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歳月  作者: 黒蝶 羅々
現代
3/9

第二話

 無事駅に辿り着き、風亜達が満員電車に乗っている頃。

朝早く、まだ人影のない高校に三つの異形がいた。


 その中の二つは、よく似た姿をした子狸達。色違いの袴に白い着物を纏い、二本足で立ったまま可愛らしいどんぐり眼をキョロキョロさせている。

そんな小さな彼らの間に立つのは、この学校の制服の上に軽く着物を羽織った青年。しかし、頭の上には微かに灰色がかった黒い狼の耳がピンと立っている。少しだけ黒みがかった白く美しい長髪が、風に吹かれてサラサラと宙に舞った。


「雅様。ここが、婀子夜殿が通われる学び舎なのですね?」


「婀子夜殿~」


 子狸の中で真面目そうな顔つきの方が、狼の耳を持つ青年に尋ねる。その言葉に呼応するように、もう片方の子狸がのんびりと言った。

彼らの言葉に雅と呼ばれた青年は頷き、冷たい無表情だった顔を少しだけ笑みに変え、手に持っていた扇をその表情を隠すかのように広げた。


「嗚呼、もうすぐだ」


「我らは直接会うことはできませぬが、一目でもお見かけしたいと思い付いてきてしまいました」


紅色(べにじき)は~、婀子夜様の着物を~、日干ししてたね~」


 家に残ったままの紅色の行動に、雅は苦笑して纏っていた着物を脱ぎ捨てた。宙に舞った着物は、風に布をはためかせながら影も形も無くなってしまう。


「あれからもう八百年・・・・俺も、早く会いたいよ」









 目的の駅に着き、人混みにまみれながらも何とか学校へ向かう道に到着。


「すごい人ごみだったね」


「杏、小学生と間違われて驚いた顔されてたよね~」


「もうっ!そんなことないよ!!ちゃんと高校の制服着てるんだもん」


「でも、向こうの男子が少し驚いた顔してるよ?」


「嘘っ!うそだぁ~」


 理恵のからかいに私も乗ったせいか、杏は半分涙目だ。その様子を見て謝罪しながらも、私達は楽しく笑う。それを見て、杏もくすりと笑った。


「もうっ!ひどいよ二人共~」


 受験の際に一度来たので、駅から学校までの道のりは覚えている。(他の生徒もいるので迷いそうもないのだが)私達が通う高校は、駅から徒歩十五分ほどの少し小高い丘の上に立っている。


 しばらく歩くと大きめの作りの高校が見えてきた。

一学年二百人。先生達も合わせて六百五十人程が入るには少し大きく感じる建物。改装をしてからまだあまり日にちが経っていないので、真新しく感じる校舎。


 そこに入っていく生徒達の制服は男子は学ラン、女子はジャケットの下にカーティガンやベストを好みで着用していてリボン・タイも自由に選んである。そのため、男子は統一的だが女子は色々なパターンの着方をしていて見ていて面白い。


 ちなみに、私はカーティガンとタイを付けている。中学の時はリボン必須だったので、タイに少し憧れていたのが理由だ。

杏は私と同じカーティガンに、リボン。一部ツインになっている髪型も合わさってとても可愛い。理恵はベストにタイ。背が高めのモデル体型なので、少しボーイッシュなタイがよく似合っている。ジャケットは必須なので三人ともきちんと着用していた。


 今日の予定は、入学式とクラスの顔合わせのみ。午前だけで、午後には帰宅できる。

この交差点を抜けたら学校に着くというところで、杏が口を開いた。


「そう言えば、二人は何番だった?入学式の席」


 入学式はクラス発表の前に行うので、名前の順に番号ごとに並ぶ。


「あたしは52。杏は?」


「32番。風ちゃんは?」


「65。皆結構バラバラだね。でも、並び方によっては理恵と私は縦に並べるかも」


「二人共ずるい!わたしも近くがいいのに!」


「「それは自分の名前を恨みなさい!」」


 理恵と私の声が重なり、思わず吹き出す。さっきまで不安そうな顔をしていた杏も笑い出す。

入学式の会場は、もうすぐそこだ。

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