14話 お仕事しましょう
僕はお城を出て冒険者ギルドまで急いでいた。
ノンナに教えてもらったけど、どうやら僕のギルドカードの魔力が切れかかっているみたいだ。
そう言えば門番の人も冒険者ギルドへ行った方が良いと言ってくれていたっけ。
Jobがノービスのままになっていた事とノンナの事が心配だったのですっかり忘れていた。
冒険者ギルドに到着すると登録してくれたお姉さんを見つけて早速話しかける。
「あの!」
「そんなに急いでどうしました?」
「何かカードの魔力がきれそうだって友人に教えてもらって!」
「魔力が? カードを拝見しても?」
「これです!」
僕はカードを取り出しお姉さんに手渡す。
「あ~そうですね。魔力が切れかかっていますね。それでは更新と一緒に魔力の補充を……
と言うかイズミさん。クエスト受けました?」
「え?」
「情報を見ると登録してから一回もクエストを受けてないようですが
普通クエストを受けた時に魔力の補充と更新がされるものですけど……」
「あ、あはははは……」
適当に笑って誤魔化そうとしたらお姉さんに凄い勢いで睨まれてしまった。
「はぁノービスなのに一回もクエストを受けてないとか……何なの?」
ヤバイ、お姉さんの口調まで変わった。
だってしょうがないじゃない。アキツ国に行っていたんだもの……
「すみません。ちょっと所用でアキツ国まで行っていたものですから……」
「アキツ国!? ノービスの貴女が何故そんな処に!?」
「ごめんなさい! 故郷なんです!」
「はぁ……それにしたって途中でギルドがある場所に立ち寄ればよかったでしょ?
路銀だって必要になるのだし」
「いや~急いでいたもので」
「まぁいいわ。ほら、あそこに簡単なクエストがあるから何か受けなさい。じゃないと更新しないわよ!」
お姉さんに脅さr……言われてクエストボードの前に移動する。
何々……イノシシの討伐に薬草の採取。色々あるな
クエストボードを眺めているとお姉さんから声がかけられる。
「そこのクエストはまだ無理よ! その横の初心者のクエストにしなさい!」
よく通るその声はギルド中に響き渡り周りからクスクスと笑い声が聞こえてくる。
もう! そんな大声で言わないでよね!
もう恥ずかしくて目についた一枚を力任せに引っ張りカウンターまで戻る。
「これで!」
「へぇこれでいいの?」
「もう何でもいいですよ」
「はい、承りました。それじゃ頑張ってきてね」
えらくフレンドリーになったお姉さんに見送られて僕は冒険者ギルドを後にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「お、冒険者ギルドには行けたか?」
城門の所でまた門番の人に声をかけられる。暇なのかな?
「はい。おかげ様で。これからクエストです」
「そうか。しかし装備は何とかならなかったのか?」
「あ~これが動きやすいんですよ」
僕は和服から最初に貰った普通の服に着替えておいた。
和服でも戦えない事もないけど目立ちたくないし。
「そうか、まぁ十分に気を付けてな」
「はい! ありがとうございます!
あ、そうだこのモンスターなんですけど……」
僕は門番の人に今回のクエストのターゲットであるモンスターについて助言をもらった。
どうやらこの方向に進めば出会えるようだ。
さて、頑張って討伐しますか。ウサギさんを!
クエスト用紙にはウサギの討伐と書かれていた。
ここら辺には多くのウサギが生息しているので初心者が相手にするにはちょうどいい相手なのだと。その毛皮からはコートなどの防寒具に、肉は食用として重宝するようで財政的にも助かるみたいだ。
今回のクエストはこのウサギを五羽討伐すればいいらしい。
何の気なしに平野をぶらぶらしていると草むらの方から何かが動く音がする。
ん。兎かな?
僕はその場に伏せ太もものホルダーから飛苦無を取り出して何時でも投げれるようにする。
相手が動くのを待っていると先に草むらからウサギが飛び出した。
あれが目標か……兎? 兎ってあんなに大きかったっけ?
どう見ても兎の大きさが人間の子供位あるのだが……まぁ見てても始まらないか。
僕はそのまま相手の動きに合わすように飛苦無を投げつける。
苦無は兎の延髄を直撃し、一撃で仕留めていた。
「ふい~」
僕はもう一本苦無を取り出し仕留めた兎の下処理を始める。これだけ大きいと処理も一苦労だ。
前の異世界でもやっていたことなんので手馴れてはいるけど。
「和泉様? 何をやっているんです?」
「何って血抜きだよ。こうしないとお肉がまずくなるでしょ」
「いや、処理はわかりますけど。そんなことしなくてもアイテム欄に入れれば自動でやってくれますよ」
「なんだって……!」
神崎さんに言われ試しに処理途中の兎に向って収納と念じてみる。
すると兎の体は目の前から消えアイテム欄にウサギの名前が加えられた。
そしてもう一度取り出すとなんと処理が完全に終わった状態で取り出された。
な……なんというチート……
「ついでに収納するときに念じれば解体も自動でしてくれますよ。
これで必要なものとそうでないものに分けらえれますね」
何だって! なんて便利な機能なんだ!
その後調子に乗った僕は五羽でいいところを三倍の十五羽も討伐し内五羽は解体までやってみた。
それでわかった事だが、解体すると毛皮と肉だけが残りあとはアイテム欄から消えてしまう。
う~ん。楽だ。
「お、早いな。ちゃんと狩れたのかい?」
再び門を通ろうとした所で門番さんに声をかけられた。
時間を確認してなかったけど、どうやらそれほど時間は経っていないようだ。
「ええ、沢山狩れたし、ギルドで報告して来ようと思って」
「沢山? まだ出発してから一時間位だが……」
「あ~元々狩りは得意なんですよ」
言い訳がめんどくさかったので適当に嘘をついておく。門番の人も余り追求はしてこなかった。
初心者が見栄を張っているんだろう位にしか考えていないのかもしれない。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「もう終わったですって? 嘘をつく事はいけない事ってお母さんに教わらなかった?」
冒険者ギルドでクエストの報告をする為にカウンターへ行くとお姉さんにいきなり嘘吐き呼ばわりされた。何か釈然としないんだけど。
「嘘じゃありませんよ。はいこれ。ギルドカード」
カードには討伐の記録も残ると言うのでお姉さんに手渡す。
お姉さんは渋々と言った感じでカードから情報を読み取る。
「嘘でしょ……この短時間で十五羽も討伐している……」
「ね? 嘘じゃなかったでしょ?」
「……そうね。それじゃ更新するからまた血をちょっとちょうだい」
僕は石版に置かれたカードに血を垂らす。血がカードに付くとそのまま発光し情報が更新される。
《名前:宇江原 和泉 LV:15 Job:ノービス》
うん、ちゃんと更新されたようだ。でもやっぱり『忍者』とは表記されないんだね。
「何よ、もうレベルが10を超えているじゃない。そう言う事は早く行ってよね?」
「いや、言う暇がなかったと言うかくれなかったと言うか」
「……そうだったかしら? まぁいいわ」
あ、話しを逸らした。ヒドイ……
「この素材はどうするの? こっちで買い取る?」
「あ、お願いします」
僕はアイテム欄から処理されたウサギの死体を十羽と処理してしまった兎の皮を五羽分、それに肉を三羽分カウンターに乗せる。
「ちょっと! 一気に出さないでよ! あ~も~カウンターが埋っちゃったじゃない!
レオナルドさん? レオナルドさーん! 手が空いていたらこっち手伝って貰えます!?」
出た! レオナルドさん! あのおっさん元気だったのかな?
お姉さんに呼ばれたおっさん改めレオナルドさんがせっせと兎の死体とお肉を裏へ運んで行く。
「もう! 出す時は裏に呼びますから、ここで出さないで下さいね!」
「は~い。ごめんなさ~い」
ちょっとした意趣返しが出来たので良しとしよう。
カウンターから消えたお姉さんとレオナルドさんを待つこと数十分。
お姉さんがお金を持ってきてくれた。
「はい、今回の報酬よ」
ウサギの討伐報酬が一〇〇グラー、毛皮が二五〇グラー、肉が一三五グラー。クエスト報酬が二〇〇グラーなので、今回の合計は六八五グラーになった。
お姉さんが持ってきたトレーには銀貨が六枚、銅貨が八十五枚乗っている。
「銅貨の枚数が多いから気を付けなさいよ」
「はーい」
バジルさんから貰った袋にまとめてアイテム欄に収納する。
「さて、これからどうするの? まだノービスを続ける? それとも転職する?」
「あ~一応転職の方向で考えています」
「そ。ならいいわ。貴女を見てると何故か心配になってくるのよね」
「そうですか?」
「はぁ……そう言えば自己紹介がまだだったわね。
私はエマ。エマ・アシュトンよ。何かあったらここに来なさいよ」
「は~い、これからよろしくお願いします。エマさん」
冒険者ギルドのお姉さん。エマさんと知り合いになった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
ギルドを出るとすでに夕暮れ時になっていたので移動を諦め宿に泊まる事にする。
屋台を覗きながら宿屋を探す。が面倒になったので串焼き屋のおっちゃんから一押しの宿屋を教えてもらったのでそこに移動することにする。
僕は今案内された宿屋の前に立っている。
『菜食主義の狼亭』
それがこの宿の名前らしい。それにしてもこのネーミングセンス……大丈夫かな?
店の前に何時までも立っているわけには行かないし、入ってみよう。
「いらっしゃ~い! お食事ですか? それともお泊りですか?」
「あ、宿泊で」
「は~い! かしこまりました~!」
出迎えてくれたのはとても元気のいい女の子だ。この店の看板娘なのかな?
てか女の子がこの時間に働いていても大丈夫なのだろうか?
「お客さ~んこっちで台帳お願いします~」
考え事していたら呼ばれてしまった。
「あ、ごめんなさい。ここでいいかな?」
「はい! お連れの方もお願いしますね」
「連れ?」
嫌な予感がしたので後ろを振り返るととてもいい笑顔の神崎さんが目に入った。
「ねぇ神崎さん? あなた滅多に人前に出ないんじゃなかったのですか?」
「いや~私も宿屋に泊ってみたかったんですよ~」
「それうざいです」
「あれ? もしかしてお連れの方じゃ……」
急にもめだしたので娘さんが狼狽え始めた。しょうがない。責めるのは後にしよう。
「ごめんなさい。ダイジョウブデス。ボクノツレデス」
「本当に大丈夫ですか? 何か片言になっていますけど……」
いけないいけない、心の反発が声になって出てしまった。
「ええ、本当に大丈夫です」
「そうですか……お部屋はどうしますか? 今ならシングルもツインも取れますよ。
あ……一応ダブルもありますが……」
神崎さんと一緒にダブルとかマジ勘弁願いたいです。
「シングr……」
「ツインでいいです。お金もないですから!」
食い気味で神崎さんが部屋を決めてしまう。と言うかですね、僕男なんですけど?
「か、かしこまりました。ツイン一部屋で、二〇グラーになります。
お食事はどうします? 二食付けるならお二人で十グラー。食材持ち込みなら五グラーの追加になりますけど」
「二食付けてください。あと食材はのお肉を」
僕はアイテムから兎の肉を取り出して娘さんに手渡す。
「こんなにいいんですか! 助かります~」
娘さんが喜んでくれたのでよしとしよう。
その後一度泊まる部屋に案内してもらい荷物を置いたら一階の食堂で早めの夕飯を食べた。
食後は部屋のベッドでゆっくりする事にする。
「和泉様、その服どうしたんです?」
「どうしたって? 何か?」
僕は里で作ってもらった寝間着を着ている。何か問題があるのだろうか?
「どうやって手に入れたんです? アキツ国のお金持っていなかったですよね?」
「あ~そう言う事。服屋さんのおかみさんに相談したら畑仕事と農機具の修理と台所用品の手入れだけで何着か作ってくれたよ」
「だけ? それだけやってだけなんですか?」
「だって、畑仕事は土属性、農機具の修理と台所用品の手入れは金属性の術でぱぱっと終わったもん」
「あ~そう言えば忍術は得意でしたね」
他にも欲しいものは物々交換したり、奉仕活動で何とかなった。
世間から隔離していた里だからね~そんなにお金も必要じゃなかったみたいだし。
「あ、そうそう。次は何処に行きます?」
「次かぁ……」
接近戦のセンスがないことは影丸さんに習って自覚しているし。
となると後衛職か、サポートか、生産か……。
忍者の経験を活かすなら魔法職と鍛冶職かな。あとはサポート職をとっておけば問題はないかな……。
「魔法職と鍛冶職ならどっちがいいと思う?」
「魔法職ならもう三ヶ月後待てば後期の入学試験がありますね」
「三ヶ月もノービスは嫌かな~やっぱり鍛冶師か……」
「これはもう和泉様の好きな方でいいと思いますよ」
「……よし! 先に鍛冶師になろう!」
「わかりました。では明日、鍛冶師の国『ニダヴェリール』へ案内しますね」
「お願い。じゃもう寝ますか」
「はい!」
「間違っても僕のベッドに入って来ないで下さいね」
「いやですよ~私だってそこまでアレじゃないですよ」
神崎さんの笑顔がどうしても信用できないけど、灯りを消して寝る事にした。
さて、次の国じゃ何が起こるやら。




