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千年王国ものがたりエイシア創記  作者: みづきゆう
第四章、白銀の少女
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さんばんめのお話、良い魔女、悪い魔法使い(2)

 エルは、


「ロイド兄ちゃん、ルナお姉ちゃんつれてきて。また、三人で寝ようよ。」


 ロイドは、ルナをエルのとなりに寝かせた。エルのひたいとルナのほっぺたに、お休みのキスをする。そして、エルよりも早く寝てしまう。


「ロイド兄ちゃん、もう寝ちゃったの。」


 エルは、つまらなそうにしていた。ルナの口がうごいたよう、エルには見えた。何か、しゃべっている。エルは、ルナの口に耳を近づけた。


「かあ、さん。おかあ。」


 ルナは、眠ってしまった。エルは、子供部屋をとびたした。そして、両親の寝室に行き、そろそろ寝ようとしていたシエラにだきついた。


「ルナお姉ちゃんがしゃべったんだよ。いま、お母さんって言った。」


シエラは、びっくりした。


「それ、ほんと。他には何か話したの。」


「お母さんだけ。すぐ寝ちゃったけど。」


 シエラとレックスは、顔を見合わせた。


「わかったわ。教えてくれてありがとう。でももう、おそいから寝なさい。明日、ちゃんと話をきくね。レックス、私、今夜は、エル達といっしょに寝るわ、ロイド君には帰ってもらうからいいでしょ。」


 シエラは、エルといっしょに子供部屋に向かった。ライアスは、


「お母さんか。ルナが、母親と死に別れたのは、二歳にもならないころだ。何をしても無反応だったルナが、そういう言葉を口に出すには、なんらかのきっかけがあったに違いない。」


 レックスは、


「そう言えば、お前、以前どうやってシエラをたすけたんだ。シエラは、二歳の記憶の世界にいたし、その記憶の中のお前の姿は、十二歳かそこらだ。大人としての、お前をどうやって、二歳のシエラにわからせたんだ。」


 ライアスは、


「シエラが逃げ込んだ場所は、サラサ宮殿だったか、それに近い場所だったと思う。シエラは、自分が一番居心地がいいと思う世界をつくって、そこにいたんだ。そこで、ぼくと母親の幻をつくり、いっしょに遊んでた。

 

 ぼくは、シエラがつくった十二歳のぼくの幻に入り込んだんだよ。つまり、幻を乗っ取ったんだ、それで、シエラに、もう大丈夫だから、いっしょに帰ろうと言ったんだ。


 母親の幻が、かなり抵抗したけど、なんとか、さそいだすことに成功して、つれもどすことができたんだ。たぶん、シエラにとっての真の母親は、ぼくだったからだと思う。」


 レックスは、ポリポリ頭をかいた。レックスの父親は話の最中、よく頭をかいた。レックスもシエラもライアスまで、頭をかくクセがついたのは、その影響だろう。そのせいか、最近、エッジにまで伝染(でんせん)したようだ。


 レックスは、大きなため息をつく。


「母親か。ちっちゃい子には、やっぱり、母親だよな。おれの出番は、なさそうだな。ルナは、シエラにまかせるよ。けど、マジ、つかれた。このところ、ややこしい問題ばかりだ。」


 ライアスは、笑った。


「こういう問題ってね、起きるときは、まとめて起きるものなんだよ。たぶん、今を乗り越えれば、ずいぶん楽になると思うよ。君が、王として、これからちゃんとやってけるか、(ため)されてるんだと思う。」



 翌朝、一人で朝食をすませたレックスは仕事に行った。そのあと、エル達と朝食をすませてもどったきたシエラはライアスに、


「ルナが、お母さんって言う前に、ロイド君、エルとルナにキスしたらしいのよ。」


「キスなら、君がいつもしてるじゃないか。」


「そうなのよね。あれだけしても、なんにもなかったものね。なんか、くやしい。」


「した場所が問題なんじゃないのか。君はどこにしてるんだ。」


「ほっぺた両方と、鼻とくちびるとおでこ。必ず全部。」


 ライアスは、首をかしげた。


「・・・場所は関係ないな。特別な条件でもあるのかな。」


「もう一度、ロイド君に話をきいてみる。やっとつかんだ糸口よ。こっちから、ガンガンせめて、なんとしてもルナを元通りにしてみせるわ。兄様、しばらく、エル達といっしょにいるから、またレックス、おねがいね!」


 シエラは、クローゼットから衣服をひっぱりだした。ササッと着替えをすまし、寝室を出て行く。さっさと仕事を片付けて、または人におしつけて、子供部屋へと直行するつもりらしい。


 ライアスは、やれやれと思った。


(ま、いいか。シエラ、ここんとこ落ち込んでたしな。とりあえず、元気になってよかった。)


 今日は、とりたてて自分が手伝う仕事はない。ヒマついでに、ルーファスの家にでも行って、ダイスの様子でも見てこよう。そしてそのあと、サラサに行って、シゼレをからかってくるか。


 ライアスは、アデレードに会ってみようと思った。霊であるライアスにとり、あの世との行き来は自在だ。


(いや、やめておこう。アデレードに話をきけば、ヒントはわかるかもしれない。けど、シエラが自力でみつけたほうがいい。)


 ライアスは、剣を持ったまま寝室から消えた。そして、ルーファスの屋敷へと現れる。空間も無視できるのが霊存在の特徴だ。しかも、剣があれば、人の目に見えるようにもできる。ごく短時間だが実体化も可能だ。


 ライアスは、ルーファスの家の廊下に現れた。うるさいルーファスはすでに出かけたようで、使用人達が掃除をしたり、忙しく立ち動いている。その中にまじって・・・、いるいる、あいかわらず、この家には変な霊が多い。ライアスの姿を見たとたん、ササッと姿を消すとこなんか、ゴキブリそっくりだ。


(いつきても、波動が悪い家だな。使用人達の顔も暗いし。まあ、主人が主人だからね。)


 使用人が食事をもち、地下へと下がっていった。ライアスは、使用人の体をすりぬけるよう、地下室への階段を飛び降りる。地下室は四つあった。そのうちの左側の手前から声がきこえた。


 ダイスが、目隠しされた女の手をつかんで、何かを懇願(こんがん)している。


「またきてくれるよな。絶対きてくれるよな。」


 女は、少し考え、そしてうなずいた。ダイスは、


「きてくれるんだな。だったら、名前を教えてくれ。首をふるな。なぜ、しゃべってくれない。口がきけないのか。」


 コンコンと扉がなった。食事の時間だ。女は、ダイスの手をすりぬけ、使用人と入れ違いに出て行く。使用人は食事をテーブルに置き、扉のカギをかけ出て行った。天井近くについている窓が、空気の入れかえのために外から開けられた。この窓は構造上、中からは開かない。


 ダイスは、食事を目の前にしてボンヤリしていた。ライアスは、なんともひどい場所に閉じ込められたものだと思った。


 以前、ここでダイスに会った時は、ダイスはもう少し自由だった。家の中を、ぶらついていたのだから。たぶん、使用人の目をぬすみ、レックスに会いに行ったせいだろう。


 ライアスは、ダイスの背後で、ダイスに見えるよう姿を現した。そして、手だけ実体化させ、ダイスの肩をたたく。ダイスは、とつぜん現れた見知らぬ存在に、さして驚かなかった。たぶん、女のことで頭がいっぱいなのだろう。


 ライアスは、


「逃げよう。使用人が時間を見はからって掃除にくるはずだ。ぼくが手引きする。君の弟さんに会わせてあげるよ。」


 ダイスは、ノロノロとライアスに視線をあわせた。


「弟には、もう会ったよ。逃げる? どこへ。おれには逃げ場なんてないんだよ。ルーファスがそう言ってた。それに、あの人が、またきてくれると約束してくれたんだ。」


「ルーファスの言うことなんて、きく必要はない。今すぐ、ここから逃げよう。逃げさえすれば、君の弟さんが守ってくれる。それと、娼婦なんかにのぼせ上がるな。彼女は、目隠しのままここへ運ばれてきて、君の相手をして金をもらってるだけだ。」


 ダイスは、


「夢のような一晩だった。おれは、女にあんなに優しくされたおぼえはない。とてもいい匂いがした。あんな女、はじめてだ。でも、口がきけないなんて、かわいそうだ。」


 ライアスは、あきれた。たった一晩で、娼婦にのぼせあがるなんて。


「しゃべらないのは、娼婦に君の事を知られないようにするためだ。娼婦は、この部屋に入っても、封印つきの目隠しをしていた。君を見るな、話すな、興味を持つな、ただ相手をしろ、娼婦にとって、君は高額な金づるにすぎないんだよ。」


 ダイスは、すわっていたイスをもちあげ、ライアスになぐりかかった。ライアスは、イスがあたる瞬間消えた。イスは、そのまま床にたたきつけられ、足が一本折れてしまった。


 ダイスは、室内をキョロキョロした。そして、頭と顔を両手でゴシゴシし、乱れたベッドにすわる。やってきた使用人は、室内を掃除し、足の折れたイスを廊下に出し、手のつけられていない食事を下げ、そしてカギをかけた。


 ダイスの頭上で、バタンバタンと窓が閉められる音がきこえた。ダイスは、からっぽになった、ベッドを見つめた。シーツについた口紅をみて、急にさみしさがこみあげてくる。


 ここは地獄だ。だれも、ダイスに救いの手をさしのべてくれない、孤独地獄そのものだ。ルーファスの家にきていらい、外出を禁止された軟禁(なんきん)生活が続いていた。そのかん、この家の使用人達は、ダイスにかかわろうとはしなかった。


 話し相手もなくすごす、たえがたい日常。もう、限界だと感じ、使用人達の目を盗み、弟に会いに行った。だが、どうしても声をかけられなかった。あまりにも違いすぎる境遇(きょうぐう)にダイスはおしつぶされ、みじめったらしく弟の姿を追いかけるしかなかった。


 そして、この牢獄。絶望しかけたダイスを救ったのは、あのまばゆいばかりの女神だ。


 会いたい、あの女に会いたい。目隠しをとり、美しい笑顔を見たい。たえきれない思いが、ダイスの体をむしばみ、ダイスは思いっきり壁をたたいた。そして、大声をあげる。


 ダイスは暴れた。だが、だれもこなかった。主人であるルーファスは、ダイスが逃げようとして大声をだそうが何をしようが、命に危険がないかぎり、無視しろと言っていたからだ。



 ライアスは、サラサ宮殿にやってきた。宮殿内は、バタバタしている。何事(なにごと)かとシゼレの執務室に顔を出すと、シゼレは宮殿内のさわぎなど関係ないかのように仕事に没頭(ぼっとう)していた。


 シゼレは、すぐにライアスに気がついたが、まだよく見えないようで右目をこすっている。ライアスは、剣をつかい見えるようにした。


「さわがしいようだが、何かあったのか。」


 シゼレは、ライアスの姿が見えたとたん、書類に目をもどした。


「妻のサラの陣痛(じんつう)が始まったんです。」


「さすが、三人目ともなると落ちついているね。男、女、三番目はどっちがいい?」


「用事はなんですか。」


 ライアスは、シゼレの机に手をかけ、自分を無視している弟の顔をのぞきこんだ。


「いかにも、ぼくを追い出したがってるね。まあいい。話は二つある。一つは、娘のことだ。君もきいてるはずだよ。」


「娼婦の娘ですか。まあ、シエラらしいと思いますよ。でも、養子はどうかと思いますね。そばに置くだけなら、ともかくとして。」


「アデレードの娘なんだよ。ほら、シエラの侍女で友達だった。マーレルに嫁に行って、夫が死んで生活にこまって娼婦なんて始めたんだよ。それで病気になって死んだ。」


 シゼレは、ペンの動きをとめた。ライアスは、机からはなれた。


「まあ、そういうことだ。シエラからいずれ、そのことで手紙がとどくだろうけど、暖かく見守ってやってくれ。それと、あと一つ。マーレルには、シエラを女王として即位させようと考えている者がいる。もし、その者が、法王に即位の件で話を持っていったとしても、法王には、いっさい乗るなと、君からつたえておいてくれないか。シエラは、王は一人だと言ってる。」


「私としては、夫婦二人、王と女王として、マーレルで君臨(くんりん)しているほうが、シエラの地位も安定すると考えて、法王に養子をたのみましたが、シエラがそう考えているのでしたら、シエラの思いを大事にします。すぐにでも、手紙をベルセアに送りましょう。」


「たのむ。」

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