第54話の1「公判請求」
エリナ直会書記官の話では、刑が確定したら新しい会長を指定できるという。
私は頭の中で、仕事をしなければいけない順番を組み立てた。
まずは公判に向けた資料作りをしながら、エリナ直会書記官の報告を待つ。
それが数日中に来るはずだから、そこで、裁判の日程を報告して、直会での運営と会長指名の準備をしてもらう。
その後、エレフテリア教会長に現状の報告として、もしかしたら、エルマーリ工会で働き続けられるかもしれないという話をする。
いずれもしたことがない仕事ばかりでどれぐらいの時間がかかるかわからないが、終わらせなければならない仕事だと思った。
そこから2日。毎日残業で帰るのは日付を超える直前ぐらいになっていた。
こういう時、労働基準監督隊が労働基準法の適用がないのは助かるなと思いながら、しかし、過労死してしまわないように睡眠時間の確保だけは確実に行ってきた。
3日目にようやく裁判に出す書類のめどが立ったとき、実に間の良いことでエリナ直会書記官が自らカッサーラ所まで話をしに来てくれた。
「わざわざすみません。わかりました?」
「いーえー。遠くないので大丈夫ですよ。
えっとね、やっぱり、会長が犯罪で裁判にかけられているとき、その間は直会が一時的に運営を行うことができます。
それで、会長が断首刑又は追放刑になった場合には、直会が前の会長の意見を聞かずに、会長を指名することができます。
で、今回って、エルマーリ工会の中に、運営を任せることができそうな方は残ってないんですよね?」
「そう、ですね。
運営に携わっていた2名はいずれも裁判になります。裁判の結果はどうなるかわからないですけど。
一応、工場長の立場の方がいますが、あまり運営ができる感じでは――。」
「うんうん。そっか。
そしたら、こっちで運営をする手続きを進めて、一応指名する準備もしておきましょうか。」
「ありがとうございます。
まさしくお願いしようと思ってたことです。」
「はーい。また細かいこと決まったら連絡するね。」
「ありがとうございます。」
報告を受けて、私は教会事務所に行った。
しかし、エレフテリア教会長はおらず、フェービ教会補佐が対応してくれた。
「そういうことなら、希望者を寮に戻す手続きができそうですっ。でも、私気になります。」
「ん?何がです?」
「直会の運営って、前の運営方針を引き継いだりしないんでしょうか?
一時的に代わるだけですよね?」
「あ~……、うん。そうだね。引き継がれたら給料払われないまんまだよね。
でもさすがに国の機関がやるんだから、労働基準法の範囲内でやってくれるんじゃないかな?」
「それって、監督隊で確認してもらえますか?」
「了解です。しておきます。
じゃあ、とりあえずエレフテリア教会長への報告お願いしますね。」
当初やるべきことが終わったと思いきや仕事が増える。
まぁ仕事とはこういうものだと自分にいい聞かせ、まずは、裁判を待つ。
裁判期日。
公判でも、クリストドゥロス会長は同じような主張を繰り返している。
犯罪なのはわかるが、社会貢献である、と。
私たちと警邏隊の担当者は、被害者の供述やお金の流れについての証拠を提出し、処罰の必要性を訴えた。
さらに、裁判隊から事前に、今回の問題について被疑者から話を聞かないといけないということで、ミハリスを選定していたので、尋問も行った。
彼は怒りで涙を流しながら失われた8年間を訴えた。
それでも、クリストドゥロス会長は態度を変えない。
態度を変えないことは、刑を重くする側に働くと思い、そこも追及していく。
こちらの主張が裁判隊に響いている前提ではあるが。
そして、判決を出すために、一時閉廷、再開は30分後となった。
「どうなりますかね。」
「どうなるかね。カリカは昔、警邏隊に居たわけだけど、裁判は初めて?」
「はい。裁判は現場ではなく管理部署の方が対応するのが基本なので、私やってないんですよ。
今日来てた警邏隊の裁判担当の方々もあんまり話したことが無いですし。」
「なるほどね。そういう住み分けもあるのか。監督隊もいつか作んないといけないかもね。」
「いつか。ふふふ。そこまで居てくださいね。」
「最近はそう言うのを遠慮せずに言うようになったね。」
「だめですか?」
「まさかまさか。だめなんて言うわけもなく。そう言ってくれるのは嬉しい限りですよ。」
正直、どんな判決がでるかどきどきだったので、こうやって何のことはない会話をすることで、自分を落ち着かせることができたのが本当にありがたいし、心を落ち着かせてくれる。
法廷が再び開かれ、判決が言い渡された。裁判隊はこちらの想定をはるかに上回る判決を出した。
クリストドゥロス会長には人を殺した場合と同様の追放刑、ドーラさんには杖打ち10回、2名のオークには杖打ち5回となった。
あまりの重さに驚きもした。だが冷静に考えれば、数十名の人生を奪っているのだから、それぐらいで妥当なのかもしれない。
そう思うと、日本では罰金刑が基本なのは、やはり刑が軽い気がする。
そんな感想を以て裁判は終わった。




