13話 ルーズガスへ
『ルーズガスのノンナ様が大変です。至急戻った方がいいと思いますよ』
あの後無理矢理寝たのだが、一晩経っても神崎さんが言った事が頭から離れない。
大変な事って何だ? もしかして魔物に攻めれたとか!?
思い立ったら居ても立っても居られず急いで桜華さんの所へ行く。
「おはよう和泉。昨日はよく眠れたかしら?」
「ええ、ありがとうございます。それで、急なんですがお願いが……」
僕は神崎さんの事をうまく誤魔化す為に遠くの友達が大変だという夢を見たと桜華さんに伝えた。
予知夢と言うものもあるのだし、少しは信憑性もあるだろうと思っての事だ。
「そう。友達の夢を……」
「ええ、そこで上忍になってすぐで申し訳内ですがその友達のもとへ駆けつけたいのです」
「場所は……どこなの?」
「えっと……ルーズガス神聖帝国と言う場所で。多分船で一月はかかるかと思います」
「そんなに遠く! ……そうねそれなら直ぐに発った方がいいわね」
「いいんですか!?」
「ええ、でも忘れないでね、ここはあなたの第二の故郷。何時でも帰ってらっしゃい」
「……はい! 行ってきます!」
桜華さんに頭を下げ僕は出発の準備をする。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「おお、ここにおったか」
準備をし終えそろそろ出ようとしたところに源さんが来てくれた。
「師匠! どうしたんです?」
「この里を発つそうじゃな」
「ええ……友人が心配なので」
「そうか……寂しくなるの……
おっと、忘れとった。ほれ餞別じゃ。と言っても元はお前さんの刀なんじゃがな」
源さんはそう言って紫の布にくるまれたものを差し出してくる。
手に取ると懐かしい重さが伝わってくる。
「……これは」
「良い武器ではあったが、忍びが使う武器ではなかったのでの。ちといじらせてもらった」
源さんは僕の刀を改良してくれたらしい。
説明を聞くと刀全体にチャクラを通しやすくし、忍術の媒体として使いやすくしてくれたとの事。また刀身の鋼はそのままにチャクラを通しやすい素材と一緒に打ち直しているので心配しないでほしいとも言われた。
布を取るとそこには一揃えの直刀が真新しい鞘と共に包まれていた。
うん、前より格好よくなっている。これ正直に言ったらあの子は泣くかな?
ふとそんなことを思ったが、あの子なら笑って許してくれるだろう。自信はないけど……
「黒い刀身が磐長。白い刀身が咲耶じゃ」
「磐長って磐長姫ですよね? あの出戻りの……」
「バカ者! 不老長寿のありがたい神様じゃぞ!」
そうだったのか。てっきり出戻りの神様だと……
「まったく……磐長姫は永遠の、咲耶姫は繁栄の願いを込めて名付けというに」
「師匠。ありがとうございます」
「達者でな。また顔を出せよ」
「ええ、師匠も体に気を付けて」
貰った刀を左右の腰に差しそろそろ家を出る事にする。
村の出口には大勢の人が集まってくれていた。
「これは……?」
「どうしても皆が見送りたいって言ってね?」
桜華さんは困ったような笑顔でこちらを見てる。
「まったく、黙って行くことは無いだろう。俺だって師匠の一人だというに」
「禿丸さん」
「影丸だ」
「冗談です。この里はとても居心地がいいので必ず戻ってきますよ。お土産。何が良いです?」
「そうだな……土産は何でもいいぞ。お前が持って来てくれるならな。元気でやれよ」
「はい! 師匠、ありがとうございました!」
その後集まってくれた人に挨拶をしていく。しかしその中に桃華の姿はなかった。
最初に助けてくれたのは桃華だし、お礼を言いたかったんだけどな……
来ようと思えばいつでも神崎さんの力で来れるのだが、どうしても別れと言うのは辛い。
「さて、そろそろ行きます」
「そう……気を付けてね」
「みなさんも。また戻ってきますから」
僕はルーズガスに戻る一歩を踏み出す。
◇◆◇◆◇◆◇◆
森の中を暫く歩いて行くと僕が最初に落ちた滝にでた。
「さて……そろそろ出てきたらどう?」
僕は今まで歩いてきた森に向って声をかける。
しかし反応したのは森の中の人物ではなく、横に現れたいつもの担当者だった。
「和泉さん急に独り言なんて……大丈夫ですか?」
「神崎さんにだけは言われたくないですよ。
後、前言いましたよね? 今度いきなり出てきたら……」
「またまた~嫌ですよ~和泉さん」
僕は無言で腰の刀に手をかける。
それを見た神崎さんは目に見えてわかる程に顔色を変えた。
「あ、あははは……」
「冗談ですよ」
「和泉は誰としゃべっているの?」
「うん? 内緒……かな」
森からは出てきたのはあの場に居なかった桃華だった。
「本当に行っちゃうんだ」
「うん、友達も待たしてるしね」
「また帰ってきてくれる?」
「そうだね。折りを見てまた戻ってくるよ。約束する」
「ん……じゃこれ」
桃華が差し出してくれたのは赤い組紐で作られているミサンガみたいなものだった。
桃華はそれを僕の右手に巻き付けてくれる。
「これは“人繋ぎの糸”と言うものよ。
ほら。こうやって対になっていて、これで互いの安否がわかる仕組みなの」
桃華は自らの右手に巻かれている同じ色の組糸を見せてくれた。
「向こうに行っても頑張んなさいよ」
「うん。ありがとう。桃華も上忍になれるといいね」
「なるわよ! なって和泉なんて直ぐ追い抜いてやるんだから!」
「ん。待ってる」
「あのね! 和泉、私ね……!」
「何?」
「…………やっぱいいや。和泉が戻って来たときに言う事にするわ」
「……そっか。じゃ早めに戻らないとね」
そのまま僕たちの間から会話がなくなってしまう。正直この雰囲気は苦手だ。
なので、逃げるようだけど神崎さんに頼んでルーズガスに送ってもらう事にする。
「いいんですか? 桃華さん、泣きそうですよ?」
(いいよ。あんまり長くいると決心が鈍るし)
「そういう事なら。いきますよ」
神崎さんが地面に手のひらを向けると僕の足元を中心にした魔法陣が展開する。
桃華が息を呑むが伝わってきた。
「行くね。桃華も元気で」
「和泉! 私、私ね。あなたの事がす……」
桃華の言葉を遮るように僕は光に包まれた。
“す”の後ってなんだろう? まさか“好きです”とか?
いやいや、無いな。うん、無い。それに僕にはもう奥さんが六人もいるし……
もうすでに六人いるんだから今更増えてたって……いや! 僕は浮気はしないぞ!
かなりの邪念に捕らわれながら僕はルーズガス神聖帝国へ飛んだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
光が消え目を開けるとそこには今までいた景色とは完全に風景が広がていた。
高い城壁が町をぐるりと囲み入口には門番なのだろう。二人の兵士がまわりを注意深く観察してる。
「戻って来たのか」
「そうですよ。ここはルーズガス神聖帝国の首都ラグズランドの城壁付近になります」
神崎さんの言葉を聞きながら門番の人に近付いて行く。門番は近付いて来る僕に気が付いたのか睨むようにこちらを見てくる。
「止まれ。街に入るには身分証を出してもらおうか。身分証がないならここに名前を書いて通行料を払ってもらうぞ」
「ギルドカードでいいですか?」
僕はあらかじめ用意していたギルドカードを門番さんに提示する。
「どれ。……名前はイズミ・ウエハラ。Jobはノービスか。
ノービスがそのような格好で外に出るのは危ないぞ。きちんと装備を整えてから出なさい。
あと、期限が切れそうになっているぞ。早めに冒険者ギルドへ行った方がいいな」
親切な門番さんがアドバイスしてくれるので、とりあえずお礼だけでも言っておこう。
というかJobがノービスだって? どういう事?
「よし、通っていいぞ」
門番さんに道を開けてもらってラグズランドの中へ入る。
とりあえず先ほどの疑問を確認するためにあの酒場に移動する。
店に入りアスポールを頼んだ後、スキルを確認する。
名前:宇江原 和泉 Lv:15 Job:忍者Lv:40・ノービスLv:15
HP:650/650 MP:600/600
力 :40
素早さ:65
体力 :50
魔力 :75
器用さ:77
運 :30
スキルP:305P(B:50・J:255)
スキル:
狩人の目・筋力アップ(小)・医療知識・電光石火・魔法付与師・初歩魔法・家事・火忍術5
土忍術5・金忍術5・水忍術5・木忍術5・光忍術3・闇忍術5・回避術5・体術3・剣術2
投擲術5・忍び足・隠密・魔力強化3・魔力消費減少3・魔力回復3・鍛冶師の魂
ふむ、ステータスではちゃんと『忍者』のJobがあるけど、ギルドカードでは……
名前:宇江原 和泉 Lv:6 Job:ノービス
え? 最初の情報のままだよ? 本当にどうなっているの?
「それはですね~『忍者』がこの国で正式にJobに認められていないからです。
あと、ギルドカードの更新は各街の冒険者ギルドで行っていますよ」
いつの間に頼んだのか神崎さんがアスポールと共に数点のおつまみを飲み食いしている。
てかさ、担当者が他の人に見られないってアレどうなったの? 普通に注文してるし……
まぁいいや、とりあえず今はこの疑問に答えてもらおう。
「正式に認められていないってどういう事? あとギルドカードの更新って何?」
「はい。忍者のJobはアキツ国のJob……というより向こうの言葉で職業? ですから。
この国では認知されていないんですよ。ですのでギルドカードには載りません。
それに、ギルドカードは冒険者ギルドで更新が必要です。
これは初心者講習の時に説明されているはずですよ」
聞いていなかった……そんなこと言っていたのか初心者講習……
それにしてもアキツ国での三ヶ月って何だったんだろう……
「でも記載されないだけで、ちゃんとスキルは発動していますし。
人より基礎値が高いと思っていればいいじゃないですか。あ、このお肉おいしい~」
ま、そう言う事にしておこう。人との繋がりも出来た事だし。
さて、疑問も解消されたのでお城を目指しますか。
あ、その前に情報収集か。
「自分で食べた分は自分で払ってよね」
「えっ!? 奢ってくれないんですか!」
「僕が飲んだのはコレ一本。なのに何で僕が他の分まで出さないといけないの?」
「だって……」
「それに、僕に一口もくれなかったよね?」
「美味しかったです!」
「払っておいてね」
「ふえ~ん、今月お小遣い少ないのに~」
知らん。自業自得だ。
「あ、お姉さん。最近何か変わったことありました?」
半泣きで自分の食べた分を計算している神崎さんを放っておいて、店員のお姉さんを捕まえて話しを聞く。この酒場はお城にも近いし、きっとお城関係の情報もあるだろう。
お姉さんの話しでは特に変わった事はなかったようだが、お城の方で誰か要人が亡くなっただとかそう言う噂が流れているそうだ。
要人ってまさかあいつらじゃないだろうな……
僕は逸る気持ちを抑えて城まで急いだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
お城には城壁を飛び越えて侵入する。忍者のJobが早速役に立った。Jobと言うかチャクラか。
とりあえず和服にマントだととても目立つので(街中をその格好で闊歩して来て言うセリフじゃないけど)使用人の部屋からメイド服を借りてきた。
借りただけだからね、後でちゃんと返します。
そのまま台所から一通り周り情報を集める。どうやら誰かが亡くなったのは本当の様で。
ノンナが大変落ち込んでいるとの話しだ。
その落ち込み様は半端なく食事も喉を通らないようで、部屋に塞ぎこんでいるらしい。
王女が引きこもってここの政は大丈夫なのだろうか?
とりあえず台所でスープを作りノンナの所まで運ぶ事にする。まさか家事のスキルがここで役に立つなんて思っても見なかった。
誰にも会わないように移動し、ノンナの部屋をノックする。
「姫様。お食事をお持ちいたしました」
「いらぬ……食べる気がせんのじゃ」
「何か体に入れなければ参ってしまいますよ。……とりあえず失礼します」
なんとなく入れてもらえない雰囲気だったので無理矢理侵入する。
「何じゃ! どうやって入ったのじゃ? 鍵が掛かっていたはずじゃぞ!」
鍵? そんなものあってないようなものです。
「さぁ姫様お飲みください」
「いらぬ!」
「もう……暫く見ない間にノンナは我が儘に拍車がかかったね~」
「妾を呼び捨てにするか! メイドのくせに!」
「残念ながらここのメイドじゃないものですから」
「なんじゃと!」
ノンナが振り向いたので手に持っていたスープを文机に置き、被っていたホワイトブリムを外す。
少し小さめのホワイトブリムに押し込められていた銀色の髪が束縛から解放され左右に広がる。
「あ……あ……」
「お久しぶりです。ノンナ」
「イズミ! 何故生きているのじゃ!」
再会していきなりそれですか!? と言うか声でわかって欲しかったよ……
どうやらお城で流れていた死亡した要人とは僕の事だったみたいだ。
魔王(自称)から呪いの闇魔法を喰らったのが三ヶ月前。バジルさんの見立てではもって三ヶ月。
そしてバジルさんから貰った連絡用の水晶に話しかけても全然応答がなかったので、これはもうダメだとバジルさんとノンナが勘違いしてしまったらしい。
なんという恐ろしい偶然……と言うか僕が呪いが解除されたと言わなかったのが全部悪かったんだけどね。
「どこに行っておったのじゃ!」
「あ~……アキツ国まで少し」
「アキツ国じゃと! 何故そのような所に!」
「え~と……そうだ! 呪いの解除に行っていたんですよ。
それで養生するのに一カ月程かかってしまって戻ってきたのが丁度今日なんです」
「そのように遠くへ行くなら連絡をしてから行ってもいいじゃろう……
まったく。心配する妾の身にもなって欲しいものじゃ」
その後三ヶ月の間にあった事などを話し合った。
でもノンナが元気になってよかったよ。本当に。
「そうじゃイズミのカードを見せて欲しいのじゃ」
「どうしたの? まぁいいけど」
僕はカードを取り出しノンナに見せる。
「やっぱり……」
「どうしたの?」
「イズミお主登録が切れかかっているぞ」
え? 何だって?
どうやら一難去ってまた一難来たようだ。




