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千年王国ものがたりエイシア創記  作者: みづきゆう
第八章、天高く、空の向こう
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第六戦、戦争継続(1)

 エイシア軍が、バテントスから撤退(てったい)としたとの知らせが、マーレルにとどいた。とうぜん、大さわぎになる。無敵(むてき)に近かった奇跡の英雄王が敗退(はいたい)したのだ。


 シエラは、里帰りどころじゃなくなった。知らせを受け開催(かいさい)された臨時国会で、そのさわぎを沈静化(ちんせいか)させなければならなかった。これを()に、レックスの(いきお)いに()されて静かだった反体制派勢力が、息を吹き返そうともくろんでいたからだ。


 国会では、戦争継続反対が(さけ)ばれた。領地とした公国と、独立させたダムネシア小王国、ティセア王国だけで、じゅうぶんだという意見が大半(たいはん)()めた。これ以上、無意味な戦争継続をするくらいなら、物資の支援はしないとの意見まで出たくらいだ。


 シエラは、話し合いでは説得できないと結論した。早急(さっきゅう)に手続きをし、マーレル公の地位をエルから取り上げ、自分にもどしてしまう。そして、久しぶりに特権を発動し、国会とマーレル市の一部の行政機能を停止させ、レックスの帰りを待つ事にしたのである。


 強引(ごういん)とも独断ともとれる王后シエラの行動に、多くのマーレル貴族、そして、市民達から反発が出た。側近達は、シエラを心配して、もう少し妥協(だきょう)するよう忠告する。だが、シエラは夫を信じ、待つ事にした。


 そして夜、ライアスがシエラの寝室に現れた。


「レックスは、君のした事をすごく心配しているよ。だが、戦争をやめるつもりはないから、よくやってくれたと感謝もしているんだ。あと、数日したら、紅竜でマーレルにもどる予定でいる。いつでも国会が開催できるようにしていてくれ。」


「わかったわ。けど、兄様、ほとんど休んでないんじゃない。兄様の力が弱く感じるわ。」


「帝国から撤退(てったい)するさい、呪詛の霧にやられてね。まだ、回復してないんだ。あの霧、戦闘士気を低下させる呪いがこめられていた。そのせいかもしれないが、軍でも撤退するかどうか、もめているんだよ。特にロイドがひどくてね。」


 シエラは、びっくりした。あの強気のロイドがそうなるなんて。ライアスは、


「レックスは、ロイドを説得できなかったら、ロイドをマーレルに帰し、将軍の入れ替えをするつもりでいる。それで、事態を沈静化するつもりでいるんだ。」


「レックスはどうして、バテントスにこだわるの。たしかに、ロクでもない国だけどもさ。けど、私達他国人が、そこまでする必要はないと思うわ。海側の小王国ともう一つの王国を解放し同盟を結び、バテントスとの国境沿いの公国をエイシアに併合(へいごう)したんでしょ。防衛線は()られたわけだし、これ以上はもういいと思うのよ。」


「ナギ族を中心とする諸部族が、こっちが撤退要請を出したにもかかわらず、戦争継続をして壊滅(かいめつ)的な被害を受けたんだよ。小さな戦いに勝利した(うたげ)の最中を(ねら)われたんだ。こっちが、寝込(ねこ)みを(おそ)われたのと同じようにね。なのに、ナギ族は、戦争に負けたのは、こったのせいだと言ってきた。撤退要請を出したにもかかわらずだ。同盟を破棄(はき)するともね。」


「それって、逆恨(さかうら)みじゃない。ラベナ族とはどうなのよ。ラベナ族は、ナギ族と仲いいはずよ。ラベナ族も、そう言ってるの?」


「いや、ラベナ族はちゃんと撤退したよ。ラベナ族に(したが)う部族とともにね。ラベナ族は、レックスと個人的に仲いいしね。東側はね、ラベナ族とナギ族を頂点として、それぞれに従う部族連で構成させているんだ。あの二つの部族が仲がよかったのも、必要に応じてだったんだよ。でないと、争いばかりが起こるからね。」


「それが、今回の事でくずれたと言うの?」


 ライアスは、ああと言った。


「今、カリス族の領地をめぐり、ラベナ族とナギ族で争いが起きようとしているんだ。下手すれば、解放した国二つと併合した公国にも被害が(およ)びかねない状況になってるんだよ。


 たしかに防衛線は張られたが、領土は獲得(かくとく)したあとの維持(いじ)が問題だ。それに、この戦いは一度始めたら、決着がつくまで止められない。東側の動きも問題だが、それよりも問題なのはバテントスだ。(うば)われた土地を取りもどそうとする。


 そして、次はまちがいなく、エイシアへとやってくる。そうなる前に、レックスは決着をつけるつもりでいるんだ。」


「でも、どうやって。被害はそうとうのものだったんでしょ。東側もダメだし、イリアも自国で手一杯。エイシア軍だけじゃあ、勝ち目は無いわ。」


「そのために、レックスは併合した国をかためようとしている。レックスは、マーレルには帰らない。時折(ときおり)、紅竜でもどってくるけど、ずっと大陸にいるつもりでいる。」


 シエラは、息をのんだ。


「そんな、帰ってこない。いつまでいるつもりなの。もう、ずっと帰ってこないつもりなの。」


「エルを帰すよ。レックスがいないあいだ、エルが実質国王となる。シエラ、補佐をたのむ。ぼくは、レックスのそばにいるから。」


 シエラは、すわっていたイスから立ち上がった。そして、ライアスにつめよる。


「私が行くわ。エルが帰り次第、私が行く。兄様は、エルの補佐をして。私よりも、兄様の方が適任(てきにん)だわ。いつも、兄様がレックスといっしょだったけど、今回は、私にやらせて。お願い。」


「君は気持ちはわかるよ。けど、あそこは、マーレルのように快適(かいてき)ではない。バテントスに荒らされて、町や村が破壊(はかい)され、農場とか工場以外、ロクな施設(しせつ)は無いんだ。生活する場所だって、ひどいものだ。おまけに、人々の心もすさんでいるし、エイシアに併合されても、バテントスと同じだと考えている者が多い。おまけに、バテントスを常に警戒し続けなきゃならないしね。」


「昔にもどったと考えればいいじゃない。馬車で生活していた時と同じようにね。もともと、私達は何もかも失った状態からスタートしたのよ。私は、炊事(すいじ)でも洗濯(せんたく)でも、畑仕事でもなんでもするつもりよ。それくらい、できるわ。」


 シエラの言葉に(まよ)いは無かった。ライアスは、シエラを少し見つめたあと、わかったと言う。シエラは、


「じゃ、エルが帰り次第、兄様と交代ね。エルには、できるだけ早く帰ってくるよう言って。マルーがもう、もちそうにないの。」


「そこまで、ひどいのか。」


 シエラは、うなずいた。


「数日前から、急に弱ってしまって眠ってばかりいるの。たぶん、エルを待っているんだと思う。兄様、会ってみる? 兄様だったら、眠っているマルーの心がわかると思うの。」


 ライアスは、わかったと言った。シエラとともに離宮へと向かう。マルーが眠っている部屋には、ルナがきていた。

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