第52条の2「逮捕権限」
「大丈夫です。」
防御をしようとした私にカーラが優しく声をかけながら前に出ると同時に、剣を両手で横に構え、オークの小手を目がけて水平切りを浴びせる。
よほど頑丈な金属が仕込まれているのか、その小手を切断することはできなかったが、オークの体が後ろに吹っ飛んだ。
その衝撃で水を飲んでしまったのか、オークはがぼぼっという音を出した。
「カーラさん!フェービさん!」
「「拘束しますっ!」」
カリカが水を引き、ふたりが縄を使い、オークをしばりあげた。
私がカーラに引き倒された時も思ったが、カーラの体からは想像つかない腕力だと思っていると、カリカから
「えぐちさんは、会長のところに行ってください!」
と言われたのにはっとした。
もう1名のオークを見ると、警邏隊が動きを抑えてくれて、中に入れる状態にしてくれている。
それを確認し私は、工場の中へ入り階段を駆け上がり、事務所の扉をあけた。
その瞬間、クリストドゥロス会長とドーラさんが書類をまとめて外に出ようとしているのと目があった。
「どういった理由で入ってこられたんですかねぇ。」
「労働基準法違反の嫌疑で身体拘束いたします。」
「証拠はあるんですかねぇ。」
「そのお手元にあるものかと。すべてをその場に置いて同行してもらいます。」
「ひとりでどうやるつもりですかねぇ。」
そう言うと同時に警邏隊の隊員3名が駆け上がってきた。
「同行願えますか?ドーラさんは書類をそのままにして抵抗しなければ拘束はしません。」
「わたしゃ悪くないよ!
こいつが勝手にやったことだよ!全く!」
「私の権限で許可します。
ドーラも拘束していいかと。」
遅れて上がってきたダミアノス警邏隊補佐が両名の拘束を指示した。
裁判隊に報告していたのは、クリスドゥロス会長だけなのにいいのか、と疑問に思っているのをみすかしたように
「はい。一緒に証拠物をもって逃げようとしているところを私が確認しました。
同罪扱いで全く問題ないかと。
否認もしているので、充分逮捕できるかと。」
と付け加えてくれた。
警邏隊に囲まれたクリストドゥロス会長が手に持っていた書類をその場に落とし、連れて行かれる。
部屋に残された私とダミアノス警邏隊補佐がその書類を確認すると、約5年分のエルマーリ工会の収支が全て載っている書類だった。
「監督隊で持ち帰って精査してもいいですか?」
「はい。エルフや人を買った記録があったらこちらに情報提供いただけるのなら問題無いかと。」
結果、クリストドゥロス会長とドーラさん、意識不明のオーク2名の計4名を拘束した。
帰り際、ヴァイロン工場長が声をかけてきた。
「あの、これからどうすりゃいんでさ。」
「クリストドゥロス会長が解放される可能性はほぼないです。
もう正直に言ってください。
ここで働いてる方で給料もらってるのは何名で、もらってないのは何名ですか。」
「お、おう。もらってるのが、4名でさ。
もらってないのが38名でさ。」
「わかりました。近いうちに労働者全員から話を聞きます。
今はみんなを集めてもらっていいですか?」
工場の一か所に労働者が集まった。
聞けば帰る場所がはっきりとわかる労働者はごく一握り。
これだけの数を監督隊で保護することはできない。
ここまで予想して準備していなかった私の落ち度に愕然としているとフェービ教会補佐がありがたい提案をしてくれた。
「皆様は、一度教会で保護させていただきます。
今から教会が車両を手配しますので、それに乗ってくださいっ。」
「フェービ教会補佐……。」
「教会長は絶対認めてくれるはずですが、伝える手段がないんです。
お願いしていいですか?」
「わかった。」
クリストドゥロス会長たちの護送をダミアノス警邏隊補佐に任せ、私は教会事務所に向かった。
エレフテリア教会長は2つ返事で了承し、あとはこちらでやると。
保護するべき方の数だけ教えてくださいと言われたので、ひとまずは全員であることを伝えた。
こちらの世界でもとにかく周りに助けられて過ごして居るものだなと改めて心から感謝だ。
そんなことを思いながら、アレクシスへの報告のために、カッサーラ所に戻る。
「以上のとおり、クリストドゥロス会長を拘束、今後は、取り調べを行う予定となっています。」
「うむ。疲れておるだろう。休まなくてよいのか。」
「別にめちゃくちゃ残業したわけではないから大丈夫。
今から、書類確認して事情聴取の準備しないと。」
「そう、か。すまぬな。」
「へっ?」
「今回の件で何も手伝いができておらぬで。」
「隊長は前線に出るのが仕事ではなくて、ここでどしんと構えているのが仕事でしょうよ。
大丈夫。何より、私はこの仕事が楽しいんで。」
「ふっ。えぐちは何も変わらぬな。」
「よくも悪くもね。」
「事情聴取には、カリカも連れていくのか。」
「可能であればそのつもり。なにかありました?」
「うむ。カリカをえぐちと同じぐらいの能力まで育ててやって欲しい。」
「喜んでできる限りのことはするよ。」
そう言い残し、私は隊長室をあとにした。




