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第63条「有給消化」

 1か月半という時間はあっという間に過ぎた。

 最終出勤日に通り一遍の挨拶をした。


 涙を流してくれた職員もいたことは、本当にありがたいと思ったし、ここでやってきたことが間違いではなかったと言ってくれているようで、ものすごく嬉しい。


 実質的には2週間の休暇をもらったことになるとカリカの家の方々には説明。

 カリカには、日本では有給消化でこうやって退職前に長期間の休みを取る人も多いよ、ということも併せて説明した。


 やることが無いので、自分で部屋を片付けると言ったが、エウスタキウスさんからびっくりするぐらい固辞された。

 帰る段取りの話になって、コンスタンティノスさんから、衝撃の発言をうけている。


「えぐちが求めておった、元の状態に戻す魔法が完成したんじゃ。」

「え!?ほんとですか!?――じゃあ、不老不死も?」

「いや。これは一個欠点があっての。

 正確には『見た目を過去の地点に戻す魔法』であって、中身までは元通りにはならぬ。

 お主の持ち物は、この3年間で徐々に劣化しており、その劣化までは戻せなんだ。」

「なるほどそういうことなんですね。

 それでも充分ですよ。

 3年ぐらいだったら性能に大きな差は……まぁ、あるかもしれませんが、周りから私が異世界に居たことを気付かれなかったら充分ですから。」

「そうかの?えぐちがよいなら気にはせぬがのう。

 魔法をかけるのは9日後でよいか?

 転移魔法に向けて魔力の回復で3日は欲しいでの。」

「あ、わかりました。大丈夫です。

 いやむしろありがとうございます。」

「よいよい。」


 ということで、これから9日間、いよいよもって暇になった。

 私はどうしても暇が嫌いだ。1日布団でゴロゴロというのは、性に合わない。


『観光でもしたらどうだ』


 アレクシスが言ってくれた言葉を思い出す。

 しかし、やはり一人旅と言うのはどうも好きになれない。なにか明確な目的がないと。

 独りで部屋で悶々と悩んでいると、ふと妙案が思い浮かんだ。


「そうだ、過去に臨検監督を行ったところを色々見て回ろう。」


 トロヘラスディーロ工会をはじめとして、多くの工会や商会に行った。

 言うことをすぐに聞いてくれた会長も、頑として首を縦に振らなかった会長も居た。

 その会がどうなっているのか、見て回ることにしよう。

 そうと決まれば実行あるのみということで、翌日早速出かけた。


 工業都市エレファンティネや商業都市カルナックにも行くことになるので、旅の行程は1週間ほどだ。


 遠いところから行こうということで、この国で最初の臨検監督を行ったトロヘラスディーロ工会に向かった。

 いや、本当の最初はヴラドのところなんだけど、何となく近寄りがたかった。


 トロヘラスディーロ工会さすがに中に入るのはせずに、外から見るのみにしている。

 最近では労働災害もだいぶ減って、製品も良くなったという噂を聞く。


 それから、エレファンティネの監督隊詰所にも挨拶をした。

 ここの職員とはあまり仲良くならなかったので、形のだけのあいさつだ。


 次は商業都市カルナック。

 ギルドの一番大きいところが王都ではなく、商業都市にあるというのは冷静に考えれば面白いな、と思いながら中央ギルドをのぞき込む。


 あれから投書があったとかは聞かないが、正常な運営ができているのだろうかと気にはなっていた。

 そこでカルナックの監督隊詰所に行って挨拶をして、話を聞いた。

 数年後には再度臨検監督をしようかということをあっけらかんと話してくれた。


 エルピダ商会は何も残ってないので、見るべきものはなく。

 王都カッサーラに戻る道中、エルマーリ工会の前を通った。

 値段は高くなったがやっぱり質はいい、と言うことで経営はうまく続いている。

 ガラテアが学校から戻ってここで働いていけるように是非存続していてほしいものだ。


 この旅の最後に挨拶をするところに選んだのは、教会。

 中央議場庁舎へ行って各隊へ挨拶をするつもりはないけど、教会事務所だけは行こうと考えた結果だ。

 場所も別だし、色々お世話になったし、ここだけは挨拶しておこうと立ち寄っている。


 が、急に訪ねたので、フェービ補佐しかい。

 残念だが、フェービ補佐が一番色々一緒にやったのでそれでまあ充分かなと考え、ひとかどの挨拶をして教会事務所をあとにした。


 カリカの家に戻ってきたら、コンスタンティノスさんに元に戻す魔法をかけてもらうのは翌日に迫っていた。

 光陰矢の如しという言葉をものすごく実感している。


 最期の晩餐、ではないが、私が帰ってきた日の晩御飯は、なぜか皆あまり話をしなかった。

 こういうとき、私は、何かしてしまったのかと思い込んでしまうところがあり、私から話を切り出すこともできない。


 そんな中、レフテリスさんが声をかけた。


「父さんから聞いたけど、明日は魔法をかけてもらって、それからどうするんだい?」

「そう、ですね。荷造りと言ってもやることないですし……。

 家事の手伝いしましょうか?」

 「はっはっは。そんなことをする必要はないよ、と言いたいところだが、暇なのは嫌いだったね。」

「ええ。なんか落ち着かないんですよね。」

「うむ。どうだい、エウス。」

「プラトンに指示を致して御座います。いつでもお声かけ頂きますようお願い申し上げます。」

「では、そのように。大丈夫かな?えぐちくん。」

「わかりました。明日の朝からお願いしてもいいですか。」

「こちらから御声かけすべきところ、至極大変恐縮でございます。」


 あれ?部屋の片づけは固辞されたのに、ここは受け入れるんだ。

 そんな疑問が少しだけよぎったが、暇をなくすことができたので、良しとする。

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