第五夜、拉致(1)
夜間外出禁止令が出ているのに、今までどこに行っていたかと、モーガン父子に当然のごとく問いつめられたレックスは、正直に答えるしかない。
「宮殿にどうしても行きたかった。昔の事を少しでも思い出したかったからだよ。昼間だと、警官に見つかるから夜にしたんだ。けど、考え事をしてたら下町に出てしまって、そして・・・。」
アランはモーガンは、青くなった。アランは、
「無謀にもほどがある。宮殿は、だてに立ち入り禁止になってるんじゃない。火事があった場所は、崩落しかけていて危険だからなんだよ。しかも、連続殺人犯に、まちがわれたって? 夜間外出が禁止されてるのに外出したら、まちがわれても当然だ。」
「おれがバカだったよ。けど、おれ、犯人の男の顔、はっきりと見てんだよ。犯人つかまえれば、おれが無実だって証明できるはずだよ。」
モーガンは、
「二度も夜間つかまれば、犯人にされても文句は言えませんよ。暴力をふるって逃げたとなれば、ほぼ確定です。すでにあなたの似顔絵が作成され、マーレル中の警官が、あなたを血眼になってさがしているはずです。ここでかくまっていても、近所の者があなたを見ているはずですから、すぐにでも見つかってしまうでしょう。」
レックスは、
「荷物をとったら、ここを出て行くよ。そのつもりでもどってきたんだ。おれがいた理由は、てきとうな言い訳でも考えてくれ。新しく使用人にやとった男だったとかさ、いろいろあるだろ。」
モーガンは、
「マーレルから逃げてください。あなたがマーレルから出れば、あなたを守ってくれているガードが姿を現すのでしょう? その者達に守ってもらってください。マーレルの外まで、警官に見つからないよう、おつれしますから。」
レックスは、
「むだだと思うよ。荷物にかくれてたって、非常線はられていたら荷物検査でばれてしまう。食料をわけてくれないか。宮殿に行こうと思う。」
アランは、
「あそこは、たしかに大きくて、うまくかくれれば、警官には見つかりにくいと思うけど、宮殿は、マーレルのほぼ中心地にあるんだ。下手すれば、どこにも逃げられなくなるし、かくれ続けていたって、食料がなくなれば調達しなきゃならない。いずれは見つかってしまう。」
「宮殿にやり残したことがある。そのために、せめて、あと一日だけでも時間がほしい。それがすんだら、自力でマーレルを脱出し、そのままクリストンにむかう。」
アランは、
「何をやり残したと言うんだ。あんな廃墟に。」
「大事なものをさがさなきゃならない。おれの大事なものだ。」
カッとしたアランをおしとどめたモーガンは、首をふった。
「私達にとり、あなた様以上に大事なものはないのです。何をおさがしかは、ききません。けど、大変な事件にまきこまれてしまったあなた様を、素人の私達ではこれ以上、おたすけすることはできません。」
「いろいろと迷惑かけてすまなかった。食料をたのむ。」
食料を受け取ったレックスは、マントのフードを深々とかぶり、明るい陽射しの中を足早に去っていった。アランは、レックスの姿が見えなくなっても、窓からはなれなかった。
モーガンは、気落ちしている息子の肩に、そっと手をあてた。
「運を天にまかせるしかない。十三年、生き続けていてくれた、彼の強運を信じるしかない。祈ろう、私達にできるのはそれだけだ。」
「こんな事態になってまで、さがさなきゃならない大事なものって、なんなんだ。シエラ様と別れて、たった一人でマーレルまできて、さがさなきゃならないものって。しかも、あんな廃墟で。なんにもないのに。」
「それはわからない。十三年という時間は、私達の想像以上に長かったのかもしれない。」
朝の道は、どこそこへ通勤通学する人達でいそがしい。レックスがモーガン宅を出たのは、ちょうどそんな時間だった。レックスは、公園の植え込みの中にかくれつつ、ラッシュ時間がすぎるのを、ひたすら待った。
けど、通勤通学の波に気をとられていたせいか、背後からしのびよる警官には、直前まで気がつかなった。ふりおろされた警棒を荷物で受け止め、逃げた。
警笛が響き渡る。通行人の視線があつまり、レックスはもうだめかと思ったが、逃げ切れるとこまで逃げ切ってみるつもりで、ひたすら走った。
フワリと黒い影が目の前に現れ、レックスは、みぞおちに強い衝撃を感じた。気を失ったレックスをかかえ、黒い影は追いかけてくる警官の前から姿を消した。
ドサリ。レックスは、投げ出された勢いで目をさました。床は、やたらホコリっぽく、咳きこんでしまう。ここは、どこかの建物の中で、数人の男が自分をにらんでおり、その中の一人に見覚えがあった。
「こんな若造が犯人なのか。この前の朝、店で見かけた客だ。」
「こいつは、ゼルムからきたばかりの、おのぼりさんだよ。たまたま夜、外出してただけで、犯人とまちがわれたのさ。」
レックスが見覚えがある男は、ジョアンナの父親だった。たしか、闇商人のマローニとかなんとか。そして、その闇商人と話している男にも、しっかり見覚えがある。コウモリ男だ。
コウモリ男は、
「犯人ではない男を、なんでつれてきたって? 約束がちがうぞ、と言いたそうだな。たしかにおれは、あんたの依頼で犯人捜しをしている。まあ、依頼じゃなくて、金に、せっぱつまったおれから、あんたに持ちかけた話だがな。」
そして、床のレックスの顔をグイと持ちあげた。
「と、言うことだ。しばらく、付き合ってもらうぜ。連続殺人犯はな、この親分さんの子分ばかりをねらうんだ。警察よりも早く真犯人をつかまえないと、子分を殺された親分としてメンツがたたないんだよ。お前、ゆうべ犯人とぶつかったろ。顔を見ているはずだ。」
「なんで、そんなことを知ってんだよ。」
「警官に化けて、あの辺りにいたんだ。お前さんが、ぶつかるのを見たってわけ。」
レックスは、
「たしかに見たよ。三十前後の男だ。顔は、どっちかっていうと優男タイプだな。身長は男としては中くらい。おれより低いことだけは確か。警察みたいに、似顔絵かけって言われても、かけないぞ。絵はダメだからな。」
コウモリ男は、
「中くらいの優男だけじゃわからん。髪の色は、目は。」
「フードをかぶってたんで、髪の色はわからないよ。暗くて目の色もよくわからない。けど、おれが直接見たらわかるよ。犯人さがしなら、おれも手伝うよ。」
「あのな、警察におっかけられている男を、わざわざ外にだすと思ってんのか。いくら、お前が顔をおぼえていても、こっちがわからなければ意味ないんだよ。おい、マローニさん。お前さんとこに、絵のうまいやつはいるか。」
闇商人は、いないとこたえた。コウモリ男は、
「顔の特徴とか、なんでもいい。でなきゃ、お前をすぐにでも警察に引きわたしてやる。いや、適当に始末でもするか。腹をすかせた犬は、たくさんいるからな。」
コウモリ男は、うす気味悪くニヤニヤ笑っている。レックスは、ゴクリと生つばを飲みこんだ。
「顔の特徴は、目は切れ長で鼻筋は、えーとすっきり、かな。口は、そんなに大きくはない。あとは、えーと、匂い。匂いだ。ハーブティーだ。ジョアンナのとこの茶の匂いだよ。あれとおんなじ匂いがしたんだ。
きっと、殺人の直前までジョアンナのとこにいたんだよ。ジョアンナは、強そうな男をさがしてたから、殺人犯ひっかけちまったんだ。早くしないと、ジョアンナがあぶない。」
闇商人の顔色が変わった。転がっているレックスの腹を、クツで思いっきり突く。レックスは胃液を吐いた。
「そいつをしばって、地下倉庫にでも入れとけ。」