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千年王国ものがたりエイシア創記  作者: みづきゆう
第三章、双頭の白竜
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十、ライアス(1)

 すべての処理を終えたレックスは、平穏(へいおん)になったサラサ宮殿で、シエラと久しぶりにゆっくりしていた。


「ったく、ニキスでは、はでな大芝居うちやがって。みんな、だましてさ。何が伝説の女王だ。こっちが、はずかしかったよ。」


「だましてなんかいないよ。ぼくが伝説の女王なんだもの。本物がやったんだし、芝居とは言わないよ。」


「東側諸部族のよせ集めの軍だときいたから、あんなことをしたのか。これ以上、犠牲をだして、せっかくの同盟をこわしたくなかったのか。」


 シエラは、笑った。


「まあね。あんなバケモノ出されたら、どのみち勝ち目はないもんね。でも、よかったね。君はこれでどうどうとマーレルへ帰れる。奇跡の英雄王という、おまけつきでね。マーレルの古株達も、これで君を大事にすると思うよ。」


「ハデにやってくれたおかげで、なんか、すごい借金、せおったみたいだ。返済は高くつきそうだな、いろんな意味で。」


「ぼくもいっしょに返してあげるよ。二人で返そう。」


「お前がつくった借金じゃないか。あたりまえだ。」


 

 サラサは、おちつきを見せ始めていた。そして、エリオットがケラータからかけつけ、シゼレも妻の出産を待ち、サラサへとやってきた。


 シゼレの子は、男の子だった。シゼレは、出産が終わったばかりの妻と子供を、ケラータに残してきたので、春になったらむかえに行くと言っていた。シエラは、レックスを領主とし、シゼレを補佐につけ、この二人に仕事を教え始めた。


 やがて、春となり、マーレルから使者がやってきた。宮殿の補修をおえたので、いつでもどうぞ、マーレルは王の帰国を心待ちにしております、とのことだった。


 シエラの体には、新しい命がやどっていた。レックスは、帰国をのばそうかと言う。シエラは首をふった。


「産まれるのは、まだ先だよ。奇跡の英雄王という、(にしき)御旗(みはた)がある今をのがして、帰国のチャンスはない。」


「でもまた、流産したらどうすんだ。ひどい出血だったし、死ぬかと思った。」


 シエラは、お腹をなでた。


「以前ほど、つわりはひどくはない。安定期を待って、ゆっくりと帰れば、大丈夫。」


 レックスは、そうかと言った。シエラは、


「ぼく達、愛し合ったよね。すごく愛し合ったよね。ずっと愛し合っていたよね。」


「ああ、そうだな。その証拠が今、お前の腹の中にいるだろ。」


「・・・そろそろ、いいころだと思う。君に見てもらいたいものがあるんだ。ううん、見なければいけないこと。ごめん、ぼくは自分の過去について、なんどかウソをついていた。君に知ってほしくない事実が、ありすぎたから。」


 レックスは、どういうことだときく。シエラは、


「ぼくの過去であるライアスは、善人ではなかったんだよ。かなり、悪どいこともした。シエラを苦しませるようなこともしたんだ。シゼレが、ぼくをきらっても当然のようにね。今から、君を過去へと送るよ。あの世と呼ばれる世界を通して、君を過去へと飛ばすから。そこで真実を知ればいい。」


「過去へ飛ばす? そんなことができるのかよ。過去が変わっちまうぞ。」


「変わらない。こっちで、君の動きをコントロールするから。それに、君を飛ばすといっても意識だけだ。肉体は、ここに置いておくんだよ。つまり、通常の人間には、君の姿は見えないんだ。霊能者であるライアスにしか見えないんだよ。」


「何もそこまでして、行く必要ないんじゃないか。お前は、お前だしな。今さら過去を知っても、どうにもならないだろうし。」


 シエラは、目をとじた。


「君には必要なくても、ライアスには必要なんだよ。ライアスを救ったのは、君なんだから。でなきゃ、シエラにとりついてまで、君に会いに行かない。」


「ライアスを救った? 地獄から連れもどした時のことを言ってるのかよ。」


「救ったのは、人間として生きていたころのライアス。」


「なんか、つらそうだな。そこまでして、やることはないと思うが。おれだって、自分の過去を人に見せたいとは思わないしな。はずかしいこともあるしさ。」


 シエラは、レックスの手をにぎった。


「愛しているから、知ってほしいんだよ。君に、ぼくのすべてを。おねがい、過去のぼくを救って。君でなきゃ、ぼくは救えないんだ。」


「わかった。お前がそこまで言うんならな。やれるだけ、やってみるよ。けど、お前、霊力不足してるんじゃなかったのか。できるのかよ。」


「妊娠したら、霊力がもどってきたんだ。剣を使い、ベルセアの援護(えんご)があれば、過去に飛ばせる。やるなら今しか、チャンスはない。マーレルに帰る前の今しかね。」


 シエラは、王家の剣を持ち、剣先をレックスのひたいに軽くあてた。


「じゃ、やるよ。気持ちを楽にして。少し、目まいがするかもしれない。」


 シエラの顔が、ゆがんだように見えた。目まいがし足元がゆらぐ。意識がスーッと肉体からはなれ、トンネルのようなものに吸いこまれていく感じがし、気がつくと、明るい林の中にたおれていた。


(頭が、クラクラする。気持ち悪い。ここはどこだ。過去なのか。)


 レックスは、起き上がろうとした。おい、と声をかけられる。小さな子供の足が見えた。


「お前、見かけない顔だな。なんでこんなとこでひっくり返ってるんだ。」


 レックスは、まだフラつく頭で上半身をおこし、子供を見た。


 金髪のサラリとしたロングヘアーの、実にきれいな女の子だった。青い瞳が、きらきらしている。七歳か八歳くらいだろう。レックスは、


「女の子が一人でこんな林にいるとあぶないぞ。家はどこだ。送ってってやろうか。」


 子供は、ムッとした。


「ぼくは、女の子じゃない。ここの領主の息子のライアスだ。無礼者!」


 レックスは、目を丸くした。


「ライアス、お前が? どう見たって女じゃないか。」


 子供は、レックスの顔に平手打ちをした。子供なのに、やたら痛い。レックスは、まちがいないと確信した。この痛み、この前なぐられた感じと、よく似ている。声をききつけた護衛の兵士が、走ってきた。


 レックスは、やばいと思ったが、かけつけてきた兵士には、どうやら見えないようで、ライアスと少し話をしただけではなれていった。ライアスは、


「ここは、宮殿のそばにある裏山だ。ぼくの遊び場。兵士が君に気がつかなかったということは、君は霊だな。こんな山の中に現れるなんて、悪霊(あくれい)だろ。」


「だれが、悪霊だ。おれのどこが悪霊に見える。たしかに霊には違いないが、もちょっとマシな霊だ。」


 ライアスは、ポンポンとレックスの頭をたたいた。そして、レックスの顔を見て、


「霊といっても、君は肉体に近いな。ぼくは、死んだ直後の霊だったら、さわることができるんだよ。死んだ直後の霊は、物質に近い、幽体という(ころも)をまとっているからね。君のは、そんな手ざわりがする。」


 レックスは、よくそこまでわかるものだと感心した。ライアスは、


「悪さしないようだから、ぼくの家来にしてやる。この前、家来にしてたのは、向こうの世界に逝ったから、ちょうどいい。名前は。」


 レックスは、あきれた。幽霊を家来にするなんて、普通じゃ考えられない。どきょうがいいと言うか、なんと言うか、すごい子供だ。でも、つごうがいい。


「レオンだ。名前は、レオン。」


 レックスは、マーレルに行った時に使った偽名を使った。子供は、


「レオンか。執事が家で飼っているネコと同じ名前だな。けど、ネコじゃあ、かっこつかないから、お前をぼくの番犬にする。ついてこい、番犬レオン。」


「おい、だれが番犬だ。家来じゃなかったのか。」


「人間じゃないもの。家来でも番犬でも、どっちでもかまわないだろう。どうせ、他人には見えないんだしさ。不自由だったら、そこらの犬にでも乗り移ればいいよ。そしたら、ちゃんとした番犬になれるからさ。」


 子供は、さっさと行ってしまった。レックスは、なんちゅうガキだと思った。今のあいつに、なんとなく通じるものがあって、よけい腹が立ってしまう。


 レックスは、子供といっしょに宮殿へと入った。ずらりと使用人がならぶ。子供は、使用人を無視するかのよう、ごうまんに進んでいった。


 この当時のライアスは、父ドーリア公の期待の星だった。おまけに神童で美少年だったから、()(ぜん)()(ぜん)もしかたなく、いい気になって、いばっていてもおかしくない。


 ライアスは、ある扉をノックした。そして、中へと入る。おちついた感じの女性が、黒い髪の男の子と遊んでいた。


「母上、もどりました。シゼレは、目をさましたようですね。ぼくが、相手をしましょうか。」


「外からもどったのなら、着がえをすまさないうちは、この部屋に入ってはいけないと、なんども申したでしょう。シゼレは、体が弱いのです。また、熱をだしたらどうするのです。」


「もうしわけございません。出直してまいります。」


「そろそろ、勉学の時間です。教師を待たせてはいけません。」


「わかりました。母上。」


 ライアスは、しょんぼりとして、母親の部屋から出て行った。母親は、あきらかにライアスをさけている。経緯を考えれば、無理もないことだろう。


 ライアスは、


「レオン。ぼくはこれから勉強する。お前も、そばで静かにきくんだ。」


「なんで、おれが。庭でもブラついてるよ。お前が勉強終るまでさ。」


「そのバカづらを、なんとかしろと言ってるんだ。かしこくなったら、家来に格上げしてやるからさ。」


 やたら、腹が立つ。勝手に家来なり、番犬なりにしておいて、あげくにバカあつかいか。子供は、フッと笑った。


「そんなに怒るなよ。君、見た目がすごくいいもん。かっこよくってさ。ぼくが、女の子だったら、君にイチコロになってたとこだよ。」


「だから、中身を見た目にあわせろってのかよ。悪かったな、おれなんて、見た目だけの男だよ。でもイチコロなんて、お前、ずいぶんマセたこと言うな。好きな子でもいるのかよ。」


 ライアスは、首をふった。首の動きにあわせて、フワリとまう髪。レックスは、あれ?と思った。ライアスは短かった。でも、このライアスは髪が長い。


 ライアスは、レックスの髪を見つめた。


「君の髪の色、ダリウス・カラーだね。すごくいい色をしている。ぼくの髪もダリウス・カラーなんだ。マーレルのおじい様と同じ色だって、父上がじまんしてた。家族で金色なのは、ぼくだけなんだよ。でも、もうちょっと色があざやかだったらな、って、ときどき思うんだ。」


 ライアスは、着がえをすまし、家庭教師を私室へと呼んだ。そして、勉強が始まり、レックスはすっかり退屈している。


 レックスは、ドーリア公に会ってみようと思った。

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