はじめのお話、銀色の髪の女の子(1)
むかーし、むかし、銀色の髪をもつ女の子がいました。女の子は、森にある家にひとりですんでいました。女の子には、お父さんとお母さんはいません。二人とも、悪い魔法使いにだまされて、どこか遠くへと連れさられてしまったからです。
でも、女の子は、さびしくありませんでした。なぜなら、女の子には、お友達がたくさんいたからです。女の子は、森にすんでいたので、女の子のまわりには、いつも小鳥やリス、そして、森の動物達がたくさんいました。
ある日、女の子の家に、良い魔女がたずねてきました。良い魔女は、魔法の道具をつくるために、女の子の銀色の髪をほしがっていました。
女の子の髪は、とてもきれいな銀色だったので、良い魔女は、女の子がたのみをきいてくれるか心配だったのですが、女の子は、すなおに魔女のたのみをきいてくれ、髪を切ってくれたのです。
すっかり短くなった女の子の髪を見た良い魔女はとても感謝し、お礼に、三つだけ、お願いをかなえてくれる魔法の人形を、女の子にあげました。
女の子は、お人形に両親にあいたいと願いました。人形は、女の子の願いをきき、両親のもとへと連れていってくれました。
両親は、悪い魔法使いの島で働かされていたのです。悪い魔法使いは、自分の島にお城をつくろうとして、たくさんの人をさらってきて、島で働かせていました。
女の子は両親に逃げようと言いました。でも、両親は、足をくさりにつながれていたので逃げられません。
女の子は、お人形に足のくさりをほどいてほしいとお願いしました。くさりは切れました。けど、悪い魔法使いに見つかってしまいました。女の子は、良い魔女にたすけてくれと、人形に最後の願いをしました。
悪い魔法使いは、良い魔女にたおされました。女の子は、良い魔女に、たすけてくれたお礼を言いました。そして、良い魔女は去っていきました。三つの願いをかなえた人形は力を失い、ただの人形になってしまいました。
女の子は、最後の一つの願いは、両親と森の家に帰ることだったのです。島から、森の家に帰るには、海をわたらなければなりません。
気落ちしている女の子に、両親は、ここにいるみんなで力を合わせて、大きな船をつくって帰ればいいと元気づけました。
そして、大きな船はできあがり、女の子と両親は森の家に帰り、動物達といつまでも楽しくくらしました。
おしまい。
シエラは、絵本をとじた。
「寝る前のお話はおしまい。おやすみなさい、エルシオン。」
ベッドのなかの小さな男の子が、シエラの手をつかんだ。
「ねぇ、お母さん。銀色の髪の女の子って、なんて名前? お話には名前なかったよ。」
シエラは、
「さあね。絵本には、銀色の髪の女の子としかないもの。そうだ、エルがつけてあげてよ。すてきな名前をね。」
エルシオンは、自分の前髪をひっぱった。父親とよく似た、あざやかな金髪である。
「エルの髪、金色で、絵本の女の子は、銀色なんでしょ。父ちゃん、エルのこと、太陽だって言ってたよ。ルナってどう。月って意味なんでしょ。」
金色と銀色。太陽と月。エルシオンは三歳だ。髪も瞳も、そして姿かたちも父親ゆずりで、とても美しい男の子だ。シエラは、ほほえんだ。
「ルナね。とてもすてきな名前よ。絵本の女の子も、きっと喜んでいるわ。でもどうして、ルナが月だって知ってるの。」
「父ちゃんに勉強教えてるハゲ先生から、教えてもらったの。エルが月が好きだって言ったから。」
シエラは苦笑した。ハゲ先生とは、国立図書館長モーガンのことだ。モーガンは、レックスに学問を教えるために、週に一度に宮殿にきてくれている。レックスは、モーガンを、陰でハゲ先生と呼んでいたので、エルがそういう名前だと思い込んでしまったらしい。
「モーガン先生よ。ハゲ先生なんて、失礼なことを言っちゃだめ。あとで、お父さんにちゃんと言っておくからね。おやすみ、エルシオン。」
シエラは、子供のやわらかなほっぺたにキスをした。そして、髪をなでつつ、子供が寝付くのを待つ。エルシオンは、すぐにスヤスヤと眠ってしまった。シエラは、子供の寝室を出た。
(エルは、かしこい子供だって、みんな言ってる。私もそう思うし、そろそろ、家庭教師でもつけようかな。でもまだ三歳だしな。家庭教師よりも、遊び相手のほうがいいのかな。)
見た目は、レックスそっくりなのに、唯一似てないのが、頭だ。毎週きているモーガンも、レックスのものおぼえの悪さには、ほとほと手をやいている。それに引きかえ、エルシオンは、教えた事は砂が水を吸い込むよう、どんどん覚えていく。
(レックスに似たのが見た目だけで、本当によかった。頭の悪さまで似なくてさ。子供には、親の良いとこだけ似ててほしいものね。)
レックスも、マーレルにきたばかりのころは、少しでも劣等感を克服しようと努力していたが、最近では、あきらめたらしく開き直ってしまっている。
(まあ、ライアス兄様を、レックスに入れさえすれば、頭の悪さなんて、どうでもよくなるしね。レックスもライアス兄様に、たよりきっちゃってるしさ。けど、ライアス兄様、レックスを甘やかしすぎ。たのまれれば、すぐに助けちゃうし。)
シエラは、国王夫妻の寝室へともどってきた。そして、あくびをしつつ、室内を見回す。広い室内には、寒さよけのカーテンで覆われたベッドが二つと、豪華なテーブル、机、本棚、そして、壁を一面使って設置されているクローゼット、大きな鏡、その他小物入れなどが、いくつも並んでいた。
レックスは、すでに帰ってきており、もう寝ていた。明日から開催される国会の準備で、ここ数日、夜遅くまで宮殿の執務室で、側近達とがんばっていたので、つかれきっているようだ。
「お帰り、シエラ。エルは、やっと寝たかい。」
ライアスは、ほほ笑みながら、シエラのそばへとやってきた。シエラは、
「今日は早かったわね。明日からの国会での答弁、だいしょうぶかな。」
「まあ、つめるとこまでつめたしね。ぼくが援護しなくても、ある程度までは、彼一人でもなんとかなるはずだ。いざとなったら、ぼくが交代するけどね。」
「ねぇ、兄様。レックスを助けるの、やめたら。マーレルきて、もう四年よ。そろそろ、国王として自立させなきゃ。」
「そうもいかないよ。レックスが国王になって、まだ四年しかたってないんだよ。王の教育は、本来王家で育ちながら行われるものだ。レックスは、その過程をふんでない。運び屋の青年が、いきなり王になったんだ。まだ、時間は必要だよ。」
「私が心配してるのは、めんどくさいことは、兄様におしつければいいって、レックスが考えるように、なっちゃうかもしれないってこと。兄様、すぐにレックス、甘やかしちゃうしさ。」
ライアスは、クスリと笑った。
「自分の夫を、もう少し信頼してやれよ。最初はともかくとして、このごろは自分で判断していることが多いんだ。明日からの国会も、できるだけ、彼自身でやらせるつもり。」
「前の国会で、国会議事長のルーファスと大ゲンカしたじゃない。レックスとルーファス議事長って、相性が悪いのよね。性格があわないのかしら。いつも、ケンカ越しになっちゃうしさ。副議のフライスさんとは、うまくやれるのに。」
「ルーファスは、ぼくが昔会った時も、ああだったよ。いきなり、ケンカ越しでさ。こっちもカッとなったし、ぼくの付き人がおさえてくれなかったら、殴りかかってたかもしれない。
今になって考えてみると、彼も苦労したんだよね。女王死後、ボロボロになったマーレルを、一人で支えてたんだものね。おぼえている? ぼく達が、マーレルきたとき、この町はひどかったよね。」
レックスとシエラが王と王妃として、マーレルに帰国したとき、町は最悪と言ってもよいくらいだった。レックスは紅竜で町へと入り、妊娠中のシエラは馬車だった。
そのシエラが乗る馬車に、石が投げつけられたのである。警護していたダリウス軍の騎兵隊が、あわてて馬車をかこんだので、それ以上の石はとんでこなかったが、ドーリア公の娘への感情が、もろにあらわれた形になり、ショックを受けたシエラは、つわりがもどってしまった。
おまけに、奇跡を見せろとか、双頭の白竜はつれてこないのとか、なぜ今まで、かくれていたのとか、いまさら王なんていらないとか、歓迎の声よりも、そっちのほうが多かった。
しかも、出迎えた国会議事長のルーファスは、レックスの中身を一発で見抜き、そばにいたフライスに、ほんとにこの青年が、バテントスを撃退した奇跡の王なのかと、たずねたくらいだ。
それから二年近く、二人は、マーレルの洗礼を受け続けていた。もし、そばにライアスという存在がいなかったら、とても、対処しきれるものではなかったろう。やっと落ちつき始めたのは、三年目に入ってからだった。
シエラは、
「最初は、レックスの妻としてすら認めてもらえなかった。エルが産まれて、やっと少しずつ認められてきたけど、いまだに王妃として認めらてもらえないし、ダリウスの姓すら名乗らせてもらえない。
だから、シエラ・マーレル・レイ公爵。国王レックスの妻、マーレル公、それが私。別にそれはかまわないの。もうなれたことだしね。それに、兄様が私の体を使ってがんばってくれたおかげで、このマーレルで、政治的な居場所もできたし、それができたことにより、私は以前ほど人々から軽んじられることもなくなった。
だから、兄様には感謝してる。ううん、感謝しつくせない。レックスよりも、私のほうがたすけられてた。ごめん、甘やかしてるなんて言って。私もレックスも、兄様からみたら、まだまだ未熟なのよね。」
「そんなことはないよ。君達はがんばってるじゃないか。」
ライアスは、ベッドで、のんきに寝ているレックスを見つめた。
「レックスは強いよ。いろいろあっても、何を言われても、笑っていられるもの。いやなことがあっても、次の日には忘れているしさ。ぼくだったら、ひきずってしまうけどもね。」
「兄様、まだレックスのこと、愛している?」
ライアスは、
「あの時のことがなかったら、ぼくはいまだに、暗い過去を引きずっていたかもしれない。レックスから、人を愛し、信頼する意味を教えてもらったからこそ、ぼくはこうして、君達のそばにいて、そして幸せでいられる。
レックスは、エルを自分の太陽だと言ってるけど、ぼくの太陽はレックスだ。あの苦しかったころと同じように、いまでも、ぼくを照らし続けてくれている。
愛してるよ、何一つかわらず。そして、君のこともね。君は、ぼくにとっては、月だ。闇夜をてらしてくれる月なんだよ。」
ライアスはシエラにキスをした。そして、お休みとシエラの心にもぐりこんでしまう。すぐに眠ってしまったようだ。シエラは、いびきをかき始めたレックスの鼻をつまんだ。いびきがおさまる。シエラは、フフと笑い、寝てしまった。