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歳月  作者: 黒蝶 羅々
現代
4/9

第三話

 入学式。

大きな体育館に大きなシートが敷かれ、その上に綺麗に椅子が並べられている。順番は、ステージから見て左側に1~100番までが。右側には101~200番が座る。縦横共に10人ずつなので、私と理恵の席は近い。


「え~っと、前から三列目の左から二番目」


「私は前から六列目の左から五番目」


「あたしは五列目の二番目、か・・・・」


「う~・・・やっぱり二人共近い!」


 杏が羨ましそうに私達を見ている。理恵もちょっと残念そうに笑った。


「名前の順だし、こればっかりはしょうがないよ」


「少し遠いけど、始まるまでおしゃべりぐらい出来るから!」


 私達の慰めの言葉に、杏も渋々頷く。そして、私達はそれぞれの席に着いた。

前後と横では三つ分しかずれていないが、案外遠く感じる。しょうがないので、理恵の後ろの席に人が来るまでそこで座る。こうすると、杏も比較的近い。


「風ちゃん♪」


 私の方へ振り返った理恵の背後から、杏がひらひらと手を振る。私もそれに答えて、にこりと微笑んだ。











「あ、人来たみたいだね」


「そろそろ時間みたいだし、私戻るね」


 入学式開始まであと十分という所になって、私が勝手に借りていた席の主らしき人がやって来た。杏にも視線と手振りで合図し、元の席に座る。見事に周りには知っている人がいないので孤立してしまう。理恵を横目に見ると、杏と楽しそうにおしゃべりしていた。

私は一人でいるのも割と平気な方だが、いつも三人でいたのでちょっと寂しく感じてしまう。でも入学式の間だけだし、クラスが別になればいつもこうなるのだからと無理に自分を納得させた。


 それでも、やっぱり不安になる。十分というのは長いもので、まだ入学式開始予定時刻まで七分もあった。


「はぁ・・・・」


 ちょっと憂鬱になり、溜息をこぼす。そこで、やっと周囲のざわめきを感じることができた。

さっきまでちょっと子供っぽく騒いでいた男子が黙る。出身校が同じもの同士集まっておしゃべりしていた女子は、頬を赤らめて囁きあった。


 彼ら彼女らの視線は、全て一人の少年に向けられていた。

彼が目を引くのは不思議なオーラを持っているからだけではない。その顔は、眉目秀麗という言葉がぴったり当てはまるかのように整っていた。さらさらとした少し長めの柔らかそうな黒髪が、動くたびに揺れる。ほっそりとした体つきに優雅な動き。その姿は、老若男女誰彼問わず魅了してしまいそうだ。


 彼は、まるで初めから自分の席が分かっているかのような足取りで真っ直ぐに進んでくる。体育館の入口から近い方。左側から、私と同じ列にやって来る。


 既に座っていた人達に断りを入れて前を通っていく。声をかけられた人達は皆、顔を赤らめてモデルか何かだろうかと噂していた別の人との会話に戻っていった。

彼が私の所にやってきた時、澄んだ瞳を私の顔に向けて整った眉を少しだけ寄せた。


「・・・顔色が悪いですよ。大丈夫ですか?」


 小さめで柔らかな、少しだけ低い声が耳を打つ。一秒遅れて、やっと彼が私を心配してくれたことに気がついた。


「あっ、だ、大丈夫・・・・で、す。ありがとう・・・」


 その場の雰囲気と彼の美しさに呑まれ、おかしな返事をしてしまう。何をやっているんだ自分っと、思わず自分でツッコミを入れていると、彼は優しげな微笑みを浮かべた。 


「・・・そうですか。良かった」


 思わず視線をずらし、焦ったまま私は彼が通れるように足をどける。


「ありがとう」


 彼は更に笑みを浮かべ、礼を言うと私の三つ隣。理恵の斜め後ろに座った。

中学校の時も何度か男の子と付き合った事が有り、男慣れしているはずの理恵でさえ彼を見て顔を真っ赤にしている。照れたように視線を杏に戻して、会話を再開したようだ。


「綺麗な人だなぁ・・・」


 カッコイイよりも綺麗という言葉が似合いそうな彼の顔を見つめていると、私の視線に気づいたのかこちらを向いて優しく笑いかけた。

私の顔がリンゴのように赤くなったのは、勿論言うまでもないだろう。そうこうして、入学式は開始されたのである。








「栗坂杏」


「はい」


 杏が名前を呼ばれ、立ち上がる。ふわふわの髪が柔らかく靡くが、本人は緊張しているのか少し動きが硬い。しばらくすると、理恵の名前が呼ばれる。


「斎藤理恵」


「はいっ」


 自信満々に、理恵が立ち上がる。彼女が立ち上がるとスラリとしたモデル体型が目を引き、男子達の目の色が少しだけ変わった。しかし、横目に見ると先程の彼は全く関心を示していないようだった。


貴宮羅雅(たかくらみやび)


「はい」


 名前を呼ばれ、堂々と彼は立ち上がる。どことなく“雅”という名前に懐かしさを感じつつ、名前を呼ばれて私は返事をして立ち上がった。

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