序
はじめて投稿します。みづきゆうと申します。よろしくお願いします。
シエラが領主の娘として育った国クリストンは、一年前に海の向こうからやってきた侵略者、バテントス帝国に占領された。シエラは、その時の戦いで、クリストン領主である兄ライアスと、もう一人の兄シゼレを亡くしている。
シエラには、ライアスとシゼレ以外のきょうだいはいない。シエラの父親である前領主は二年ほど前に病死し、母親もシエラが物心つく前に亡くなっており、二人の兄が戦死したあとは、領主家の人間はシエラ一人だけとなっていた。
バテントス帝国は、たった一人残った領主家の娘シエラを、クリストンの新領主にしたあと、極秘裏にバテントス帝国へ護送する事にした。
帝国がクリストンを占領したとはいえ、クリストンの首都サラサをおさえ、シエラを人質に取っただけだったので、各地にちらばるクリストン国内の反バテントス勢力すべてをおさえこめたわけではない。帝国に護送する事にしたのも、シエラが反勢力に奪回されるのを警戒したからだった。
護送日当日、シエラは睡眠薬を飲まされ、棺おけによく似た長い行李に入れられた。そして、運び屋に偽装した兵士達に守られた荷馬車に荷物同然に積まれたのである。
首都サラサから、バテントスの船があるクリストン北部の港までは、どんなに急いでも数日かかる。荷馬車で棺おけなどという、非常識な方法での護送になったのも、あくまでもシエラの移動が反勢力に知られないようにするためだった。そして、そのために、首都サラサには、シエラの偽物まで用意しておいたのである。
シエラが、首都サラサを旅立ち幾日か過ぎ、睡眠薬と棺おけでの屈辱的な日々にもあきらめがついたころ、荷物輸送のための運び屋に化けたバテントス軍の隊商が、とつぜん何者かの襲撃をうけた。襲撃は、もうすぐ港だという隣国ゼルムに近い山間でおこった。
シエラ護送のために選抜された少人数ながらの精鋭部隊は、襲撃者達が使った今まで見た事もない筒状の細長い武器によって、あっというまに蹴散らされてしまい、睡眠薬でウトウトしているシエラを奪われ、それきり見つける事はできなかった。
その後、バテントス軍は、サラサにいる偽物を本物のシエラ姫とし、そのまま何事も無かったかのよう、占領政策を続けていた。
物語は、ここから始まる。
全9章で構成されています。すべて完成済みですので、順次発表させていただきます。長い物語になりますので、最後までおつきあいいただけたら幸いです。この作品をお読みいただき、まことにありがとうございます。