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千年王国ものがたりエイシア創記  作者: みづきゆう
最終章、次の時代へ
155/174

二、兄と妹(2)

 レックスは、


「ところで、エル。いい加減に、ダリウス王朝を廃止(はいし)しろ。おれが、死ぬ前に、言っておいたじゃないか。お前が即位した時点で、強引(ごういん)にでもやっておけばよかったんだよ。ダリウスの名は、おれの代まででよかったんだ。エルシオン・エイシア・レイ。エイシア王朝だ。」


「そんな。バタバタしてたのに、そこまでできません。私は、父上とは違うんですからね。廃止はします。ですが、カイルはともかく、シゼレ伯父がなんと言うか。」


「・・・そのために、山脈に穴あけておいたんだよ。シゼレがゴネるなら、そこから軍隊入れればいいんだよ。」


「母上の持ってかえる返事次第ですね。母上は、そのために、サラサにいるんです。私がムダだと言っても、母上は説得(せっとく)だけはしたいって、止めるにもかかわらず行ってしまいましたから。」


「しょうがないな、シエラは。まあ、昔からそんなとこがあるしな。でも、ライアスを使うのは、これが最後にしてくれ。あいつ、夏になったら、カルディア族の女の腹に宿(やど)るつもりでいるんだ。前から、生まれ変わりたがってたしな。神官になって、もう少し実力をあげたいって言ってるんだよ。」


「わかりました。エッジはその事を知ってるんですか。」


「ああ、知っている。だからよけい、いっしょにいようとしてる。今度は女の子だぞ。かわいい娘になるぞ。なんだ、エル、その顔は。お前、ねらってんじゃないだろうな。今回はダメだ。結婚する約束してたらしいが、お前が同世代に産まれたらの話だ。次にしろ、次に。」


 シルウィスが、かわいいあくびをした。レックスは、優しく腕をゆする。シルウィスは、眠ってしまった。エルは、


「さすが、抱きなれていますね。ヒナタはもう、大きくなっているんでしょう。」


「六歳くらいかな。時間がゆっくりしているやら早いやら、感覚があまりないんだよ、あそこは。ヒナタに会いたくなったのか。」


「そりゃそうですよ。十年前に別れたきりですからね。ヒナタは、私の事は知らないでしょうね。」


「いや、知ってる。ライアスがよく話してるから。」


 エルは、ちょっと考えた。


「ねぇ、父上。カルディア族の聖域と、こっちをつなげる事はできないんでしょうか。ほら、族長が言ってたでしょ。神殿同士を移動してるって。あれと同じ事ができないでしょうか。


 環境が違いすぎるから、移動はともかくとして、霊域だけでもつなげないでしょうか。そうしたら、こっちから、父上と会う事も可能となるはずです。父上は、エイシア霊域ではなく、カルディア族の霊域にいるんですしね。」


「そうだな。でも、環境が違いすぎると言っても、やはり、それなりの環境が必要だ。神殿がいい。できるだけ霊域の高い場所をつくってくれ。宮殿内の敷地で良さそうな場所をさがしてさ。まあ、そのうち、こっちにもどってくるよ。おれも向こうで、次の時代のためのいろいろな準備を、まだしてる最中だから、とりあえずそれが終わるまで待っていてくれ。」


「今年中には、かならず用意します。でも、できるかぎり、早めにお帰りくださいね。でないと、こっちがこまります。」


「向こうに似ているやつをたのむ。そっちの方がやりやすい。それとエル。こいつを使え。」


 レックスは、ピアスをはずし、神杖(しんじょう)をエルに持たせた。エルは、


「これはちょっと。王家の剣すら、私は満足に使えないんですよ。父上の杖は、もっとむずかしいんでしょう。」


「お前なら使える。相性(あいしょう)の問題だしな。剣は、荒事(あらごと)が苦手な、お前向きじゃない。エッジにでも使わせとけばいい。とりあえず、わたしておくから練習しておけ。あとで、おりをみて、正式にお前にわたすから。」


「ひょっとして、エイシア王朝の御印(みしるし)にするつもりなのですか。王家の剣にかわって。」


 レックスは、うなずいた。


「新しい契約だ。これを持って、お前はエイシア王朝の始祖(しそ)となれ。それをつたえにきたんだよ。」


「契約。父上はまさか、国教会に代わる信仰をつくろうと、考えているんではないですか。」


「カンがいいな。だから今、向こうで準備をしているんだ。おれが向こうにいた二十年という時間は、そのためにあったんだ。今まで国教会の主神だったシオン・ダリウスは、おれが死んだ時点で役目を終えたんだ。レクスレイ、それが、おれの新しい名前だ。どうだ、かっこいいだろ。」


「・・・ダリウスを取っただけでしょう。レクスも、大陸で呼ばれてた名前じゃないですか。単純すぎます。」


「かっこいいったらいいの! いちいち、つっこむんじゃない。どのみち、国教会は考えをかえなきゃなんないんだよ。おれを新しい神として(むか)い入れるもよし、時代遅れになって(ほろ)ぶのもよしだ。だが、おれはいそいではいない。百年、二百年単位で考えてる。」


「いい案ですね。じゃあ、私が最初の信者になりますよ。ベルセア本国と手を切る、いい理由ができました。神殿は、きっちりしたものを完成させます。自分の父親の御霊(みたま)(まつ)っているだけだと言って、最初はそれでおし通します。そのうち、ゆっくりと本性を現していきましょう。」


 レックスは、息子を見て笑った。


「さっすが、ライアスの息子だ。二重人格の使い分けがうまい事。そろそろ帰るよ。何かあったら、杖に向かい呼びかければいい。ヒマだったら、顔出すから。」


 レックスは、すやすや眠っているシルウィスをエルに返し、スッと消えた。エルは、我が子の寝顔を見つめる。元気でやっててくれてよかったと思った。



 シエラは、サラサ宮殿の倉庫でゴソゴソしていた。朝からずっとさがしていたが、目的の物は、夕方になっても見つからない。ミランダがあきらめるよう言い、シエラはため息まじりにやっと倉庫から出た。


 そして、夕食時、シゼレにたずねた。シゼレは、


「サイモンの形見ですか。ここにあるサイモンが使ってた道具類は、まとめて倉庫に保管しておいたのだが、もう十年近くにもなるし、使用人どもが適当に使ってなくなってしまったのかもしれない。」


「できる事なら、指輪が欲しかったな。叔父様、指輪が好きだったしね。ねぇ、市内とか、ケラータにある叔父様の家には、何か残ってないかな。」


 シゼレは、うーんと顔をしかめた。


「サイモンには身内(みうち)がいなかったので、私が使用人達の退職金代わりに、あらかた持たせてしまったのだよ。それに、どっちの家もすでに人手にわたってるしな。こういう事なら、少しくらい残しておけばよかった。」


「しょうがないわよね。まさか、今ごろになって、叔父様に娘がいたなんてね。しかも、うちのユリアだったなんてさ。レックス、まったく教えてくれなかったもの。」


「しかたなかったのではないか。ユリア王后陛下が、マーレルにいらしてすぐに、亡くなってしまったのだしな。それに晩年の彼の悲惨(ひさん)さは、とてもじゃないが教えられるものではない。」


「ここへきて、使用人達からきいたわよ。かなり、ひどい状態だったようね。何もかもわからなくなって、最後はバルコニーから、落とした物を拾おうとして落ちて死んだんでしょ。たしかに、お嫁にきたばかりのユリアに教えられないわね。


 でも、ユリアはもう、立派な大人の女性よ。話をきいても、静かに受けとめてくれたわ。けど、そう説明しても、叔父様はもういないし、ピンとこなかったみたい。だからせめて、形見くらい見つけたかったのよ。」


 シゼレは、こまったようにため息をついた。シエラは、二人ばかりの食卓をながめ、カラになったグラスに自分でワインをそそぐ。この日の夕食、給仕(きゅうじ)はいなかった。ユリアとサイモンにかかわる秘密裏の話をするために、シエラが追いはらったからだ。


「サラ義姉(ねえ)様、いないとさみしいわね。バテントスとの戦いの最中にお亡くなりになられるなんてね。アル、帰ってきて、その話をきいて、そうとうショックを受けてたのよ。私もショックだった。」


「ああ、良き妻だったよ。とても残念だ。」


「兄様の子供達、みんな、どうしたの。だれもいなくてガッカリしたわ。まだ、結婚してない娘が二人残ってるはずでしょ。息子も二人ともいないしさ。」


「ベルセアに行ってるよ。娘二人は、修道院で信仰と作法(さほう)を学んでいるし、息子二人は、僧侶として修行をつませている。息子達は、この春、修行が終わったので、もうすぐ帰ってくる。」


「アルもベルセアに行かせたの? 話、きくと訓練所に何年もいたって言うじゃない。」


「十歳になる前に一度、サラサの教会にあずけた事があった。だが、どうも教会の生活は合わないようで、すぐに飛び出して帰ってしまった。訓練所は、あれが行くと言ったので行かせたのだ。私としては、気乗(きの)りはしなかったがな。」


 あれ、シゼレは、アルバートをそう呼んだ。シエラは、


「以前、レックスがアルを養子にしたいって相談にきたよね。シゼレ兄様、いい顔しなかったって、レックス、がっかりしてたわ。そりゃそうよね。大切な跡取りだもの。」


「陛下も、こまったものだと思った。何を考えているのかともね。まあ、よく似ていたから、気に入ってしまったのだろうがな。だが、養子に欲しかったのではないだろう。大陸から帰ってきた者から、そういう話もきいている。」


 シエラの手が、テーブルの下でピクリとなった。


「私が見た限りにおいては、親子関係に近かったわ。ディナ・マルーで五年いっしょだったしね。私の事も、お母さんみたいに(した)ってくれてたしさ。アルは、すなおでいい子だしね。レックスが養子に欲しがるのも当然かもね。私だって、そうしたいと思ったくらいだしね。」


「信じているのか、お前は。」


「兄様は、信じてないの。御自分の息子でしょ。」


「陛下は、お亡くなりになられてから、お前に会いにこられたか。」


 シゼレは、話題をかえてきた。シエラは、小さくため息をつく。


「ぜんっぜん。朝方(あさがた)、よく寝たとか言って起き上がって、肉体からはなれて、ライアス兄様といっしょに向こう行って、それっきり。自分の葬式にも出なかったしさ。」


「どうして、お前に会いにこないのだ。これない理由があるのか。」


「レックスは、エイシアの霊域には、いないのよね。カルディア族って、大陸の遠いとこの部族の霊域にいるのよ。大陸を旅してた時、そこを(おとず)れて、すっかり気に入って、生前から、ちょくちょく霊体飛ばして行ってたのよ。」


「カルディア族の霊域。エイシアではないのか。」


 シゼレは、びっくりしたようだ。シエラは、


「無責任って言わないでよね。国教会の方じゃあ、最初はダリウスの生まれ変わりだとか言ってたけど、大陸に行き出したころから、雲行きが変わりだしたじゃない。ちがうんじゃないかってね。国教会は、エイシア至上主義の考えだし、主宰(しゅさい)神であるダリウスが外国とかかわるわけないってね。


 ったく、考えが古すぎ。時代がちがえば、いくらダリウスでも考えがちがうはずなのに、まったくその事に気がつかないなんてね。教義ガチガチでさ。それ以外からはずれた事すると、理解できなくなって、こうだもんね。」


「シエラ、国教会を侮辱(ぶじょく)する気か。いくら、お前の発言でも許されるものではない。」


「いいじゃない。どうせ、だれもきいてないんだしさ。レックスは、まちがいなくダリウスよ。あの杖が証拠じゃない。それに、どこのだれが、双頭の白竜なんて呼び出せるのよ。歴代のどの王様も、法皇様もそんな事できなかったはずよ。」


「シエラ、いい加減にしないかと言ってる。」


「いいえ、真実よ。神を人の尺度(しゃくど)にはめようとしている国教会の考え方が許せないだけよ。レックスは、最低限でも聖人の列に死後、くわえなければならなかったのよ。なのに、まったくそんな動きはない。」


「半年かそこらで、そのような事ができると、お前は考えているのか。最低でも十年はかかる。そのかん、さまざまな議論や人の意見、検証(けんしょう)をくり返さなければならない。」


「そんな事、する必要がある? あれだけの奇跡や実績をあげているのよ。レックスが、あまりにも大きすぎたから、小さな尺度では(はか)れないだけじゃない。だから、神を人の尺度にはめるなと言ったのよ。」


「もう、やめにしなさい。破門されてもよいのか。」


 シゼレは、本気になって怒ってしまった。元僧侶であるシゼレは、国教会に対する信仰が強い。自分が信じているものを侮辱されれば、いくら妹とはいえ、許す事はできない。


 シエラはムッとして、残りの食事を口に放り込んだ。

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