表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
電車  作者: ゑいすけ
3/4

乗れませんので

大学に遅刻しそうで、俺は駅の階段を駆け下りていた。


改札を抜けた瞬間、ちょうど目的の列車がホームに入ってくるのが見えた。

少し遠回りになる路線だが、これに乗れればギリギリ間に合う。


ドアが開く。

車内は混んではいるが、まだ押し込めば乗れそうだった。


そのときだった。


「──お客様──この車両は────乗れませんので──」


低く、妙に間延びした声がした。


顔を上げると、車内に立っている車掌と目が合った……気がした。

帽子の影で表情はよく見えない。

ただ、俺の方を見ているのに、視線が合っていないような違和感があった。


「え?」


思わず声が漏れたが、返事はない。

ドアが閉まり、俺はホームに取り残された。


車内には、まだ明らかに隙間があった。

どうして乗れなかったのか、理由を考える間もなく、列車は発車してしまった。


結局、いつもの路線を使うしかなく、大学には遅刻した。

教授に軽く注意され、気分も沈んだまま一日が終わった。


夕方、帰りの電車で、近くに立っていた学生たちの会話が耳に入った。


「ニュースにはならないみたいだけど、今朝○時頃の列車、人身事故で一時間以上止まってたらしいよ」

「え、ニュースにならない事故とかあるんだ」

「基準って何なんだろ」

「彼氏の先輩が乗ってたって。衝撃で顔打って、口の中切ったらしい」

「うわ、サイアク〜〜。可哀想〜〜」


何気ない、どこにでもある調子だった。


その瞬間、理由もなく、確信した。


──俺が乗ろうとした列車だ。


朝のホーム。

閉まるドア。

「この車両は、乗れませんので」


胸の奥が、じわりと冷えた。


あの日から、急いでいる時ほど、電車に乗る前に一瞬だけ足が止まる。


もしまた、同じ声で呼び止められたら。

その時はきっと、理由なんて聞かずに、黙ってホームに残る気がしている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ