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千年王国ものがたりエイシア創記  作者: みづきゆう
第三章、双頭の白竜
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一、紅竜(2)

 そして、夜になった。少しおそめの夕食のあと、シエラは里の幹部を集めた。レックスも会議には必ず同席していたが、話がむずかしすぎて、部屋のすみで、いつもながめているだけだった。


 まず、エッジから報告。


「ニーハの方は、だいぶ準備がととのってきている。あと、数日もすれば、すぐにでも行動を起こせるだろう。」


 シエラは、


「資金の方はどうだ。」


「ニーハ周辺には、バテントス寄りの現行体制に不満をもってる連中が多い。資金も人も、けっこう集まってきている。こっちからの仕送りは、もうしなくていいと言っていた。けど、銃が、もう少しほしいと言ってる。」


「わかった。銃は、製作が追いつかないので、こっちもあまり余裕(よゆう)がないが、少しおくろう。まずは、ニーハをなんとかしなきゃな。あそこは、クリストン南部の(かなめ)だ。まず南で足場をかためよう。」


 幹部の一人は、


「シエラ様、今月の支出ですが、予算をだいぶオーバーしてます。里の資金も、このままでは、あと二ヵ月が限度です。」


「ニーハを奪還すれば、そこからまた資金が得られる。人材もだ。この里にある資金は、領主の私有財産と国家予算の一部を、サラサが陥落(かんらく)する前に、ここに移したものだ。いつかは底をつく。気にするな。」


 他の一人は、


「ニーハで行動を起こすとなれば、ここからも援軍を出さなければなりません。しかし、主だった者のほとんどは、諜報のために、あちこち派遣していて、里には使える人材はわずかしかおりません。どうなさいますか。」


「ここからの援軍は、いっさいない。いままでどおり、諜報や物資援助の後方支援を担当してもらう。ニーハには、私が数人の部下をつれて直接行こう。


 レックス、そこでボンヤリしてないで、しっかりきけ。お前もくるんだ。ニーハから連絡がとどきしだい、ぼくとお前はこの里をでる。それまで、銃や武器を戦えるレベルまで引き上げておけ。相手は訓練を受けた兵士だ。盗賊相手じゃないぞ。」


 ここにいる幹部達は、レックスの正体を知っていた。幹部は、


「ニーハを奪還次第、彼をダリウス王だと公表するおつもりですか。」


 シエラは、


「公表はまだ早い。奪還後、ニーハに臨時政府をおく。レックスには、そこで私の仕事の補佐をしてもらう。」


 レックスは、びっくりした。


「無理だよ、そんなこと。前線で戦う程度ならできるけど、お前の仕事の補佐なんてできるはずない。いまの話だって、何言ってんだが、イマイチわからないんだ。お前についていくけど、補佐はやっぱり無理だよ。もう少し、いろんなことを勉強してからにしてくれ。」


 シエラは、ジロリとにらんだ。


「決定済みだ。君はダリウス王でぼくの夫だが、いま現在では、ぼくの指揮下に入っている。上司のぼくには、部下の君は逆らう権利はない。他に報告はないか。なければ解散。」


 レックスは、何も言えなかった。幹部達は、ぞろぞろとその場を去っていく。幹部達が全員いなくなってから、シエラはもう一度レックスにクギをさした。


「補佐をしろと言ったのは、何も仕事を手伝えという意味じゃあない。つねにぼくと行動をともにして、領主とはどういうものか、じかに見て学べということなんだ。領主の仕事は、君にゆずるつもりでいる。まずは、クリストンの領主となって、統治とはどういうものか勉強するんだ。わかったか。」


 でもって、その後寝室にもどったレックスは、ライアスでない方のシエラになぐさめられていた。


 レックスは、


「ライアスって、あんなにきつかったっけ。クリストンくるまでは優しかったし、おれに甘えてばかりだったし、なんか別人みたいだ。」


 シエラは、


「しょうがないよ。あれが、クリストンのライアスだもんね。下手に逆らったら、どなられるわよ。レックスだから、あれくらいで済んでるけどさ。」


「エッジから、気性が激しいってきいた。実際はどうなんだ。さっきだって、機嫌悪そうだったしさ。」


「いつもどおりだよ。冷静なくらい。機嫌がほんとに悪いと、口よりも先に手がでるわよ。サラサで、兄様、怒らせた人が、よくひどい目にあってたしさ。ケンカになっても強かったし、数人相手でも負けなかった。」


 レックスは、ハァーッと息をはいた。シエラは、


「あの子、自分のことなんて考えてないんだよね。いつも、クリストンや私や、あなたのことばかり。そのためなら、自分が犠牲になってもいいって思ってる。私に負担ばかりかけてるのを、いまだに気にしてるしさ。


 そりゃ、いろんなことをしすぎて、つかれるけど、私では、どうにもならないことばかりだしね。私もね、あの子の影で、いろんなことを学んでいる最中なのよ。兄様、とにかく思考がはやくてね。それを追うだけでも大変なんだ。でも、いつもいっしょだと、心強い。」


 シエラは、レックスによりかかった。レックスは、シエラをそっとだきしめる。シエラは、


「すごく、幸せなの。レックスがいて、兄様がいて。私の大好きな二人にかこまれてさ。あとは、シゼレ兄様かな。シゼレ兄様だけが欠けている。」


「シゼレは死んだんだろ。ライアスのあとをついで領主になってさ。」


「ライアス兄様が亡くなられて、軍ではバテントスに投降しようという動きがあったのは確かよ。けど、一部の者がシゼレ兄様を領主にして、最後まで徹底抗戦することで、おしきってしまったようなの。


 かわいそうなシゼレ兄様。サラサの教会にいたのが運のつきだった。ベルセアに行っていればよかったのにね。兄様が亡くなられたとの早馬がきてすぐに、無理やり還俗(げんぞく)させられ、戦場につれていかれたのよ。


 そして、サラサがおちて、遺品だけが入っている二つの(ひつぎ)が、私の前にさし出された。ライアス兄様の遺体は大砲で消えてしまってたし、シゼレ兄様の遺体もたくさんの兵士達にまじってしまって、見分けがつかなかったとかで、その場で兵士達といっしょに火葬され、そのまま()められてしまったそうよ。


 もう、何がなんだかわからなかった。どうしてこんなことになったのと、いろんなことをうらんで、泣いてばかりいた。けど、ライアス兄様はともかく、シゼレ兄様が死んだとは、私にはどうしても思えなかった。」


「どこかで生きていると、シエラは考えてるのか。」


 シエラは、レックスの胸に顔をうずめた。


「わからない。でも、細い糸がつながってるような気がしてるの。なんて言うのかな。まだ、縁は切れてないって、そんな感じなのかな。ただ単に、私のあきらめが悪いだけかもしれない。」


 シエラは、あくびをし、そのまま眠ってしまった。レックスは、シエラをベッドに寝かせた。そっとキスをする。


(しっかりしなきゃ。)


 レックスは、寝室を出た。そして、厩舎(きゅうしゃ)まできて白竜に話しかける。


「白竜、たのみがある。おれをお前に乗せてくれ。お前、今日シエラとどっか行ってたろ。おとといもそうだったな。どこかに偵察に行ってんだろ。おれはもう、これ以上シエラをつかれさせたくない。偵察くらいなら、おれにもできるはずだから、今度からは、おれを乗せてくれ。少しでも役に立ちたいんだ。」


 白竜は、青い目でじっとレックスを見つめていた。


「たのむ、白竜。シエラといっしょじゃなきゃ、お前は、他のだれも乗せないことは、百も承知なんだよ。でも、このままでは、シエラはたおれてしまう。今日だって、ミランダからきいたんだけど、真っ青になって帰ってきたっていうじゃないか。だから、たのむ。」


 白竜は、ブルルとうなった。レックスの心に直接話しかける。


(主人のことは、私も心配しております。けど、単独で、あなたをお乗せすることはできません。私は、あの方だけのものですから。でも、どうしても、ドラゴンの翼が必要だというのならば、一つだけ方法があります。)


「どんな方法だ。教えてくれ、白竜。」


(私には、人間でいう姉にちかい存在がいます。ドラゴンは異世界の生き物で、人間には、あまりかかわらない存在なのですが、私がこちらの世界にきてますので、姉も人間には興味をもっているのです。姉を説得してみてはいかがです。)


「お前の姉さんだな。どこに行けば会えるんだ。」


(覚悟があるのでしたら御案内しましょう。けど、姉は私とちがって、ドラゴンそのままの性質を持っていますから、まともな話し合いでは説得には応じないでしょう。)


「戦って屈服(くっぷく)させろということか。ドラゴン相手にか?」


 レックスは、多少ひるんだ。ドラゴンとなった白竜の大きさは知っている。ケンカしても勝てない。


 白竜は、


(あなたの思いをぶつけてください。私はかつて、我が主の魂の純粋さに()かれて従者となりました。すなおな思いをぶつけるのです。それだけでじゅうぶんなはずです。道をひらきます。)


 白竜は、前足をカツカツとならした。レックスの前の空間に、手のひらサイズの光があらわれた。


(その光にさわってください。それが入り口です。)

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