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千年王国ものがたりエイシア創記  作者: みづきゆう
第八章、天高く、空の向こう
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第壱戦、時機到来(2)

 シエラは、うれしそうに産まれたばかりの女の子、クリスティアを抱いていた。ルナが以前、死産してたので、なおさら、初孫の誕生がうれしい。


「はーい、おばあちゃんですよ、クリスティアちゃん。かわいい。エルが産まれた時のこと思い出しちゃう。しかも女の子だしさ。女の子、すごく欲しかったんだ。」


 ベッドでぐったりしているマルーが、孫をうれしそうに抱いているシエラを見つめた。


「お義母様は、まだお若いではありませんか。クリスティアには、大きなお母さんと呼ばせますわ。」


「それは、レックスに言ってちょうだい。たぶん、そんなこと考えてるはずだからさ。私は、おばあちゃんでじゅうぶん。」


「でも。」


 シエラは、笑った。


「よく、がんばったわね、マルー。あなた、私の誇りよ。」


 マルーは、うれしそうにほほえんだ。シエラは、


「でも、エルも薄情(はくじょう)ね。名前、決めて、すぐに仕事にもどっちゃうもんね。もう少し、マルーを、ねぎらってあげてもいいのにさ。」


「彼の笑顔だけで満足してます。期待(きたい)していた男の子でなかったから、どうしようかと思いましたが、この子の顔を見て、かわいい娘だと言ってくれたので、本当にうれしかったです。」


「産まれれば、男も女もないのよ。もう、産まれてくれただけで、ありがとう、なんだしね。きっと、すてきな女性に育つわ。すごく楽しみ。」


「そう言って下されば、うれしいです。」


 シエラは、そばにいた乳母に赤子をわたした。


「じゃあ、私はそろそろ養護施設に行くわね。養護施設の子供達、あなたの赤ちゃんの誕生、楽しみにしていたから教えてあげなくちゃね。」


 マルーは、驚いた。


「え、これからですか? でも、お義母様、一睡(いっすい)もしていなんじゃあ。」


「あなたにくらべたら、たいした事ではないわ。でも、本当に良かった。これ以上、長引いたら、どうしようかと思ってたけどね。夜になったら、またくるから。」


 シエラは、行ってしまった。乳母は、マルーを休ませるために赤子を別室へとつれていく。マルーは、少し眠ろうと思った。けど、出産が終わって()もないせいか、神経が高ぶっていて眠れそうもない。


 ユリアが、ひかえめに室内へと入ってきた。 ユリアは、手に持っていたふきんをかけたトレーを、マルーのベッドのわきのテーブルに置いた。そして、マルーの顔を心配そうに見つめる。


「ケーキ、焼いたの。マルーが好きな栗の甘煮(あまに)をたくさん使ったの。少し食べてみる? 陣痛(じんつう)、はじまってから、何も食べてないんでしょ。」


 ユリアは、ケーキを小皿に乗せて、マルーにわたした。


「ありがとう。あまり食欲ないけど、これだったら食べられそう。ユリアのケーキ、おいしいもの。」


「おめでとう、マルー。今日からあなた、お母さんね。」


「ユリアもお母さんじゃない。産んだのは私だけど、産まれてきた子は、私達二人の子よ。そして、ユリアが子供を産んだら、その子も私の子よ。」


 ユリアは、ほほえんだ。


「私の赤ちゃんか。いつ、産まれるのかな。私もマルーみたいに早く産んでみたいな。」


「そのうち、産まれるわよ。それよりも、エルのお世話お願いね。私、しばらくは、別室で体を回復させなきゃならないから。」


「早く、元気になってね。私、毎日、ケーキ焼くね。明日は何がいいかな。」


「桃のケーキが食べたいな。梨でもいいわ。」


「わかったわ。じゃあ、これから町に出て材料さがしてくるね。瓶詰(びんづ)めなら、売ってるはずだから。」


「使用人にたのめばいいのに。」


「ダメダメ。こう言うのって、つくる人が、ちゃんと良し悪し見極(みきわ)めなきゃね。人にたのむと失敗すること多いんだ。夕方までには帰るから、それまでゆっくり休んでね。」


 ユリアがいなくなったあと、マルーは食べかけのケーキをテーブルに置き、目をつぶる。長時間、続いた出産で、思いのほか体力を消耗(しょうもう)している。食べることさえ、つかれてしまう。


(少し眠ろう。眠ったら、食欲がでるはず。お義母様みたいに、私も自分のお乳で、赤ちゃん育ててみたい。そのためには、うんと食べなきゃ。)


 その夜、夕食がすんだあと、ユリアは一人、離宮の厨房(ちゅうぼう)でロウソクの(あか)りをたよりに、ケーキの下ごしらえをしていた。桃の瓶詰めが手に入ったが、思ってたよりも甘味が少なく、そのままではケーキにつかえないため、砂糖をくわえ、煮なおす必要があった。


 一人、トロトロとナベの火に当たっていると、だれかが厨房に入ってくる。エルだった。マルーはすでに寝たという。エルは、ユリアが手を動かしているナベを見つめた。


「あ、桃だ。ねぇ、これから何を作るの? え、桃のケーキ? ぼく、大好きなんだ。マルーが残した栗のケーキ、おいしかった。お腹いっぱいって言うから、ぜんぶ、食べちゃったんだ。少し、味見(あじみ)していいかな。」


 ナベに、フォークを入れようとしたエルの手を、ユリアはたたいた。


「ダメ。マルーのためにつくってんだから。エルに味見させたら、ぜんふ、食べちゃうじゃない。」


「食べないよ。ちょっと味見するだけだって。アチ、甘いけどおいしい。ケーキよりも、このまま食べたほうがいいんじゃない。」


 エルは、フーフーしながらフォークにさした桃の切れ(はし)を食べている。ユリアは、桃がこげないよう、ナベをまぜながら、


「いいわ、少しだけなら、桃をわけてあげる。でも、手伝ってくれたらね。」


「ぼく、作るより食べるほうがいい。」


「ダーメ。エルはいつもそう言って、手伝ってくれないしさ。はじめて会ったときは、手伝ってくれたのにね。フラムちゃんは、いい子だったのにな。」


 エルは、赤くなった。


「あのときは、ケーキが食べたかっただけ。旅していて甘いもの、あまり食べられなかったから、ケーキにつられたんだよ。もう、フラムはよしてくれ。父ちゃんに言われて、しかたなしに変装してたんだからさ。」


 ユリアは、笑った。


「ほんと、まさか、男の子だったなんてね。でもあの時は、妹ができたみたいで、すごく楽しかったの。たった一晩でお別れするのが(いや)になるほどにね。」


「ラベナ族から、お嫁さんもらうってきいて、乗り気じゃなかったけど、まさか、ユリアがくるなんてね。びっくりしちゃった。父ちゃんもずるいな。ずっと、秘密にしてるなんてさ。」


「陛下から、じきじきに私をって、御指名があったのよ。でなきゃ、私みたいな平民が、あなたの側室になれるわけないしね。


 でも、私にも家族にも、なんの説明もなかった。あの日とつぜん、首都から族長様のお使いがやってきて、私を族長の養女にすると言って、しぶるお母さんとおじいさんを強引に説得して、私をあそこから連れ出した時には、もう何がなんだかわからず、ずっと泣き続けていた。


 首都の族長様の家にいても、なんのために私を養女にしたのか説明されず、礼儀(れいぎ)見習いとか立ち()ふるまいとか(きび)しく教えられ、外出も禁止され、どんなに帰りたくても、お前の家はここだと言われ、もういやだと思った。


 族長様と奥様に、ひどいことをされたわけじゃない。ただ、理由もわからず、強制され続けてたことが、とてもつらかった。二年すぎて、私があきらめかけたころ、運命を受け入れたと言ってもいいのかな、そのころになって、ようやく族長様が理由を話してくださったの。


 信じられなかった。どうして私なのかと、なんどもたずねたわ。そのたび、族長様が、先方(せんぽう)の御希望なのだからと、そればかり。あなたと陛下の顔を見て、ようやく、理由がわかったと言う訳。」


 ユリアは、ナベを火からおろし、調理台の火をおとした。

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