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千年王国ものがたりエイシア創記  作者: みづきゆう
第六章、風の行方
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第五風、幸福の香り(2)

 宮殿上空で、一部始終を感知(かんち)していたレックスは、とりあえずホッとした。そして、居住区の結界を二重にし、もどってきたライアスとともに、呪詛のモンスターへと向かった。


 市内から、はい出てきた人の波は、宮殿のかたく閉められた門やら(さく)やらで止まっている。王族一家への襲撃ができない今は、動きが止まっていると言ってもよいだろう。


 ライアスは、黒い霧を出し続けているモンスターを見つめた。


「やはり、実体がない。物理的な攻撃をしても、ムダと言うわけか。術者をつかまえないと(たお)せないな。」


 レックスは、


「ユードスは、マルーを人形に変えたんだよな。と言うことはだ。たぶん、市内にバラまかれた人形の一つが、ユードスだったんだろうな。だから、見つけられなかったんだ。それに、気がつかないで結界張ったおれは、バカだ。敵は外部からくるんじゃない、内部にひそんでたんだ。ライアス、思い切って、モンスターに飛び込んでみるか。何か、わかるかもしれない。」


 ライアスは、とめた。


「いくら君でももたないよ。毒の中に飛び込むようなものだ。結界を強く張ったとしても、たぶん、持ちこたえられない。いっそのこと、あのモンスターを丸ごと結界でかこんでしまったほうがいい。できるか。」


「かこんでどうするんだ。かこむことはできるが、それだけなら倒せない。」


「かこむだけでいい。あとは、ぼくにまかせて。君の中に入るよ。」


 ライアスが消えた。レックスは、杖を使い、モンスターをかこむ。ライアスが、表に出てきて、モンスターをかこむ結界を制御(せいぎょ)しつつ、慎重(しんちょう)縮小(しゅくしょう)を始めた。


 結界が小さくなりはじめるにつれて、モンスターもそれにあわせて小さく(ちぢ)み始める。結界はまもなく、直径ニメートルくらいの黒い球体に変化した。ライアスは、それを自分の前に引きよせた。


 ライアスは、その球体を浄化しようとする。が、内部のモンスターが、いやがり(あば)れ、球体が割れ始めた。レックスとライアスは交代した。レックスは、球体の結界の力を強めようするが、うまくいかず割れてしまう。


 ブワッと黒い毒の霧が、レックスをおそった。紅竜がレックスをかばうよう、翼でおおってくれ、毒の直撃(ちょくげき)だけは()けることができた。


 空中にちらばった黒い霧は、また一つに集合し始めた。だが、今度は実体のないモンスターではない。物理的な力のある巨大で真っ黒なドラゴンだ。


 ドラゴンは、火の玉を吐き、紅竜を攻撃してきた。紅竜がかわした火の玉は、聖堂の(かね)(とう)直撃(ちょくげき)し、塔が半分、吹き飛んでしまう。レックスは、まずいと思い、市内にまた結界を張った。だが、霊的なものはともかく、物理的な力をどこまで(ふせ)げるか、わからなかった。


 双頭の白竜が、マーレル上空に出現する。レックスは戦いつつ、黒いドラゴンを誘導(ゆうどう)し、山の方面へと連れ出した。ここなら、被害は少ないはずだ。


 黒いドラゴンと双頭の白竜の力は互角(ごかく)だった。攻撃の大半(たいはん)は、レックスの(たく)みな誘導のおかげで空へと消えたが、二つのドラゴンが戦っている周辺の山々は、大きく地形が変わってしまう。人が住んでいないのだけが救いだった。


 ライアスは、


「マーレル市をかばいつつ、戦うのは不利だ。レックス、双頭の白竜の火力をあげる。杖を足元のドラゴンの背中につきさせ。杖を通して、ぼくがドラゴンの体内に入り、ぼく自身をドラゴンと合体させる。」


「そんなことができるのか。」


「前にやったよ。おぼえてないのか。ほら、君が地獄に救いにきてくれたとき、白竜と合体してたじゃないか。」


「じゃ、やってみろ。あ!」


 レックスが杖をドラゴンの背中につきさそうとしたとき、双頭の白竜にすきができてしまった。黒いドラゴンが、そのすきをつき、マーレル市向けて、エネルギー弾を(はな)った。


 マーレル市が消えると思ったが、エネルギー弾は、結界にはじかれ夜空に吸い込まれるよう消えてくれた。


 ライアスは、


「シエラの祈りの力だ。結界は祈りで守られている。肩に怪我をしているのに、休まず祈り続けてくれてるんだ。」


 レックスは、キッと黒いドラゴンをにらんだ。


「よくも、おれのマーレルを。」


 黒いドラゴンは、笑ったようだ。そして、さっきよりはるかに強い攻撃をしかけてくる。そのうち、数発、マーレル市へと向かったが、すべて結界にはじかれた。


 レックスは、歯ぎしりをした。これだけの攻撃を、シエラはたった一人で防いでいる。その負担(ふたん)は、かなりのもののはずだ。肩に怪我をしているなら、なおさらだろう。


 レックスは、杖を自分が乗っているドラゴンの背中のウロコにつきさした。もともと、霊的な杖である。スッとウロコを貫通(かんつう)し、体内へと深くしずむ。そして、杖と同時にレックスもドラゴンの体内へと消えた。


 ライアスは、


「ぼくがやると言ったろ。」


「お前ができるんなら、おれにもできるはずだ。どうせなら、おれとお前の二人でやれば、もっと火力があがる。ライアス、おれ自身の能力の補佐をしろ。ドラゴンは、今から、おれの体となる。」 


 ライアスは、びっくりした。


「そこまでやって、もとにもどれなくなったらどうするんだよ。霊体だけとちがって、リスクが大きすぎるよ。」


「紅竜と白竜は、かならず分離する。だいじょうぶだ。」


 双頭の白竜が、人型に近い黄金のドラゴンへと変化した。ドラゴンは、レックスと同じ緑の瞳で、黒いドラゴンをにらみつける。そして、黒いドラゴンにおそいかかり、両手でがっしりと黒いドラゴンをつかみ、空中で格闘を始めた。


 接近戦に持ちこみ、マーレル市をねらう遠距離攻撃をさせないつもりだ。しばらく、空中でのぶつかりあいが続いたあと、レックスは、巨大な杖を出現させ、その杖で黒いドラゴンの胸をつらぬいた。


 黒いドラゴンの動きがとまった。黒いドラゴンの背後(はいご)に巨大な穴が開き始める。レックスは、力いっぱい、ドラゴンをその穴に()し込んだ。そして、閉じる。決着はついた。


 レックスは、紅竜の背で、ゼイゼイしていた。


(ティムとの格闘訓練が、こんなとこで役にたつなんてな。けど、ドラゴン同士のぶつかり合いは、さすがにきつい。霊力も体力も、めちゃくちゃ使っちまった。)


 マーレル市を見つめた。なんとか守れたようだ。たぶん、呪詛にかかっていた人々は、目がさめているだろう。ホッとすると同時に、ひどい目まいがした。空中にいることができず、レックスは紅竜を、さきほどの攻撃でけずられた、むき出しの地面へとおろした。


 地面は熱かった。高温で()けた土がブスブスとしている。レックスは、まさに地獄絵図だな、と思った。けど、空にいるよりはいい。紅竜の背に寝そべり、夜空を見上げていたら、ジャリと音がした。なんだろうと体を起こし見ると、自分と同じフラフラ状態のユードスがそこにいた。


「まだ、生きてたのか。ドラゴンといっしょに、向こうに()っちまったかと期待してたのにな。」


 レックスは、杖をにぎった。ユードスは、


「お前が戦い、向こうへと送ったのは、魔物だけだ。私に()き、私を使うことによって、千年以上にわたる復讐をはたそうとしたのだよ。私は、影で戦いを見ていたにすぎない。私は、お前とはちがい、荒事(あらごと)苦手(にがて)だからな。」


「ぎりぎり逃げ出したのか。マルーを返してもらおうか。」


 ユードスは、笑った。


「マーレル公の魂となら、向こうに逝ってもよかったがな。あの娘は、山の離宮だ。だから、来いと言ったのだよ。おおぜい、引き連れてやってくることを期待してたんだがな。」


「引き連れて行ったら、そのおおぜいを呪術のエサにして、そいつらを使って、おれ達をおそうつもりだったろ。おれが、味方を傷つけられないとわかっていてな。みえみえのワナなんて、乗る気がなかっただけだ。それに、誘拐を知っているのは、おれの身内だけだ。マルーはもう、人形から元にもどっているんだろ。」


「寝てるよ。あの娘はもう用済(ようず)みだ。これで、ゼルムに引き続き、二度目の敗北だ。」


「皇子であるお前を、エイシアに送り込んだのはだれだ。ひょっとして皇帝か。」


 ユードスは、うなずいた。


「皇帝は、私が霊能者だという事に、前々から目をつけていたらしい。そして、私がどれだけの強運を持っているか、サラサに送って生還(せいかん)できるかどうかで(ため)したと言っていた。


 この呪術は、お前も知っているとおり、かなり危険で強力だ。運が悪ければ、呪術の力自体に飲み込まれてしまう。しかも、霊能力が無ければ、伝授(でんじゅ)されても使えない。皇帝一家でも、使える者は限定されるほどだしな。分家あつかいの皇子でも、それなりに価値があったという事だ。


 そして、皇帝直々に命令が下ったと言うわけだよ。成功した(あかつき)には、皇帝一家にくわえてもらえる約束だった。まずは、すきの多いゼルムをねらって、マーレルを攻撃しろとな。」


「魔物と手を組んだのは、そのためか。ゼルムの邪教集団に呪術を手土産に、紹介してもらったんだろ。」


「違うな。ゼルムに到着して早々、魔物の方から私に取り入ってきたんだ。その魔物が、国王をねらうつもりでいるから、自分が指導している邪教集団に呪術を教えろと言ってきたんだよ。それで、ゼルムの大臣から、その邪教集団に接触させてもらった。


 魔物は、呪詛を使い、お前の人間としての欲望を引き出して、国をめちゃくちゃにさせようと考えてたらしい。呪詛は、それが目的で行われたが、奇跡の王には、それほど効果はなかったというわけだ。


 だが、ゼルムの娘がたくらんだ、仲たがいはうまくいきかけていたので、安心してたんだがな。」


「・・・なぜ当時、お前自身が直接やらなかった。あのあと、すぐに行方がわからなくなり、今になって現れて、こんなさわぎを起こした理由は?」


 ユードスは、苦笑した。


「当時の私は、呪術を(なら)いたてで、今ほど、うまく使いこなせなかった。ゼルムの娘ならともかく、双頭の白竜を呼び出せる王相手では、話になるレベルじゃなかった。」


 レックスは、疑問に思った。ユードスが今、話している内容と、クリスが話した内容とでは違う。ユードスは、


「どっちも正解だ。とにかく待つしかなかった。が、待つことにより力を得ることもできた。そして、イリア王女との結婚が決まりしだい、皇帝からスパイを通して命令が下ったというわけだ。だが、お前のほうが何もかも上だった。」


「なぜ、バテントスにもどった?」


 ユードスは、今度は皮肉に笑う。


「カルディア族は、母の出身地という以外、私にとり異国でしかない。皇帝の息子の私を受け入れぬ者が多かったしな。母のきょうだいですら、そうだった。私は、皇帝の命令にしたがうしか、居場所を見つけられなかったのだよ。だが、敗北した今、私にはもう帰るべき場所は無い。煮るなり焼くなり好きにしろ。」


「だったら、魔物といっしょに()けばよかったじゃないか。煮るなり焼くなりしたなら、どのみち、お前の逝くべき場所は、そこしかないだろうに。」


「マーレル公と話がしたい。それだけだ。」

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