第三章 新しい生活
ちょうど1週間後の昼過ぎ、亜弥がやってきた。
「今日で忌明けだし、明日からあなたたちも、普通の生活に戻るわね。まだ、悲しみはそう簡単には癒えないと思うけど、これからは、3人で協力して生きていくのよ。」
3人はゆっくりと頷いた。
「これからは、私は1週間おきに様子を見に来ます。生活費は毎月届けますから不自由はしないと思うけど、家計の管理はしっかりしてね。だれか家計簿とかつけれる?」
愛子と哲也は同時に知美の方を振り向いた。
「はいはい、わかりましたよ。」
どうやら、金銭的には知美がいちばんしっかりしているようだ。
「じゃあ、知美ちゃんにお願いね。」
と言って、亜弥は家計簿を知美に渡した。
「あと、なにか困ったことがあったら、いつでもいいから私に連絡してちょうだい。」
「あのー」
哲也がおそるおそる口を開いた。
「なに?」
「亜弥さんは、週1回しか来ないんですよね。」
「そう!」
「毎日の食事とか、家事とかはどうなるんですか?」
「あなたたちで、協力してやるのよ。」
3人の顔が少し曇った。
「亜弥さんは手伝ってくれないんですか~」
「わからないことや、できないことは、教えてはあげる。でも、わたしが直接やってはいけないことになっているの。」
3人にも、少しずつ事情が飲み込めてきた。
「じゃ、天国のご両親が悲しい思いをしないように、がんばってね。」
と言い残して、亜弥は帰っていった。
3人はしばらく放心状態で、それぞれにこれから先のことを考えていた。
時には喧嘩もしながら、時には助言をもらいながら結構両親と仲良く過ごしてきたつもりだったが、いざ居なくなってみると、心の中にポッかりと穴が開いたような、根無し草になったような気分だった。
最初のうちは、食事は外食やファーストフードで、結構満足していた。洗濯はさすがに3日目位から着替えに不足して、3人で交代でやることになった。掃除は誰もしない。
1週間たって、亜弥が来たときには、部屋は埃にまみれていた。
「あらまあ、やっぱり。」
「洗濯は?」
「交代でやってます。」
「食事は?」
「ちゃんと食べてます。」
「知美ちゃん、家計簿見せて。」
亜弥は、家計簿を見ると、クスッとした。
10坪ほどの庭も荒れ放題になっていた。
「じゃ、今日はお掃除の仕方を教えましょう。」
掃除機の扱い方くらいは3人とも知っていたが、テーブルや椅子の並んだ部屋の掃除の手順、雑巾がけなど、亜弥は手際よく実演しながら3人に指導していった。
「あーきれいになってサッパリしたでしょう。」
3人とも、まんざらでもない笑顔をみせた。
「さあ、きれいになったお部屋でお茶しましょうか。ケーキ買ってきたから。愛子ちゃん紅茶入れてくれる?」
「はーい」
4人はお茶しながら、世間話をして、しばし楽しい時間を過ごした。
3週間が経ったころ、知美が哲也に相談に来た。
「お兄ちゃん。今度生活費もらえるまで、2週間あるんだけど、このまま外食ばっかりしてたら、お金足りなくなっちゃうよ。」
「えーー」
哲也は全く気にしていなかったのだ。
「どうする?」
「とりあえず、当分はマックでおさえるか。」
次の日、亜弥の来る日だった。
2人は食費の件を相談した。
「やっと気が付いた?」
「どうしたらいいと思う?」
「この間、家庭科の授業でやってたんですけど、外食ばかりだと費用がかかるだけじゃなくて、栄養のバランスがよくないので、身体にも悪いって・・。」
「そうね。じゃ今日は料理の基本を教えましょう。まず、献立とお買い物から。」
4人は相談して、今日の夕食の献立を決め、手分けして、材料の買出しに行った。
亜弥は手際よく料理の基本技術を教え、これには、哲也も参加した。
4人は自分達で作った夕食を食べながら、久しぶりににぎやかな楽しい夜を過ごした。
この日は、亜弥も、食後に皆とゲームに付き合ってくれた。
翌週は、ただ漫然と使ったお金を記録していただけだった、知美の家計簿にメスが入った。
一ヶ月の収入から、支出計画・予算管理・貯蓄の方法等を説明し、何故かこの話にも哲也が熱心に耳を傾けていた。
こうして、3人は亜弥の助けを借りて、なんとか3人だけで、家庭を運営していけるようになった。生活力も以前よりはずっと身に付けた様だった。




