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15話 鍛冶師の国へ

 目が覚めると案の定神崎さんが真横で寝ていた。

 こやつめ……やりおるわ。


「神崎さん起きろや~朝やで~そんで人のベッドに入ってくんなや~」


 軽く揺すり声をかけるが反応がない。


「ちょっと。いい加減にしないと叩くよ~」


「ママ……うるさい……」


 ほう……何を言うかと思ったらママだって?

 良い度胸じゃないの……

 僕はハンカチを取り出し、水の初歩魔法で濡らし神崎さんの顔の上にそっと置いた。


「ふ~これで良し!」


 しばらく見ているとだんだんと息苦しくなってきたのか暴れ始めた。

 もう少し観察してみたいけど死なれるとあれなんでハンカチを回収する。


「ぶはっ……はー、はー。

 何が? 何が起きたんです!?」


「おはようフェ◯プス君。早速だが今回の任務だ。今すぐ僕のベッドから出なさい」


「フェル◯ス君って誰です? 私は神崎ですよ?」


「知ってる。ただの冗談だよ。それはいいから早くベッドから出ろ」


 最後は命令口調になってしまったが。まぁ問題ないでしょう。


 着替えを済ました僕たちは一階へ降り朝食を貰った。メニューはパンとサラダにスープだった。

 ああ、アキツ国で食べた日本食が懐かしい……

 朝食を済ませた僕たちはそのままチェックアウトし、冒険者ギルドへ向かう。

 エマさんにニダヴェリールへ行くことを報告しに行くためだ。


 冒険者ギルドは早朝だと言うのにすでに開いていた。一体何時から開いているのだろう?

 そんな疑問を持ちながらも扉を開け屋内へ入っていく。

 え~と……エマさんは……いた。


「おはようございます。エマさん」


「あら、今日は早いわね。どうしたの?」


「あれから友人とも話し合ってブラックスミスになる事に決めました」


「ブラックスミスね。それだとニダヴェリールね」


 さすがギルド職員直ぐに国の名前が出てきた。


「路銀はあるの?」


「ええ、アキツ国へ行ったときの残りがあるので、これで行ってきます」


「それならいいわ。気を付けなさいね。Lvが十を超えたと言ってもまだノービスなのだから」


 本当のお姉さんみたいに気をかけてくれる。なんて優しいのだろう。


「大丈夫ですよ。じゃ行ってきますね」


「戻ったらまた顔を出すのよ」


「は~い」


 僕はそのままギルドを出て城門まで移動した。


 城門では昨日とは別の門番さんが居て普通に通してくれた。まぁこれはあくまで門から出ましたよ~というポーズだから誰でもいいんだけどね。出来れば知り合いが良かったなぁなんて。

 城門を出てしばらく街道を歩き、途中であったティミッドラビットを数匹討伐しておいた。まぁお小遣い稼ぎだね。

 街道をひた歩き門番の人からも見えなくなる辺りで神崎さんを呼び出す事にする。


「さて、ニダヴェリールまで送って」


「あれ、歩いて行くのでは?」


「何でさ。転送があるならぱぱっと送ってよ」


「街道を歩く旅も面白いですよ?」


「それはまた今度ね」


「まぁいいですけど。行きますよ~ほい!」


 相変わらず気合の抜けそうな掛け声をかけると足元に魔法陣が浮かびそのまま景色が一転する。


◆◇◆◇◆◇◆◇


 光が収まって目が慣れてくるとそこは今までの森沿いの街道ではなくだだっ広い平野にポツンと立っていた。


「はい、つきましたよ。ここがブラックスミスギルドがあるニダヴェリールのアイアンシティですよ」


「安直な名前だね」


「まぁそうかもしれませんが……口に出しちゃダメですよ? この町に暮らす人たちは何かと気にしているのですから」


 やっぱり気にしてるんだ……

 とりあえず町に入る為に近付くとここでも門番さんがいた。

 どうやら大きな都市には防壁と門番が付きものらしい。


「止まれ! ここを通りたければ身分証を提示するかここに名前を書いて通行料を払ってもらおう」


 声をかけてきたのは鎧を装備した子供だった。

 え? この国は子供が門番をするの?


「和泉様。この国はドワーフとかホビットとかの小人の国なんですよ。

 彼も成人していますから下手な事は言っちゃダメですよ」


 僕が言葉を発する前に神崎さんが注意してくれてよかった。『ボク偉いね~家のお手伝い?』って聞くところだった……

 頭に浮かんだ言葉をそのまま心に仕舞い込みながらギルドカードを見せる。すると何を確かめるでもなく通っていいと言われた。

 ラグズランドといい結構ザルなのかな? まぁ通してくれるならありがたく通ろう。

 あ、そうそう一つ質問があったんだ。


「あの~」


「なんだ?」


「ブラックスミスのギルドはどう行けば?」


「ああ、町に入ったら兎に角真直ぐ進め。そうすれば嫌でもわかる」


「あ、ありがとうございます」


 嫌でもわかるって凄い表現だね。その分楽しみが増えたけど。

 僕は言われた通り門をくぐり真直ぐ歩いて行った。



 門番さんが言った事は直ぐ理解できた。

 町の中心がロータリーになっていて、互いに交わるように太い道が通っている。

 円の中心で交わるようにバツ印が書かれている図を想像してもらえると解りやすいかな。

 そして東西南北で四つに分かれている北のブロックの先頭にギルドがあったのだが。

 でかでかと金槌のシンボルが掲げられていた。

 これは嫌でもわかるわ……


 あまりにも自己主張の激しい店構えに見とれていると小走りで近付いて来たドワーフの子とぶつかってしまった。


「ごめんなさい! 怪我とか無いですか?」


「あたしの方こそすみませんでした。急いでいたもので前もよく見ないで……」


「それじゃお互い様ってことで」


「はい!」


「何をそんなに急いでいたのか聞いても良い?」


「実は今日この後試験なんです」


「そうなんだ、あっ引き留めてごめんね」


「いえ、大丈夫です。もう諦めましたから……」


「ええっ! 僕がぶつかったせいかな!?」


「いえ、そうじゃなくて……緊張と焦りで周りも見えてない状態だし……」


 そう言ってドワーフの子は下を向いてしまった。ん~試験の時緊張した事が少ないからなぁ。

 なんてアドバイスしてあげればいいやら……

 ま、普通が一番か


「そっか……じゃお詫びに緊張をほぐすおまじないを」


「おまじない?」


 僕はシンプルに手のひらに『人』と三回書いて飲み込めばいいと教えた。

 最初は半信半疑だったが手のひらに書いた文字が心を落ち着かせる魔法の文字だと言ったら納得した様子で真似をして書き始めた。


「あ、凄い。なんか楽になりました」


 鰯の頭もなんとやら。人間の思い込みは凄いね~


「そう。よかった。それじゃ頑張ってね」


「はい! ありがとうございます!」


 ドワーフの子は勢いよく頭を下げまた走っていった。

 うんうん。人助けをすると気持ちいいね。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「すみませ~ん」


「へい! らっしゃい!」


 ドワーフの子と別れてからブラックスミスギルドに足を踏み入れるとそこは大きな武具屋になっていた。店内では金属を叩く音がそこらじゅうから鳴り響いている。

 職員と思わしき人に声をかけたが、どうやら普通に客と間違われてしまったようだ。


「何にします? 人気の属性剣が揃っていますよ!」


「いえ、ブラックスミスになりたいんです」


「なんだ。あんたノービスか。

 運がよかったな。今日ちょうど試験があるからこの用紙に必要事項を書いて西ブロックにある親方の店に行きな」


「親方の店?」


「なんだい。あんたこの町は初めてか。それじゃわからないのも無理はないな。

 親方ってのはこのブラックスミスギルドのギルドマスターであるアードルフ・ヒラカリのことさ」


 店員はまるで自分の事のようにマスターであるアードルフの事を褒めちぎる。

 よっぽど信頼しているんだなぁ


「おっと、今は時間が無いんだっけ? 親方には俺の方から連絡しといてやるから行きな」


「ありがとうございます!」


「西側の店だぞ~!」


 店員に見送られ店を出た。

 え~と西の店、西の店っと……

 ん? こっちはあの子が走って行った方向じゃなかったっけ? まぁいいか。


 僕は西側に向って走り出す。と言っても本気で走ると目立つのでランニング程度に抑える。

 目的の場所は直ぐに見つかった。店の前に中学生くらいの男の子が腕組みをしながら立っていたからだ。


「お前がカールが言っていた受験希望者か?」


「あ~ギルドで紹介して貰ったのは僕です」


 そっか。あの店員カールっていうのか。お菓子を持っているおじさんよりはいい男だったな。


「よし、それじゃ用紙を出せ」


「あ、急いできたからまだ書いてないや」


「おいおい。もう試験は始まるぞ?」


「直ぐ書きますから! 書くもの貸して貰えます?」


 男の人は呆れながらもインクとペンを貸してくれた。

 えっと……名前は宇江原 和泉っと

 年齢二十歳。

 ……え。もう終わり?


「あの名前と年齢でいいんですか?」


「ああ、それだけかければ十分だ」


 ゆるっ! それでいいのか?


「よし書けたな。その用紙はこちらで預かろう。試験会場はこの建物に入って左側の部屋だ。

 そろそろ始めるから急げよ」


「はい!」


 僕は用紙を預け試験会場へ急いだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇


 会場には二十名程の人が集まっていた。その中にはドワーフの他に人間や獣人の姿も見てとれる。しかし、やはり大半はドワーフのようだ。

 先ほど借りたインクとペンを準備していると入り口で腕組みしていた人が入ってくる。


「皆よく集まってくれた。俺がこのブラックスミスギルドのマスターであるアードルフだ」


 マスター直々に入り口前で待っていてくれたのか……畏れ多いな。


「さて、今回の試験だが。一次試験と二次試験の二つに分けて行う。

 一次試験に合格しないと二次試験は受けれないので気を付けてくれ」


 なるほどね。ここで振るいにかけるのか……

 結構厳しいんだな。


「さて、それじゃ早速第一次試験といこうか」


 アードルフは二枚の紙を配り始めた。

 上質な紙には問題が書かれていて、二枚目の質が落ちている紙には何も書かれていなかったのでたぶん解答用紙なのだろう。


 書かれている問題は簡単な四則演算と文章題のようで、現役大学生の僕にはちょっと簡単過ぎる問題だ。


「制限時間は一時間。それでは……始め!」


 アードルフの掛け声で皆一斉に問題を解き始める。僕は様子を見ながらゆっくりと問題を解き始めた。

 全ての問題を解き、窓の外をボケ~と眺めているとアードルフが終了の合図を出した。

 問題用紙と解答用紙を集め、採点してる間は休憩でいいと言われた。

 これ日本の試験ならば、飲み物を買ったり、トイレに行ったりと時間の潰しようがあったけどここじゃ何もすることがない。

 さて、どうしよっかな?


「あの~……」


 声をかけられた気がしてふと横を見ると、あの時のドワーフの子がいた。


「やあ、やっぱり君もこの試験を受けに来ていたんだね」


「はい、貴女のおまじないのおかげで何とかなりました。

 あ、すみません自己紹介もしないで。あたしリッカ・カートラと申します」


「宇江原和泉です。よろしくね」


 その後リッカと色々な話しをして時間を潰した。少しおどおどしているけど話してみるととてもいい子だ。


「あら? リッカさんも受けていらしたのね」


 僕とリッカの会話を遮るように声をかけてきた少女がいた。


「ノーラさん……」


「知り合い?」


「幼馴染みなんです。彼女の家も鍛冶屋なんですがうちと違って代々優秀なブラックスミスを輩出している名家なんですよ」


「ノーラ・カレッラですわ。人間のお姉さん」


「和泉だよ。それでね、僕は……」


「さて、結果が楽しみですわね。リッカさん」


 あ、ダメだこの娘人の話しを聞いてない子だ。

 僕はそのまま会話を続ける二人を観察した。

 明るい栗色の髪を肩口まで伸ばし左右で結んでいるリッカ。

 ハチミツ色の髪をドリルのように縦ロールにしているノーラ。

 あれ伸ばせば腰くらいまであるんじゃないか? と自分の髪の長さを棚にあげ感心してしまう。ちなみに僕の今の長さは腰を少し過ぎた位だ。

 それにしても縦ロールって初めて見たよすげ~本物や~



 一方的に喋り続けるノーラに相づちを打つリッカ。多分昔からそうなんだろうなぁ


「結果を発表するぞ! 席へ戻れ!」


 どうやらアードルフが戻ってきたようだ。受験生が席に座りだす。


「全員席に着いたか?

 それでは結果を発表するぞ。今回の合格者は五名だ。名前を呼ばれたものは前まで来るように」


 二十名いて合格者は五名か……

 簡単な計算の問題で合格率二割とか、意外と学問の普及率が悪いようだ。


 先に名前を呼ばれた二名がノーラに頭を下げてからアードルフの所へ歩いていく。関係者なのかな?


「よし、次からは高得点を取得した者達だ。

 まず、リッカ・カートラ。九十点」


 おお、リッカは勉強出来るんだ。ちゃんと自分の力が発揮できて良かった。


「次、ノーラ・カレッラ。九六点。少しで満点だったのに惜しかったな」


 やっぱりノーラもここで入ってきた。あの二人の家はこの町で鍛冶屋をやっているくらいだし、小さな頃から教育されているのだろう。


「やりましたわ、リッカさん今回も私の勝ちですわね」


「凄いです、ノーラさん」


 リッカに誉めてもらいノーラの鼻が伸びるのが僕には見えた。


「そうよ! 私の方が……」


「あー次、イズミ・ウエハラ」


 アードルフがノーラの言葉を遮るように話し出した。何か嫌な予感……


「イズミはこの試験始まって以来初の満点だ」


 あ、ノーラの鼻が折れた。


 会場中から拍手を受けながらアードルフから紙を受けとる。


「イズミさん……とおっしゃいましたね?」


「そうだけど」


「貴女をライバルと認めてあげるわ」


 ブラックスミスになる前にライバルが出来ました。

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