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第60条「中さん」

「ではまず、労働基準監督隊のえぐちさんより現場の様子について気になったところがあればお願いします。」


 アルキボス治水土木隊補佐の仕切りで、現場事務所で巡視後の打ち合わせが始まった。

 通り一遍の挨拶をアルキボス治水土木隊補佐が行ったのち、私の発言を求められた。


「ご安全に。本日はお疲れ様でした。

 気になったところが3点あります。

 これはヨルゴス隊長も指摘されておられましたが抱き足場についてです。

 抱き足場は有効な作業床とは考えにくいので、場所が許す限り、本足場を設置し、手すりや中さんの設置をお願いします。

 2点目。

 これも足場についてです。床材を固定してください。

 木材は反ったり撥ねたりしかねないので、必ずお願いします。

 最後に、材料を持ち上げるときは、絶対に作業員の上を通過させないようにお願いします。

 下を通る労働者への飛来・落下の危険性があります。

 一方で、朝礼をしっかりとして、その日の危険な作業や場所を確認していたのは非常に良い事例と思います。

 これは、他のすべての工事現場においても行うように水平展開をしていただきたいと思います。」


 私の発言を聞いた現場代理人が、一生懸命に手帳へ書き込みをしていた。

 報告用の文書とか作らないといけないからかもしれないが、聞き流すのではなく、記録を取ろうという姿勢を取ってくれているのが素直に嬉しいし、今後のこの国の安全衛生の未来は明るい気がした。

 

 続いて、パルテニエ所長の挨拶。


「皆さん、お疲れ様でございました。非常に整理整頓された綺麗な現場で、素晴らしいと思います。

 安全な現場に向けて尽力いただいていること、重ねて感謝申し上げます。

 今ほどえぐちから色々話をさせていただいておりますので、私からは追加でお伝えすることは御座いません。

 どうかこのまま安全に作業していただいて、怪我する方が出ませんようお願い申し上げます。」


 相変わらず、パルテニエ所長はお優しい。

 誰彼構わず、かみつく労働基準監督官がいいとは思わないから、これは、女性監督官として、それも幹部としては理想的な姿ではないかと思う。


 そして、最後にヨルゴス治水土木隊長が挨拶をする。


「大方、全部言ってもらったんで、俺からも付け加えることはないって言いたいところですが、やっぱり1点だけ。

 えぐちさんに聞いたんすけど、『安全は全てに優先する』って言葉があるそうです。

 お金がかかるからとか作業が増えるからとかで、危ない状態にしないように、今後、治水土木隊から全工会に指示を出します。

 そのつもりでいてください。

 以上す。」


 なかなか厳しい言葉だ。この方は相変わらず誰に対しても態度を変えない。それがいいところなのだろうが。


 こちらの発言がすべて終わった後、先方の店社責任者が締めの話をした。


「改めまして、本日はありがとうございました。

 なかなか厳しいお言葉を多くいただきまして、このままではと身が引き締まった思いで御座います。

 今回のことを水平展開しまして、当会で行っている建設現場すべてに同様の問題が生じないよう、努めていく予定です。

 本日はどうも、ありがとうございました。」


 これだけ指摘されれば怒りも湧いてきそうなものかと思っていた。

 しかし、腹の内はわからないにせよ、真摯に受けとめ対応していくことを明言できているのは、素晴らしいことだ。

 歩いて帰る道中、そんな話をパルテニエ所長とカリカとしている。


 言葉にはしなかったが、今回の随行の内容から、もし時間がしっかりとあるのであれば、足場の規制を作って日本に帰りたいとも思えるようになった。

 この国の方々に任せても、必ず根付くであろうと。


 その日の夜、家で食卓を囲んでいると私は大事なことを思い出した。


「そうだコンスタンティノスさん!

 ニコデモス王からご伝言が!」

「奇遇じゃの。わしもじゃ。」

「え?てことは、もうお会いになられたんですか?」

「いや、会ってはおらぬよ。使者がまた来ただけじゃ。

 して、王はなんと?」

「あ、はい。一言だけ。『また迷惑をかける。』と。」

「ふむ。それで全て合点がいったわ。えぐちよ。帰れるぞ。

 今度、わしとえぐちの2名で王宮殿に来るように言われたのじゃ。

 2名と言うのが不思議だったのじゃが、おそらく魔法陣が組みあがったが、魔力が足りんのじゃろ。」

「そうなんですか!?

 じゃあ次行くときは帰るとき……。」

「そうではあるまい。

 実験的に何かを送り届けて、あるいは他の者、動物かもしれぬが、それで送り届けるというのを見せるのであろうな。」

「なる、ほど。だいぶ話が動いてくるんですね。ふぅ。」

「はっはっは。どうした?えぐちくん。」

「いや、すみませんレフテリスさん。

 ちょっと緊張してしまって。これで終わりと思うとどうも。えぇ。」

「大丈夫ですか?」

「カリカ。うん。大丈夫。

 自分が伝えられる限りのことを伝えるって気持ちに今切り替えているところ。

 寂しさが襲ってきてはいるけどね。そこは頑張るよ。」

「はい。無理しないでくださいね。」

「ありがとう。」

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