第四話
「何でぇぇぇぇぇぇえええええ!?」
掲示板に張り出された紙を見て、私は思わず叫んだ。同じく私の周りでは、大声を上げてある者は悲しみ、ある者は喜んでいる。
体育館前に溢れる人々が見たのは、クラス割りだ。
1年2組19番 月夜風亜
2組の所には、男女入り混じって名前の順で私と同じクラスになった人々の名前が連ねてある。しかし、それのどこを見渡しても杏や理恵の名前はなかった。
「風ちゃ~ん!一緒が良かったよ~~・・・」
そう言って杏が私に抱きつく。その後ろで、溜息をついて理恵が私の頭を撫でた。
二人共3組で同じクラス。外れてしまったのは、私だけ。
「杏、我慢しよう・・・。風亜、休み時間にいくらでも遊びに来ていいからね。勿論、放課後は一緒に帰ろ」
その言葉に勇気づけられ、頷く。少し不安に感じながらもう一度クラス割を見ると
1年2組18番 貴宮羅雅
やはりどこか懐かしさを覚える名前。不思議な感覚に首をかしげ、私たちは三人一緒にそれぞれのクラスへと向かった。
やはり、クラスの中では中学校が同じ人達がいたのだろう。既に何人かが集まり、楽しそうに談笑していた。
「入りにくいなぁ・・・」
私のように仲の良い人がいなかったのか、孤立してしまっている人もちらほらと居る。とりあえず、そういう人達の中で気の合う人達と打ち解けていければ1年間過ごせるだろう。それでも、杏と理恵ほど仲良くなれる気はしない。
明るく輝いていたはずの未来は、今は憂鬱の種だ。
「大丈夫ですか?」
躊躇いながら、出入り口で立ち止まっていると、不意に後ろから話しかけられる。
びっくりして振り向くと、すぐ目の前に美しい顔が。
「ぁ、えっと・・・貴宮羅、さん?」
名前を呼ばれると、彼は本当に嬉しそうに微笑んだ。少し古風な感じの優雅な雰囲気は、雅という名前にぴったりだ。
「風亜さん・・・だよね?また、不安そうな顔をしていたから」
そういえば、体育館でも彼は私に話しかけてくれた。確か、その時も孤立してしまって私は不安がっていた。彼は私が不安を感じていた時、いつも声をかけてくれている。
「・・・ありがとう」
初めて会ったはずなのに、初対面の人とは思えない。それに何よりも、私を心配してくれたことがとても嬉しかった。
お礼を言うと、彼も嬉しそうに笑う。とても機嫌が良さそうで、今にも鼻歌を歌いだしそうだ。
「俺、風亜の前の席だから。・・・改めてよろしく♪」
「うん!よろしくね」
なんだか今いきなり呼び捨てされたような・・・?
すっかり嬉しくなって、私は黒板で席を確認してから座った。すると、すぐ隣で喋っていた女子三人組が声をかけてくる。
「おはよー!一緒のクラスだね。よろしく!」
「よろしくね♪貴宮羅くんと話してたよね?もしかして、知り合い!?」
「入学早々彼氏彼女とか!?」
「気になるんだけど!!」
朝からテンションが高い。しかし、塞いでいた気持ちも彼女達の明るさで復活。なんだかこのクラスで上手くやっていけそうな気がする!
「彼氏じゃないよ。さっき、初めて会ったの。でも、体調とか心配して話しかけてくれてすごく優しかったよ」
「え~っ!本当?どうしよっ!あのビジュアルで、それでいて優しいって」
「あたし、彼女立候補しちゃおっかな?」
「ウチも!」
やはり、あれだけ目を引く美しさを持っているだけあって、貴宮羅さんは人気が高いようだ。今も席について無表情のまま一心に何やら難しげな本を読んでいる彼には、男女構わず熱い視線が向けられている。
その姿は私とは遠い世界の住人みたいで、さっきまで笑顔を向けてくれていたのが嘘のようだ。
「月夜さんは、風亜ちゃんって呼んで良い?」
「うん。好きに呼んで」
「じゃ、あたしは風亜で」
「風亜ね。ウチは、渡辺薫」
「かおるん♪って呼ぶんだお~」
「やめろ!桜!」
「かおるん可愛~っ♪顔真っ赤!・・・あっ、桜は石橋桜ってゆ~の」
「もうっ!薫をからかうのやめなさい!私は川俣舞依。好きに呼んでいいよ。風亜ちゃん」
少し大人っぽい落ち着いた雰囲気の子が渡辺薫ちゃん。その隣で薫ちゃんをからかっているのが石橋桜ちゃん。桜ちゃんを諌めている姉御肌の子が川俣舞依ちゃんだ。
聞くと、三人とも別の中学だったらしい。でも、桜ちゃんは特に人見知りをしないようで彼女を筆頭に意気投合したらしい。
私の隣の席は舞依ちゃんの席だったようだ。
私、忘れ物多いから、もし忘れちゃったらごめんね。と、ちらっと舌を出して彼女は笑った。不安が払拭されて明るく笑う私を、貴宮羅くんは横目で見て優しく微笑んでくれた。
帰りには、杏と理恵に報告しなければ。
私、このクラスでもちゃんとやっていけそうだよ。ってね。