朝
今日は書き溜め放出祭(勉強の合間に修正しながらだから時間は不定期)
10話くらいまで出せるといいなー
白い霧が、草原を低く覆っていた。
夜露を含んだ空気は冷たく、息を吐くたびにわずかに白む。
佐伯は誰よりも早く目を覚ましていた。
習慣だった。実戦に近い状況に置かれるほど、身体は勝手に早く起きる。
テントのファスナーを音を立てないよう慎重に開き、外に出る。
周囲には、パトリアや高機動車の黒い影が霧の中に沈んでいる。車両の輪郭だけがぼんやりと浮かび、まるで置物のようだ。
(……異世界、か)
未だに実感はない。
だが、昨夜の土の匂い、星の並び、聞いたことのない夜鳥の声──それらが、ここが日本ではないことを否応なく突きつけてくる。
「早いですね」
背後から声がした。
振り返ると、ゼインが立っていた。
鎧は外し、簡素な布の上着だけを身に着けている。剣も腰にない。
「そっちこそ」
「昔からの癖ですね。どうも陽が昇る前に目が醒めるんです」
ゼインは霧の向こうを見つめた。
そこには、緑色の装輪装甲車がある。
「……昨日、初めて見た時は怪物かと思いました」
「よく言われる」
「だが、中に人がいて、寝て、食って、文句を言う」
わずかな笑み。
「兵はどこも同じ、か」
佐伯は答えなかった。
代わりに、ポケットから携帯用のコップを取り出し、魔法瓶の湯でコーヒーを淹れる。
「飲むか?」
「……黒い湯?」
「慣れると手放せなくなる」
ゼインはコップを受け取ると恐る恐る一口含み、顔をしかめた。
「苦い」
「だろうな」
しばしの沈黙。
「昨日、思ったことがある」
ゼインが口を開く。
「お前たちは、昨日のワイバーン…魔物を『敵』として見ているが、憎んではいない」
「仕事だからな」
「俺たちは違う。恨み、恐れ、そして──誇りを込めて剣を振る」
佐伯は時計を見る。
5時58分。
「感情を込めすぎると、判断を誤る」
「冷たいな」
「だから、俺らは生き残れる」
6時ちょうど。
佐伯はスピーカーのスイッチを入れ、目的の音源が入ったトラック番号を押す。澄んだ音が霧を切り裂いた。起床ラッパだ。
テントが揺れ、咳払い、靴音が響く。
いつもの朝が、異世界でも始まった。
「もう目的地は近いらしい。今日から我々は魔物を討伐する。…いや、討伐と言ったがな、やることは向こうにいたときと変わらん。災害救助要請に基づく害獣駆除、といったところかな?まァ特例で無制限武器使用が認められているが」
隊員に笑いが起こる。皆一晩寝ていつもの調子が戻ってきたようだ。
「これも変わらんが、人命が第一優先だ。主な活動地域は街じゃないからから民間人はまずいないと思うが、危険を感じたら直ぐに撤退すること」
「「了解」」
「よし。訓令は以上だ。各車に分乗15分後出発だ」
朝靄が晴れ、遠くに左右に際限なく広がる巨大な森が見えていた。




