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千年王国ものがたりエイシア創記  作者: みづきゆう
第五章、沈まぬ太陽
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四、山の離宮(1)

 もうそろそろ、冬だという時期になった。レックスが療養(りょうよう)中の山の離宮に、エッジがヒョイと顔をだした。ルナから、手紙をあずかってきたと言う。



 だいすきな父ちゃんへ。


 父ちゃん、だいぶさむくなりましたが、からだのぐあいはどうですか。


 ルナは、まいにち、エルとたのしくすごしています。


 お母さんは、しごとで、あさから、ばんまでいそがしいです。でも、プリシラがずっといっしょだし、ティムもあそんでくれるし、さみしくはないです。


 きのうのばん、シュウくんが、ねつをだしたので、ミランダはしばらくおやすみするそうです。シュウくんが、はやくげんきになってあそびたいです。


 父ちゃんも、はやくびょうきをなおしてください。ルナとエルは、まいにち、おいのりしています。


 ルナより。



 レックスは、グスと鼻をならした。のぞき見をしていたエッジは、


「いい子じゃねぇか。おれも涙が出ちまったよ。シュウもいずれ、おれに、こういう手紙書いてくれんのかな。」


 レックスは、サッと手紙をかくした。


「読むな。お前が読むと手紙がくさる。これは、ルナがおれにくれた大事な手紙だ。」


「もってきたのは、おれだぜ。何がくさるだ。ったく、妹姫様もお前も、おれをゴミあつかいしやがって。」


 レックスは、手紙を枕の下に入れた。


「ところで、マーレルの様子はどうだ。おれがいなくなって、旧体制派が盛り返してないか心配してるんだ。」


「ああ、一時はそうなりかけた。だが、そこがさすがライアスの妹だ。うまいぐあいに、ひっこめちまったよ。おもしろいから話をきくか。ききたいだろ。療養ってのは、調子いいときは、死ぬほど退屈するからな。と、その前に、わすれるとこだった。」


 エッジは、袋から包みをとりだした。


「ミランダが焼いたんだよ。お前、ガキのころ、これ好きだったんだろ。」


 ドライフルーツとナッツがぎっしりつまった、焼き菓子だった。レックスは、口にほうりこむ。なつかしい味がした。


「この菓子。むかし、おれがナルセラの病院に入院したとき、ミランダが、毎日焼いてきてくれたんだよな。食欲なくても、これだけは食えたの、おぼえてたのか。」


「おふくろの味ってやつかよ。まあいい。思ったよりも元気そうで安心した。」


「やっぱり、うまいな、これ。いくらでも食えるわ。ああ、おれは元気だよ。医者も、血をはでに吐いたわりには症状は軽いって言ってるしな。まだ血痰(けったん)はでるけど、喀血(かっけつ)は、あれ一回きりだし。」


「そりゃ、よかった。これで、妹姫様も(ひと)安心だな。この分なら、春にはなんとかなりそうだな。」


 レックスは、菓子を食べるのをやめた。


「復帰できるかな。病気は治っても、結核やったやつは、けっこういやがられるんだ。人にうつる怖い病気だからな。みんなが、またおれを受け入れてくれるか正直わからないでいる。」


「まあ、そうだな。結核したやつは、自分の病気をかくしたりしてるもんな。でも、お前さんは、かくしようがなかったしな。なんせ国王様だしよ。妹姫様も、それで、けっこう悩んでたみたいだぜ。でも、お前の結核をごまかす、グッドなアイディアを思いついたんだよ。これも、とうぜん、きいてくれるだろ。」


 レックスは、菓子をまた食べ始めた。


「とうぜん、きくよ。死ぬほどヒマだしな。シエラの武勇伝でも、お前がミランダに尻にしかれている話でも、ティムとプリシラがどうなってるかも、なんでもかんでも話してくれ。こんな山ん中じゃあ、たのしみなんて、ひとつもないし。」


「それじゃ、ミランダの尻の話からだ。おれは、自分から望んで尻にしかれている。最近、背中がこるから、仕事から帰ってきたらベッドに寝そべり、必ずすわってもらう。ついでに、シュウものっけてもらう。


 ギューッとおしつぶされるのは、なかなかいいモンだ。もっともっと働けって、ケツをたたかれている気分になり、おれは最高の満足感をえる。それに、尻にしかれるのは、実に気持ちがいい。


 あ、ちなみにおれはマゾだからな。サドだとかんちがいすんなよ。女にイジめられるのが大好きだしな。お前もそうじゃないのか。二人のお姫様に、コキ使われてるしさ。」


 レックスは、赤くなった。


「なんで、そんな話に飛ぶんだよ。お前、仕事のしすぎじゃないのか。ストレスたまってんだろ。別の話にしろ。」


「じゃ、春まっさかりの話。ティムとプリシラが、やっとくっついた。それから、二人はヒマさえあれば、人目もはばからぬラブラブぶりで、いつだったかのお前さんとお姫様みたいに周囲に迷惑をふりまいている。この前なんか、」


「も、もういい、色恋話はもういい。お前の話をきいてると胸焼けしてくる。シエラの話をしてくれ。シエラはあの、通称ルーファス派の旧体制派をどうやって、だまらせたんだ。国会で反対反対しか言わない連中だ。おれも苦労したしな。」


 ルーファスは引退し、田舎に引っ込んだとはいえ、その勢力は完全におとろえたわけではない。新体制についていけない者達の代表として、いまなおガンコにマーレルにその影響を残しているのである。


 エッジは、


「なんでぇ、つまんねぇ。こっからが、いいとこだったんだよ。」


「お前、ひょっとしてノゾキとかしてんのか。自分の弟の。」


「親代わりとして、ティムがしっかり片付くまで責任があるだけだ。」


 レックスは、げんなりした。


「も、いい。国会の話をしろ。ルーファス派はどうやってだまらせた。」


 エッジは、しゃあないなと首筋をかいた。


「国会が開かれる前に、妹姫様が、主要貴族議員の御婦人方を呼んでお茶会を開いたんだよ。新体制派も旧体制派も関係なくな。それで、宮殿の従業員の中から見た目がよくて、女のあつかいのうまそうな若い男に、はでな格好させてホストさせたんだ。


 もちろん妹姫様も、ホストの一人として女どもの接待にあたったんだよ。ダンスの相手をしたり、うまい口説き文句をかけたりしてさ。女だから、女のツボを心得ているしな。そして、きわめつけは、エルだ。


 エルは、絶世の美少年とうわさが高いが、妹姫様は、めったに人前には出さない。それをわざと出して、御婦人方の猛獣の群れに放り込んだよ。それで、お母さんが苦労しているとか、お父さんに早く会いたいなんて言わせたから、御婦人方は、ほぼ全員撃沈してしまった。


 んでもって、国会は、スムーズに議事が進行したってわけ。おまけに、マーレルの大聖堂から、お偉いさんをつれてきて国会に参加させてたから、法王閣下への告げ口をおそれて、みーんな協力的だったんだよ。」


 レックスは、あぜんとした。貴族に言う事をきかせるために、どんな手段を使ってもいい、と言ったのは確かに自分だ。が、ストレートに貴族をねらわないで、その周囲の影響力大をねらうなんて、自分では考えもおよばない。


 レックスは、最後の一個を口に放り込んだ。


「なんか、だれかの手口に似てるな。やっぱり、だれかの妹か。それで、おれの結核をごまかす、グッドなアイディアって。」


「呪詛を利用したんだ。お前が、呪いをかけられ、結核にさせられたってな。なんせ、ミユティカ以来の奇跡を呼んだ王だ。嫉妬したり、うらやんだりする連中は、いくらでもいる。そういう連中が、国王をおとしめるために呪いをかけたってな。


 幸い、結核患者はお前さん一人だけだし、それに国王はえらい頑丈(がんじょう)で、バカ並みに病気とは縁がないって、みんな知ってるし、そんな頑丈な国王と、結核のイメージが結びつきにくいところを利用して、ウワサとして流したんだよ。


 この話は、あっという間に広がり、そろそろ、国外にも流れているころだろうな。」


「バカ並みはよけいだ。結核より傷つく。で、呪詛の出どころは、ゼルムだって流したのか。下手をすれば、国内のゼルム人相手に魔女狩りが起きちまう。」


 エッジは、いいやと首をふった。


「ただ、呪詛をかけられて病気になった、とだけだ。このウワサを流した張本人である妹姫様も、変なウワサにまどわされ勝手な行動をしないよう、市内に告知(こくち)することも忘れなかったし、警察も目を光らせているから、いまのところ静かなもんだ。


 でもって、マーレルの教会は、どこもお前さんの回復を祈る声で満杯だ。これで、お前さんが復帰しても、それほどアレルギーは、おこらなくなるだろうよ。なんせ、自然に結核になったんじゃないからな。


 けど、それだけじゃない。このウワサを流して、ゼルム側の出方をさぐっているんだよ。やっぱり、邪教集団を壊滅させたせいで、ゼルムの領主との接点が出にくくてな。」


「証拠品は、もって帰ったんだろ。今は軍の保管庫にあるってきいてる。」


「ただの呪術道具だ。ライアスが、領主とのつながりというより、呪術の発生地をつかむために集めてきたようなものだ。大陸方面から流れてきた呪術らしいからな。」


「大陸ね。まあ、ライアスは好奇心が強いからな。だが、証拠があったとしても、ゼルムの領主は呪詛は認めないだろう。領主の地位を追放されるのはわかってるからな。シエラは、どう考えている?」


「ロイドの要望書の予算、通しちまったよ。新領主用のガキが、あと一人必要だ。シゼレんとこから養子もらうより、自分の子だろ? さっさと病気治せ。」


「・・・治せるんだったら、治しているよ。おれだって、いつまでもこんな山なんかに、一人でいたくない。それに、家族には、すぐにでも会いたいよ。でも、感染の危険があるしさ。」


 エッジは、ため息をついた。


「なら、会っちまえよ。子供たちは、ともかくとして、妹姫様なら大丈夫だろ。見舞いにくるよう言ってみるか。現におれは平気で何度も、お前に会いにきてるじゃないか。」


「お前は、ロンガイ。」


「ロンガイってのはなんだよ。おれのこと、なんだと思ってんだ。これでも、センサイなんだぜ。あやまれ。」


「エッジ、きてくれてありがとう。おれ、少し寝るから、またヒマがあったら、ルナの手紙とどけてくれよ。」


「わざと無視したな。ったく。じゃあな。」


 エッジは、窓から出て行った。離宮は、一階だけの長屋造りだ。それほど大きいわけではない。玄関からさしてはなれていないのに、窓を使うところが、やっぱりエッジらしい。

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