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千年王国ものがたりエイシア創記  作者: みづきゆう
第六章、風の行方
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第三風、ユードス・カルディア(3)

 じりじりとする時間が過ぎていく。ベッドのシエラもマルーを()きしめたまま、自分のあせりと戦っていた。エッジが飛び込んできた。そして、外へ出ろと言う。


 レックスは、シエラに子供達をまかせ、外へと飛び出した。そして、ワッと声をあげる。巨大なモンスターだ。天にとどくほどの巨大な人影のようなモンスターが、こちらへとむかって歩いてくる。


 警備兵にも見えているようで、外は大さわぎになっていた。エッジは、


「おれが、宮殿にもどると同時に出現したんだよ。ありゃなんだ。」


 レックスは、エッジにこいと言う。そして、紅竜で夜空に飛び上がった。さわぎになっていたのは市内も同じだった。影のようなモンスターが歩くたびに、市内の建物がくずれ、人々はにげまどう。


 レックスは、黒い霧に気がついた。すぐさま結界を張る。


「また呪詛だ。クソ、本格的にねらってきやがった。術者はどこだ。どこから、ねらっているんだ?」


「術者よりも、あいつをどうにかするほうが先だ。町がぶっこわされてしまうぞ。それよりも、こっち向かってるから宮殿がこわされちまう。」


 紅竜が、火炎弾をはなった。火の玉は、モンスターをすりぬけ、郊外の平地で爆発する。二回ほど攻撃しても同じだった。


 レックスは、モンスターに向けて突進(とっしん)した。そして、杖を使い、モンスターに攻撃してみる。杖なら、相手が実体がなくても攻撃できるはずだったが、目の前のモンスターには手ごたえがまったくない。レックスは、双頭の白竜を呼び出そうとした。


 ライアスは、


(やめろ。出してもムダだ。これは幻覚(げんかく)だ。黒い霧が幻覚を見せているんだ。)


 モンスターが、足元の建物をふみつけた。ガレキが飛びちる。レックスは、


「幻覚だって? 現にこわれているじゃないか。」


(それも幻覚だ。意識を()ませてポイントとなる場所を特定しろ。)


 レックスは、杖に意識を集中した。見えた。今度は南側の平地だ。そこへ急行する。モヤリとした黒い結界。レックスは、う、とうなった。


 エッジは、


「何も見えないが、何かあるのか。」


 レックスは、口をおさえた。


「吐き気がする。ものすごい瘴気(しょうき)がただよっている。お前、平気なのか。」


 エッジは、なんのことかと肩をすくめる。レックスは、杖に霊力をそそいだ。


「もう少し高度を下げる。だが、建物の三階くらいの高さが限界だ。この杖を持っていけ。霊力をまとっているから、たたきつけるだけで大剣(だいけん)のように切れるはずだ。そして、降りた場所にあるものは、なんであれ切り捨てろ。ライアスがいる以上、おれは、あそこには降りれない。たのむ。」


 エッジは杖を持ち、高度を下げた紅竜から飛び降りた。黒い結界にエッジが吸い込まれ、すぐに、破裂(はれつ)するよう結界がくだけた。レックスの手に杖がもどった。その場を浄化する。破裂すると同時に飛びちった瘴気が、たちまちのうちに消えさった。


 レックスは、紅竜を地面へとおろした。エッジが何事(なにごと)もなかったかのよう、そこにたたずんでいた。そして、レックスの足元に真っ二つになった人形を投げ捨てた。


「若い女がいたんだ。変なまじないをしていたように見えた。真っ二つに切ったら、この人形に変わったんだよ。」


 レックスは、足元の人形をチラと見、杖で片方の破片(はへん)をついた。シュウと黒い蒸気のような(けむり)を出して人形は、土くれにもどった。もう片方の破片も土へともどす。そして、マーレル市内の様子を見た。巨大なモンスターは消えていた。


「帰ろう。シエラ達が心配だ。」


 上空から見た市内は、いつもと変わらなかった。建物は、まったくこわれていない。あわてふためいて逃げていた人々も、軍や警察の指示にしたがい、とまどいつつ、もときた道を引き返しているように見える。


 レックスがもどってくると同時に、警備兵が、わらわらとよってきた。レックスは、宮殿内の警備を強化するよう言い、エッジとともに居住区に向かった。


 王夫婦の寝室には、シエラとともにミランダがいた。さわぎでシュウとともに、宮殿に避難(ひなん)してきたようだ。レックスは、


「バケモノは、こっち向かってたんだぜ。逃げるにしても方向違うだろうが。」


「ここが一番安全なのよ。さっきのバケモノ何よ。も、ほんと、びっくりしちゃったわ。シュウは泣き出すしさ。」


 エッジがシュウを抱き上げた。シュウは、ピタッと父親にくっつく。シエラは、


「クリス様がいらしているの。マルーとエルを見ていてくださってるわ。市内の様子はどう。」


「警官や軍も出ているし、だいぶ落ちついてきている。バケモノは、呪詛による幻覚だ。呪っているやつを始末したら消えたよ。」


 シエラは、ホッとしたようだ。が、


「ユードスって人だったの? 呪ってた人。」


 レックスは、首をふる。


「ユードスじゃない。人形だ。人形が、人間の女になって呪詛を行ってたんだ。切ったら、人形に変わり土にもどった。」


「人形が? そんなことってあるの?」


 驚いているシエラに、エッジは、


「以前、ゼルムの邪教集団つぶしたろ。(まゆ)つばモノで、報告にあげなかったが、集団の半分近くは、切ると人形に変わったんだよ。つまり、邪教集団の半分は、人形だったってことだ。おれが宮殿に持ち帰った人形が、そうだったんだよ。」


 シエラは、


「報告にあげなかったですって? 何よ、それ。信じないと思ってたの?」


「だから、眉つばモノだって。おれ自身、信じることができなかったんだよ。なんせ、相手は変な呪術を使う連中だ。クリストンのボスからかりた連中も、おかしな幻術にかかっちまって、あわや発狂寸前ってとこまでいったんだ。それで、おれは、変な現象おきても、いっさい信じるなと言ったんだよ。」


「ライアス兄様も、いっしょだったはずよ。兄様からは、そんな話はきいてなかったわ。」


「ライアスは霊体だ。現場には、じかには入っていない。今みたいになっちまう可能性が高かったしな。現場の周辺で、結界を張ったり、呪詛の効果を弱めたりして、現場のおれ達を援護していただけだ。


 それに、ライアスがいっしょだったのは、最初につぶしたフェイクだけだ。しかも、首謀者と思われたやつをしとめたあと、報告もロクにきかずに、すぐにマーレルに帰っちまったもんな。


 あとは、おれ達だけでやるしかなかった。だから、信じるな、ってことにするしかなかったんだよ。」


 レックスは、


「ミランダ、ライアスとユードス・カルディアとのあいだで、何があったか教えてくれないか。」


 ミランダは、どうしたらいいものかと、とまどっているようだ。エッジが、


「もう時効(じこう)のはずだ。それに、たいしたことじゃない。」


 が、当時の状況をきいたレックスは、やはりカンカンに怒ってしまう。


「たいしたことじゃないって? あんなやつにキスしたのかよ。おれにないしょで? この、かわいいくちびるを、けがされたと言うのかよ。」


 レックスは、シエラのくちびるを指さした。ミランダは、


「ちゃんと理由、話したじゃない。そのおかげで、ニキスで勝ったようなものよ。」


「ミランダ、お前、何やってたんだ。シエラの貞操(ていそう)を守るのが、お前の仕事じゃなかったのか。お前だから、安心してまかせたんだぞ。」


「そんなに大事なら、袋にでも入れてしまっておけばよかったでしょ。当時のあんたは、自分でも忘れているでしょうけど、救いようがないくらい、たよりなかったんだからね! シエラ様がいなけりゃ、バテントスを追っぱらうなんて、とてもじゃないけどできなかったはずよ。」


「だからって、キスはないだろ。何回した。二回? 二回も? おれのシエラが、あの男に抱きついて?」


「最初のは、フイ()ちだって説明したでしょ。二回目は、情報引き出すためよ。どれも、自分の本意(ほんい)じゃなかったことは明白(めいはく)よ。もう、何年たってると思ってるの。いい加減にしなさい。」


 エッジは、


「おい、シュウがこわがってるぞ。ケンカなら、外でやれ。」


 シエラは、


「ユードスって人、私の姿をした兄様のこと好きだったようね。一目惚(ひとめぼ)れって感じね。魂の高貴なる香りがする、か。お前の夫はさぞお前を愛しているのだろう、ミランダ、よくおぼえているね。これって、けっこう殺し文句なのよね。」


 ミランダは、


「そりゃ、私も女ですからね。言われてみたい気もしますからね。」


 エッジは、


「じゃ、おれが言ってやろうか。魂の、」


 ミランダは、


「やめて。あんたが言っても、()ずかしいだけよ。レックス、あんたもよ。まあ、クリス様なら、なんとなく、このセリフがにあいそうだけど。」


 シエラがうなずいたのを見て、エッジは、


「レックス、差別(さべつ)されたぞ。おれ達のまわりの女どもは、どうしてこう、男のロマンてのが、わからんのだろうな。」


 レックスは無視した。


「ユードスは、まちがいなくライアス、当時のシエラに()れこんだ。言いたくないが、それも、かなり、だ。けど、それだったら、ライアスをあんな目にあわせるはずないよな。」


 シエラは、


「弱らせて、さらうつもりだったんじゃない。タコみたいな足をのばしてきたしさ。」


 ミランダは、


「ゼルム戦争の原因となった呪詛は、二人を仲たがいさせ、離婚させるのが目的だったわね。離婚させたあと、フリーになったシエラ様を、ねらうつもりだったのかしら。」


 シエラは、ちょっと考えた。


「それもありうるかもしれない。ユードスが邪教集団に呪詛教えたのも、それが理由の一つだったかもしれない。私達を引きはなして、私を自分のものにしちゃうとかさ。」


 レックスは、


「お前じゃない。ライアスのほうのシエラだ。そのときはたぶん、まだライアスとしてのシエラが、お前だったと考えてたようだな。今は、お前じゃなくて、ライアス自体をねらったしな。」


 シエラは、ため息をついた。


「でも、好きになった相手が亡霊だったなんて悲劇(ひげき)よね。それで、魂でもいいから(むす)ばれたい、なーんて考えちゃったんだろうね。」


 レックスは、


「お前、今、うらやましいと思ったろ。こんな時に何、考えてんだ。」


 シエラは、ムッとした。レックスは、何かに思い当たったようだ。


「いや、違う。ライアスは、この呪詛は憎悪だと言っていた。憎しみだと。弱らせてつかまえるにしても限度がある。むしろ、最初の呪詛で地獄に引きずりこめなくて、タコ足でつかまえようとして失敗して、それであのバケモノを用意したんだ。」


 エッジは、


「おれも、そう考えてたとこだ。もしさっき、おれといっしょでなかったら、お前さんが無理してでも、女を切り捨てにあそこに飛び込んだはずだ。ライアスごとな。」


 レックスは、ゾッとした。もし、あの黒い結界に飛び込んでいたら、ライアスは()え切れなかったろう。耐え切れず、レックスから飛び出し、結界の外へ出ようとした瞬間、つかまっていたかもしれない。


 何重(なんじゅう)にも張りめぐらされたワナ。敵はマーレル市ごと呪うことで、レックス達を追いつめるつもりだ。


 レックスは、


「ねらいは、たしかにライアスだろう。だが、ユードスは、ライアスをねらうことによって、マーレル市自体を混乱におとし入れようとしている。もはやこうなったら、()()の言ってるよゆうはない。軍と警察を総動員してでも、ユードスを見つけなければならない。


 マーレル公の名で非常事態宣言を出す。陣頭指揮は、ライアスに代わり、シエラ、お前が取れ。」

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