年の瀬の車両
夜半過ぎ。
帰宅途中の電車は、寿司詰め状態だった。
忘年会の帰りで、普段は使わない路線だ。こんな時間に、こんな混み方をする路線だっただろうか、と一瞬だけ思ったが、酔いもあって深く考えなかった。
吊革を握り、身体を預ける。
コートの裾が隣の誰かと触れ合うほど近いのに、妙に寒い。
年始にかけて冷え込むというニュースを、昼間に見た気がする。
夜も更けたし、冷えてきたんだろう。そう納得しようとして、違和感に気付いた。
静かすぎる。
これだけ人がいるのに、話し声がない。
咳払いも、スマホの通知音もない。ただ、俯いたまま、全員が同じ揺れに身を任せている。
おかしいな、と思ったとき、身体の芯が冷えた。
よく見れば、服装がちぐはぐだ。
薄着の小学生。制服姿の女子高生。エプロンをした主婦。
時代遅れの、だぶだぶのスーツを着たサラリーマン。
どの顔も青白く、血の気がない。
視線を逸らそうとして、間に合わなかった。
座席にだらりと座っていた中年の男が、顔を上げたのだ。
濁った目。
生きている人間のものとは思えない、感情のない視線が、真っ直ぐこちらを向いていた。
声が出そうになり、反射的に俯いた。
酔いは完全に醒め、足元がぐらつく。吊革を握る手が震える。
無音の車内に、ガタゴトと列車の走行音だけが響く。
次の駅で降りよう。
そう思った瞬間、周囲の気配が変わった。
一斉に、こちらを向いた気がした。
悲鳴を上げそうになり、目を閉じたまま、人を押しのける。
転ぶようにして車両を飛び出し、ホームに転がり出た。
尻もちをつき、息を整えながら振り返る。
そこには、誰もいない車両があった。
プシュ、という音とともにドアが閉まり、
列車は何事もなかったように走り去っていった。
後日、気になって調べてみると、
あの路線は日付が変わる前に、終電が走るのだという。
俺があの夜、乗っていた列車は、はたしてどこへ行く列車だったのだろうか。




