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第53条の1「供述書」

 日本では、逮捕から送検まで時間制限があるが、この国ではそういった細かい規定はないらしい。

 そのおかげでしっかりと準備をできるが、あまり長引かせるべきではないだろうなとも考えていた。


 被疑者には逮捕されてあきらめる場合と、逮捕されただけではあきらめずに、否認を続ける場合があると聞く。


 今回のクリストドゥロス会長がどちらになるかわからない。

 逮捕の直前の様子から考えるに否認をする可能性が高いとふんで、資料を、証拠をできる限り整えることにした。


 クリストドゥロス会長の身体拘束から2日後の今日。

 事情聴取が終わり、被疑者供述調書を作成し、これから読み聞かせるところだ。


――――――――

クリストドゥロスの供述調書


 上記の者に対する強制労働被疑事件につき,警邏隊本部において,本職は,あらかじめ被疑者に対し,自己の意思に反して供述する必要がない旨を告げて取り調べたところ,任意次のとおり,供述した。


 私の種族は人間で,混血でもありません。

 私の生まれた場所は,カッサーラです。

 私には前歴はありません。

 私は,現在,結婚をしておらず,自宅に独りで住んでいます。

 エルマーリ工会は私の父が作った会です。

 今から18年前に,父が他界し,私が会長として跡を継ぎました。

 私が,20歳のころですから,今から35年前に,エルマーリ工会で経営に携わるようになりました。

 会長になるまでは,経理と営業をしていました。

 エルマーリ工会は,家具を作って売っている会です。

 家具は直接お客さんに売ることもあれば,色々な商会を通じて売ることもあります。

 エルマーリ工会で,販売用の店舗はありません。

 私が営業をしていたころは,色々な商会を回って,エルマーリ工会の製品が高品質低価格であることをうたい文句に売り込んでいました。

 父が他界して私が会長になってから、営業はあまりしていませんでした。

 なぜなら,すでにいくつもの商会と継続的な取引が成立しており,営業をしなくても利益が出ていたからです。

 さらに,高品質低価格の噂が広まり,お客さんが直接,エルマーリ工会に来て家具を買ってほしいという場合もありました。

 そういうときは,私が対応していました。

 エルマーリ工会の経営陣は私とドーラさんです。

 ドーラさんは,父と一緒にエルマーリ工会を立ち上げた方です。

 父が会長のころから,経理を担当している方で,書類の管理とかも任せていました。

 経営に口出しをする,というか,利益が上がっていないと,どうにかしたがいいのではないかと,強く言ってくることはありました。

 具体的な販売方法とか,働いている方の給料を決めることはありませんでした。

 出た利益は,私とドーラさんで山分けにする決まりになっていました。

 これは父の時代からで,取り分は私が7割,ドーラさんが3割でした。

 会計をすべて握られているので,そこのごまかしはできませんでした。

 ドーラさんに言われるまでもなく,より多くの製品を売ってより多くの利益を出そうと,考えていました。

 というのも,父は自分の利益をあまり考えず,良い物を安く売るんだ,ということに心血を注いでいました。

 その結果,私が子供のころ,生活が苦しかったのを覚えています。

 それが嫌で,私が会長になったからには利益を出そうと思っていました。

 私が会長になってすぐのころ,外でお酒を飲んで,この愚痴を言っていると,隣に座っていた男のオークから声をかけられました。

 聞けば,彼はエルピダ商会というところに所属をしていて,人間の男性が余っているので労働者として買わないか,ということでした。

 何か労働者の働き口をあっせんしているのかと最初は思っていました。

 さらに,この労働者には給料を払わなくていいし,働けと言えば,何も言わずに言うことを聞くんだと説明を受けました。

 私は,給料が1名分でも浮けば利益が出ると思い,そこで買うことを決めました。

 そうやって,エルピダ商会から何名も労働者を買いました。

 人間とエルフが多かったですが,たまにオークも居ました。

 数年経って,からくりを聞くと,私に売っている労働者は,誘拐してきた者で,帰るところもない者どもだ,売り手がつかなかった者をこちらに売っているし,魔法で言うことを聞くようにしていると説明されました。

 私はその話を聞いてもなお,衣食住は保証しているし,言うことは来ているし,帰るところがないのだったら,問題ないだろうと思っていました。

 5,6年くらい前から,エルマーリ工会に言えば人買いをしてくれるという噂がどこからともなく広がっていきました。

 おそらく,私の方針に反対して辞めていった方が広めたのでしょう。

 その結果,例えば犯罪者や借金を返済しない奴など,面倒を見切れなくなった奴を買ってほしい,という話が来るようになり,買って働かせていました。

 そういう労働者には,魔法がかかっていないので,逃げたら家族や大切な者が大変な目に合うと言って働かせていました。

 実際,逃げた場合には,売った方から代金の回収をしていました。

 それをしていたのはドーラさんです。

 ドーラさんが元からの知り合いということでオーク2名を連れていました。

 その他に言うことを聞かせる方法として,エルマーリ工会で買った労働者に対して,エルピダ商会にお願いして他者従順の魔法をかけてもらったこともあります。


 この時本職は,供述者が身体拘束の時に持っていた書類を示した。


 これが,エルマーリ工会のお金の収支をすべて記載した台帳です。

 ここに,労働者を買ったお金の流れが載っていますし,買ってきた労働者に給料を払っていないことが分かります。

 2年前に,労働基準法ができて,労働者を強制的に働かせてはいけないことになったのは直会から連絡があったので,知っていました。

 それでも,エルマーリ工会の売り上げを出すために,これまで通り働かせていましたし,商品はより安くすることで世の中に特に安いと知れ渡っていたので,今更,給料を払うことはしませんでした。

 給料をもらわないと労働者は逃げてしまうと思ったので,魔法で言うことを聞かせ,または脅迫をして働かせ続けていました。

 また,12歳以下の者は働かせてはいけないとなったことも知っていましたし,12歳以下の者が働いていることも知っていました。

 しかし,数年経てばその問題も解決するし,何よりそういう労働者は親が売っているので,帰るところがないので,ここで働かせていれば生きていけるからいいじゃないかと思っていました。

 これまでも,給料をもらっている労働者で,このやり方はおかしいと文句を言ってきた労働者はたくさんいました。

 そういう時は,ドーラさんが連れてきたオークにお願いして,脅して,仕事をやめるなら口止めをしていました。

 こうやってほとんどの労働者が,私の言うことを聞かせて働かせている労働者になりました。

 利益は,先ほど言った通り,私とドーラさんで山分けしました。

 法律で規制されている趣旨は分かります。

 しかし,今言ったみたいに,遠い地から誘拐され戻れない者や親元を離れて住む場所がない者,脛に傷持つ者の衣食住を保証してやっていたのだから,ある意味社会貢献とも言えます。

 そんな私が罰を受けるのは納得いかないというのが正直なところです。


 以上の通り録取し,読み聞かせたところ,誤りの無い旨を申し立てたが,署名,指印を拒否した。


 労働基準監督隊 江口将臣


――――――――


こうして事情聴取は終わった。

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