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千年王国ものがたりエイシア創記  作者: みづきゆう
第七章、遥かなる大地
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二、出発(1)

 その晩、ライアスは久しぶりに、シエラの中で休んでいた。夢の中で、二人はずっと(かた)り合っていた。いろんな話が出た。小さいころから今にいたるまで、シエラが忘れてしまったことまで、ライアスは詳細(しょうさい)に記憶していた。


 ライアスは、


「時間の長さでは、君とすごした時間が一番長い。だから、ぼくの半分は、君とすごした時間でうめられているんだ。最初は君を愛して、次はレックスを愛した。そして、今はクリスだ。愛する人は、時間とともに変わってきている。たぶん、これからも変わり続けていくだろうね。」


「クリスのこと、一生愛するんじゃないの?」


 ライアスは、目をとじた。


「さあねぇ、どうだろうねぇ。レックスを愛した時、彼だけを一生愛すると決めてたけど、今はクリスをそう思っている。それはたぶん、その時間だけの思いなんだよ。けど、今はこの時間を大事にしたい。」


「兄様は今、ライアスとして、やり残したことをしていると考えていいのかな。本来ならば、もう結婚していて子供もいて、立派な中年になってたはずでしょ。」


 ライアスは、苦笑した。


「中年は、よけいだよ。まあ、四十過ぎてるだろうけどね。君の体をかりたばかりに、最初に君、つまりシエラとしての人生を、しばらく(あゆ)むはめになったけどもね。でも、それはそれで、とてもすばらしいことだった。」


「ね、兄様。もう一度、私にならない。やっぱり、兄様がいないと半分なくなったみたいなの。」


「君はもう、立派な一人の女性だよ。ぼくなんかよりも、夫をたよりとするべきだ。それが、君という女性が歩むべき道なんだから。」


「やっぱりもう、前みたいにならないのね。」


「ああ、卒業だ。レックスはすでに卒業しているよ。一人前の大人の男性だ。ぼくをとっくの昔に追い越してしまったよ。今では、ぼくが彼を、たよってばかりだけどもね。」


 シエラは、笑った。


「兄様は、卒業してないじゃない。ううん、それでいいのかもね。兄様、レックスのこと、たのむわよ。私、もう、ついていけなくなったから。」


「君は立派なレックスの妻だよ。そして、国王の(きさき)だ。ぼくは君を(ほこ)りに思う。」


「ありがとう、兄様。それだけでいい。」


 シエラは、涙をふいた。

 


 国王が、しばらく留守にして旅に出るなんて、そう簡単に側近達が納得(なっとく)するはずがない。さんざん、もめたあと、シエラの説得もあり、とりあえずなんとかなった。が、条件がきっちりつけられてしまった。


 必要行事や重要な国会があるときは、必ずもどって出席すること。何もなくても十日に一度はマーレルに帰ること。そして、旅行期間は、イリアに行く前三ヵ月間だけとし、イリアには、必ずマーレルから出発すること。


 同行するライアスは、シエラに報告をするために毎日帰ってくること。何かあったら、旅行を中止するなどなど、その他、実にうるさい条件をつけられて、マーレルを出発できるようになったのは、春も(なか)ばになってからだった。


 三ヵ月、という短い制約があるのだから、旅行はかなりの効率を考えて、東側をまわらなければならない。(さいわ)い、マーレルと連携(れんけい)しているクリストンの情報部が、東側に出入りしていたので、その情報をもとに作成した、現時点のでの東側勢力地図みたいなものがマーレルの情報部に用意されていた。


 ライアスは、その地図を見ながら、出発前の前夜、東側について、いろいろと説明をした。


「東側諸部族は、大小合わせると、百以上もの部族がある。その中で、最大の勢力をもち、イリアから王女をもらっているのが、ラベナ族だ。


 以前、ぼくの叔父サイモンが、同盟取り付けのために奔走(ほんそう)した部族だよ。この部族を説得できたからこそ、今の同盟があるんだ。まずは、ここの部族を目指(めざ)そう。


 そのラベナ族と、前々から同盟をむすんでいたのが、西側にある三番手のナギ族。そのとなりにあるのが、二番手のカリス族だ。


 カリス族は、バテントスと部族領地が(せっ)している関係上、バテントス()りで、族長の娘が二人、バテントス皇帝の後宮に人質にとられている。当然、同盟には入っておらず、他部族と常に緊張状態にあるときいている。」


 レックスは、地図の上、北側にある小部族を指さした。


「カルディア族と書いてあるな。ユードス・カルディアの部族だろ。」


 ライアスは、うなずいた。


「カルディア族は、太古(たいこ)の精霊と交信(こうしん)ができるとされる部族だ。少部族だが、その大半(たいはん)は、ユードスのような霊能者だという。ウワサだけど、ドラゴンをあやつる騎竜(きりゅう)兵もいるらしい。


 いちおうニキスの戦いのあと、同盟には入ったが、他部族との接触は必要以上にしてないようだ。住んでいる場所も、人が()()がむずしい山岳地帯が多いし、東側でも、(なぞ)が多い部族とされている。」


「クリストンに兵を送ったくらいだから、バテントス寄りだとみていいんだな、その部族は。」


「兵を送ったからって、バテントス寄りとは限らないよ。同盟ができるまでは、それぞれの部族で、勝手にバテントス対策をしてたくらいだ。人質として、何十人でも部族から取られていたとしても、おかしくはないだろう。」


「じゃ、同盟は、かなりの決断で結ばれたんだな。お前の叔父さん、よくやったよ。」


「それだけ、東側もせっぱつまってたんだよ。仲の悪い部族まで、まとめての同盟なんて、第三者でなきゃできないことだったしね。サイモンももう、六十のおじいちゃんだし、この世にいるうちにマーレル呼んで、君からじきじきに、その功績(こうせき)(みと)めてあげた方がいいよ。」


「だよな。イリアから帰ってきたら、勲章(くんしょう)用意するか。サイモンとも、何年か前に会ったっきり、会ってないよな。もう、そんな歳になったのか。」


「そ、光陰(こういん)矢のごとし、って言うしね。シエラともしばらくお別れだ。」


「十日に一度は、帰ってくるんだぜ。しばらく、お別れじゃないよ。そう言えば、お前、ここんとこシエラと仲いいな。仲なおりして、もとのサヤにおさまったみたいだな。」


「うん、おさまった。けど、ふつうの兄と妹としてね。以前のように、きょうだいだか、恋人だかわかんない関係は、もうおしまい。君との関係もすっきりしたし、なんだかホッとしている気分なんだ。」


「きょうだいで思い出したが、シゼレんとこ、また子供が産まれたってきいたな。何人、いるんだ。あそこは。」


 ライアスは、両手で数えた。


「九人になるな。双子もいるしね。いま、産まれた子をふくめて、男四人。女は五人か。名前は、全部おぼえてない。多すぎてさ。」


「なんか、うらやましい。こっちは、マルーをのぞいて三人だけだ。ルナは養女だし、実質二人か。シエラももう三十だし、できたとしてもあと一人が限界かな。」


「側室という手もあるよ。けど、君はもらう気は無いみたいだしね。」


「無い。おれは、シエラ一人で満足してるから。」


 ライアスは、律儀(りちぎ)なことでと思った。国王の妻は、確実(かくじつ)に跡継ぎを残すよう、最低でも二人はいるから、レックスは例外と言ってもいい。レックスは、あくびをした。


「もう、寝よう。明日は早い。」



 翌日、レックスとエルは、通常の護衛とともにマーレルを出発した。海岸にある避暑用の王族の別邸(べってい)での長期休暇という、ふれこみだ。十年以上、休みなく働き続けてきたので、ここらで休みをとって精力(せいりょく)をたくわえたい、そんな理由である。


 別邸までは、馬車で四日間程度の旅だ。そして、別邸についたら、一般人に変装して港まで行き船に乗り、大陸に到着次第、あらかじめ用意していた馬車で二人旅、という筋書(すじが)きである。


 別邸に到着したレックスは、金色の髪を黒く()めた。そして、エルは女の子にされる。とびきりかわいい下町の女の子になった。本人は、鏡の前で、いやそうな顔をした。


「ぼく、女の子いやだよ。父ちゃんみたいに髪そめるよ。」


「めだちすぎるんだよ、お前は。女の子だったら、まだ、ごまかしようがあるんだ。旅行楽しみにしてるんだろ。だったら、がまんしろ。お前の名前は、フラム。むかーし、母ちゃんが使ってた偽名(ぎめい)だ。」


 エルは、ますますいやそうに顔をしかめた。そして、鏡の中の父親に話しかける。


「お母さんてさ、昔はちゃんとした女の人だったんでしょ。どうして、男装なんかしてるのさ。」


「そりゃ、なんども命をねらわれて、ああするしかなかったんだよ。はじめて会ったころの母ちゃんはな、そりゃ、きれいだったんだぞ。栗色の髪がフワフワでな、ほっぺたはピンクだったし、くちびるなんて、花びらみたいだったんだぞ。」


 エルには、ピンとこない。ふだんのシエラは、たとえドレスを着ていても、化粧なんてほとんどしないし、おしゃれとは程遠(ほどとお)い。


「父ちゃんの趣味って、結局(けっきょく)、男の人みたいな人が好きなんでしょ。いさましくて、しっかりしていてさ。ライアス兄ちゃんみたいなタイプ。兄ちゃんとは、今はどうなっているの? 兄ちゃんは、お母さんになれるし、まだ夫婦なの?」


「今は、ただの友達だ。お前も、おれ達のフクザツな関係、わかるようになったのかよ。もう十歳だもんな。もうすぐ、十一になるんだよな。そろそろ、生意気(なまいき)な口きくようになってきたんだよな。ところで、マルーとはどうなっている?」


「キスなら、よくしているよ。あのさ、ミランダがね、おとといの晩さ、マルーが大人になったって言っていた。意味がよくわかんなかったけどさ。」


 どうやら、初潮(しょちょう)がきたようだ。マルーも十三だ。心身(しんしん)ともに大人になっていく歳である。


「まあ、そのうち意味がわかるさ。あのな、エル。マルーはお前が好きなんだよ。お前は、マルーをどう思ってんだ。そのことをききたかったんだよ。」


 エルは、鏡にうつっている自分の姿をながめた。


「きらいじゃないよ。けど最近、なんかうざったい。だから、旅行楽しみにしてたんだ。ね、帰ったら、マルーとは別の部屋でいい? 一人になりたいんだ。」


「お前は、マルーと結婚してんだ。夫婦なんだよ。父ちゃんと母ちゃんみたいにな。いっしょにいるのが当たり前だ。聖堂での結婚式、おぼえてないのか。」


「わすれちゃった。ねぇ、どうして結婚することになったの。ぼくだって、父ちゃんみたいにレンアイしてみたかった。」


 レックスは、エルを()きしめた。


「ごめんな。イリアとの同盟のために必要だったんだよ。おれとシエラも当時の複雑な事情で、お前と同じような理由で結婚したんだ。相手をえらべなかったのは、お前と同じだ。でも、恋愛したんだ。好きになったんだ。お前も、マルーを好きになればいいんだよ。」


 エルは、父親からはなれた。


「どうやって、好きになったらいいのかわからない。ルナ姉ちゃんは、マルーの味方だから、もう少し優しくしろとか大切にしろとか、うるさいけど、どうやって大切にして優しくしていいのか、それもわからないんだ。女って、どうしてこう、めんどくさいのかな。父ちゃんが、お母さんみたいな人、好きになった理由がわかるよ。」


 レックスは、エルのふてくされている顔を見つめた。


「あせる必要はないさ。お前ももう少し大きくなったら、わかるときが必ずくる。でも、マルーを、うざったいなんて思うのはよくないな。お前が、逆の立場だったら悲しいだろう。」


「そうだけどもさ。でも、やっぱりうざったい。」


 エルもそろそろ思春期なのだろう。マルーを異性と意識し始めたからこそ、うざったいなんてセリフが出てくるのだろう。レックスは、エルの肩をたたいた。


「さて、準備もできたし、そろそろ出発するぞ。おい、ライアス。紅竜と白竜は、マーレルから呼び寄せたんだよな。到着してるんだろ。」


 レックスは、二階の窓から顔を出して庭にいたライアスに話しかけた。

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