第55条の1「在留資格」
まるで戻れるのが確定していて、それが私の選択にかかっているような言い方だった。
あまりに突然のこと過ぎて、私の思考が止まってしまている。
取り敢えず説明を求めよう。
「えっと、もう少し、説明を聞いてもよろしいですか。」
「ふむ。アエネアスから使者が送られてきての。
召喚魔法のめどが立ちそうということじゃ。そこで、いつ帰りたい?」
「アエネアス……アエネアス……。」
「覚えておらなんだか。
ほれ、王族特務機関の魔法部隊長じゃよ。会ったことあろう。」
「あぁ!技能講習の規定を作るときに呼び出ししてきた方ですね。
最後に重たい口調で話された方。」
「最後かは知らんが、重たい口調ということであればそやつで間違いないじゃろう。」
「そやつ。」
魔法部隊長というこの国で魔法を使う者の最上位である方に対するコンスタンティノスさんの言い方に思わず笑みがこぼれた。
「いやいや。戻れるのが確定ですか?」
「まだ確定なわけじゃあるまいよ。」
「はあ。」
「お父さん、順を追って説明しないと。
えぐちくんは何も聞かされていないんだろう?」
笑顔を引き締め話を戻したが、全体像が見えずに困惑していると、横からレフテリスさんが救いの手を差し伸べてくれた。
「なんじゃ。そうじゃったのか。
うむ。かねてより、召喚魔法の研究をしておることは話したな?
そして、王から謝罪があったことから、王の指示でここに来たことも。」
「はい。申し訳ないとレフテリスさん経由で聞きました。」
「その魔法が、実験段階に入ったそうじゃ。
そこで、お主に帰りたい時期を聞いてそれに向けて実験の速度や確度を調整するつもりとのことじゃ。
近いうちにアエネアスから説明と聞き取りが行われる予定じゃから、それに向けて帰りたい時期を考えておくように、ということらしい。」
「そうなんですね。ちょっと急でびっくりしました。」
「ほんとは少し前に連絡があったのじゃがの。
エルマーリ工会の件があってすこしこちらで寝かせておってすまぬの。」
「なるほど。気遣いありがとうございます。
えっと、いつごろ説明と聞き取りがあるかとかきいてますか?」
「追って沙汰があるとのことじゃ。
わしの感覚で言えば1か月後ぐらいかの。」
「1か月……。」
長いような短いような。
それまでに私の人生を決めなければいけないと言われた気がした。
すぐに戻りたい気持ちが一番強いのは間違いないが、ここでの生活を続けたい気持ちがないわけではない。
そっかと独り言をつぶやき、どうここの仕事を終わらせるのか、戻るとなったらどのように戻るのか、さまざまな考えが頭を駆け巡る。
カリカの言葉で私の食事の手が止まっていることに気付いた。
「おじい様、アエネアスさんが説明なさるということでけど、そのときまでにすべて結論を出さないといけないの?」
「ん?いや、そうじゃあるまい。まだまだじゃからの。」
「それなら、今はまだ結論出さなくていいんじゃないですか?」
「そうか。そうだね。ありがとうカリカ。」
食事の場はそういうことで話がついたが、今、私の部屋で独りになって悶々としている。
すぐにでも帰りたい。しかし、帰ってどうなるのだろうか。
私がこちらの世界に来て3年近くが経っているので、日本でも3年経っていてもおかしくはない。
嶋本労働局に私の籍は残っているのだろうか。
民法上は失踪宣告から7年で死亡とみなされるので、まだ死亡とはなっていないだろうし、そもそも失踪宣告がなされているかも不明だ。
ただ、労働基準監督官は1か月も行方不明だったら、免職となる。
つまり、帰っても仕事はないと思うのが通常か。
30歳なんてとうに超えているので、再就職も不可能だ。
ということは、帰って転職活動をしないといけない。
だが3年間何していたのかということで履歴書にも書けないし転職活動をしている間、生活が立ち行かなくなる気がする。
妻と子供には申し訳ないが、この世界に居た方が生きやすい、という考えも出てきた。
しかし、そう思うと悲しみが、申し訳なさが、私を押し潰そうとしてくる。
こういうとき、カリカが訪ねて来てくれて話をしてくれればいいが、それもない。
じゃあ私から話しかけに行くかということになるが、この時間から女性の部屋を訪れるべきかという悩みも出てくる。
そうやって悩みは尽きず、さすがの私も寝れずにいる。
仕方ないので、夜は遅いが屋敷の庭を散歩してみることにしようと、外に出ようとしたとき、声をかけられた。
「何処かへ御出発で御座いますか。」
「エウスタキウスさん……。」
「僭越至極とは存じておりますが、随行の御許しを頂きたく存じます。」
「ありがとうございます。お願いできますか。」




