表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
千年王国ものがたりエイシア創記  作者: みづきゆう
第三章、双頭の白竜
36/174

二、ニーハのエリオット(2)

 エリオットに、ライアスと呼ばれ、シエラは、クックッと笑った。


「ぼくは、シエラだよ。どうして、みんな、そう思うんだろうな。妹だから、似てて当たり前なのにな。」


 シエラは、また腹をおさえた。エリオットが、どうしたのかとシエラに手をかす。


「な、なんでもない。少しつかれただけだ。あたたかい飲み物を用意してくれ。飲んだら休むから。それと、レックスに、君が父親と戦う理由を説明してやってくれないか。」


「かしこまりました。でも、体調がすぐれないようでしたら、ご無理をなさらず、明日はここにいてください。レックス君は、私が責任をもっておあずかりします。」


 シエラは、部屋に案内された。たおれるよう、ベッドに体をなげだす。


(ここのところ、やけに腹が痛むな。下痢もしてるし、つかれがたまってるかもしれない。ニーハが片付いたら、少し休息をとろう。)


 ミランダが、飲み物をもってきたとき、シエラはすでに眠っていた。今夜は、シエラをこのまま一人で休ませてあげよう。レックスは、ティムといっしょに兵士部屋にでも、おしこんでおけばいい。


 それでもって、ミランダに兵士部屋におしこまれたレックスは、まんじりともしない夜をむかえていた。


 エリオットから話をきいても、納得なんかできやしない。


(エリオットのやつ、本気であんなことを言ったのかよ。自分の親だぞ。おれじゃあ、自分の親と戦うなんて無理だ。)


 いや、戦ったじゃないか。マーレルで自分の母親を自分の手で、()くべき世界へと送ったじゃないか。あれは、肉体としての命をうばうことと、なんら変わらない行為だったんじゃないのか。


 レックスは起き上がった。床にわらをしいただけの寝床(ねどこ)だったので、寒いやら、かたいやらで、シエラといっしょの暖かなベッドになれた身には、とてもじゃないが眠れそうにもない。しかも、タコ部屋特有の兵士達のイビキがうるさい。


 どうせ、もうすぐ叩き起こされる。レックスは外へと出た。寒空(さむぞら)に星が、やけにきれいだった。砦内を歩いていると、物見台からニーハの方向を、じっと見つめているエリオットがいた。


 レックスに気がつくと、見張りの兵士と交代して下へとおりていく。眠れないのかとたずねるエリオットに、レックスは、


「ミランダから、シエラがつかれているから、一人で休ませろと言われた。それで、兵士部屋で寝てたけど、イビキがうるさくてね。けど、指揮官って大変なんだな。今夜は寝るひまなんてないのか。」


 エリオットは、笑う。


「ミランダさんですか、なかなかしっかりした美しい方ですね。あのような方が、シエラ様のおそばにいてくださって、私は安心しております。あなたは、彼女には頭があがらないようですね。部屋をおいだされて、兵士達と寝るはめになるとはね。」


「しかたないだろ。シエラが、つかれてんならな。ミランダには逆らわないほうがいいぜ。ありゃ、毒女だからな。シエラのこととなると、特にキレやすくなるぜ。」


「おぼえておきますよ。中へ入りましょう。やはり、まだ夜は冷えますから。」


 エリオットは、レックスを自分の書斎へと案内した。そして、暖炉(だんろ)にあったお湯をコップにそそぎ、レックスにさしだす。レックスは、


「ニーハの方を見てたようだけど、やっぱり気になるんだろ。夕方、口じゃあ、なんだかんだ言ってたくせにさ。」


 エリオットは、自分の分もコップにそそいだ。そして、一口のみ、テーブルへと置いた。


「少し話をしましょう。だれにも話したことはなかったのですが、あなただけには、話しておきたいのです。」


「どうせ、ライアスがらみだろ。話せよ、楽になるんなら。ティムからきいたよ。ライアスが降参しようと言ったとき、猛反対したんだってな。そして、ライアスが死んだあと、戦争継続を強行して、シゼレを戦場に引っぱり出したのは、あんたなんだってな。」


「そのとおりです。私がお二人を死においやった張本人です。私は、あの方が敗北する姿など見たくしなかった。敵のとりことなり、我々の命乞いをする姿など、どうしても見たくなかったのです。」


 レックスは、コップのお湯をズズッとすすった。


「なんで、見たくなかったんだ。死なせるよりは、ましだろうが。そうしたら、ライアスもまだ生きていて、シエラにあんなに負担かかることなかったろうに。」


「私にとって、あの方は神にも等しいお方でした。完璧なまでの美しさと知性、そして優雅さ。傲慢(ごうまん)で優しく、そして、悲しいまでに孤独で気高(けだか)い。まさに、私が理想とする存在そのものでした。そのような存在である、あの方が敗北など、あってはならなかったのです。」


 レックスは、きいていて耳がかゆくなった。


「あんた、バカか。ライアスだって、ただの人間だろうに。そりゃ、きれいで頭いいけどもさ、やっぱり、ただの人間なんだよ。腹もへるし、トイレにも行くし、フロ入らなきゃ、臭くもなるだろうしさ。


 第一な、ライアスもいい迷惑だったはずだ。あんたに勝手にそう思われちゃな。そのくだらない思い込みで、ライアスを死なせて、おまけにいまだに、そんな幻影にしがみついてるなんてな。」


 エリオットは、苦笑した。が、


「そのとおりです。なにもかも、私の思い込みです。けど、どうにもならないのです。はげしい思いが私を支配し、私は自分の激情のおもむくままに、行動をするしかなかったのです。


 あの方の死は、ショックでした。そして、自分を責めました。けど、それはすぐに、あの方をこの世界から消し去った、バテントスへの憎しみに変わりました。


 そして、私は、いやがるシゼレ様をサラサの教会からさらうよう、戦場へとつれだし、最後の一兵まで玉砕(ぎょくさい)する覚悟で、少しでも多くバテントス兵の命を奪うべく、憎悪にとりつかれ戦い続けていたのです。


 気がついたときには、何もかも終っていました。死にきれなかった私は、そのまま敵に捕虜(ほりょ)となり、自害することもできず拘束(こうそく)され続けていました。拷問(ごうもん)で死ぬことができればと考え続けていましたが何もされず、ある日、私はとつぜん解放され、ニーハへと送り返されてしまったのです。


 父が、バテントスに協力すると約束し、多額の保釈金を支払ったからでした。私は、父には失望しました。命をたすけていただいた感謝よりも、祖国の魂を息子の命と引きかえにさし出した父の行為が、どうしても許せなかったのです。」


 話をしているエリオットの顔は、実に苦しそうだった。エリオットは、戦場でライアスの後を追うつもりだったはずだ。なのに、死んだのはシゼレや兵士達だけで、自分は生きのび、そしてここにいる。


 レックスは、


「おれは、あんたの父さんのしたことは、まちがってないと思うよ。親なら、当然なんだよ。自分の息子が死ぬとわかってて、だまってるなんてできるもんか。」


 エリオツトは、


「バテントスの政策は強引です。ニーハは逆らう意志は無しとみなされ、いま、ここは、バテントスの取立てに苦しんでいまです。去年は、作物のできが悪く、年をこすだけで精一杯でしたが、そんな事情などおかまいなしに、バテントスは年貢を要求しました。


 これからは毎年、バテントスが決めた量の年貢を、かならず納めなければなりません。おおかたは穀物ですが、さらに、バテントスは、今年度から本国で働かせる奴隷(どれい)も要求してきました。若くて健康な男女を、毎年百人ずつです。」


 レックスは、お湯をすすることをやめた。奴隷の話は初耳だった。


「なんで、その話を夕方してくれなかったんだよ。今時分になってさ。」


「昼間は、兵士達の耳もあり、話したくはなかったのです。奴隷の話が、兵士達の耳に入ったら、冷静ではいられなくなってしまうでしょう。戦場では、怒りや憎悪は、命取りになってしまいます。


 父もさすがに年貢のことは公表しても、奴隷までは公表できなかったのです。公表したら、ニーハのバテントスへの不満が一気に爆発するでしょうからね。ですが、奴隷は夏までに用意しなければなりません。父がどうやって奴隷を集めるかは知りませんが、そうさせないためにも、ニーハは奪還しなければならないのです。


 ニーハの現状は、エイシアの未来でもあるんです。私がいま、行動をおこなさければ、あなた様が()べる国は、どこにもなくなってしまいます。」


「だから、親でも()つと。」


 エリオットは、こぶしをギュッとにぎった。


「私にとり、正義はすべて、あの方だけにあります。何が正しいとかではなくて、私にとり正しさはただ一人、ライアス様だけです。正しさは、人にあってはいけないものだとわかってはいるんです。だれが正しいではなくて、何が正しいか、それが真実だともわかっているのです。


 でも、私は、あの方が消えていく光景が、いまだにわすれられない。だから、私は!」


 もういい。レックスは、お湯が半分のこっているコップを、エリオットに返した。


「もういいよ。もう、じゅうぶんだ。あんたが、どれだけライアスが好きか、よーくわかったよ。ニーハの現状もわかった。自分の親と戦う、やむおえない事情もわかった。でも、そんなに力んでちゃ、今度もあんたは冷静ではいられなくなる。二度目はないんだぞ。あんた、まだ(ひと)()か?」


 エリオットは、どうしてそんなことをきく、という顔をした。


「独身ですよ。結婚はしていません。バテントスがくる前に話があったのですが、戦争で消えてしまいました。それが何か?」


「ライアスのことは忘れて、奥さんもらえって言ってんだよ。いつまでも幻影おっかけるなってことだ。おれは、部屋にもどって少し休むよ。あんたの話きいて、つかれた。」


 まだ、出陣までには少しだけ時間がある。レックスは兵士部屋にもどった。エリオットは、レックスが残したお湯が入っているコップを見つめた。


(あなたがうらやましいですよ。あの方の愛情を、すべてその身に受けている、あなたが。あの方のお心には、いつもあなたがいた。)


 

 仮眠しようとしても、眠れるわけがない。あくびはでるけど、さっきの話が頭にこびりついていて、神経は興奮しきっている。レックスは、すやすや寝ているティムを見つめた。


(もう、そろそろ時間か。盗賊相手の乱戦は、なんどか経験したけど、実際の戦場はどういうモンなんだろうな。おれはティムとともに、第三部隊ってとこに配置されてんだよな。とにかく、足手まといにならないように、上官の指示に従わなきゃな。)


 シエラはどうするんだろう。やっぱり、戦場にくるんだろうか。エリオットは、シエラを戦わせるつもりはないようだけど、おとなしく見物しているはずもない。


(とにかくしっかりしなゃ。第三部隊は騎馬で、速攻かける部隊だってきいたな。おれ、騎馬で銃使えるかな。ティムは撃てるけど、おれは自信ない。紅竜の機動力を考慮して配置したんだろうけど、いざとなったら、馬からおりて撃つしかないな。)


 そして、星がまだ(またた)いている早朝、ニーハは義勇軍によって襲撃を受けた。エリオットの父である小領主には不満を持つものが多く、シエラが義勇軍についているということもあり、ニーハの町にいた小領主の手持ちの軍は意外と少なく、襲撃を受けた時点で、ほぼ決着がついたと言っても過言ではなかった。


 町にいたバテントス兵は、すぐに逃げ出した。(やかた)を占拠した義勇軍にとらわれた小領主は、ニーハの町の広場でシエラの到着を待っていた。


 エリオットは、やってきたシエラに対し、


「この者は、国賊です。罪状はあきらかですので、裁判にかける必要もありません。ご命令を。」


 シエラは、とらわれている小領主を見つめた。小領主の顔は覚悟をしていた。シエラは、広場にいた兵士達のなかに自分の夫の顔を見つけ、そして、エリオットに、やれと命ずる。


 小領主は、エリオット自らの手で、その人生を終えた。レックスは、何もエリオットにやらせなくてもと、その光景から顔をそむけてしまう。


 シエラは、ミランダとともに館へとむかった。そして、館につくと同時に、猛烈な吐き気におそわれてしまう。そして、また腹の痛み。下着についた微妙な出血にシエラは、月のものがきたのかと思い、痛みはこのせいだったのかとホッとしていた。


 が、ミランダは、


「ちがいます。月のものではありません。シエラ様は、流産されかかっているんです。すぐに休んでください。お医者様をお呼びします。」


 がくぜんとした。まさか、妊娠してるなんて、考えもしなかった。


「ぼくが妊娠。まさか、そんなことって。そ、そうだ。シエラと交代するよ。ぼくなんかよりも、シエラの方が・・・、あれ? シエラ、どうしたんだ。どこにいるんだ。君の存在が感じられない。どこに行ったんだよ。」


 いつも感じているシエラの存在が、まったく感じられない。返事すらない。また、吐き気がした。トイレまで間に合いそうもなく、シエラはその場で吐いてしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ