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千年王国ものがたりエイシア創記  作者: みづきゆう
第八章、天高く、空の向こう
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第壱戦、時機到来(3)

 エルは、


「父ちゃんが、約束守ってくれたんだ。ぼくが会いたいって言ったら、必ずまた会えると約束してくれたんだよ。あの時の君のケーキの味、ずっと忘れた事なかったもの。いまでも、おぼえているよ。」


 ユリアは、ナベにフタをし調理台のすみに置いた。


「さて、下ごしらえはお終い。そろそろ寝よう、エル。」


「えー、ちょっとだけ、わけてくれるんじゃなかったの?」


「ケーキが焼けたらね。エルのちょっとは、ぜんぶじゃない。マルーのケーキなんだからね。うんと、おっぱい出さなきゃね。エルのぶんは、切り分けて、ちゃんととっておくから、明日のお楽しみ。」


 エルは、なごりおしそうにナベを見ている。ユリアは、エルの手を引っぱった。


「明日、早く起きて、ケーキ作りのお手伝い、おねがいね。エルは寝坊(ねぼう)だけど、たたき起こしてあげるから。」


 

 レックスは夜遅く、居住区にもどってきた。シエラは、寝室のテーブルで寝ていた。どんな遅くなっても、シエラは寝ないで待っていてくれる。レックスは、シエラをそっと抱き上げ、ベッドに寝かせた。


(つかれているなら、寝てればいいのにな。出産の面倒(めんどう)みて、養護施設のガキどもの世話までして、おれの帰りを待ってるなんてな。


 仕事、やっとやめてくれて、家でノンビリするかと思えば、一年もたたないうちに、親のいないガキども集めて養護施設つくって経営に乗り出すわ、身寄(みよ)りの無い老人どもの世話をするわ、貧困層(ひんこんそう)の医療や教育にも乗り出すわで、ほんと家に()つかない女だな、シエラは。)


 シエラは、うーんとうなり寝返りをうち、すぐまた寝てしまう。レックスは、シエラの寝顔を見つめていた。


(もう、苦労はじゅうぶんだと思えばこそ、おれは、お前に引退するようしむけたんだ。なのに、国の仕事から手を引かせれば、別のこと見つけてやりだすし。まあ、子供が全員、手をはなれて、ヒマだったせいもあるだろうが。)


 レックスは、つかれたよう、ベッドに腰をおろした。


(ルナ、マルーの出産を、どう思っているんだろう。結婚してから、ほとんど会わないし、死産だときいても、シエラはともかく、おれ自身、国王という立場から見舞いに行くことさえできなかった。死産してから三年になる。そのかん、妊娠したなんて、きいてない。ロイドも、夫婦間については自分からは話さないし、あの二人の仲は、うまくいってるのだろうか。心配だ。)


 レックスは、シエラにキスをし、ベッドに横になった。そして、寝付くと同時に心を飛ばす。行く先は、カルディア族だ。



 シエラ(ライアス)が、すでにきていて、カガリビとともにヒナタと遊んでいた。ヒナタが産まれて、下界の時間では五年になる。だが、時間がほとんど意味をなさないカルディア族の聖地では、ヒナタは二歳くらいでしかない。


「ねぇ、もう一回言って。私のこと、お母さんって言ったよね。ヒナタ、お母さんと呼んで。」


 ヒナタが、レックスを見て、ニッコリ笑った。そして、たどたどしい口ぶりで、お父さんらしき言葉を言う。レックスは笑った。


「お、やっと、父ちゃんって言ってくれたな。ヒナタは、かしこい子だな。」


 シエラは、


「ずるーい。せっかく、お母さんって呼ばせようと思ってたのにさ。」


 レックスは、族長はいるかとカガリビにたずねた。カガリビは、


「いつもの神殿で、お待ちしてます。今日はずっと、ヒナタ姉さんがくるのを待ってたんです。早く行ってあげてください。」


「姉さんはいいけど、ヒナタはもうやめてくれ。シエラ同様、まぎらわしいからさ。シエラ、今日はお前もくるか。待ってたんなら、かなり重要な話があるはずだ。」


 シエラは、首をふった。


「ヒナタのそばにいる。話なら、あなただけでもじゅうぶんでしょ。」


 シエラは、王家の剣をレックスにわたした。


「私の魂の一部を、剣に閉じ込めてあるわ。剣をつたわって話がきけるから。」


 シエラは、じーっとヒナタを見つめている。ヒナタが、何をしてもかわいいようで、ニコニコしながら幸せそうに見ている。レックスは、やれやれと思う。


「お前、ほんと、娘からはなれたくないんだな。いっそのこと、マーレルつれて行くか。何年もたってるし、ヒナタのことを話しても、今のシエラなら冷静(れいせい)にきいてくれるはずだ。養護施設のガキどもに、お母さんと呼ばれて、うれしがってるしな。」


「だから、ここでいいの。シエラに取られちゃう。こーんなにかわいいんだしさ。」


 シエラは、ヒナタのほっぺたをチョンチョンつっつき始めた。ヒナタは、キャッキャッと笑う。レックスは、


「そういえばお前、旅から帰ってから、シエラの体に入らなくなったな。シエラは髪ものびて、お母さんらしく()い上げているし、着る服も年相応になった。やっぱり、使いづらいんだろ。」


「彼女は、もうぼくじゃない。そして、ぼくも彼女じゃない。おたがいを分身だと信じていた時期は終わったんだよ。話も必要以上にはしていないしね。族長が待ってるよ、行った行った。」


 シエラは、ライアスの意識でこたえた。


 レックスは、鏡の前にきた。空間がゆがみ、いつも族長がいる庭に(めん)した座敷(ざしき)に行く。族長は、静かにほほえんだ。


「これから、ユードスのもとに行き、彼と話をしなさい。私ができることは、すでにありません。この四年、辛抱(しんぼう)強く待ちましたね。」


「ああ、待ったよ、母さん。でもおかげで、東側諸部族の結束もずっと強固になったし、それぞれの部族の役割も決まった。イリア側も、それなりに戦いに(そな)えることが可能にもなった。バテントス国内も、ユードスの味方がだいぶ増えたし、すべて、母さんの言うとおりになった。母さんは、すごいよ。」


「私は、ここで、神示(しんじ)を受け取り、そして、さまざまな未来を見通して、もっとも良いと思われる選択をしているだけです。ですが、すべてがうまく行くとは限りません。良いと思われる未来を選択したとしても、その時次第で、すべてが変わってしまいますから。」


「でも、すごい。」


 族長は、いつも変わらない優しい笑顔で、見つめてくれた。


「私がしていることは、あなたが過去してきた仕事なんですよ。あなたが、新しいことを次々と考え、迷うことなく実行でき、エイシアを大陸をふくめて、一番発展させることができたのも、そのためなのです。もともと、未来を見通せる力があるんですからね。」


「必ず勝利する。そして、あの国を解放する。ユードスと話がつきしだい、戦争に向けて準備を開始する。今度は、敵地に攻め入る。二十年前、こっちが攻められたお返しだ。人間を家畜扱(かちくあつか)いする国の末路(まつろ)がどういうことか、思い知らせてやる。」


期待(きたい)してますよ、ヒナタ。ですが、気をつけてください。準備万端だと思われていても、油断(ゆだん)慢心(まんしん)が、すべてを狂わせてしまいますからね。たしかに今、絶好(ぜっこう)のチャンスではありますが、それを生かすも殺すも、その時の状況(じょうきょう)にかかわっているのですから。」


「わかってるよ、油断大敵だろ。じゃ、さっそくユードスのとこに行ってみるとするか。寝てたら、たたき起こしてやるよ。」


 レックスはそう言い、ユードスのもとに飛んだ。

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