第61条の3「事務所則」
「今からは実験ですので、今どかせた木の板の下に、この黒い木を転送したいと思います。
大きさはえぐちさんがうずくまったものとほぼ同じにしております。」
フィリッパ副部隊長が映像を止めて、淡々と説明する。
私は、私が居なくなった後の世界がどうなっていったのかこのまま見たい気持ちもあるが、見てはいけない気もする。
そういう物見遊山なことは今ここでするべきではないし、妻や娘の状況を見て耐えれる気もしない。
何より、この時点に戻ることができたのであれば、生じない未来?過去?だから知る必要もない。
「そういう組み方をしたのか。
さて、やるかのう。」
そう言うと、コンスタンティノスさんが魔法陣のふちに立った。
それをみたシーマ首脳とアエネアス部隊長、アヴラアム副部隊長、フィリッパ副部隊長が同様に魔法陣のふちに立って、魔法陣を取り囲んだ。
まるで打ち合わせでもしていたかのようにそれぞれの立ち位置が決まっているが、おそらくは複数人で魔法を発動させる作法として立つ場所とか決まっているのだろう。
「いくぞ。」
コンスタンティノスさんの掛け声で全員が右ひざをつき、右手を魔法陣にあてる。
左手は真横に伸ばし、手のひらを隣の方に向ける。
1分ほどたっただろうか。
魔法陣が光りだし、模様が光の柱となって、天井まで届いたかと思うと、一瞬にして消え、黒い木の塊も消えていた。
魔法陣に力を込めた5名全員が汗をかき、肩で息をしている。
「これほど、とは、の。無茶な魔法陣を組んだものじゃ。」
「あちらの様子を確認せよフィリッパ。」
「わ、かりました。今、行きます。」
「わしがやろう。そういうところじゃよアエネアス。」
立ち上がれなくなっているフィリッパ副部隊長を制し、コンスタンティノスさんが動き出した。
鏡に近づくと先ほどと同じ映像が流れだした。
落ちていく私、叫ぶ代理人。そして、職人が木材をどかせると黒い木が出現した。
「成功したようじゃな。アエネアス。」
「なんだ。」
「よくやったの。」
「――。言われずとも。」
「すみません。落ち着きました。これで成功を確認できたので、問題ないかと思います。
えぐちさん。『にほん』に帰る場所も時間もこれで指定できるようになりました。」
その場にいる誰も、大きな声で成功を喜ばなかったのは、疲れ切っているからなのか、そういう性格なのか、当然だからなのかはわからない。
当事者である私も大声をあげて喜びたいのに、その場にのまれてただうなずくだけだった。
「良かったですね。これで、いつでも帰ることができますよ。
成功を確認したらいつ帰るかも決めるように仰せつかっております。えぐちさん、どうしますか。」
「ごめんなさい。急に言われても……。
あ、いや、シーマさんが悪いとかではなく、私の整理がついていないだけですから。」
シーマ首脳が申し訳なさそうな顔をしたので、思わず取り繕った。
「あ!そうだ!
アレクシス隊長から聞いているかもしれませんが、急にいなくなったら影響が大きいし、色々聞きたい方が出てくると思うんですよ。
それで、王族特務機関に異動する、みたいなことにして監督隊を離れられる手続きを取ることってできますか?」
「なるほどですね。確かにおっしゃる通りです。それはこちらで手配しておきます。
できるだけ正式な指示とすることとしましょう。」
「ありがとうございます。
その手続きが終わって、引継ぎが終われば、いつでも大丈夫です。」
「では、1か月後といたしましょうか。」
「すまぬの。2か月後としてもらってよいか。」
「先生に何かご予定が?」
「えぐちからお願いされておることがあっての。」
「私からのお願いですか?」
何をしていたか、皆目見当がつかず、そこにいる誰よりも私が首をひねってしまった。
「ふぉっふぉっふぉ。忘れたのか?
道具や肉体を3年前に戻す方法じゃよ。」
「あぁ!え、できたんですか?」
今度は、そこにいる誰よりも驚きが小さかった。
いや、むしろ周りの方が過剰に驚いたという感じを受け取った。
「馬鹿な!そんなことができるわけない!」
その驚きそのままに、そして私の発言が終わるのを待たずに声を上げたのはアエネアス部隊長だ。
「道具についてはほぼできそうじゃ。肉体じゃな問題は。理論的には行けるはずじゃが……。なんじゃ?その顔は。わしが隠居して腕が落ちたとでも思っておったのか?まだまだじゃの。」
だから何なんだろうコンスタンティノスさんとアエネアス部隊長の関係は。
先ほどは一瞬いい感じにも見えたのだが。
いずれにしろ私の道具と肉体が元に戻るのであれば、それが一番いい。
可能ならば肉体はもうちょっと若くしてもらいたいが。前にも説明されたがそれは実質的に不老不死の力を身に着けると同義。
生きとし生けるものすべての希望だ。
いや、私は不老は欲しいが不死はいらないかな。
ずっと20歳ぐらいの身体のまま80歳ぐらいで死にたい。
「では、2か月後でよろしいですか。」
また険悪な雰囲気をフィリッパ副部隊長が遮った。
フィリッパ部隊長はこれを見慣れているのだろうかと思うくらい険悪な雰囲気をすぐに無くしてくれる。
「あ、はい。私は大丈夫です。」
「かしこまりました。では、本日はこれで。」
「そうですね。えぐちさん。
私の方で王族特務機関への異動の処理をしますね。連絡は追って、隊長を通じていくと思いますので。先生も、研究がうまく行きます事、お祈りしています。」
「うむ。」
そうして、解散になって、王宮殿を出た。
さすがに帰りの車でずっと気になっていたことをコンスタンティノスさんに聞いた。
「あの、アエネアスさんって……。」
「ん?なあにちょっと昔に一緒働いていたときに色々あっただけじゃよ。
話して楽しい話でもない。」
「そうなんですね。」
「でもの、えぐちくん。
彼は性格が悪いとか魔法使いとしての資質が無いわけではない。
むしろしっかりしておる。
しっかりしておるから自信が有り余って居るし、行き過ぎもするだけじゃ。信用してよいぞ。」
「わかりましたありがとうございます。」




