第四話 ようやく 飯が食えた
アキ君、ようやくご飯を食べることに成功します。
「どけえええええ」
「うっせええええええええ」
白髪の彼の靴が傭兵の顔面にめり込む。程よく体重ののった見事な蹴りだ。これでひとまずは安心だろう。
本当のことを言うと、さっきの傭兵が逃亡を図ろうとしているのは気付いていたし、この距離でも何とかすることはできた。でも、そうすると周りのクラスメートに秘密がばれてしまう。
僕は普通に暮らしていたいんだ。程々に出世をしてそこそこの生活を送る。それでいい。逃げる方向には彼がいたから何とかなると思っていてこその判断だ。
それにしても…白髪の彼は普通じゃない。魔力と気の在り方が普通の人とは違う。魔力と気、両方に精通する自分だからこそ気付けたのだろう。僕とは別の特殊性だ。こちらの方に注目しているのが分かっていたから、戦闘中も意識はそっちに向きっぱなしになってしまった。
いつもクラスメートの前で見せるように、ある程度いい勝負になるよう戦いながら考えた。ひょっとしたら、ただ在り方が変なだけで僕の力のことには気づいていないのかもしれない。
僕の眼鏡の奥の瞳が気になっているだけかもしれない。(ぇ?)
そこで敢えて『力』を使って、運よく勝利した少年を演出した。何も気づかれないければ大丈夫。
結果は…アウト。普通ならば、ただ相手がバランスを崩しただけに見えるが(事実クラスメートはそう思った)、彼のあの目を見る限り正体は分からないまでも、何か違和感を覚えたと見て間違いないだろう。墓穴を掘ってしまったか…。
このまま、何を追求されることなく終わりたいと思いながら仲間と共に彼の方に近づいて行った。
「…協力…感謝します」
「ありがとう!止めようと思ったのはいいけど、きっとあたしじゃ振り払われてたわ」
「あぁ、気にしないでくれ。成り行きだ成り行き。」
一番早くこっちに来た小柄な女子と店員の娘さんに感謝された。縄で傭兵連中を縛り終えた他の連中も、こちらに駆け寄って来る。厚底眼鏡も一緒だ。…こいつも俺の何かに気づいてやがるか。違和感覚えたのは自分だけじゃないってことね。しょうがねぇ。
「本当にありがとう。助かったわ。…あなたうちの生徒?」
「そうなる予定。今度編入するんだ俺」
赤髪の美少女が目の前に来る…。やばい、近くで見るととても綺麗だ。落ち着け落ち着け。深呼吸しろ俺!ブレスブレス。
「編入だと?あまり聞かない話だな。ウォルフレイから来たのか?」
「あ~いや、フリーの魔剣士のとこに弟子入りしてたんだけど、人生経験だからいっとけと言われて」
「なるほどな。把握した。」
ナイスアシスト金髪君。老け顔だけど俺は認めるよ、君のよさを。ちなみにウォルフレイってのは他国の魔剣学校の名前だ。
「ねぇみんな、話が弾むのはいいんだけど、この人たち早く警備隊の所に連れて行かない?」
「…賛成。この人たち…臭い。」
「ええ、そうしましょうか。」
「編入するのであれば君とも、また会う機会があるだろう。我々は高等部2年トリプルにいる。いつでも訪ねて来るといい。」
「了解、あんがとさん。折角だから名前だけでも教えてもらっていいかい?」
自然な流れで名前を聞き出す。
「ええ。クレア・ウィルフォードよ」
「ウォード・グレインだ。」
「アリス…・ミラー…」
「ルイス・ハーヴィッシュです。よろしく。」
「俺はアキ・ハルト。じゃ、またいずれ。」
風の通信魔法をルイス・ハーヴィッシュとやら個人に当てる。
(お互い思うところもあるだろうが。今度にしようぜ。ルイス・ハーヴィッシュ)
(分かったよ。学校で待ってる。アキ・ハルト)
そんなやり取りをして、暴れてた傭兵連中を引きずっていく彼らを見送った。
「は~、強いのねぇ皆。」
「魔剣士と普通の傭兵相手じゃ、ああなるわな」
「噂には聞いてたけど、すごいのねぇ。あ、ねぇあなた、ハルト君だっけ?あなたにも助けてもらっちゃったし、うちでご飯食べてかない?奢りよ!」
「マジか!?遠慮なくいただくぜ!」
よっしゃ!メシ代が浮いたぜ。最初は何もするつもりはなかったが、手(足?)を出してよかった。 たなぼただぜ。俺は待望の青鹿亭の料理に想いを巡らせながら店に入った。
「ふがふが、もぐもぐ、ふぐふぐ」
「あはははは、いい食べっぷりだねぇあんた。ほれ、これおまけ」
「んぐ…あんがと、おばちゃん。」
「奢るとは言ったけど…ここまでとは…」
「いいじゃないの。見ていて気持ちがいいよ。」
「もう、お母さん…」
「ふは~、ごちそうさまでした」
この国では珍しい白米。胃をととのえるスープ。がっつり濃いめの味付けの肉。うむ、個人的には3つ星をつけてもいいレベルだ。
この店のシェフは娘さんのお母さん1人のみ。親子2人で店をまわしているようだ。
「いやぁ、ホントありがとうございます。また、来ますわ。次は自腹で」
「あぁ、待ってるよ。」
「でもいいの?あそこの生徒ってことは、身分が高いからこんなところ普通来ないんじゃない?…そうは見えないけど」
「失礼なことをいう娘さんだな、あんた…。いいのいいの。美味いもんに貴賎はないってね。そいじゃ~また。」
「またのご来店お待ちしていまーす!」
これで確実な食事処を確保できたぞ~。1つだけでも安定したものを得るってのはいいことだ。保険がきくからな。
うし、そいじゃあローランド魔剣学校とやらに行きますかね。トラブルはあったが、収穫はあった。
俺は携帯用の魔法具を取り出す。先ほど使った風の通信魔法に応用を利かせる品で、2つ1組になっており、はるか遠方にあるもう1つとの通話を可能とするものだ。(さっきのバージョンは近距離でしか使えない)
ぷるるる ぷるるる がちゃ
「ただいま、電○に出ることができません。ご用件のある方は…」
「んなごつい声の案内があるか。」
「もうちょいキレのある突っ込みを期待しとったんだがなぁ」
「黙らっしゃい。そんなことよりおっさん、ちょいと頼みがある」
「ん、なんだ?」
少し真面目な雰囲気になったシュナイダーのおっさんに、俺はこう依頼した。
「ルイス・ハーヴィッシュって名前。調べてくれねぇか?」
最近読者さんが増えてきているようで、嬉しい限りです。
では、またいつか。