プロローグ
暗く静まり返った教会に一人の少女が祈りを捧げる。
「もしこの世界に神が居るのなら……妾の願いを聞いてくださるのなら……
どうか助けを……その御力をどうか妾に……」
少女の声は悲痛の中にどこか諦めも含まれている、そんな声だった。
「ダメか……まぁ妾も信仰が篤い方じゃないしの……やはり無駄じゃったか」
少女は肩落としゆっくりと立ち上がる。そのまま入口へ歩こうとした時だった。
教会の中を光が埋め尽くした。
「何じゃ! 何が起こったんじゃ!?」
――若き王女よ……そなたの願い確かに聞き入れました……――
「誰じゃ? 妾に話しかけるのは誰なんじゃ!」
――今より五日後……満月の夜に召喚の儀を行いなさい……――
「五日後……」
――遠方より来たりし三人がこの世界を救うでしょう……――
「三人とな! その三人の特徴は!?」
――雪原の様な色をした髪を持つ女形……――
そこまでで光は消え教会には少女一人が残された。
「これが吉と出るか凶とでるか……いや、妾達に選択の余地はないのじゃったな。
誰かある! これより召喚の儀の準備を進める!」
教会から飛び出した少女は周囲に声をかけ急ぎ準備を進める。
少女に、少女の国にもたらされた最後の希望と信じて。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「初めて見たときから素敵な人だと思っていました。俺と付き合って下さい!」
夏休みも終わり暦の上では秋なのだが未だ残暑厳しい季節、通っている大学の正門前で目の前に立つ男性が勢いよく頭を下げ右手を出してきた。
背も高くイケメンで、風の噂では家柄もいいとかなんとか……
普通の女性ならこの告白を断る理由はないのだけど……
「ごめんなさい。あなたとはお付合いできません」
「どうしてですか! 俺の何が不満だって言うんですか?」
断られると思っていなかったのだろう。告白してきた男性は盛大に狼狽え始めた。
こうなってくると折角のイケメンも台無しだ。
「男性と付き合う気はないんです。ごめんなさいね」
「そんな……」
告白してきた男性はそのまま項垂れてしまった。
何かそこまで落ち込まれると逆にこっちが申し訳けない気持ちになってくる。
「お~い! 和泉~!」
なんて声をかけようか迷っていると校舎からこちらに歩いて来た女の子に逆に声をかけられた
「あれ? 今日の講義は終わったの?」
「ええ、今日はもう終わりよ。和泉も?」
「うん、じゃ帰ろうか?」
そのまま帰ろうとしたけど、言い忘れていた事があったのでイケメン君に一言言ってから帰ろう。
「惨敗をきしたイケメン君に一言」
「なんだよ……」
「追い打ちをかけるようで心苦しいんだけどさ。僕男なんだ」
イケメンの顔がこれでもかって程青くなっていく。まぁそうだよね男に一目惚れして、あまつさえフラれるんだから、僕なら自殺ものだね。
これ以上ないって程落ち込んでいるからそのまま帰ることにする。
「男なら……男なら……スカートを穿くな!!」
聞こえな~い負け犬の遠吠えなんて聞こえな~い。
だって、しばらくズボンを穿いていなかったら布が足にくっついて気持ち悪いんだもん。
だから仕方ない。うん仕方ない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
そう言えば自己紹介がまだだったね。
僕の名前は宇江原 和泉(うえはら いずみ)。普通の大学生……だった。
今年の夏休み、金額の大きさに魅かれてあるアルバイトに応募したのだが、蓋を開けてみれば内容は何と異世界での冒険者をやってくれと言うもの。
何の説明もなく異世界へ飛ばされ、日本に戻して欲しかったらその世界の最高ランクの冒険者になれとの無茶振り。何とか友人と力を合わせて最高ランクに上り詰め無事日本に戻ってきたのがつい一カ月前くらいの事だ。
向こうの世界では一年とちょっと生活していたのだが、担当者と名乗る男の人から貰ったチート的な能力が無かったら一生向こうの世界で冒険者をしていたと思う。
そして、このアルバイトが僕の人生に大きな変化をもたらした。
まず一つ目の変化が容姿が変わってしまった事だ。僕は元々デb……いやちょっとポッチャリ系の何処にでもいる男だった。ちなみに二十歳の年齢=彼女いない歴でDT。
それが、異世界へ転送される時ゲームだと思って行ったキャラメイクした姿に変えられてしまった。
身長一四〇cmで銀髪の腰まであるストレート。何処に出しても自慢できる美少女姿に変えられたからさぁ大変。最初は男だと主張していたけど、誰にも信じてもらえない始末。
最後の方は服も女物、ワンピースとか何の疑問も持たずに着れるようになっていたから末期なんだろう。
こっちの世界に戻してもらう時に元に戻してもらう約束だったけど、結局戻ったのは髪の色と身長が少しだけ。まぁそんなんだらかさっきのイケメン君も勘違いしちゃったと思うけど中身は男なので諦めて欲しい。僕にそっちの気はない。
そして二つ目の変化が今も僕の隣で歩いている女の子。
彼女は宇江原 スクラナ。実は僕のお嫁さんの一人だ。
何がどうなったのか転送された異世界では僕はモテまくり、なんと最終的にお嫁さんを六人も貰う事になった。
たぶん僕の抑えきれない男性としての魅力が彼女達を落としたのではなかろうか……
ないな。うん。ない。
まぁまだ変化したことはあるのだが、この二つが劇的に変わった部分かな?
「それにしても、我大学の撃墜王は伊達じゃないね!」
「何それ……僕知らないんだけど……」
「え? 知らないの? 有名だよ。〇☓大学には難攻不落の美女がいるって」
「それってもしかしてまさかとは思うけど……僕の事?」
「正~解~。ねぇ後期が始まってまだ一月位だけど、何人振ったか覚えてる?」
「え~と……さっきのを入れれば十五人……かな?」
「大体三十日で十五人よ? 約二日に一回は男を振っている計算よ」
「それがね~言いにくいんだけど……七:三位の割合で女の子もいるんだよ」
「何ですって! どういう事よ!」
「僕は男をずっと振っているから、そっち系だと思った女の子が……ね?」
「しまった……女子は完全にノーマークだったわ……もしかして和泉付き合おうとか……」
「冗談! もう奥さんが六人だよ!? これ以上は体がもたないよ!」
「あ~エイル姉さんとかウィルディ姉さんとか凄そうだものね」
「ね? だからこれ以上増やす気もないよ」
ちなみに先ほどのエイルとウィルディも僕の奥さんだ。二人は大学に通えない(ダブったと思われるのがプライド的にダメらしい)と言い張り、エイルは医学系の専門学校へ通いウィルディは僕のマンションの一階にある飲食店に店員として働いてる。
働くのはわかるけど、専門学校もどうなんよ……と思わなくもないが、一度社会に出てから専門学校に通う人もいるので本人は気にしてないらしい。
暫くスクラナと雑談して歩くと僕たちの住んでいるマンションにたどり着く。
このマンション。僕たちが異世界に行って活躍したからって事で丸々貰ってしまったものなのだ。
なので、家賃から始まって水道光熱費もタダ! 一年しかやっていないのにここまでしてもらうと逆に申し訳なく思えてくる。そんな僕はやっぱり小市民なのだろうか?
スクラナと一緒にエレベーターで最上階の五階へ行く。部屋に入ると残り三人の奥さんが出迎えてくれた。
「「ただいま~」」
「お帰りなさいっス!」
「今日は早かったのね」
「あら、スクラナと一緒だったのね」
順にシルノフ、ルノン、ヴェルディアと言う名前だ。
シルノフとルノンは高校生。ヴェルディアは大学には行かず専業主婦をしてくれている。
ちなみに、ウィルディとヴェルディア、スクラナは三姉妹だ。
色々とあったけど今はこの六人と一緒に楽しく暮らしている。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
大学前でイケメン君を振った三日後。大学帰りにポストを確認すると僕宛てに一通の手紙が投函された。その手紙は見た目からしてとても怪しい雰囲気を漂わせている。
なんだか捨てる気になれず部屋に持ち帰ると僕への来客が二人リビングに通されていた。
「よう、いずんちゅ。お邪魔してるぞ」
彼は新山 陽向(にいやま ひなた)。一緒に異世界へ飛ばされた友達の一人だ。
何かとリーダーシップを発揮してくれて一緒にいると楽なのだが。
「オカマ野郎の意見も聞きたい事態が起きた。さっさと座れ」
何かと口が悪い。それさえなければいい奴なんだけど……
「悪いね和泉さん。ちょっと相談したいことがあるんだ」
陽向よりは腰が低い感じで話しかけて来た男は武田 涼(たけだ りょう)。
彼も一緒に異世界へ飛ばされたメンバーで高校からの付合いだ。ちなみに既婚者で相手は僕と一緒で異世界人だ。
二人とも同じマンションの五〇一号室と五〇三号室に住んでいる。
「もしかしてこの手紙?」
「やっぱりいずんちゅにも届いたか」
「怪しいよね真っ赤な手紙とか」
そうポストに入れられたいた手紙の封筒が真っ赤だったのだ。これじゃ……
「召集令状みたいね」
僕の後ろから手紙を覗き見たルノンが呟く。てか異世界人なのによく赤紙を知ってたね!
「どうする?」
「どうするったって……」
「無視して捨てるか、読むか」
「何かロクな事がにならない気がする」
「それは俺もそう思うが……いずんちゅ開けてみろ」
「ヤダよ! 武さんは?」
「オレか? ひなぞーが開ければ開けてもいいぞ」
三人でたらい回しだ。互いに目で牽制し合う。
「あなた達は仲が良いんだか悪いんだか……」
夕飯の準備をしているヴェルディアが呆れ気味に言う。
そうは言うけどね~この手紙ヤバイ気がするのよ。
「よし、埒が明かないからイッセーので全員同時に開けるぞ」
「それしかないか……」
「それじゃ行くよ……いっせーの~……」
「「「せ!」」」
掛け声と同時に手紙の封を切る。
開けた瞬間何かあると思っていたが、特に何も起こらなかった。
「いずんちゅ大丈夫か?」
「開けても問題なさそうだな」
「ちょと!? 僕だけ開けたの!?」
「まぁなんだ。気にするな」
僕の無事を確認してから二人が封筒を開け中身を取り出す。中身は手紙が一枚入っているだけだった。
「何々……
~拝啓~
~急なお手紙申し訳ありません。事態は急を要するものであいさつは省かせてもらいます~
~皆様をレビストフを救った勇者様と見込んでお頼みしたいことがございます~
~どうか我世界、ディスカヴァナンも救っていただきたいのです~
~報酬は出来る限りのものを用意させていただきます~
だってさ」
レビストフと言うのは前回飛ばされた異世界の村の名前だ。確か僕たちがこっちに戻った後は街まで発展したとか何とか。別に救った気はないんだけどね。
「出来る限りの報酬ってなんだろうね」
「嫁さんとかか」
「「いや、もう嫁は間に合っています」」
「例えばだ、例えば」
「あとはお金とかかな?」
「でも前回の報酬がたんまり残っているぜ?」
前回のアルバイトの報酬としてで僕たちの通帳には数年遊んで暮らせるだけの額が入っている。
今更お金を上げますと言われてもちょっとね~
「後は……そんなに思いつかないな」
「それにしても、これ何か中途半端な所で文章止まっているよね」
「書き掛けだったのか?」
「いや~どうだろ? “拝啓”とか書いてくる相手だよ? そんな凡ミスしないでしょ」
「あれ? 僕の封筒にもう一枚入ってる……
~もし、引き受けて頂けるようならこちらへ指を置いてください~
~無理な事を言っているとは重々承知しておりますが、なにとぞ助けて下さい~
~敬具~
だって。こちらってこれのことかな?」
二枚目には文章と共に魔法陣らしき図形が描かれている。素人目ではちょっとわからないが何やら本格的なものだった。
とりあえず二枚目の手紙をテーブルの中央に置く。
「どうする?」
「一見しっかりしてるような手紙だけど……」
「相手の名前が書いてないな」
「怪しさ大爆発だね」
「でもさ、指を置いただけじゃどうって事ないよね」
ものは試しに魔法陣に指を置いてみる。ちょっとドキドキしたけど、何も起こらない。
悪戯だったのかな?
「おい、和泉さんやめといた方がいいぞ。何が起こるかわからないし」
「武さんはビビりすぎじゃね?」
「だってこの前みたいな事もあるしさ」
「それもそうか……あれ?」
武さんの言っていることは一理ある。指を離そうと力を入れるが何故か魔法陣から指が離れず手紙も一緒に持ち上がってしまう。
これは……やっちゃったか?
「指が離れない……」
「おいおいマジか!」
「いずんちゅここでおふざけとかなしだぜ」
「いや、マジでこれ離れないんだけど!」
僕が相当焦った声を出すと見かねた陽向と武さんが手を伸ばしてくる。
三人であれやこれやとやっていると陽向と武さんの指も魔法陣に触ってしまた。
~三人名の接触を確認……これより転送を開始します~
頭に直接響くような声が聞こえる。
「何か言った?」
「いや、でも何か聞こえたな」
「ヤバくね?」
武さんが言った直後。指に静電気みたいな痛みが走ったと思ったら足元に指を置いた魔法陣そっくりの図形が浮かび上がる。
そして僕たちはその魔法陣の光の中へ落とされていく。
二回目の冒険が幕を開けた。
という事で前回の続きっと言った感じで書きはじめました。
主人公が同じと言うだけで、前回の話しはほとんど引き継いでない……と思います。
こんな物語でも最後までお付合いください。