第八話 強さ 確認
アキ君とルイス君がプチバトルを繰り広げちゃいます。
「そんなとこに突っ立ってねぇで、とりあえず座ったら?」
「既に我が家って感じだね…。まぁいいけど。」
ぎしっ。ルイス・ハーヴィッシュは諦めたように、俺が転がっているのとは反対側にある木製のベッドに腰掛ける。
腰につけていた剣を脇に置きつつ、制服のネクタイを緩めながら、逡巡するように口を開く。
「ついさっき寮長から、相部屋になるって聞いたんだけど。まさか君だったとはね。」
「俺もビックリだ。探しに行く手間が省けた。」
「僕も手間が省けたよ。これは喜ぶべきことなのかな。」
「そうだと思うぜ~。」
軽口を叩きながら、相手の様子を注意深く観察する。
剣は脇においてあるが、引き抜いた刃はこちらへ届くように置かれている。
体は脱力しつつも適度な緊張感。こちらが何かしようものなら一瞬で反応するかのような状態。
部屋に入ってからの自然な動きから察するに、日常的にこういった備えをしていると見ていい。
うぅん、やっぱりただの学生にゃあ見えねぇな。はっ、俺は人を見かけだけで判断してしまった。ひょっとしたら、偶然こういう体勢をとったのかもしれないし、ほぼ初対面の人間と相対して緊張しているだけかもしれないじゃあないか。(棒
100%茶番だと思いながらも、そんな情報を脳内に入れておく。
ま、無視することになりそうだが。
「そだそだ。改めて自己紹介でもしようか。俺、アキ・ハルト。師匠に言われて編入することになった2年生。」
「僕はルイス・ハーヴィッシュ。地方の推薦枠のおかげで、中等部からここに通っているんだ。貴族じゃないから変に気を遣わなくていいよ…ってそんな様子はないね。」
「はははは、悪ぃな。砕けた感じで。ルイスって呼んでいい?」
「構わないよ。」
おっさんに聞いた情報と一致。下手に嘘をつく必要はないってか。
にしてもこの状況は好ましくない。自室っていうのは心と体が休まるべき場所であるはずだ。
こんなに他人のことを探り探りでいたら、腐ってしまう。
早いとこ…結論出しちまうか。
こいつの実力はどんなものなのか…。実力があるとしたら何故隠しているのか…。
決めたら即実行。これ俺の常識。うし、行きますか。
「なぁ、ルイス。」
「なんだい?ハルト君。」
「先に謝っとく。怪我させたらすまん。」
座った状態から、滑るように移動しつつルイスの顔面にノーモーションで右の掌底を放つ。当たればきつい脳震盪を起こすレベルの打撃。起点と終点が一直線になっているから、相手からは急に掌が伸びたように見える。
あいつは躱しにくい筈のその一撃を、頭を伏せるように避けやがる。怪しまれないためにわざと食らうかと思ったが、やっぱ躱すか…。結構な威力込めたしな。
伏せる動きそのままに、目も向けることなく脇に置いてあった剣を掴んで、鞘から引き抜き横なぎに切りかかってくる。
俺はバックステップで、迫りくる刃を躱しつつ、魔力を巡らせる。
あいつはその顔に『こんなところで魔法を使うのか!?』という驚愕を宿しつつ、こちらに向かう。
「防げよ~。」
「無茶を言うな!」
壁を壊さないレベルの火球を3つ同時に展開し、発射。上、左、右から同時に襲い掛からせる!
おや?何もしないでぶつかる気か?すると、触れるか触れないかというところで、火球が3つとも瞬時に消滅する。…風で酸素を取り除きやがったな!?無駄のない処理しやがって!
今度はこっちが攻められる番だ。
上下左右あらゆる所から飛び出す白刃が、俺を襲う。以前傭兵を相手取った時に見せた、たどたどしい太刀筋など欠片も感じさせない、見事な剣閃。
だあああああ、詐欺だろそりゃああああああ!誤魔化すにもほどがあるわあああ!
そんな感想を抱きつつ、全力で躱す俺。反撃してもいいが命懸けになるなぁ。
唐突に背後に悪寒を感じ、剣そっちのけでしゃがむ。後頭部をかすめる何かの感覚!これが傭兵がバランスを崩した理由か!?
慌てて上を見上げると、既にこちらに剣を突き付けようとするルイスの姿が見えた。
ひぃ!自分から仕掛けた手前負けるのはかっこわりぃ!
怪我させたらすまん。とか格好つけて言っちゃったし。
それだけは何とか避けなきゃならん!
えええい、こうなりゃやけだ
切り札その1発動。
現状、俺にしかできない特殊能力。
魔剣士は魔力をものに宿す。
俺は…魔力を自らの体に宿す。
「ふん!」
「なっ!?」
魔力により一時的に身体能力を上げ高速で動く。迅雷の貫手を相手の喉元で寸止めする。
動き出しの差があったためか、その時にはこちらの喉元にも剣が突き付けられていた…。
やろうと思えばどちらで一瞬で相手の命を刈り取れる。
ある意味永遠ともいえる時間が経過する中、俺は均衡を破ることにした。
「は~、やっぱり実力隠してたな、ルイス。」
話しかけながら殺気をなくし、緊張感をとく。勿論貫手もおろす。
「君は一体何をしたかったんだよ。アキ…。」
向こうも剣を収めてくれた。話の通じるやつで助かる。こっちが試すつもりでやったのも分かっているんだろう。
「あれ、呼び捨て?別に構わんけど。」
「君の前で猫かぶるのをやめただけだよ…。君は一体何なんだ。それにさっきのあの出鱈目な動きは何さ?」
「それはこっちのセリフだぜ。お前なんだよ。あの急に後ろから襲ってきた変なの。魔法じゃねぇだろあれ。」
「躱されるとは思わなかったよ…。」
「俺も切り札使って相打ちになるとは思わなかったよ。」
改めてベッドに座りながら、考える。こいつは凄い。特務騎士団でも十分やっていける人間だ。
ふと面白いことを思いついてしまった。これからの任務がすごい楽になるかも。
「なぁ、ルイス」
「何?また攻撃されるのは勘弁だよ。」
「俺の仕事手伝わねぇ?」
「はい?」
口を大きく開けた間抜け面で、ルイスはこっちを見つめていた。
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