったら攻撃。なんか昔のゲームでこんな様なのあった気がする……


「なんじゃこりゃ?」


「やりました! やりましたよイズミさん!」


 リッカは手にしたメイスを降りながらこっちに歩いてくる。


「リッカ」


「はい!」


「とりあえず……脱ごうか」


「ええ~!! イズミさんは恩人ですから、あたしの全てを見てもらいたいとも思うけど……

 でも最初が外で女の子同士と言うのも……」


 リッカが軽くトリップしてしまった。

 言葉が足りなかったようだ……


「違うよリッカ。そのフルアーマーを脱ごうかってこと。後、僕はおと……」


「そっそうですよね! いきなりお外はあれですよね! でも何でですか?」


「……一つは移動速度。一体見つけて討伐するのに一時間近くかかっているよ

 これを後十九体分……確実に日がくれるよね」


「そうですけど……危なくないですか?」


「多少の怪我はしょうがないでしょ?

 それに僕に考えがあるから大丈夫」


「そうですか~? イズミさんがそう言うなら……」


 リッカは渋々といった感じでフルアーマーを脱いでくれて、武器も槌に持ち替えてもらった。


 リッカにレザーアーマーに着替えてもらったため。移動速度が格段によくなり、最初の敵を討伐してからわずか数分後に次のマシンゴーレムを見つけることに成功した。


「イズミさんいましたよ! ど、どうします?」


 武装が弱体化したのが気になるのか、リッカは逃げ腰だ。


「大丈夫、僕が動きを止めるから。リッカが頭を狙ってとどめを刺してくれればいいよ」


「わ、わかりました」


「じゃ……行くよ!」


 飛苦無を数本取りだし胸の動力炉と呼ばれる部分を狙って投げる。

 しかし、敵も自分の弱点は心得ており、全てガードされてしまう。


「う~ん。やっぱり弱点は防いでくるよね~」


「イ、イズミさん大丈夫ですよね?」


「大丈夫。大丈夫。

 ほら、ちゃんと腕に刺さっているから問題なし」


 一番の問題が苦無が刺さらないことだったけど、どうやら杞憂に終わったようだ。

 僕は再度飛苦無を取りだし、今度はチャクラを纏わせて投げる。


「痺れろ!」


 チャクラが雷へと変化した飛苦無はあっさりとマシンゴーレムに刺さり運動機能を奪っていく。マシンゴーレムは暫く硬直した後膝から崩れ落ちた。


「リッカ!」


「はい!」


 すかさず走り出したリッカは助走の勢いをつけたまま槌を降り下ろす。

 ボカボカ殴り会うよりもこっちの方が早くて確実だ。


「やりました!」


 抱きついてくるリッカを受け止め、そのまま次の標的を探すことにする。


◆◇◆◇◆◇◆◇


 順調に狩り続け、気が付けばリッカが十体。僕が九体迄狩り終えていた。

 鉄材も上手く取れ、二人とも目標数はクリアしている。残すは僕の一体だけなのだが、日没が近づいてきている。


「どうしよ……もう時間が……」


「まだ間に合うよ、ラストチャンスにかけよう」


 周辺を探索していると運良くマシンゴーレムを三体発見することができた。が、真ん中の一体の様子がおかしい。なんとなく違和感が……


「あれはゴーレムリーダーですよ」


「リーダー?」


「頭に角があるじゃないですか。あれがリーダーの印です」


 ザ◯の隊長機のようなものか。


「逃げましょう! 今私たちでは歯が立たないですよ!」


「そんなに違うの?」


「違いますよー! 攻撃力が数段上ですし。

 なにより! 他のマシンゴーレムを従えることが出来るんですよ!!」


 あ、なるほど。それでリーダーね。道理で三体で移動してる訳だ。


「じゃあ手っ取り早くリーダー機を狙えばいいんだ」


「狙えばいいんだって簡単に言いますけど! 本当に強いんですよ!」


 ん~リッカも心配性だなぁ。

 まぁ自分のJobがノービスって事も関係してるんだろうけど。

 それじゃリッカが怖がらないウチにさっさと片付けちゃいますか。


 僕はアイテムから大きな三枚刃の手裏剣を取り出す。いわゆる風魔手裏剣と呼ばれるものだ。

 こんなの物語の中だけかと思ったけど、意外にも里で作られていたのでついでに作り方を教えてもらった。


「な! 何ですかそれ!」


「え? これ? 僕の国の武器だけど?」


「それ……投げるんですか?」


「そりゃ……一応投擲武器ですから?」


 手裏剣にチャクラを纏わせる。飛苦無より大きいのでちょっと苦労する。

 まぁ里で相当練習してきたから失敗しないと思うけど……


「いっくぞ~火遁! 火炎車ぁ!!」


 チャクラから着火した手裏剣を勢いよく投げつける。

 炎を纏った手裏剣は高速で回転していき、リーダーを守るように出ていたマシンゴーレム二体の首を深く切り付け一歩引いていたリーダーの首を跳ね飛ばした。


「おまけ!」


 残ったマシンゴーレム目がけ飛苦無を投げつける。

 飛苦無はマシンゴーレムの眉間の位置に深々と刺さるが首をとるまでには至らなかった。


「惜しい!」


「いやいや、ここからさらに……発破!」


 飛苦無に纏わせたチャクラが僕の言葉に反応して爆発を起こす。

 爆発の勢いに負けたのか残りの首も吹っ飛んだ。


「すごい……」


「いや~盛大に爆発しちゃったね~少しチャクラが多かったかな?」


 その時頭の中に鐘の音が鳴り響く。どうやらレベルが上がったようだ。

 リーダー機を倒したかな? 隣のリッカを見ると驚いたような顔をしているのでリッカもレベルが上がったのだろう。


「あたし倒してないのに……」


「同じパーティだからじゃない?

 それよりも! 早く回収して戻らないと時間ないよ」


 リーダー機を含めた三体のマシンゴーレムを収納すると西門目指して走り出した。

 しかし、どうしてもリッカが遅れてしまうので最後はリッカをお姫様抱っこで運搬してどうにか間に合った。

 リッカはとても恥ずかしそうにしていたけど、あの移動速度じゃ誰にも見られていないと思うんだけどなぁ……

 門を越えた所にはアードルフが待っていてギルドカードを見せると何とか合格を貰えた。

 本当は時間的に少しオーバー気味だったのだが、リーダー機を討伐したことが認められ繰り上げで合格にしてもらえた。なんでも狩ってみるもんだ。


「さて、これにて試験は終了だ。合格者はこれから生活する寮へ案内するぞ」


 アードルフが案内してくれたのはとても綺麗な外見で、三階建てのとても大きな建物だった。

 これが丸々ブラックスミス見習いの人が暮らす寮だと言うのだから驚きだ。


「ここがお前達が生活する第三女子寮・・・だ。詳しい話しは寮長に聞いておくように。

 それじゃ明日から遅れるなよ」


 なんだって? 女子寮? え? 僕男なんですけど?

 どうやらアイアンシティでの生活も前途多難そうだ……

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