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千年王国ものがたりエイシア創記  作者: みづきゆう
第三章、双頭の白竜
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八、サラサへ(1)

 ノームには、しばらくとどまることにした。バテントスに荒らされた町を、一日でも早く復興させ、サラサへの足場として機能させるためだ。そして、傷ついた住民の救済。


 そのための必要な物資は、すべてケラータから調達していた。ノームには、続々と物資が運びこまれてきている。これだけの物資をてぎわよくノームへと送るには、そうとうな手腕を必要とするはずだ。


 たぶん、シゼレがケラータの有力者達に、常時、働きかけているのだろう。臨時政府だけでは、これだけの物資を集めるなんて到底無理だ。城壁の上から、物資の運びこみにいそがしい兵士達の姿を見つつ、シエラはそう考えていた。


(シゼレのやつが、ここまでやれる男だったなんてな。甘ったれて、すぐにグズグズ泣いてた昔がウソのようだ。まあ、これだったなら、領主をまかせても安心だろう。)


 兵士が、やってきた。


「ここにおいでだったのですか、シエラ様。陛下がお呼びです。急いで城におもどりください。」


 シエラは、城壁からおりた。城の執務室では、レックスとともに、やたら背の高い娘が、シエラを待っていた。レックスは、


「ここの城主の娘で、エドナって言うんだ。この城で財務を手伝ってるって。お前の秘書にいいんじゃないかと思ってさ。」


 娘は近眼らしく、メガネをかけていた。歳は、シエラよりも少し上か。着ている服装も実用的なもので、城主の娘らしいおしゃれは、いっさいしてない。


 シエラは、エドナにいくつかの質問をした。エドナは、てきぱきとこたえる。


「合格。エドナとか言ったな。今は戦時中だ。サラサを奪還してから連絡するから、それまで、ここで待機していてくれ。」


 エドナは、


「私、戦争なんてこわくはありません。やとっていただけるのなら、どこへでもついていきます。私、医療(いりょう)のまねごとができますので、秘書がまだ必要ではありませんでしたら、医療班にくわえてください。」


「しかし、若い女性を軍にくわえるのもな。野獣の群れに、おくようなものだし。」


「あら、姫様も御結婚なさっているとはいえ、若い女性でしょう。私、腕にある程度おぼえがありますから、そこらの男なんかには負けません。おそわれたら、股間を人質にとるくらい、平気でできます。」


 レックスとシエラは、顔を見合わせた。上品な見かけとは違い、性格はかなりのもののようだ。


「わかった、そこまで言うのならな。とりあえず、ぼくの侍女のミランダに引き合わせよう。彼女から、いろいろと説明をうけてくれ。」


「はい、かしこまりました。」


 エドナは、二人におじぎをし、部屋を出て行った。そして、すぐに廊下から、キャー、やったやった、あこがれのマーレル・レイ、という奇声がきこえてくる。どうやら、シエラの秘書イコール、マーレル・レイという構図があったようだ。


 レックスは、


「マーレルに行きたいために秘書になったのかよ。あきれた。」


「彼女はかなり優秀な女性だ。ノームじゃ、たいくつなんだろうな。それに、君に色目なんて使わなかったしさ。」


「色目? なんだそりゃ。なんで、おれなんかに色目使うんだよ。結婚してるのにさ。」


「ケラータで、女どもに、さんざん色目使われたの、気がついてなかったのかよ。君は、自分がどれだけ見た目がいいのか、本当に理解してんのか。こっちは、いらいらしてたんだぞ。」


「いらいらって、ひょっとしてヤキモチやいてんのかよ。それって、おれのこと、好きってこと? お前が?」


 レックスは、平手打ちをくらった。シエラは、怒ってしまい部屋から出て行く。


 その夜、シエラは寝付けず、城のバルコニーでぼんやりしていた。エッジが、バルコニーにのぼってくる。シエラは、


「あいかわらず、わけのわからない所から顔を出すんだな。階段があるだろうか。」


「城にきたら、ちょうど真下から顔が見えたんで。きいてくれよ、ミランダが食事にさそってくれたんだよ。明日の夕食、いっしょにどうかって。」


「そりゃ、よかったね。おめでとう。すなおに応援するよ。」


「ありがとさん。でもって、今夜は退屈してたんで夜の散歩してたら、お前さんが見えたってわけだ。少し、おしゃべりでもどうかなって。」


「なら、帰れ。お前の話など胸焼(むなや)けがする。」


「ひでぇな。お姫様のために、こーんなに、がんばってる騎士に帰れなんてな。美しき姫君に命をささげている騎士なんて、芝居じゃなきゃ、お目にかかれないシロモノなんだぞ。貴重品だぞ、大事にしろ。」


 シエラは、だれが騎士だと思った。エッジは、


「その顔、恋わずらいって顔だな。いったい、だれに()れたんだ。」


「レックス以外のだれがいるってんだよ。なんでこうなったのか、さっぱりだ。」


 エッジは、クスクスと笑い出した。


「お前、いまは女だし、それに夫婦のまねごとしてりゃあな。あ、ほんとの夫婦だったよな。」


「妹に、レックスをたのむって言われた。妹が、あんなことになったのは、ぼくの責任だから、妹のかわりにレックスの面倒見てたんだ。めんどくさいなー、世話やけるなー、とか思いつつ、気がついたら、面倒見るのが楽しくなって、そして、好きになっていた。」


「今ごろになって、やっと気がついたのかよ。お前、ライアスだったときから、そうだったんじゃなかったのか。いっつも、幻の王子様のことばかり考えてたじゃないか。」


「それとこれとは違うよ。けど、すごくいやだ。」


「何がいやなんだ。人を好きになるって、楽しいことじゃないか。」


 シエラは、ため息をついた。


「ずっと、このままだったらいいって。妹が眠ってくれてた方が、彼をひとりじめできるって、そんなことを考えてしまった。」


「だから、落ちこんでんのかよ。くだらねぇ。妹姫様が目をさましたら、さましたでいいじゃねぇか。そんときまで、ひとりじめできるしな。大事なのは今だよ。夫婦なんだから、えんりょすることはねぇんだよ。」


「夫婦だからか。レックスが結婚したのは、妹のほうだよ。ぼくじゃない。体をかりているだけだよ。」


「レックスは、そうは思ってないんじゃないか。やつの気持ちをきいたことあるのかよ。」


「なんどもきいたよ。シエラは一人だって。二人に見えても一人だって。けど、ぼくには、ぼくは妹の影でしかないようにきこえる。」


「つまり、ちゃんとした、お前を見てほしいってことだな。」


 シエラは、うつむいた。エッジは、そんなシエラを見て頭をポリポリかく。


「なんか重症だな、こりゃ。今夜は退散するよ。じゃあな。」


 エッジは、バルコニーから城の中へと入った。シエラは、バルコニーにもたれ、ボーッとしていた。


(レックスの気持ちか。そういや、きいたことなかったな。ぼく自身のことは、どう思っているんだろう。二人で一人じゃなくて。でも、きくのがこわい。)


 コトリと音がして顔をあげると、レックスがいた。シエラは、ドキリとする。


「エッジのやつにたたき起こされた。バルコニーで、お前が話があるって。なんの話だ。なんか、報告あったのか。」


「あ、話ね。たいした報告じゃなかったから、明日でもいいって、エッジに言ったんだけどもね。」


 シエラは、よけいなことをしてくれたエッジをうらんだ。レックスは、


「なんだそりゃ。まあ、明日でいいなら、おれ、寝るわ。」


 レックスは、あくびをして、もどろうとする。シエラは、反射的に引き止めた。


「あのさ、昼の話だけどもさ。その、えと。」


「エドナの話か。あいつ、お前の秘書に決まったことを、城中で言いふらしてたみたいだ。けっこう、しつこかったみたいで、おれんとこまで苦情があがってきてたよ。」


「ちがう、別の話だ。その、ぼくが君のことを。」


「ひっぱたいたことを、やっとあやまる気になったのかよ。ありゃ、痛かったな。ミランダに、平手打ちくらったときとおんなじ痛さだ。」


 シエラは、レックスから顔をそらした。単純なことなのに、きけない。レックスは、シエラをフワリとだきしめた。


「エッジに言われたよ。はっきり、好きだって言ってやれって。でなきゃ、お前の指に、髪の毛まいたりしないよ。シエラのことは、わすれたわけじゃあない。けど、今は、お前だけでいい。今、おれのそばにいてくれるシエラは、お前だから。」


 うれしかった。そして、苦しくて、悲しかった。けど、シエラは、


「いいよね、今は、これでいいよね。シエラは、ぼくだけでいいんだよね。」


 レックスは、うなずいた。シエラは自分の髪をぬき、レックスの指にまき、目をこすった。涙が勝手に出てしまう。


 で、二人は、人もうらやむ仲になった。文字通り、仲むつまじい夫婦、である。

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