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千年王国ものがたりエイシア創記  作者: みづきゆう
第八章、天高く、空の向こう
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第参戦、戦争開始(1)

 レックスは、ダリウス軍を(ひき)い海をわたり、かつてアレクシウス大王が征服(せいふく)し領土としていた地へと降り立った。指定された港にダリウスの艦隊が到着すると、港で待ちかまえていた初老の男が、数人の供とともに走りよってくる。


 そして、エイシア王の前にひざを折った。


「わたくしは、このダムネシア小王国の宰相(さいしょう)をつとめていた者です。お待ちしておりました、レクス・エイシア国王陛下。ええと、レシオン王太子デカは、どちらのお方で? ああ、あなた様がそうであられましたか。では、陛下の後ろにイラシャルお方は、陛下の式神(しきがみ)様の、リアス公ですね。」


 レックスとエルは、?という顔をした。デカ、殿下? イラシャル、いらっしゃる? レクス、レシオン、リアス? ライアスは、レックスの背中をつっついた。


(発音の違いだよ。アレクシウスが昔、領土としたこの土地を、大陸のうんと西、イリアよりももっと西からきたダムネシア民族が占領して、新しく(きず)いた国が、ここのダムネシア小王国なんだよ。この宰相さんは、その子孫なわけ。だから、発音が微妙(びみょう)に違うんだ。)


 エルシオンは、


「宰相殿、カイル軍は到着してますか? わかりました、すでに到着しているのですね。クリストン軍は、出港時の時化(しけ)のため遅れてくると、こちらがダリウスの港を立つとき伝令がきましたから、到着したら城への案内をおねがいします。」


「かしこまりました。ユードス様は、ここから海岸沿いに東方面の城で、みなさまをお待ちしてます。では、御案内いたします。」


 エルは、船上のカムイに向かい短く指示を出し、自分は父親とともに、ユードスの居城(きょじょう)へと向かう。とちゅう、レックスはエルに緊張(きんちょう)しているかとたずねた。


 エルは、


「してないと言えばウソになります。なにせ、初めての戦争ですからね。総大将の名に恥じないよう、精一杯努力するとしか言いようがないのが現状です。」


「そのわりには、おちついているよう見えるがな。昔、大陸を旅したとき、さんざん文句言ってたのが(なつ)かしいくらいだ。」


「父上には、かないません。父上はあの時は、ライアス兄さんを目標にしろと(おっしゃ)ってましたが、やはり、私にとり父上が目標です。少しでも御期待にそえられればよいのですが。」


「マルーの容態(ようだい)はどうだ。シエラの話だと、あまり思わしくないようだな。妊娠前は、太って丸々としていたのにな。」


 エルは、うつむいた。レックスは、


「心配なのはわかる。だが、今は忘れろ。お前、船旅の最中、ダリウスの方向ばかり見つめていたからな。」


「申し訳ございません。以後、気をつけます。」


 ユードスの城にはすぐについた。宰相は、一行を城の中に入れると港に引きかえした。レックス達は、この城の執事の案内で、城の謁見(えっけん)室みたいな場所へと通された。


 中央のイスに、小さな男の子がチョコンとすわっている。そのとなりにたたずんでいるのが、クリス、セレシア王女であった。クリスは、


「ようこそ、お()でくださいました。私がセレシアです。そして、こちらにいるのが、シグルド皇子です。」


 レックスは、セレシアの手をとり初対面の礼をした。そして、幼い皇子に向かい、形式にのっとったあいさつをする。シグルドは、かんげいしますと、母親に教えられたとおりに言った。


 一通(ひととお)り、あいさつが終わると、執事が、ユードスは別室で待っていると言い、レックスは、謁見室を出て行こうとする。クリスは、何か言いたそうなしぐさをしたが、レックスは気がつかないふりをして、そのまま出て行った。


 ライアスは、エルの中に入っていた。エルは、ライアスに心の声で話しかける。


(クリス殿下が、セレシア王女だったなんてね。シグルド皇子は弟でしょう? 瞳の色がおんなじだし。いったい何人、よそに子供つくってんだよ、もう!)


(ヤキモチ()く歳でも無いだろう。三人目の奥さん、この国からもらおうか。たしか、君と同じくらいの王女がいたはずだ。マーレルにつれて帰らなくても、現地妻にすればいい。将来、君と王女の子がいろんな意味で役に立つはずだよ。)


(何、言ってんだよ、兄さん。私達は、ここの人達を助けにきたんだろ。)


 ライアスは、おもしろそうに笑った。


冗談(じょうだん)だよ、何、本気にしてるんだ。でも、エルはすなおで優しい子だね。あれ、ロイドじゃないか。カイル軍の船は、港に無かったから今どこにいるか、きいてみて。)


 ロイドが、こっちに向かって歩いてきた。そして、レックスの顔を見るなり、遅かったじゃないかと言う。エルは、案内してくれている執事に、少し話をしたいから、ユードスに待っていてくれるよう伝言をたのみ、その場から追い払った。


「ロイド義兄さん。カイル軍の船は、どこにあるんですか。港では、見当たらなかったようですが。」


「あそこはせまいからな。近くの漁港へと移動してあるんだ。大型船が横付けできる漁港が、ここから一日のとこにあるからな。まあ、カイル軍はそれほどでもないし、おれが直接行って、ひっぱってくるまでもなかったよ。」


 ライアスは、カイル領主セシルについてもきいて、と言う。エルは、


「セシル様は、お元気でしたか。久しぶりにお会いしたのでしょう。カイル軍をつれてくるより、そちらが目当てだったのでしょう。」


 ロイドは、首筋をポリポリかいた。


「ああ、カイル軍よりも、兄貴の顔が見たくなったんだよ。ルナと結婚した時、帰ったっきりだもんな。元気だよ、とりあえずはな。けどもう、四十半ばにさしかかっているから、無理は禁物(きんもつ)だって言ってたよ。」


「ロイド義兄さんは、カイルへ帰らないんですか。セシル様に御子ができない以上、義兄さんはいつまでもマーレルにいられないはずです。このことにかんしても、お話するために帰られたのではなかったのですか?」


 ロイドは、チラとエルを見つめた。


「それよりも、エル、おれの舎弟(しゃてい)のカムイはどうだ? 去年、学校を主席で卒業してから、おれがビシビシ、カムイをきたえといたから、将軍のおれがいなくても、軍はスムーズにここまでこれたろう?」


 エルの顔つきが変わった。ライアスが、表面に出てきたからだ。


「・・・まだ不慣(ふな)れなところがあったのはたしかだよ。ぼくが、チマチマ指示して、ナントカね。カムイもエルとおんなじだよ。何もかも初体験で、そう、うまくやれるはずもない。だから、カイルに帰るかどうかきいてるんだよ。君の後任(こうにん)を早めに見つけておかなきゃね。」


「ライアスかよ。ほんと、嫌味(いやみ)なやつだな。兄貴は、まだまだ現役だよ。若くて元気な側室もらよう言ってきたから、待ってりゃ、おれが帰らなくてすむようになる。それとも、お前、おれを追い出したいのか?」


「帰るとしたらの話だよ。この戦いで、適任者の選抜(せんばつ)でもしようかと考えてたんだ。でも、必要なかったみたい。カムイをもう少しきたえてくれ。あれじゃあ、使い物にならない。」


 ロイドは、きびすを返して、その場から去っていく。レックスは、やれやれと思ってしまう。ライアスは、


「まだ、執事がもどってこないから言うけど、ルナとロイドは、家庭内別居の最中だ。気になって調べた。」


「やはり、死産が原因か。ルナもそうとうショックだったんだな。どうして、あの時、なぐさめに行ってやれなかったんだろう。()やむ。」


「違うな。死産は、しかたがない。ルナもそう割り切っている。割り切れないのが、ロイドの心だ。ルナは自分は、シエラの身代わりでしかなかったことに気がついている。だから、ロイドをこばんだ。ルナは今、母親への愛と嫉妬(しっと)のはざまで苦しんでいる。」


 レックスは、ため息をついた。


「シエラは、そのことを知っているのか?」


「ルナが心配でも、ルナのことは君が話さない限り、口には出さないようにしている。シエラが、ひたすら君への強い愛情をしめしているのも、ルナの心はそうやってでしか、取りもどせないとわかっているから。一番、つらいのはシエラだよ。娘の幸せをだれよりも願っている母親だ。」


「どうして、こうなったんだろうな。あれだけ幸せな笑顔で、結婚式をあげたのにな。」


 ライアスは、笑う。


「君達夫婦だって、いろんなことがあったじゃないか。それを乗り越えて、ここまできたんだよ。ルナだって、乗り越えられると信じている。それが、最悪の事態になったとしてもね。」


「お前は、離婚を望んでいるのか?」


「ロイドが、どちらを選ぶかによるよ。マーレルに残るなら、それでよし、そうでなければ、ルナを離婚させたほうがいい。エイシアは統一されなければならない。」


 執事がもどってきた。


「まもなく夕食のお時間ですので、ユードス様は、お話はその場でとオシャテおります。その前に、ダムネシアの継承(けいしょう)者であるネルザ王子にお会いして下さいませんか。陛下にお会いできる時を、心待ちにしておりましたので。」


 執事は、レックスとエルを中庭へと案内した。三十過ぎた男が、エルと同じ年頃(としごろ)の女の子とともにいる。執事は、ネルザ王子とその娘だと紹介した。

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