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12話 上忍試験

 月日が流れるのは早いものでこの里に来てから三ヶ月の時がたった。

 源さんの下での投擲術と鍛冶師の修行は僕に合っていたらしくあれからもどんどん腕が上がっていった。上忍試験も控えているのだ。立ち止まっている暇はない。

 阿形と吽形にも手伝って貰い更なるレベルアップを目指す。



「和泉は何で受けるの? 上忍試験」


 試験を間近に控えたある日桃華がそんなことを聞いて来た。


「そうだね~そろそろ友達の事も心配だし。外に行くため……かな」


「友達を助ける為に受けるの?」


「ん~それもあるけどやっぱり一番は僕の力がどれほどか知っておきたいんだよね」


「そっか……ねぇ今日も付き合ってよ」


「いいよ、誰かに相手してもらった方色々と気付きやすいし」


 僕が休みの日はこうして桃華と訓練をする日が多くなった。桃華も必死なのかな?


 聞くところによると上忍試験は心・技・体の三つの試験構成になっているらしいが。

 技の試験は忍術、体の試験は体術とわかりやすいのだが心の試験ってなんぞ?


 試験官でもある桜華さんに質問したのだが当日のお楽しみと言われ、うまくはぐらかされてしまった。

 まぁ心の試験なんて対策のとりようがないし。桜華さんの言う通り楽しみに待つとしましょうか。


◆◇◆◇◆◇◆◇


 そしてついに試験当日になった。今年の受験生は全部で十二人のようだ。

 今日の予定は午前に技の試験、午後に体の試験を行う。そして二つの試験の合格者のみが心の試験を受けることが出来るのだと。

 難しい事は考えないでまずは技の試験を全力でやるだけだ!


 技の試験の試験官は知らない人が担当してくれた。いや、正確には里で何回か会ったような気もしないでもない……が忘れた。記憶に無いのだから僕にとってその程度の人だったのだろう。


「それでは技の試験を開始します。試験官は私、夜叉丸が勤めさせて頂きます」


 あ~そうだ、夜叉丸さんだ。夜叉丸さん……どんな人だっけ?

 僕の思いを余所に夜叉丸さんは試験の内容を説明していく。

 技の試験は文字通り技術力を計るテストなので、自分が使えるなかで一番自信がある技を披露する。

 だが、自信がある技は自分の隠し玉となるためなかなか素直に披露する人は少ないのだとか。まぁ試験官も同じ忍びなので、そこはうまく誤魔化してくれるとかなんとか。

 なので、今回の試験は一定レベル以上の術を正確に発動すれば問題ないと影丸さんからのアドバイスだ。

 僕は隠す必要もないから、全力で撃つけどね。


「それでは順番に呼びますから、名前が呼ばれた人はこの中に入ってください」


 夜叉丸さんが指差した先には黒い穴があった。

 穴の中で試験?

 などと考えていたら名前を呼ばれた人が穴に吸い込まれた。


「毎年全力を出さずに試験に合格する人が多数居たため、今年はお頭に頼んでこの別空間を用意してもらいました。

 皆さんは成功しなくてもいいので使える術の中で最大のモノを全力で行って下さい」


 夜叉丸さんの発言は受験生ほぼ全員に動揺をもたらした。動揺していないのは初めから全力投球する気の僕と当然っと言った感じの表情をしている桃華だけだった。桃華も全力投球する気だったのかな?


 次々と穴に入っては落ち込んで出てくる受験生たち。そんなにあれなのかな……

 残りは僕と桃華となり、先に桃華の名前が呼ばれた。


「行ってくるわね」


「頑張ってね」


「ええ」


 桃華は緊張した顔で穴に入っていった。


 大丈夫かな~うまくやれるかな~

 桃華の無事を祈りながら待っていると神崎さんが話しかけてきた。


「和泉様は緊張して無いですね」


(そんなこと無いよ。もうガチガチ)


「それならポイントを使って何かレベルを上げてみてはいかがです?」


(いや……それはやらない方がいいかもね)


「何故です?」


(一番レベルの高い技を要求してくるってことは、試験官は僕たちの扱える技を知っている可能性が高いと思うんだ)


「なるほど~」


(……だからここで急に上級忍術を増やすのは危険だと思う)


「そうですね~」


(……ねぇ。何も考えて無いでしょ)


「最後は和泉さん。どうぞ」


「はい!」

(とりあえず神崎さんは後でお仕置だから)


「何でですか~!」


 名前を呼ばれたので、神崎さんを無視して穴を目指して歩く。桃華の姿が見えないけど終わったのかな?


 穴の目の前に立ち覗き込むとそのまま穴に引っ張られた。

 穴の中は思いの外広く、そして明るかった。


「それでは和泉さん。あなたの最高の一撃を見せて下さい」


「あの……的は?」


「私です」


「……いいんですか?」


「構いません。夜叉丸の姿をしていますがこの空間で作られた闇傀儡ですので」


「あ、そうですか。では……」


 僕は印を結びながらチャクラを高めていく。

 使うのは二回目……吽形の防御幕をあと一歩まで追い込んだ術。


「いきます!

 雷遁 雷神槍・建御雷神!!」


「ほう。雷遁の最上級しかも神名の術ですか……」


 僕の右手に現れた雷は猛々しい姿をそのままに槍の形をとる。その槍を夜叉丸目掛けて……投げつける!

 僕の手を離れた槍は光の速さで夜叉丸の胸を貫く。静寂は一瞬。直後耳をつんざく轟音と視界を全て白く塗り潰す閃光が辺りを支配する。


「……やり過ぎた?」


 再び訪れた静寂を破ったのは一人の拍手。


「お見事です」


 無傷の夜叉丸が拍手をしながら近付いて来た。


「おめでとうございます。和泉さんは合格です。 午後の試験も頑張って下さい」


「あ、ありがとうございます」


 無傷で言われると何かへこむわ~


◇◆◇◆◇◆◇◆


 里に戻ると桃華の姿もあった。どうやら入れ違いになっていたようだ。

 桃華も無事合格をもらえたと喜んでいた。


 午後の試験は昼食を摂ってからと言われたので家で簡単な食事の準備だ。

 桜華さんが忙しいため僕が作ることにする。

 桃華も手伝おうとしたけど腹痛で試験が受けれなくなるのは嫌なので丁重に御断りさせてもらった。

 おにぎりと味噌汁。それに漬物で簡単に食事にする。


「私だって手伝えるもん」


「そうだね。次は桃華のご飯も食べさせてね」


 何も無い日で桜華さんから料理を習った後でね。


◆◇◆◇◆◇◆◇


 午後の試験は体術の試験だ。試験官は影丸さんが引き受けたようで、今目の前に立って簡単にルールの説明をしている。

 今回は受験生同士が試合をし二回負けた人から抜けていくルールのようだ。

 当然ながら忍術は禁止。残りの体術、剣術、投擲術などで戦わないといけない。

 僕は源さんに刀を預けてしまったので、飛苦無で行けるところまで行こうと思う。

 しかし開始直前に桜華さんから一振りの刀を手渡された。何やら持っていた方がいいとのこと。

 でも練習は続けていたとは言っても投擲術に比べれば自信がないんだけどなぁ。

 

 さっそく一回戦の相手が発表された。相手は剣術を主に使ってくるタイプのようだ。

 頻りに挑発を繰り返してきたので、刀を持った手に一発。利き手側の肩に一発。そして最後に負けを宣言しようとした所に一発。計三発の飛苦無を撃ち込んでやった。

 さすがに最後のは影丸さんに怒られたけど。

 そんな調子で勝ち進み、結局最後まで残ったのは僕と桃華だった。


「さて、決勝だけど」


「手加減したら本気で殺すわよ」


「女の子が“殺す”とかよくないよ」


「そうね。ボコボコにするわ」


「うん。もういいや」


 結果から言えば決勝戦は桃華の勝利で終わった。

 最初は僕が投擲を駆使し桃華を一定の距離から近づけさせなかったが、途中で怪我を恐れず距離を詰めた桃華に応戦する形になり。桜華さんから借りた刀を抜く破目になってしまった。桜華さんはコレを見越していたのだろうか?

 それから攻守が逆転してしまい僕が防戦一方になり。自力の差で負けてしまった。

 途中から近接戦闘を捨てていたのでしょうがないと言えばしょうがないが、ちょっと悔しい。


 結果が発表されるまではその場で待機を言いつけられた。

 どれくらい待っただろうか。お頭と影丸さん。それに午前の試験官だった夜叉丸さんがみんなの前に姿を現した。


「これより今回の上忍試験の結果を伝える」


「あの? まだ心の試験が残っていますが?」


「ああ、その試験は上忍に上がる事が決定した者が受ける試験なのだ。

 なので、この場で発表される者が今回の試験の合格者だ」


 そうなの? じゃ最初から忍術の試験と体術の試験にすればいいのに。


「もちろんこの後の心の試験の結果が悪ければ上忍にはなれず“仮”と言う扱いになる」


「“仮”ですか?」


「そうだ。来年の試験は心の試験だけでいい。

 しかし、来年も心の試験で落ちればもう一度技の試験から受け直してもらう」


「よし。まだ質問はあると思うが時間がない。これより合格者の発表に移るぞ。今回の合格者は三名だ」


 受験者十二人に緊張が走る。もちろん僕も緊張してきた。


「まず……桃華! 合格だ」


「あ、ありがとうございます!」


 まずは桃華が合格か~よかったよかった。

 次に呼ばれたのは体の試験の時桃華と準決勝で戦った男の子だ。名前なんだっけ?

 彼は技の試験も体の試験も優秀な成績を修めたので合格なのだと。


「次が最後だ。最期の合格者は……和泉だ!」


 え? 僕? 名前呼ばれたのか!


「和泉は技の試験で最上級の雷遁を成功させ、体の試験では決勝で惜しくも敗れるがその実力は確かなものだ。よって合格とする!」


 良かった~ここで落ちてたらもう一年この里に居る事になったよ。

 まぁそれはそれで楽しそうだけど。あいつら怒りそうだもんな~


「それではこれより合格者三名の心の試験を始める!」


 考え事をしていたら桜華さんの号令がかかる。てかこのまま直ぐに試験なのね。


「三名はこちらへ」


 桜華さんに呼ばれ三人は近くに集まった。なんだかいい匂いがする。

 ん? なんだか足元がふらつくような……あ、ダメだ立ってられない。

 僕の意識はそこで途絶えた。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 気が付くと僕は白いY字の道路の岐路に立っていた。

 はて? ここはどこじゃろか?


(起きましたか?)


 その時頭に声が響く。今まで聞いたことが無い声、でもどことなく桜華さんに似てるかな?


(それではこれより心の試験を始めます)


 まだ返事はしていないのに勝手に進むようだ。


(これよりあなたに一つの質問をします。あなたの進む道を教えて下さい)


 あ~なるほどね、それでY字なんだ。

 それで? 質問は?


(焦らないで。では質問です。

 あなたは今忍びの任務中です。しかし家族から救援を求める手紙が届きました。

 右の道を行けば家族が助かりますが、任務は失敗。抜忍扱いで里全員から命を狙われます。

 左の道を行けば任務に成功し里での地位は約束されますが、家族は残らず死にます。

 あなたならどの道を進みますか?)


 これはいわゆる究極の選択なるものかな?

 さて、任務をとるか家族をとるか……か。

 たぶん正解は任務なんだろう。忍びたるもの何が何でも任務をこなせという事だろうけど。

 僕は家族を見捨てる事は出来ない……


(さて、もういいですか?)


 そんな意地悪言わないで、もう少し待って頂戴よ。


(ダメです。さぁ答えを聞きましょう。あなたが選ぶのはどの道ですか?)


 僕は……僕は……真ん中の道を行きます。


(真ん中? 真ん中には道がないですよ?)


 どっちを選んでも後悔するならまだ先が決まっていない道を選びます。と言うか作ります。

 そうすればどこかで両方叶う道につながっているかもしれませんし。


(二兎追うものは一兎も得ずと言われていますよ?)


 僕は欲張りなんですよ。絶対にどっちの兎を捕まえてみせますよ。嫁だって六人手に入れた男ですよ?

 それに誰かに作られた道を選んで後悔するなんて絶対に嫌です。


(あなたは面白い人ですね。……でもあの娘達が想いを寄せるのもわかる気がします)


 あの娘達? 誰の事だろ?


(さて、普通ならあなたを落とさなければいけませんが。

 あなたに対してとても興味がわきました。なのでしばらく見守る事にします。

 あなたが二羽の兎を手に入れる事を期待して待っていますよ)


 その言葉と共に僕の意識はまた白い渦の中に落ちていく。


(桜華と桃華をよろしくね。和泉さん)


◆◇◆◇◆◇◆◇


 目が覚めると手に一枚の紙を握っている事に気が付いた。


「これは?」


「その紙は心の試験を突破したものだけが渡される紙よ。中に文字が書かれていると思うから読んでみて」


 声の方を向くと意外と近くに桜華さんが居てくれた。

 僕は握っていた紙を開き、中に書かれているものを見る。

 紙の中心にはたった一文字の漢字が書かれていた。


「霞?」


「それがお前の上忍としての呼び名だ。これからは“霞”の名で活動することになるだろうな」


 いつの間にか影丸さんも横に居て紙を覗き込んでいた。本当に覗くのが好きな人ですね。


「じゃ僕は……」


「ええ、合格よ。おめでとう和泉!」


 桜華さんの言葉を聞いた瞬間嬉しさが爆発した。

 思わず手に持っていた紙を握りしめてしまうと紙はその場で光る粒へと変わってしまった。


「このチャクラは……母上?」


「え?」


「……なんでもないわ。それより他の受験生も起きそうよ」


 僕は桜華さんのつぶやいた声がどうしても忘れられなかった。あの試験の最期の言葉。

『桜華と桃華をよろしくね』ってやっぱりそう言う事なのかな?


 その後二人の受験生も目を覚ましたが紙は握っていなかった。今回のこの試験での合格者は僕一人という事になる。何か部外者が独り勝ちしてしまって申し訳ない気がする。

 こうして今年の上忍試験は終了した。



 その夜は宴会だった。悔しがる桃華を慰め、盛り上がる影丸さんと桜華さんを宥め。

 飲み過ぎてベロンベロンに酔っぱらった源さんをせがれさんと一緒に介抱したりと多分この里に来て一番騒いだんではないかと思える程だった。


 そしてみんなが寝静まった時神崎さんから珍しく話しかけてきた。


「合格おめでとうございます」


「どうも。でもどうしたの神崎さんから声をかけてくるなんて」


「火急的速やかにお耳に入れておきたい事がありまして」


「何?」


「ルーズガスのノンナ様が大変です。至急戻った方がいいかと思いますよ」


 酔っ払っていた頭が急に覚めていく。ノンナが大変だって!?

これにて忍者の話しは終わりです。

2~3話挟んで次のJobの話しに行こうかな?

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