表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
千年王国ものがたりエイシア創記  作者: みづきゆう
最終章、次の時代へ
159/174

三、新マーレル公アルバート(3)

 エリオットには家族はいなかった。結婚もしていなかった。クリストンのニーハ出身だが、ニーハにはすでにエリオットの居場所は無く、そして、エリオットを知る人もいなかった。


 エリオットは、クリストンへ向かう船が出航する、ダリウス西の港へと馬車を走らせていた。山道にさしかかった時、馬車がとまった。何事(なにごと)かとエリオットは、馬車の窓から顔を出す。山道の真ん中に、黒い男が立っていた。


 エリオットは、その男を見た瞬間、ギョッとした。男は、馬車へとよってくる。そして、(おそ)れおののいているエリオットに、したしげに話しかけてきた。


「ヨォ、久しぶり。元気でやってたか。これから、クリストンに帰るんだって。帰るったって、お前の帰る場所になんてもう無いはずだ。シゼレにでも、泣きつくつもりだったのか。」


「エッジ、お前。」


「見える? 見えてるんだよな。馬車がとまったって事は、そこで目を丸くしている御者(ぎょしゃ)にも見えてるって事だよな。やった。修行の成果(せいか)ったモンだ。ったく、護衛をまったくつけずに、こんな山道を一人で行くなんて、だれかに(おそ)ってくれと言ってるようなモンだ。」


 エッジは、王家の剣を取り出した。それを、身の丈ほどもある大ガマに変化させる。御者は、びっくりして悲鳴をあげた。


「やっぱ、死神ってのは、カマ持ってなきゃサマになんないんだろ。死んでからは、殺しはタブーでしない事にしてたけどもな。」


「陛下が、前国王同様、見えない何かを使っているというウワサがあったが、お前がそうだったのか。いつから、そのような仕事をしているんだ。」


 エッジは、御者を見た。御者は気を失っていた。


「あらまあ、よっぽどびっくりしたか(こわ)かったみたい。いつから、こんな事してるって? レックスが死ぬ前に、やつから直接たのまれたんだよ。それで、エルと交渉して、殺しだけはしないという約束で契約したんだ。


 殺しをしない理由はな、そりゃ、おれ自身が幽霊だからだよ。殺せば、殺したやつが幽霊になっちまうし、とどのつまり、(あと)がメンドくさくなっちまう。」


「お前がきたということは、陛下の御命令か。マーレル公ではないのだな。」


「なんだよ、お前。アルに命令してもらいたかったのかよ。残念だが、アルの青二才に、こんな命令なんてできるはずないよ。


 あんたをクリストン帰すと、こっちの内情、シゼレの野郎にもれちまうしな。いろいろと機密(きみつ)知ってるし、たとえ、あんたが口を割らなくても、シゼレには吐かす方法はいくらでもある。


 ここにくるのは、ほんとは、おれじゃなくて、他のやつがくる予定だったんだ。エルがティムと相談してるのをきいて、おれが割り込んだんだよ。ぜひ、やらせてくれって、志願したんだ。」


 エリオットは、ため息をついた。どうやら、ここまでのようだ。


「エッジ、殺しはタブーとしてるのに、どうして志願などしたのだ。」


「ライアスを殺された(うら)みがるからな。あんたが、あの時、すなおに降参してれば、ライアスはまだ生きてたはずだ。五十になったライアスなんて想像したくないがな。とにかく、あの時の恨みだけはしっかりと残ってるんだよ。」


 そして、カマの()をギュッとにぎり、エリオットをにらみつけた。


「ライアスさえ生きていてくれれば、レックスがこんなに早く死なずにすんだかもしれない。妹姫様も、最初の妊娠で流産しなかっただろう。ライアスだって、肉体のない()い目なんか感じずにすんだはずだ。妹に負担(ふたん)かけてたのを、どれだけ気にしてたか、お前には、わからなかったろうがな。」


「すんでしまった事だ。それに陛下もあの方も、もういない。」


「せめて、レックスが死ぬ前に、その事を(あやま)ってもらいたかったよ。お前、おれが知る限りでは一度も、ライアスに謝った事なかったろ。ニーハで再会した時、やつの正体見抜いてたんなら、その場で謝っておかなきゃなんなかったんだよ。」


 エリオットは、静かに目を閉じた。そして、


「謝罪が可能なら、すでにそうしている。それができなかったから、私はこうして、陛下におつかえするしかなかった。誠心誠意な。」


「・・・つごうがよすぎるぜ。だから、左遷(させん)が決まった時、わざとクリストン帰るなんて言ったんだろ。そして、供もつけずに、マーレルを出発した。もはや、用済(ようず)みとなった自分の人生を終わらせるためにな。お前の考える事くらい、分からないとでも思っていたのかよ。なんせ、三十年来のバカげた付き合いだもんな。」


「この世で用済みなら、次は向こうで、あの方におつかえすればいい。お前の言うとおり、つごうがいいしな。」


 エッジは、笑った。


「だがな、世の中、そう、つごうよく行くはずないんだよ。ライアスはいない。すでに、どこぞの女の腹の中だ。ライアスの新しい人生はもう、始まってるんだよ。残念だったな。」


 エッジはそう言い、カマを大きくふりあげた。


「このカマで切られたって、血なんかでないぜ。あんたの命をスパッとやる、死神のカマだ。ライアスがいないんで、死にたくなくなったか?」


「いや、これでいい。さっさとやってくれ。お前も、言いたい事を言って、すっきりしたろ。」


「何が、すっきりなものか。よけい、不満がたまった。じゃ、行くぜ。」


 エッジは、思いっきりカマを()り下ろした。そして、気を失っているエリオットを馬車から引きずり出す。いや、肉体からと言ってよいか。


「行こう、エリオット。おれ達が生きていた時代は終わったんだ。いっしょに、ライアスの新しい人生を見守ってやろう。」



 エリオットは、馬車の中で静かに死んでいた。何者かに(おそ)われたのは事実だが、体には傷一つなく、ただ一人の目撃者の御者の話もあいまいで、結局(けっきょく)は、何者かの襲撃(しゅうげき)によるショック死で片付けられ、遺体はマーレル市内の一般墓地に埋葬(まいそう)された。


 アルは、同じクリストン出身の男の墓に花をそえた。そして、静かに手をあわせる。アルにとり、エリオットはレックス亡き後、同郷だったせいもあり、アルの孤独な心をなぐさめてくれる優しい存在でもあった。


 アルは、エルの執務室にやってきた。そして、エリオットの死についてたずねる。エルは、ため息をついた。


「ああ、私が命令した。ティムと相談してな。」


「殺す必要などなかったでしょう。情報漏洩(じょうほうろうえい)の心配があったのなら、クリストンへ帰るのを引き止めればよかったではないですか。」


「エリオットは、わざとクリストンへ帰ると言ったんだよ。こうなる事が分かっていて、帰ると言ったんだ。私なりに、彼を引きとめるべく、いろいろと手を()くしたが、どうしても帰ると言ってきかなかったんだ。お前は、信じないかもしれないがな。」


 アルは、驚いたようだった。エルは、


「エリオットは、左遷を覚悟していたようだ。父上が、マーレルにきた時、旧勢力の一掃(いっそう)をしたのは、エリオットだった。ずいぶん、(うら)まれたと言っていた。いずれ、自分もそうなると思っていたらしい。」


「どうして、左遷なんかしたのですか。陛下に、あれだけ忠誠をつくしたはずです。」


「私と、父上とでは、やるべき事がちがう。残念だが、エリオットは父上の時代を引きずっている。ありていに言えば、政策が私と合わない。なら、やめてもらうしかないだろう。」


「私にマーレル公になれと言って下さったのは、エリオット様です。陛下に養子の話をいただいた後、仕事が終わってから、市内のエリオット様の御自宅に、その事を相談しに行ったんです。エリオット様の後押(あとお)しがなければ、お引き受けなんてとてもできなかった。大任(たいにん)ですからね。」


「そうか、エリオットが。だから、あんなに夜遅く返事を持ってきたのか。だとしたら、エリオットは、お前にすべてを(たく)したのかもしれないな。」


 アルは、こぶしをギュッにぎった。


「でも、殺す事などなかったはずです。いくら、本人の意思だとしてもです。マーレルにつれもどしてくれさえすれば、後は、私がエリオット様を説得して、彼のめんどうを見てもよかったんです。監視しろと言われれば監視もします。なのに、私に一言(ひとこと)の相談も無く、あのような事をなさるとは。」


「許さないというのか、私を。そう言えば、エリオットはお前と同郷だったな。」


 アルのほおを涙がつたわった。


「私のあの人を返してください。私の大切なあの人を。」


 エルは、ハッとした。アルは、


「前国王陛下が亡くなられ、悲しみにくれている私をなぐさめてくれた、ただ一人の人です。私にとっては、前国王陛下につぐ大切な人でした。私の気持ちをわかってくれた、大切な人だったんです。」


「・・・私が(にく)いか、アル。」


「はい、とても。頭では理解はしています。でも、どうしても、どうしても感情だけは、おさえることはできそうにもありません。」


 エルは、すわっていたイスから立ち上がった。そして、アルを真正面から見すえる。


「なら、好きなようにするがいい。その腰の剣を抜きたければ抜けばいい。私は、ここから動かないから。」


 アルは、ふるえる手で剣をにぎった。が、すぐに感情を引っ込める。


「意味がありません。あの人はもう、もどってきません。それに、あなたを(あや)めたら、国が混乱してしまいます。あの人の遺志(いし)にさからいたくありません。あなたは、やはり(うそ)つきです。私ができないのを御理解してて、剣を抜けと(おっしゃ)るんですから。」


 アルは、静かにおじぎをし執務室を出て行った。エッジは、あきれたように、ため息をついた。


「やっこさん。レックスが、影になれ、と言った意味をまるで理解していない。こんな事は、ほんとは、やつの仕事だったはずだ。アルは、あまりにも純粋すぎる。」


「エリオットにとり、ライアス兄さんは絶対だった。だから、アルをマーレル公にしたんだよ。ライアス兄さんそっくりのアルをマーレル公にし、兄さんが生きていたであろう姿を再現させたんだ。そして、アルにその仕事をさせる事によって、自分が兄さんを死なせてしまった罪を(つぐな)おうとしたのかもしれない。


 でも、これじゃあ、アルは身代わりだ。アルは、ライアス兄さんの身代わりにされたんだよ。アルに、そんな命令なんてできるはずないのに。エリオットもわかってたはずだ。」


「だから、よけい腹が立つんだよ。身勝手もいいとこだしな。けど、そうしてもらいたい、やつの気持ちもわかるんだよ。アルにできないとわかってても、そうしてもらいたい気持ちがな。おれもやつも、過去にしばられすぎているしな。」


「で、エッジ。エリオットは今はどうしている。」


「とりあえず、レックスにまかせてあるよ。あいつも因業(いんごう)が深いからな。時代の闇を一人で引き受けたような人生だったしな。まあ、しばらく、おとなしくしてるだろう。結果として、おれ達は自殺の手伝いをしちまったんだよ。後味(あとあじ)が悪いわけだ。」


「ああ、悪い。何もかもね。だから、父上は、あれだけアルをそばにおけと言ってたのか。誘惑してでも落とせとね。一人では重過ぎるから。けど、もうお終いだろう。私は、アルの信頼を失ってしまった。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ