第57条の2「安全衛生パトロール」
まさかニコデモス王が出てくるとは思わなかった。
こちらの予定をお構いなしで入れてくるとは、とも思ったが、王がいちいち下々の予定に合わすわけにもあるまい。
早速そのぶっきらぼうな招待状を持ってアレクシスのもとへ行き、休みの申請をすることにした。
「ここに書いてある通りですんで、その日は休みをいただきます。」
「用向きの心あたりは?」
「日本に帰ることについてぐらいしか。
1か月も先だし、その頃には目途が立ってるのかなと個人的には思ってはいる。」
「そう、か。話が進んで居るな。」
「ね。良いのか良くないのかわかんないけど。」
「気を付けて行くがよい。
王は優しいとは聞くが、その周りはわからぬ。」
「ありがとう。そうしますよ。」
その日の夜の食事の席でも同様の報告をした。
レフテリスさんからも「気を付けてね」とだけ言われた。
そこまで皆から気を付けてと言われると何かあるのかと不安になる。
そもそも、要件が分かっていない不安があるのに、それに加えて、だ。
そんなことを思いながら職務を行っていると、その気持ちを無視するように仕事は舞い込んでくる。
「治水土木隊のヨルゴス部隊長がお見えです。」
「部隊長!?対応します。対応します。」
予想外の方が訪ねてきたので、思わず声が裏返った。
空いていた会議室に部隊長とアルキボス補佐を案内した。
「突然申し訳ないね。
アルキボスから聞いたんだけど、巡視に予告なく行きたいんすよね。」
「はい。臨検監督は、予告なく行く決まりになっているので。
それに、実効性を高めるためには、そちらの方がいいかと思いまして。」
「それはそうなんだけどさ。
俺が行って対応してもらえないのも格好つかないからさ、そこらへんどうにかなんないかなと思って来させてもらったわけですよ。」
「なるほ、ど。であれば、こちらも臨検監督ではないという形にさせてもらえれば問題ないです。」
「そんなことできるんすか?」
「えぇ。あくまで治水土木隊の巡視に随行するという体裁であれば問題ないです。」
都道府県労働局長が労働災害防止対策の徹底と安全衛生意識の高揚を目的とした建設現場に対する安全衛生巡視であったり、地方公共団体が発注者となっている現場に対して、地方公共団体と合同で行う現場巡視であったりで実施されている手法がある。
それは事前に通告をして建設現場を見ること。
指導が目的ではなく、安全啓発が目的であるので、予告することが不利益ということはないという判断だ。
私が今後居なくなるに向けて、合同巡視はし続けた方がいいし、そのためにここでしっかりと基準を定めておいた方がいい。
特に今回はヨルゴス治水土木隊長が行くということであるから、啓発の意味合いが強いと判断したが、大事なことを確認し忘れていることに気付いた。
「そういえば、この巡視の目的って何ですか?」
「労働者が死に過ぎてるんでね。それを無くすためすね。
あと、今後、治水土木隊が巡視していくってことを、各会の奴らに教えておきたいっすね。」
「で、あれば、我々の臨検監督と目的が異なるので、むしろ、そちらの基準に従って付いて行って、不安全な場所・作業や改善すべき点をその場で口頭で指摘するといった方がいいでしょうね。」
「お、それいっすね。それで問題ないよなアルキボス。」
「わかりました。隊長からの発言もあるということですかね。」
「そりゃ喋んなきゃだろ。ね、えぐちさん。」
「そうですね。ヨルゴス隊長を差し置いて私達だけが話すのもおかしなことでしょうし。」
「了解了解。じゃあ、日程とかその日の次第とかこっちで決めて調整しちゃっていいすか。
えぐちさんの予定とか教えてもらえればやっときますよ。」
「ありがとうございますお願いします。そうですね。1か月後のこの辺が一番ありがたいです。」
そう言って私は、ニコデモス王に呼ばれた翌週を指した。
もしかすると、王に呼ばれて帰る日程が決まるかもしれない。
決められるのならばあまり先の日程を入れる訳にはいかないと考えている。
それに、何を話すかわからないが、話した結果、私の気持ちが落ち着かなくなることは充分想像できる。
そうなった場合に備えて、予定を組んでおきたかったのだ。
逆を言えば、落ち着かなくなる時期、謁見する前には予定を入れたく無かった。
「あ~ちょっとその時期は忙しいすけど、まあ調整してみますよ。」
「すみません。よろしくお願いします。」
「うし。じゃあ次第とか決まったらまたアルキボスから報告させますから。」
「わかりました。あ、すみません最後に。当日何名ぐらいで行きます?」
「俺と、アルキボスと……。」
「一応、アリアドネとティモテアを考えてます。」
「あぁあいつらか。うん。いいじゃん。
てなわけで、4名すね。」
「わかりました。てことは、現場は1か所?」
「今のところは。」
「そしたら、こちらは2名で伺いたいと思います。
もし、現場分けることになったら、各現場、1名ずつにする予定です。」
「了解っすー。じゃあそれで行きましょう。」
いつ話しても軽い感じであるが、隊長になっているぐらいだから、あれですごく仕事ができるし面倒見もいいのだろう。
治水土木隊の2名を見送ったのち、事前にカリカには話しておいたので、今の打ち合わせの結果を話したところ、予想外の答えが返ってきた。




