寒空の下で
「婀子夜」
彼女は、雪の舞い散る庭を見つめながら優しく微笑んだ。今すぐにでも消えてしまいそうなほど青白くなった肌が、背景の雪と同化する。細く華奢な体は、抱きしめれば折れてしまいそうだ。
それでも、俺は抱きしめ続けた。
このままでは、消えてしまう。
俺の婀子夜が。愛しい君が。
「雅・・・?」
熱があるのか、火照った顔をこちらに向けて心配そうな顔をする。
馬鹿だ。死んでしまって、今から消えてしまうのは君の方なのに。
なんで、俺のことを心配するんだ・・・・?
「婀子夜・・・婀子夜。いなくならないでくれ。俺を、一人にするな-――――――っ」
ずれた子袿を手繰り寄せ、甘えるように頬を寄せる。そして、舌で頬を伝う涙を舐めとった。
冬の冷気で冷えた俺の頬を這う舌は濡れ、柔らかく熱い。
「あなたが泣いている姿を、初めて見たような気がするわ。もっとあなたの泣き顔が見たいと思うなんて、不思議ね」
どうすれば、君は死なないのだ。
長い睫毛に包まれた眠たげな瞳。黒く濡れた瞳は俺を映し、長く艶やかな黒髪は床じゅうを這っている。儚い姿に紫と白の重ねを使った単衣がよく似合う。髪に白百合を挿せば、尚良いだろう。
美しく、儚い君。
どうか、どうか・・・
「でも、私がいなくなったら泣かないで。綺麗な泣き顔は、私の為にとっておいて欲しいの」
懐から二羽の折り鶴を取り出し、君はそう囁いた。真っ白な紙が、細い指先に押さえつけられている。
「この鶴が自由に飛びまわる時。私は人か妖に生まれ変わるわ。動物や虫だと、あなたが誰だか分からないかもしれないから」
ね?
子供のような笑顔を残し、彼女は目を閉じた。冷気のせいか、すぐに君の体は冷たく固くなっていく。
美しい顔。赤く紅を引いた唇は、もう二度と言葉を紡がない。ほほえみを浮かべることも無くなってしまった。
「婀子夜・・・婀子夜・・・俺は―――――」
人間に、生まれたかった。
人間として生まれ、君と一生を共にしたかったよ――――――