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第56条の2「帰郷旅費」

「ふぉっふぉっふぉ。御無沙汰しております。

 ベルセフォネですじゃ。

 いま、魔法部隊長を呼んでまいりますじゃ。」


 相変わらずのベルセフォネさんが王族特務機関の会議室で私を迎えてくれた。


 王宮殿はいつ来ても、威圧感がすごい。

 1階にあるこの会議室以外に行ったことが無いのでよくわからないが、王様もここに住んでいるのだろうか。

 それとも執務室があるだけなのだろうか。


 白壁の部屋の中には、石でできた机が2つ。

 前に来た時との違いは、上座に通されたということだ。


 前の時は、偉い面々と一緒だったのでゆっくり見れなかったが、どれこもれも非常に意匠が凝らされている。

 会議室と言われていたが応接室としても使っている気がする。


 私独り残されて緊張しているのをごまかすために部屋の中をぐるぐる見渡していたら、扉が重たい音を立てて開き、アエネアス魔法部隊長が1名で入ってきた。


 立ち上がり挨拶しようとする私をアエネアス魔法部隊長は手で制した。


「よい。」

「お久しぶりです。」

「健勝のこと、聞いておる。

 此度の用向きは知っておるな。」

「はい。転移の魔法が完成したのですね。」

「――。目途だ。

 詳しいことはまだ言えぬ。

 戻るにあたって、希望はあるか。」


 端的に物を語る方なので、こちらも端的に話を聞くことにした。


「私がここに転移させられた経緯を聞いてもいいですか。」

「――。」

「かしこまりました。

 希望が一点。戻る場所と時間がいじれるのであれば、墜落後、奇跡的にしたに着地した、というところで戻せませんか。」

「よかろう。」

「え、できるんですか?」


 アエネアス魔法部隊長は深く息を吐いて、それまで背もたれを使わず姿勢よく座っていたのを崩し、背もたれに身体を預けた。


「陛下から、できる限りえぐちの望むようにしろ、との御意向を頂いた。

 それに違うわけにはいかぬ。

 その上で、今の意見は実現可能性があると判断した。」


 実現可能性がある――。

 回りくどい言い方だが、嫌いじゃない。

 墜落した事実は消えなくとも、怪我人は、公務災害は無かったということにできればそれが万々歳だ。


「私の国には、『ぬか喜び』という言葉があります。

 由来までは知りませんが、当てが外れてがっかりする様子を表しているそうです。

 そのようになりませんようお願いします。」

「良かろう。このアエネアスが、この国の魔法の首脳が言うのだから、安心しておきたまえ。」

「正直なこと言いますと、コンスタンティノスさんが、アエネアス魔法部隊長では実現が難しいような話もしていましたので、少し不安です。」


 私の自己防衛手段として、精神衛生上、何もかもを信じるわけにはいかなかった。

 だから、無理かもしれないと思う要素を見つけたかった。

 ただ、思うだけなら許されただろう。


 しかし、私は口にしてしまったのだ。

 これは失敗だったのは明らかである。

 発言の結果で、目の前に現れた形相が緊張した私をさらに委縮させた。


「えぐちよ。前回もそうであったが、そちらは向こう見ずな男だ。

 前回はベルセフォネを脅し、今回はこのアエネアスに発破をかけおる。

 時に命取りになろうが、前回も今回もうまくいったことを喜べ。」


 話しながらアエネアス魔法部隊長の表情は落ち着いていく。

 私の発言を「発破をかけた」と捉えてくれたうえで、私の発言を許してくれたようだ。


「不安から出た言葉とご賢察いただいたようですが、平にご容赦を。」

「良かろう。追って沙汰をする。」


 事務担当と思しき方に出口まで案内してもらい、外に出た。

 ここに来ることは誰にも言っていなかったので、隣の中央議場庁舎の建物にいる警邏隊とかへの挨拶は不要と考えて帰路に着こうとしたところで、声をかけられた。


「お、久しぶりじゃないすか。」

「えっと、すみません。」

「ヨルゴスですよ。覚えてない?治水土木隊の。」

「あぁ隊長さん!お久しぶりです。」


 実務者連携会議で私が労基法の必要性を話したときに、ほんの少しだけやり取りをした相手。

 私は顔もほぼ覚えていないのに、覚えられていたことに驚愕を覚えつつ挨拶を交わした。


「うん。王宮殿から出てきたみたいだけど、なんかあったすか?」

「あ、まぁ色々と。」

「ふうん。

 そういえば、近々建設現場の合同巡視考えてるんだけど、どうすか?

 うちも死亡者が後を絶たないから、どうにかしろって王族特務機関から言われたんだよね。」

「いいですね。しましょう。具体的な打ち合わせとかは、後日で?」

「あぁ。うちのアルキボスを行かせるから、そこで聞いといてもらえれば。」

「わかりました。」


何のことはない会話してその場を去った。


 そういえば、コンスタンティノスさんからは日本に帰る日取りを聞かれるような話を聞いていたが、そのことは一切触れられなかった。

 つまりは帰るのはもう少し先だと私は判断した。

 もう少し先ならば、一旦帰ることは忘れよう。

 合同巡視や日々の業務に向けて頑張ろう。

 という気持ちに切り替えることにした。


 この切り替えができたのは、ヨルゴス治水土木隊長によるところが大きい。

 驚きの気持ちから感謝の気持ちに徐々に変わって行った。

 とはいえ、この結果を一人で抱えるわけにもいかないので、魔法部隊長に会うことを知っていたカリカだけには報告しよう。

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