第61条の2「事務所則」
「ふむ。本来、召喚するのと送るのと両方できてから召喚すべきとわしは思うがの。
どう思っておるアエネアス。」
「どう、とは。
完成させる目途があったから、行ったまで。
いずれもできなかったそちらにとやかく言われる覚えはない。」
「ふぉっふぉっふぉ。
それで、わしの魔力をあてにして呼び寄せておれば世話ないのう。」
「話を続けさせていただきます。」
場の雰囲気が完全に変わり、話が全く別方向に行こうとしたとき、フィリッパ副部隊長の一言で空気を換えてくれた。
「そこでさらに陛下からご指示を賜りました。
帰る時間を指定してほしいと。
これにつきましても理論は完成させました。
しかし、魔力量がどうしても足りません。
我々の部隊を動員すれば足りるのですが、この魔法はいまだここに居る方々しか知りませんし、公表の予定は御座いません。
そこで、コンスタンティノス元首脳にお越しいただき、一度、実験を行う、というのが今回の目的で御座います。」
「お主――!」
「そうだ。時間を操る。」
「先生の先行研究があってのたまものですし、異世界に限ってです。ご協力いただけますでしょうか。」
コンスタンティノスさんとシーマ首脳はいい師弟関係なんだろうなと言うのが傍目の感想。
そしてアエネアス部隊長とは、あまりいい関係ではないどころか、敵対心か対抗心を持たれているように感じた。
アエネアス部隊長はオークだから、人間よりは長命だが、エルフほどではない。
絶対にコンスタンティノスさんが年上だし、身分も上だったはずなのに、この関係と言うのは何かあったのだろうとは思う。
思いはするが、そこは知る由もない。
「――魔法を研究する者として、そして、えぐちくんのためにも断る理由はない。今からかの?」
「はい。研究室内第6実験室にてお願いします。」
フィリッパ副部隊長の案内で会議室を出て、案内に付いて行っている。
初めて知ったのだが、王宮殿はコの字型をしているようで、先ほど出た会議室が角部屋になっており、そこから長い廊下を進んでまがって反対側の角部屋の方に魔法部隊の研究室がある。
入った感想は研究室と言うより書庫だった。
部屋の埃っぽさやにおいが、私に大学時代の書庫を思い出させた。
通路の狭さと言い、天井の低さと言いそっくりだ。
たださすがに書架が足りなくなって床に並べていたうちの大学とは異なって整理はされているが。
換気はされていないし、照度もかなり低い。
事務所則違反がいくつ成立するのだろうかと言った室内だ。
コンスタンティノスさんによると、この1冊1冊に1つの魔法についての研究経過と魔法陣の書き方が記されているらしい。
「半分はな。残りの半分はわしが書いた。」
「辞めてから増えてない前提でしゃべられては困るな。
すでに3割は増えておる。」
私が、コンスタンティノスさんに全部読んだのか聞いた回答にはびっくりしたが、ここでも突っかかってきたアエネアス部隊長にもびっくりした。
本棚の間を進むと地下に通じる階段があり、それを全員で降りていく。
地下は、ほの暗い廊下が長く続き、その両側にいくつも扉がついている。
このすべてが実験室で、15室あるらしく、対魔法術式が施され、中でどのような魔法をつかっても外には影響がないそうだ。
各実験室は、魔法の研究が終わるまで占有されるので、最大で15個の魔法が同時に研究できるらしい。
案内されるまま第6研究室に入ると、楕円形の鏡が一つ自立しており、床に魔法陣が書かれていた。
魔法陣の真ん中には、黒い木の塊が置いてある。
壁際に置かれた机の上には、大量の書類やら本やらが置かれ、椅子の上にも本が乗っている。
「それでは、早速始めていきます。今から、えぐちさんが墜落された瞬間の様子をこちらの鏡に映します。」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「斎藤君、危ない!」
私は、そう叫ぶと、走った勢いそのままに斎藤君を突き飛ばす。
自分の思い出よりもだいぶ脚が速くてびっくりした。
そして、傾きだした型枠材の下から現れた開口部が私を飲み込んでいく。
私と一緒に、角材や携帯用丸のこが一緒に落ちて行った。
13階、12、11階、10、9、8階……私は加速しながら下の階へ下の階へと落ちていく。
7階を過ぎたとき、私の真後ろに魔法陣が現れ、私の体が消えた。
そして、2,3秒後、すごい音を立てて、最下層に物が落ちる。
「監督官が落ちた!」
現場代理人が叫ぶ声がする。それを聞いた1階の配電をしていた職人が墜落現場に駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか!?――あれ?どこいます!?大丈夫ですか!?」
誰も居ないところに叫んで安否を確認する声が聞こえる。壊ればらばらになった丸鋸をどかし、型枠材を撤去したが、当然私はそこにはいない。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




