第58条の1「勤労感謝」
「私は、行かないです。」
カリカの返事で拒絶された気持ちになった。
これまでだと、二つ返事でついて来てくれると思っていたからだ。
それは私の思い上がりなのだと思い知らされた。
「建設現場何回か行ったことありますし、向こうが隊長自ら行かれるのであれば、こちらも隊長か所長の方が良くないですか?」
衝撃を隠せない私に続けてカリカが投げかけた言葉は、少しだけ私の気を楽にしてくれた。
この意見は至極尤もだ。
「言われてみればその通りだわ。
うん。
そしたら、こっちは随行みたいな立ち位置だから、パルテニエ所長にお願いするか。」
「はい。それがいいです。ちなみに――。」
「うん?」
「いや、3名で行くことって無理ですか?
私も行けるなら。」
落ち着いた私の気持ちは、追加の言葉に嬉しくなって、おそらく私は誰から見てもわかる程度に表情が明るくなっていると思う。
その証拠にカリカが突っ込みを入れてきた。
「ふふふ。えぐちさんってなんでも顔に出るから気を付けた方がいいですよ。」
「ごめんなさい。気を付けます。
3名で行けないか交渉してみますよ。
喜んで。」
「ふふふ。お願いします。」
カリカと最期まで遂げられるわけではない。
かと言って、他人行儀な関係で進む必要もない。
丁度いい距離感で仕事を続けることができればそれが一番だと思うし、それが今はできていると感じている。
この関係が続けばいいなと前向きな気持ちにしてくれたさっきの会話に感謝をしつつ、所長室へ向かった。
パルテニエ所長は、見た目はごく普通というべき人間の女性だ。
王都カッサーラの行政庁舎で、公共工事担当課長として優秀だという話を聞きつけ、私とアレクシスで頼み込んでこちらに来てもらった。
50歳を超えているらしいということは聞いているが具体的な年齢は知らない。
前評判通り、優秀な方で、所の最高管理者としていつも的確な采配と調整をしてくれていて助かっている。
私が自由に動けているのも、パルテニエ所長のおかげだ。
「失礼します。パルテニエ所長、今いいですか?」
「はいはい。どうしました。」
「先ほど、治水土木隊のヨルゴス隊長が来まして。」
「ええ!?隊長が来たんですか!?」
「そうなんですよ。
これまでずっとやり取りしてたの補佐なのに、急に来まして。」
「それで、どうしましたぁ?」
「えっと、今度、治水土木隊が建設現場の安全巡視をする予定になっています。
それに、監督隊の同席を求められています。」
「ええ、ええ。言ってましたね。聞いてます。」
「はい。で、向こうはヨルゴス隊長が来るらしいんですよ。」
「ええ!?じゃあこちらもちゃんとした方出さないといけないですね。」
「で、パルテニエ所長にお願いしようかと。」
「私ですか?私なんかで良いんですかね。
同じように隊長のアレクシスさんの方がいいんじゃないですか?」
「共同開催ではなく、あくまで随行なので、同格は違うかなって思っているところなんですよ。」
「なるほどそういうことですね。
わかりました。いいですよ。行きますよ。」
「ほんとですか!?ありがとうございます。
日程の調整とか、また報告しますので。」
「わかりましたぁ。よろしくお願いします。え~私がするのか。」
「え、やっぱりよくなかったですかね。」
「いえいえ、大丈夫です。
しばらくぶりに人前に立つのでちゃんとできるかなって不安になってですね。」
「パルテニエ所長なら、大丈夫ですよ。」
「いやいや、えぐちさんには及びませんよ。
はい。
でも行かせていただきます。」
「ありがとうございます。
ちなみに、当日は私とカリカも同行する予定になってます。」
「わかりました。よろしくお願いします。」
さて、パルテニエ所長との折衝が終わったので、あとは日程の連絡を待って、カリカをねじ込めないか聞いて、というところですかね。
非常に晴れやかな気分で作業に向かう。
日程については、ニコデモス王への謁見より前にならなければいいがと祈るばかりで、今は祈る以外のことはしようがない。
数日後、待てば海路の日和ありとはよく言ったもので、土木治水隊からの日程調整の連絡が来た。
合同巡視は、ニコデモス王への謁見の3日後ということ、場所は選定済みであることを言い渡された。
場所は1箇所なので、全員で回るということになった。
「日程、場所は問題ありません。
1点お願いなのですが、こちらから行く者を3名としたいのですが、よろしいでしょうか。」
「多分問題ないっす。
あとでヨルゴス隊長に確認してみますが、問題あった時だけ連絡しますね。」
「お願いします。
ちなみに、こちらからは、パルテニエ所長と私と私の部下が行く予定です。
治水土木隊からはヨルゴス隊長と、アルキボス補佐と、アリアドネさんとティモテアさんでしたよね?」
「そうすね。自分はもしかしたら行かないかもしれないんで、また確定したら連絡するすね。
アリアドネとティモテアは、公共工事とか発注している関係の部署の担当者です。
若手ですが、問題ないですよ。」
「なるほど。アルキボス補佐も来てくれるとありがたいです。」
「一応そのつもりすが、他の仕事がね。」
「わかっております。では当日お願いします。」




