表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
千年王国ものがたりエイシア創記  作者: みづきゆう
第四章、白銀の少女
61/174

つぎのお話、魔法をかけられた女の子(2)

 必要なのは、理解力のある侍女ばかりではない。安心して、マーレル公の仕事をまかせられる者もだ。しばらく仕事を休んでいるので、仕事もたまっている。休みは、明日までが限界だろう。


(エリオットは優秀だけど、これ以上の仕事は物理的に無理だわ。私も、もう仕事を休んではいられない。でもルナも心配だし、体がひきさかれそう。仕事を持つ母親って、みんなこうなのかな。みんな、きっと悩んでんだろうな。)


 シエラは、ため息をつきつつ、子供部屋へともどった。だが、援軍は、思わぬところからやってくるものである。それから、半月たち、宮殿に法王からの使者がやってきた。


 レックスは留守だったので、使者はマーレル公の執務室に通された。シエラは、びっくりした。


「よぉ、シエラ。久しぶり。元気してた。何、そんなにびっくりしてんだよ。おれのこと、忘れたのかよ。ほら、ロイドだよ。ロイド・ゼスタ。カイルの領主のセシルの弟。マデラで、プロポーズしたの、わすれちまったかよ。」


「ロ、ロイド君。ほんとにロイド君。あんまり、変わってなくて、そっちでおどろいちゃった。」


 ロイドは、ムッとした。


「悪かったな。背、のびなくてさ。死んだ親父がチビだったから似たんだよ。」


「なぜ、ロイド君が法王様の御使者なの。」


 ロイドは、(ふところ)から手紙を出した。


「これ、養子縁組書。法王直筆のやつだ。しかも、養子縁組は、グラセンのジーサンとクリストンのあんちゃんの尽力(じんりょく)もあって、国教会で正式に認可されたんだ。これで、法王が代わっても、シエラの身は安泰(あんたい)だ。


 おれ、この書類をベルセアから大事に肌身はなさず、もってきたんだぜ。なあ、シエラ。養子ついでに、いっそのこと女王に即位しちまえよ。王位継承権は持ってるし、法王の後ろ盾があれば、できるはずだ。」


「即位なんて、大げさだよ。私、女王様になる気ないもん。法王様に養子にしてもらっただけで、じゅうぶんよ。けど、なぜロイド君が使者なの。それと、後ろにいらっしゃる女性は?」


 ロイドは、扉のそばで静かにひかえている女性に視線をうつした。二十代後半だろう。おちついた感じの上品な女性だった。


「ああ、グラセンのジーサンからあずかったんだ。教育係りにどうかって。彼女、教養がそうとうあるんだぜ。」


「なんだ、ロイド君の奥様じゃなかったのね。そっちもびっくりした。ロイド君て、年上好みなんじゃないかと思ってたから。」


 ロイドは、またムッとした。


「おれ、いまだにシエラ一筋なんだよ。なんで、おれが使者やったかって? てっとり早く言うが、ベルセアから女おしつけられてこまって、グラセンのジーサンに相談に行ったんだよ。


 そしたら、法王の使者として、マーレル行けと言われた。この女、つれてな。書類は、大事なモンだから、他のやつらには(たの)みたくなかったって。シエラの母親の実家が、使者に名乗りをあげてたらしいが、ジーサンが横から書類をぶんどったってさ。」


「あの、わかった。そちらの方、紹介してくれないかな。お名前は。」


 女性は、ジョゼフィーヌと名乗った。そして、グラセンからの紹介状をシエラにわたす。紹介状を呼んだシエラは微笑(ほほえ)みながら、目の前の女性を見つめた。


「きてくれてありがとう。歓迎します。でも、教育係りじゃくて、養育係りね。エルはまだ三歳だし、それに、見てほしい子もいるのよ。くわしい説明は、ミランダと言う侍女にきいてくれる。仕事は、明日からでいいかな、ジョゼフィーヌさん。」


「はい、よろこんで。行き場のない私をやとっていただけるだけで、とても光栄です。王妃様、ジョゼと呼んでください。ジョゼで、けっこうです。」


「わかったわ、ジョゼさんでいいのね。」


 シエラは、使用人を呼んで、ジョゼを王家の居住区に案内するよう言った。



 ジョゼがいなくなったあと、ロイドはシエラに、ジョゼの事情を話した。


「ジョゼは、ベルセアからゼルムの貴族の家に嫁に行ったんだ。去年の夏、だんなが死んでさ、子供もいなかったし、ベルセアに帰されちまったって、ジーサン言ってたよ。


 けど、実家がジョゼを受け入れてくれなくてさ。それで、グラセンが面倒みてたんだ。気立てがよくて優しい女なのに、出戻(でもど)りだってだけで、実家から見捨てられたんだ。まあ、年齢的にみて、またどこかに嫁に出すなんて、むずかしいもんな。それに、再婚になっちまうしさ。」


 ジョゼのような境遇(きょうぐう)の女性は、めずらしくなかった。だから、グラセンは、ジョゼを紹介したのだろう。


 シエラはあえて、その事にはふれなかった。


「グラセン様に、お礼の手紙、書かなきゃね。いい人、紹介してくれてさ。ちょうどよかったの。ミランダの代わりになる人、さがしてたんだ。」


「ミランダって、あの黒髪のねーちゃんか。きっつそうな。」


「うん。もう妊娠六ヵ月になるの。そろそろ休ませてあげたかったんだ。ところで、ロイド君。すぐにカイルに帰るの?」


「結婚がいやで、カイルから逃げ出したんだよ。マーレルの寄宿学校にもどって、ちゃんと卒業しようかって考えている。バテントスのせいで、学業中断されてるしさ。まあ、学生なら、無理に結婚しなくてもいいし。」


 ライアスが、現れた。


(兄様、今までどこに行ってたの。ベルセアから使者がきてくれたのよ。法王様の書類持ってさ。その使者って、ロイド君だったのよ。ほら、セシル様の弟さんの。グラセン様から教育係りの女性を紹介してもらったわ。)


「ああ、さっきエルの顔を見に行ったら、見知らぬ女性がいたね。」


(彼女、ジョゼフィーヌさんって言うの。見た感じ、どうだった。)


「グラセンの紹介なら心配ないよ。ぼく達のことを知ったとしても、理解をしめしてくれるはずだ。それよりも、シエラ。ロイドを助手としてやとってみよう。」


 シエラは、びっくりした。


(ロイド君を? でも、学校もどるって言ってるわよ。学生さんを助手になんて、できないわ。学業が先だしさ。)


「ロイドはもう、大人だ。いまさら、寄宿学校もどっても退屈だろう。退屈ついでに、ロイドにしつこくされるくらいなら、仕事をあずけてしまったほうがいい。」


(何させればいいの。サイン仕事のお手伝い?)


「昔、バテントスを追っ払うって息巻いてたろ。警察がいいんじゃないか。ロイドは自信家で、鼻っ柱が強いしね。」


 シエラは、ちょっと考えた。ロイドは、


「おい、シエラ。何、ぼんやりしてんだ。おれの話きいてんのか。」


「あ、ううん。ごめん、なんの話してたっけ。」


「つかれてんのかよ。まあ、子育てに仕事だもんな。なんか、手伝ってやろうか。おれ、学校だけじゃあヒマだと思うから。」


 ライアスは、チャンスだとシエラの肩をたたいた。シエラは、


「手伝ってくれるの? うれしい。そうだ、ロイド君。警察の仕事なんてどうかしら。いま、暴力団の取締りしてんだ。マーレル公の警察の特権、ロイド君にあずけるから、私の代わりにやってくれないかな。お給料、出すからさ。」


 ロイドは、身を乗り出した。


「警察の特権? つまり、警察を自由に動かしていいってことかよ。なんか、おもしろそうだな。うん、やるやる。カイルから仕送(しおく)りもらうよりも、自分で生活費と学費かせいだほうがいい。」


 シエラは、背後にいるライアスをチラと見た。シエラは、


(兄様、ほんとに大丈夫なの。ロイド君、セシル様のお手伝いはしたことあるけど、暴力団の取締りなんてできるかな。あらっぽいしさ。)


 ライアスは、笑った。


「最初は、指示が必要だろうけど心配ないと思う。卒業したら、セシルと交渉して、大使にでも任命(にんめい)してもらって、実質、カイルから引き抜いたほうがいい。」


「シエラ、何、ぶつくさ、独り言いってんだよ。話が終ったから、お前の息子に会わせてくれよ。すんごい、きれいな子だって、マデラでも評判だからさ。」


 シエラは、席をたった。


「じゃ、行こう。ちょうど昼休みの時間だしさ。ジョゼさんにも、いろいろとお願いしたいこともあるしね。」


 二人は、居住区にある子供部屋へと向かった。ジョゼフィーヌは子供部屋で、ミランダからいろいろと説明を受けている最中だった。シエラは、ジョゼに、ルナのこともふくめて、いくつか願い事をし、ミランダとジョゼを宮殿にある従業員用食堂に行かせた。


 ロイドは、エルをだきあげた。


「うひょー、かーわいい。思ってたとおりだぜ。シエラそっくりだ。かしこそうなとことかさ。おれ、子供が産まれるってんで、女の子かと期待してたんだぜ。将来、嫁さんにしようかと思ってさ。」


「それってひょっとして、私がダメだったから私の娘ってこと。」


 ロイドは、エルをおろした。


「シエラ一筋だって言ったじゃないか。だから、シエラの娘以外、結婚する気はないんだよ。シエラ、早く女の子産んでくれよ。楽しみにしてんだ。あ、いるじゃないか、すでに一人。」


 ロイドは、窓際のルナを見つめた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ