第57条の1「安全衛生パトロール」
カッサーラ所に着くと、カリカが自席で作業していたので、会議室に呼び出した。
「ごめんね急に。
今日、アエネアス魔法部隊長に会ってきて、その報告を、と思ってね。」
「どうだったんですか。」
「なーんも決まってない、というところかな。
聞かれたのは、戻る条件に希望はあるか、ってだけ。
いつまでに戻れるとか、今後の見通しとかなんも話してくれなかったよ。」
「あらら。じゃあ、しばらくは仕事を続けるということで?」
「うん。よろしくね。」
「はい。頑張りましょう。」
「で、早速なんだけど、建設現場に土木治水隊の方と一緒に行くことになったんだ。
詳細は何も決まってないけど、カリカも参加する?」
「はい。是非。少しでもえぐちさんの方法を勉強しておきたいので。」
「了解。やっぱそう言ってもらえるのが一番嬉しいや。」
「ふふふ。どうしました。」
「ん?独り感慨にふけってみただけ。
とりあえず、やれることをやれる限り頑張るぞってね。」
数か月前と同じように話をすることができて、カリカと会議室を出た。
そのことだけで、私は充分に嬉しかった。
これからいつまでここで仕事をできるかわからない。
だからこそ、できる限りのことをしようと思ったのは間違いない。
翌日、アルキボス土木治水隊補佐がやってきて、巡視の打ち合わせをした。
そこでアルキボス補佐が提案したことに対して、1点だけ労基隊として受け入れられないことがあった。
「現場の選定基準はそちらにお願いして差し支えないですが、現場巡視、こちらで言うところの臨検監督は抜き打ちでやらせてください。
建設現場なんて危ないところの代名詞ですから、それを事前に通告していけば、臨検監督の意味がなくなります。」
「そっすか。こちらもそれができればいいすけど、その権限はないんで。
どうするか持ちかえって検討させてもらうす。」
「お願いします。」
改めて、こういうときに、臨検権限を付与している労働基準法は強いなと思い知らされる。
現在抱えている案件もあるし、この案件も終わらせてこの国を離れて日本に帰らなければならないという思いで仕事をしていくことにした。
その日の夜、カリカからいきなり私がアエネアス魔法部隊長に会った話を始めた。
「おじい様、日付なんてまだまだ聞かれてないじゃないですか。
そんなに話が進んでるんだと思っていましたよ。」
「そうなのか?帰ることの希望について聞かれると言われておったからの。てっきり帰れる時期が決まりつつあるのかと思っておったのじゃ。」
「そうじゃないらしいですよ?ね、えぐちさん。」
「そうですね。
あ、ちなみに、思わずコンスタンティノスさんができないことをアエネアス魔法部隊長ができるか不安ですって言っちゃいました。」
「ふぉっふぉっふぉ。奴はなんて言っておった?」
「発破をかけられたと捉えておく、と。」
「ふむ。相変わらず自尊心の高い男よ。
その自尊心に見合った実力があるのでな。特に指摘する者もおらんがの。」
「そうなんですね。じゃあまあできると思って待っておきますよ。」
「どんな希望を出したんじゃ?」
「戻るなら、こちらに転移させられた瞬間に戻りたい、というところぐらいです。」
「確かにそれがいいの。」
「はい。あ~……。」
「どうしたんじゃ?」
「いや、服装とか髪型とか同じにしないとなと思って。
3年も経過しているので、色々変わってるじゃないですか?
周りの人にいきなり変わったことの説明がつかないなって。」
「なるほどの。今のところ、復元の魔法は見つかっておらぬ。
研究はずっと続けておるがの。」
「おじいさまが研究なさっていたの?」
「わしじゃないがな。復元の魔法が使えれば、それは使者の蘇生や、不老不死につながるからの。
不老不死を求める者は、今も昔もずっとおる。
ふむ。全く同じにするのは難しいじゃろうが、わしもやれる限りをやってみよう。」
「コンスタンティノスさんに何か心当たりがあるんですか?」
「まぁ、の。」
私が帰る方向で吹っ切れたからか、カリカと色々腹を割って話せるようになったからか、はたまた他の要因かは分からないが、とんとん拍子で話が進むようになった気がしている。
反面、寂しくないのかなぁと残念な気持ちもあるが。
それも、残り少ない今を楽しむということの前では、どうでもいいことだと思うことにした。
数日後、私宛の書簡がカッサーラ所に届いた。
治水土木隊の話だろうと思って封筒を見たら、差出人はなく、赤の封蝋がなされているだけだった。
そこに押されている紋章はどこかで見た気がする。
正三角形の真ん中に王冠のような……あっ王宮殿にあった紋章だ!
ということは、魔法部隊かと考え、封を開けたがそれも間違っていた。
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王への謁見を定めし。
下記により王宮殿に参上のこと。
王室書記官 ミレラ
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見るからに上質な紙に簡潔にただこれだけかが書かれている。




