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千年王国ものがたりエイシア創記  作者: みづきゆう
第八章、天高く、空の向こう
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第九戦、首都制圧(3)

 エッジは、どんどん下へと走っていく。天へとのびる皇宮とは違い、神殿は、はるか地の下にある。地下にはすでに太陽の光はとどかず、消え入りそうなロウソクの(あか)りだけが、たよりだった。


 エッジの持つ剣が光った。光に照らされ、わらわらと逃げていく異物(いぶつ)のような影が、瞬間(しゅんかん)的にエッジの目に飛び込んできた。ライアスは、


(気をつけろ。ここはすでに異世界の領域となっている。カルディア族の頂上とは逆のな。)


「地獄への御案内かよ。おもしろくなってきたな。でもこりゃいいや。暗くてこまってたとこなんだよ。この剣は、他にどんな事ができるんだ。ふだん、切れないが、力を引き出すと、(かべ)でさえも(くず)す事ができるしな。」


(君の好きなように使えばいい。ぼくが君の思考(しこう)を読み、その通りにするから。君はいままで、ぼくやレックスのためにつくしてくれた。だから最後は、ぼくが君をサポートする。思う存分(ぞんぶん)戦えばいい。)


「ライアス、訓練所で、お前を見た瞬間から、おれはお前のために生きようと思った。だが、レックスにも同じ思いをいだいた。お前同様、どういうわけか、すっかり()れ込んじまったしな。」


(そりゃそうだよ。君もカルディア族だったんだしね。ヒナタが好きで好きでたまらなかったから、君は、彼女にくっついて、あそこから出てきたんだよ。ちなみにその時は、ぼくは君達の子供。まだ、小さかったんで、やっぱり、母親といっしょに出てきた。シオン・ダリウスの時とおんなじようにさ。)


 エッジは、ニヤリとした。


「これで納得。なんで、お前らにそういう感情もっちまったのか疑問だったが、そういう事なら、マジうれしい。レックスに、次は女に産まれるようたのんでみるか。必ず、美女になるはずだしな。そんでもって、お前はまた、おれ達の娘でいこう。母親似の絶世(ぜっせい)の美女で決まり。」


(それしか、考えられないのかよ。いっそ、君が女になったら。)


「それもいいかもな。尻がとびきりでかい女がいい。そんでもって、レックスを尻にしいてやるのも悪くない。なんか、来世に希望がわいてきた。ハナが成長したら、さっさと向こうに()って、次の転生楽しみにでもするか。」


 エッジは、目の前に出現した巨大なゴーレムを瞬断(しゅんだん)した。エッジの心の高揚(こうよう)感が、剣の力をより強く引き出す。


「本音は、お前ねらいだったがな、ライアス。けど、エルに先約(せんやく)されちまったんならしかたない。まあ、二番手でも良しとするか。」


(も、いい。胸焼(むなや)けがしてきた。)


 巨大な扉の前まできた。どうやらここが終着点らしい。ずっと走りっぱなしだったので、さすがに息が切れた。携帯していた水を飲み、息を少しととのえたあと、思い切って扉を開ける。


 ブワッとした瘴気(しょうき)が扉の向こうからあふれだしてきた。ライアスは、瞬間的に見えない盾を出現させエッジを守った。ライアスはさらに結界を強める。


 重く冷たい空気が、はてしなく広い空間に満ちていた。ボンヤリとした灯りに照らし出された広間は、カルディア族の聖域とは違う、あきらかに真逆(まぎゃく)の力によって支配されている。


 巨大な像が、祭壇(さいだん)(まつ)られていた。帝国の紋章、山羊(やぎ)に似た頭を持った像である。ライアスは、


(魔神像だ。こいつが、皇帝一族が崇拝(すうはい)していた邪神の正体だ。山羊は、従順(じゅうじゅん)な労働者を意味していたんじゃない。この邪神を()したものだったんだ。)


 魔神像の右腕に補修(ほしゅう)のあとがあった。五年前の戦いの前、レックス達が(ほどこ)した四方結界で破壊されたのだろう。背後で扉がしまった。数人の呪術師が闇から現われる。そして、エッジをかこみ、いっせいに呪文を(とな)え始めた。



 双頭の白竜の上で祈っていたシエラが、胸をおさえて苦しみ出した。呪詛がシエラにまでおよび始めたからだ。レックスは、杖を取り出し、シエラの周囲に結界を張ると同時に、自分もエッジ達を援護すべく霊体を飛ばした。


 エッジの体に強い光が飛び込んでくる。レックスがきた。ライアスだけでは、呪詛に負けかかり、(たお)れそうになっていたが、たちまち持ち直した。レックスは、自分の中にあるヒナタの意識を引っぱり出した。神官として、最大の能力を発揮(はっき)するためである。


 エッジの手に神杖(しんじょう)が出現した。自然と手が動き、もっていた王家の剣と杖を一つに融合(ゆうごう)させ、光り輝く大きな降魔(ごうま)の剣を出現させる。エッジは、降魔の剣で呪詛軍団をなぎはらった。


 数人いたと思ったが、ほとんどは例の素焼き人形で、術者は三人ばかりだった。そのうち一人は偽情報を流した術者だった。エッジは、もはや意識の無い術者の遺体から像へと視線をうつした。


 仮面をかぶった男が、像の前にたっていた。こいつが、皇帝なのか?


 男は、魔神像に向かい呪文を(とな)える。像が、もっさりと動き出した。そして、その巨大な全体からは、考えられないようなすばやい動きをする。巨大な魔神像相手に人間サイズでは分が悪い。ライアスは白竜を呼び出した。


 双頭の白竜は、二つのドラゴンに分化(ぶんか)し、シエラは何事(なにごと)も無かったかのよう、紅竜の背でひたすら祈りを続けていた。エッジは、白竜ともに魔神像と戦った。


 魔神像が、物理的な偶像(ぐうぞう)から、次第に肉体のある魔物へと変化していく。それにつれて、さらに動きが(はげ)しくなり、広間はたちまちにうちにガレキにうずまってしまう。


 皇帝らしき男が、仮面をかぶったまま、ガレキにおしつぶされているのが見えた。すでに息は無いよう思える。ふつう、術者が死ぬと、像の動きも止まるはずだ。なのに、目の前のバケモノは、まるで生きているかのように息をし始めている。


 ライアスは、


(こいつが、皇帝の本性(ほんしょう)だ。二百年前、イリアを追放された呪術一族で、たぶん、一番力をもっていた呪術者の魂が肉体を変えつつ、歴代の皇帝に憑依(ひょうい)し続け、生き続けていたんだ。皇帝一族は、そのための(うつわ)だ。


 もっとも、すぐれた能力の持ち主に憑依し、皇帝となり、肉体が(おとろ)え使い物にならなくなった時点(じてん)で、新しい肉体に乗りかえる。この帝国自体が、たった一つの魂を生かし続けるために構成された、巨大な器だったんだ。帝国内の人間すべて、皇帝でさえも、奴隷でしかないのは当然だ。)


(じゃ、ユードスも候補(こうほ)だったのかよ。あいつも、強い能力の持ち主だしな。)


(ああ、彼は帝国と縁を切って正解だった。でなければ、あのガレキの下敷(したじ)きになった男が、ユードスだったのかもしれない。血族を重視していたのも、よりすぐれた肉体と能力を継承(けいしょう)させるために必要だったんだよ。自分の器のためだけにね。)


 エッジは、目の前の敵をにらんだ。


(今は、おれ達を始末(しまつ)するために、巨大人形に乗り(うつ)ったと言う事か。まあ、このデカサなら、双頭の白竜と互角(ごかく)に戦えるしな。いつだったか、マーレルをおそったバケモノみたいにな。)


 巨大な手が、エッジをたたき落そうと頭上からふってきた。エッジが持つ降魔(ごうま)の剣がより強く輝き、その手をスパッと切り落とす。切り落とされた手は、下に落ちると同時に、もとの物理的な像の手にもどった。


(チッ、血まで出でやがる。しかも、毒々しい緑色ときた。どんだけリアルな肉体になってんだ。マジ、気持ち悪い。けど、ライアス、こいつを(たお)しても、また、人間か適当な人形に憑依(ひょうい)するんだろ。キリが無いぞ。)


(ヒナタにあるべき世界へと送ってもらう。レックスが何度かやってる封印(ふういん)だ。彼女は、そういう封印術が得意だから。だが、その前にこいつを破壊する。破壊して魂が出てきた瞬間が勝負だ。)


 エッジは、像の攻撃を()けつつ、どこが弱点か見極(みきわ)めようとした。白竜が、エッジの思いに反応し自在に空間を移動する。エッジはいっさいの反撃を止め、ひたすら降魔の剣に意識を集中した。


 見えた。二本の山羊の角。そして、眉間(みけん)。白竜は、すばやい動きで像に接近し、エッジは神速的な速さで二本の角を切り落とす。そして、眉間に降魔の剣をつきさそうと白竜から飛びおりた。


 手ごたえはあった。が、像の眉間から降魔の剣を引きぬき、白竜に飛び(うつ)ろうとした瞬間、像の腕にエッジは(はじ)かれ、地面へとたたき落とされてしまう。像は、眉間からヒビが入るよう(くず)れ落ちた。


 神官の姿をしたヒナタが出現した。カルディア族に多い黒い髪と黒い瞳を持つ、神々しいまでに美しい女性だ。ヒナタは、元にもどした神杖(しんじょう)を手に、くだけた像から脱出したモヤリとした黒い(かたまり)を、カルディア族の秘儀(ひぎ)を使い、たちまちのうちに、はるか闇の向こうへと封印してしまった。


 白竜は、傷ついたエッジと、遺体となった皇帝を背に乗せ、猛烈(もうれつ)なスピードで地下神殿から脱出した。地下神殿に通じる通路は、かなり広かったので、白竜の大きさでギリギリ通過(つうか)可能だった。


 レックスは、紅竜の背で目を開けた。シエラは、放心(ほうしん)したように紅竜にすわりこみ、宮殿から飛び出してくる白竜を見つめていた。


 白竜は、エルのすぐそばに地面に着陸(ちゃくりく)し、よってきた兵士達は白竜の背から、皇帝の遺体と、瀕死(ひんし)のエッジの体を地面へとおろした。


 地面へとおりてきたシエラが、エッジの姿を見て蒼白(そうはく)となる。レックスは、杖を持ち、シエラのそばで首をふった。


 レックスは、


「何かつたえる事はないか。」


 エッジは、かすかにほほえんだ。思いだけで言葉をつたえる。レックスは、思わず苦笑してしまった。エッジは、


(これでいい。これでやっと解放される。おれは、帰る事ができるんだ。最後にいい思い出ができてよかった。)


 シエラには、エッジの心の言葉を受け取る能力は無い。何もしようとしない夫を見る。レックスは、


「肉体の損傷(そんしょう)(はげ)しすぎる。エッジだから、まだ生きているんだ。ふつうなら即死だ。シエラ、死なせてやれ。」


「でもでも、ミランダが。五年も会ってないのよ。」


「遺体は、新しい家族にひきわたそう。魂を、つれて帰ろう。」


 レックスの頭上に、巨大な双頭の白竜が再現(さいげん)した。二つの口から、エネルギー弾が発射される。皇宮は山ごと蒸発(じょうはつ)した。山羊に代わり、黒獅子の御旗(みはた)が空高くかかげられる。


 エルが、レックスの前で頭を下げた。


「おめでとうございます、陛下。最高司令官として、あなたの勝利を(ほこ)りに思います。」


 レックスは、もはや動かない皇帝の()(がら)を見た。仮面の女が、抜け殻のそばでじっとしている。女の態度からさっすると母親だろう。エルが、遺体を丁重(ていちょう)埋葬(まいそう)しろと指示を出した。


 女がさっと立ち上がり、そばにいたエイシア軍の兵士から銃をうばいとり、エル目がけて銃口を向けた。自分と同じ苦しみを、エイシア国王にあたえるためにだ。銃声が響いた。


 エルの前に飛び出したレックスの胸が赤く()まった。レックスは、息子の無事をたしかめ、かすかに笑う。父親は、エルの目の前でくずれおちた。


「父ちゃん!」



 最終章へ続く。

 平和は、防衛あってこその平和です。防衛無き平和は、砂上の楼閣でしかありません。ましてや、まちがった思想のもとにある国が、自国の勢力を広げるために、積極的に他国を占領しようとするならば、自衛のための戦いは当然なのです。

 かつてのローマ帝国の繁栄は、確固たる防衛が築かれてこそ実現していたものなのです。後半、レックスが語る理想の世界は、すでにローマで実現していました。安全な道、どこにでも自由に行ける道、道は人々の暮らしをつなげ、文化を交流させます。言葉も違い、文化も違う国同士が、安全な道で結ばれてこそ平和は実現していくものなのだと、作者は考えております。

 次章、いよいよ最終章です。この長い物語がどういう結末をむかえるかは、みなさまの目でお確かめください。

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